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冷徹の氷魔人

 

 (15) 冷徹の氷魔人



 今年二十三歳になったダグラスは、皇都にて第一魔法騎士隊の隊長を務めている。平時である今はヒューバードの警護が主な任務で、彼の行く先全てに同行し、交代で寝ずの警護にも当たる。第一隊の平隊士は十人、それに副隊長と隊長の合わせて十二人で任務についている。


 近衛隊でなく彼の隊が任務についているのは、ヒューバードが第一隊に所属していたからだ。今は除隊しているが、古巣である元同僚の隊を近辺警護に指名した。ちなみに近衛隊と違い、有事の際は前線に配備されるのもこの第一隊である。



 若干二十歳で隊長に抜擢されたダグラスは、名実ともに実力のある騎士だ。剣の腕は言うまでもないが、彼の魔力が筆頭魔導士であるリーアムに匹敵するほど高く、その豊富な魔力から繰り出される魔力補正を上乗せした攻撃も、魔導士顔負けの攻撃魔法も、国一番の威力を誇る。



 ちなみにリーアムは、攻撃魔法も得意ではあるが、本人の性格から、部屋に籠って魔道具を作りだす方に、生きがいを感じている。もちろん有事の際は有無を言わさず前線へ連れていかれるが、本人の士気は幕舎の隅でいじけるほど低い。


 そんな彼が嫌々ながら放ったファイヤーボムは、敵を一撃で殲滅した。実に宝の持ち腐れである。そう言った事情から、ダグラスの右に出る者は現状誰も居ない。




 そんな彼だが、ダグラスはいわゆる孤児だ。父の名を黙して語らぬまま、彼の母親が鬼籍に入った以上、戦争孤児と同じような立場になる。だが彼の唯一で絶対の後ろ盾となったのが、当時第一皇子だったヒューバード、現皇帝だ。


 ダグラスが皇都へ来た時はまだ前帝の時代で、中央議会や官僚達は老獪な貴族がそのほとんどを占めていた。彼らは髪色ひとつに眉をしかめるほど保守的で、異端者である彼に良い顔をしなかった。


 ヒューバードが後ろ盾になったとはいえ、当時彼はまだ成人を迎えておらず、その立場は皇子と言えど万全ではなかった。前帝は第二皇妃の手前、正式に皇太子を決定していなかった。我を通したい第二皇妃と議会の板挟みになり、問題を先送りにしたのだ。


 数年後、事態は急展開を見せる。正妃が末娘の出産で命を落としたのだ。




 第二皇妃キーラの産んだ子は、ヒューバードの一つ下の第二皇子キリアンだ。人の上に立つ器ではないのだが、我が子かわいさで執拗に皇太子問題を蒸し返してきたのがキーラだ。


 正妃という絶対の後ろ盾を亡くしたヒューバードは、誰が見ても正統な皇子でその能力に秀でていても、一つ間違えば立場を奪われかねない緊迫した日々を送らなければならなくなった。



 彼は自身の立場を盤石なものにするため、日々の公務と鍛錬をより一層こなす必要があり、ずっとダグラスについていられるはずがない。賄賂を渡せば重用してもらえる第二皇妃に群がる輩からは、ヒューバードは敵視されるような状態だ。皇国の暗黒時代である。


 ただ、ヒューバードにはパットを始めとする、彼自身が選んで傍に置いた者が常に彼を守る立場に居たが、ダグラスはそうではない。



 八歳という年齢は成長期にはまだ遠く、かといって無邪気な子どもという年齢でもない。大人の狡さや世の中の事がわかり始める多感な年ごろだ。そして簡単に押さえつけられる体の大きさでもあった。なぜ、自分を皇都などに連れてきたのかと、ヒューバードを恨んだ時期もあった。


 彼が最年少の十二歳で軍部に入るまでの四年間、執拗に繰り返された彼に対する蔑みといわれのない暴力は、母親想いの優しい少年を、周り全て敵と認定する無表情な少年に変えてしまうのに十分な期間だった。



 魔力測定でヒューバードをも凌ぐ数値をたたき出したダグラスは、上級学校への入学を打診された。だが彼はその申し出を断り、見習い騎士からの軍部入隊を希望した。厳しい環境に身を置き、一から叩き上げられる道を選んだのだ。彼を虐げる者へ抵抗する力を、少しでも早く手に入れるために。


 本格的に剣を習い、最低限の学問と魔法学を同時に学び、残りの全てを自己鍛錬に当てた。溢れる魔力を自在に操れるようになった彼は、すぐに頭角を現した。


 入隊と同時に寮に入ったダグラスは、外部からの侵入者を寄せ付けない環境に身を置いた。それでも不遜な態度を取る相手は、一定数軍部にもいた。


 ダグラスはそんな彼らを実力で黙らせた。日々向けられる蔑みも表向きはめっきり少なくなった。その代わりというか、裏では相変わらず手を出されたが、人目がないのを逆手に容赦なく返り討ちにしていった。



 そうして二十歳で隊長になると、手の平を返したように近づく輩が増えた。その裏で相変わらず彼を蔑んでいるのは丸わかりで、彼はそれらの一切を取り合わなかった。


 その頃には屈強な男達の中でもひと際立派な体躯になり、目鼻立ちのはっきりした見目麗しい青年騎士になっていた。皇城内を移動するだけでも、女性に言い寄って来られることも増えていた。そのいずれも彼が笑みを向けることもなく、完全な拒絶の態度を貫いた。


 そしてついた二つ名が冷徹の氷魔人である。



読んでいただいて嬉しいです!

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