表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/67

長い夜

 

  (17) 長い夜



 ダグラスを息子と呼んだ目の前の人物は、まだ名乗りを上げていない。身構えるダグラスを尻目に、男性は実にあっさりと名前を告げた。



『僕はオーエン。オーエン・ウィリアム・ターナー。前の皇帝の弟だ』


 告げられた名前に、驚きより、やっぱりと言う感情が先に来た。だがすぐに疑念が渦巻く。この宮は皇弟だったオーエンが生前使っていた宮のはずだ。そう生前である。ダグラスはぐっと目つきを鋭くすると、慎重に口を開いた。



『失礼ですが、オーエン様は随分前に亡くなったはずでは…』

『ああ、そういうことになってる。だけど、こうしてちゃんと生きている。……死にかけてはいるがね』

『どういうことですか……』


 静かに語るオーエンの声色に、悲壮感はない。だが、彼の語る内容は決して軽々しく頷けるものではない。目の前で(はかな)げに笑うオーエンの瞳は、少し緑ががった深い海の色だった。



(目が……)


 図らずとも、自分との共通点を見つけてしまい、ダグラスはようやく現実の話なのだと実感がわいてくる。あまりに荒唐無稽(こうとうむけい)な話に、どこか別人の話のように聞こえていたのだ。




『俺は、父親の事は何も聞いていない…』

『そうだろうね』


 オーエンは真っ直ぐにダグラスを見つめながら、その目は別の誰かを見ているようでもあった。



『アイーシャが僕の名を君に言わなかったのは、彼女にそうしなさいと僕が言ったからだ。面倒事に巻き込まれないために。……結局、彼女を守る事が出来なかった。本当に済まない』


 深く頭を下げるオーエンにダグラスは何も言えなかった。言いたいことは山ほどあったはずなのに、言葉が出てこない。何とか出した声は酷く頼りなげに響いた。



『今更です。謝られても、…母はもう戻りませんし』


 顔を上げたオーエンは、泣き笑いのような顔を一瞬みせると、表情を変えた。




『僕は君に恨まれこそすれ、許してもらえるなんて思っていないよ。当然だ。でも、もう君も大人になった。全てを知った上で、これからの人生を歩んでほしい。だから、ちゃんと説明する。今晩は僕につきあってもらえるかな。明日は休みだよね』

『……よくご存じで』


 不信感を隠さない目を向けるダグラスに、オーエンはこの日一番の笑顔を見せた。



『こんな状態だからね。皇城中に僕の目があるって言えば、わかるかな? 実に便利だよ。こうして寝ていても知りたい情報は手にできる。だから、君の成長記録もちゃんと取ってあるよ。後で見せようか? 僕の宝物なんだけど、君になら特別に見せてあげてもいいよ。あ、君は知らないだろうけど、あの森での記録もちゃんとあるからね。こっそり描かせた年代ごとの肖像画もあるよ。いやぁ、子どもの成長って早いよね』


『……、……』


 なんと返せば正解なのかわからず、ダグラスは口を噤んだ。先ほどまで確かにあった緊張感が、見事にどこかへ消え去っている。なんとなく目の前で己の父親だと名乗る人物が、彼のよく知る皇帝に重なって見えるのは気のせいではないだろう。



(そうか、あの人の叔父…でもあるのか。ってことは、こっちが大元…?)


 ダグラスは体の力が抜けるのを感じた。そして、彼の長い長い夜が始まった。



読んで頂いてありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ