運命の出会い
(19) 運命の出会い
『わからないのが、母は異国出身で職業も踊り子だ。どうやっても身分違いだし、そもそも接点はあったんですか?』
『あれ、それは聞いてないの? 彼女の所属する楽団の噂を聞きつけて、うちの皇城の狸じじい共が楽団を城に招致したんだ。その頃はまだ行事に一応顔を出してた叔父上と、運命的に出会ったって訳。お互いに一目ぼれだったらしいよ。目があった瞬間、お互いしか目に入らなくなったんだ、って飽きるほど聞かされたよ』
『はぁ、…そうですか』
両親の馴れ初めは聞いた所で、恋愛ごとに関心のない男としては反応に困る。年若い娘ならいざ知らず、いい大人なので何とも言えない。
『叔父上は実の兄、前帝ね。父の性格をよく知っていたから、早くから生涯独身主義を公言していた。下手に混乱を招く種をまきたくなかったって言ってた』
いつの世もお家騒動の発端は、兄弟や子息の骨肉の争いだ。
『結局、父本人が災いの種を作ってくれたから、叔父上の思いは意味をなさなくなったけど、そのうちに研究に没頭するのも悪くない、って楽しくやってたみたい。実際三十歳過ぎても一人身だったし、表立っては浮いた噂もなかった。とはいえ、うまくやってたみたいだけど。そこはほら。男ならわかるだろ』
『あー、まぁそれは、はい』
理解はできるが親の下事情など、できれば知りたくはない。
『それを覆してもいいと思える相手と、出会ったってことだよ。叔父上に結婚を決意させる程のね。でも今更、政治的なリスクを背負わせたくなかったから、侍従長だけを立ち合いに、誰にも知られず密かに夫婦になった。その後も隠れるように宮で暮らしたんだ』
アイーシャはその時、十七歳。彼女の父が団長を務める楽団で、オーエンと出会った公演が彼女の踊り子デビューの日であり、そのたった一度の出会いでオーエンの心を見事に打ちぬいた。
身分の高い相手に気に入られた踊り子らは、一夜限りの伽の相手に指名されることも多い。彼女の楽団はそれを許していなかったが、それでも我を押し通す権力者がいるのもまた事実だ。
だが、オーエンは権力を行使せず、団長であるアイーシャの父をお忍びで訪ねていき、潔く頭を下げた。自身の置かれた立場をきちんと説明した上で、まずは団長であり家長である父親を、次に気になってはいたが踏み出す勇気のなかったアイーシャを口説き落としたのだ。
『僕はよく叔父上の宮に遊びに行っていた。その宮に、ある日綺麗な女の人が居た。それがアイーシャ様だった。彼女はほんとに気さくで明るくて、こんなに綺麗な人がいるんだって子ども心に思ったよ』
ヒューバードの亡き母は、国内の有力貴族の出身だ。いわゆる政略結婚で皇帝に嫁いできた。それでも惜しみない愛情を子どもたちに注いでいたが、父親はそうではない。
夫婦間に義務はあっても、そこに信頼や愛情は感じられなかった。そういう意味では、ヒューバードはオーエン達に理想の家族像を重ねてみていたのかもしれない。
『……幸せそうでしたか?』
『うん、とっても。彼女は家族も国も捨てることになったし、年も離れていたけど、いつも笑って二人より添っていた。使用人も置いてなかったから、たまに侍従長が確認に行くくらいで、警護の人間もうまく姿を隠していたって。アイーシャ様が気を使わないように』
アイーシャの兄弟はおらず、母を早くに亡くした父と二人きりの家族だったと聞いている。大事な一人娘を譲り受けたオーエンが、どれだけ母を大事にしていたのかそれだけでもわかる気がする。
当然だが、ダグラスはアイーシャの母親としての顔しか知らない。母親が恋に落ちる姿は想像できない。それでも笑っていたという話を聞くと、素直に良かったと思う。
『直接は聞いていないけど、たぶん叔父上は近い内に身分を捨てて、城を出るつもりだったんじゃないかな。でも身重になったアイーシャ様を気遣って、君がもう少し大きくなるのを待っていたんだと思う』
静かに語られる内容に、ダグラスは目を見張った。
『よく二人で世界の地図を広げて見ていたから、外国へでも行くつもりだったのかな。アイーシャ様の母国はもうないって言ってたから、この国じゃないどこか別の所へ。……情けないけど、叔父上にそう思わせるほどこの国は未来がなかった』
自分の治める国に未来がなかったのだと語る、ヒューバードの表情は何の色もなくじっと机を見つめていた。
頑張って書きますので、よろしくお願いします。




