田舎町ウィロー 1
(11) 田舎町ウィロー 1
「うわぁ…人がいっぱい…」
「おい、離れるな」
「あ、はい」
昼過ぎにウィローに着いた二人は、宿へキーヴァを預け、通りを歩いていた。馬から降ろされて、ミリアは揺れない地面に初めて感動を覚えた。その彼女の足元が覚束なかったのは、ミリアの瞳が驚きに大きく見開かれるまでだった。
ミリアにとって、何もかもが新鮮で物珍しい。かつてのおじいさんの店は住宅街に近く、しかも裏通りにあったため人形の時でさえ、これほど一度に人が行き交う光景を目にするのは初めてだ。
この町は小さいながらもそれなりに人口があり、商店も軒をつらねている。大きな街道が交わる立地ゆえ、自然と人と物が集まってくる。
「いいか、絶対に俺から離れるな。フードも取るな。お前の髪色はここじゃ目立ちすぎる。だいたいは普通の奴らだが、良いやつばかりとは限らない。おい、聞いてるか」
「はい。……あっ、あれは何かしら?」
「ミリア、今日は質問も却下だ」
「え。……はい、わかったわ…」
しゅんとする彼女に良心が痛むが、生まれたての子どものような彼女は、見る物聞く物全て目新しく見えるはずである。ミリアが自分の置かれた状況を正しく理解できるまでは、悪目立ちさせたくない。
ダグラスもできることなら目立ちたくない。ここは彼の過去と関わる町だ。お互いの利益のため我慢してもらうしかない。
「……また、連れてくるから」
「! はい!」
ミリアが弾けるように顔をあげ返事をした。きれいなブロンドが一筋フードから零れ落ちた。ダグラスの黒髪は少数派だが皆無という訳ではない。ただ、ミリアの金髪はこんな田舎町ではかなり目立つ。
平民の多くは茶色か赤髪が圧倒的で、王族や貴族に多いブロンドはもっと明るい金色をしている。その髪色が貴族のステータスとなり、婚姻の際の決め手の一つとも聞く。実に馬鹿馬鹿しいとダグラスは思う。
(髪の色なんかで、価値が決められてたまるか)
ダグラスの目の色は緑がかった深い碧眼である。少し色味が珍しくはあるが、異端というほどではない。だが、その髪色だけ見れば貴族という型枠からはみ出している。その事でこれまで浴びせられた言葉は数えきれない。
ミリアの髪は貴族のそれより濃い金色で、少しくすみがかった色合いだ。それが光を纏うと、その印象をがらりと変える。白く銀色にも見える貴族の髪色に比べ、彼女はまさに黄金色に輝き美しく煌めくのだ。
(あいつらが自慢している髪より、ミリアの方がずっと綺麗だ)
ダグラスはこぼれた髪をそっとフードに隠し、ミリアの手を引いて歩きだした。
「よし、だいたい買えたか」
「キーヴァ、重たくないかしら」
「これくらい楽勝だな。あいつは軍馬だ。大の男二人乗せて、川を飛び越えたこともある」
「わぁ、キーヴァすごい、恰好いい! あ、可愛いかな?」
妙なところを気にするのがおかしい。ほとんどの荷物をダグラスが持ち、二人は町の外れに足を向ける。時間を節約して、屋台の軽食で昼を済ませたので、帰る前にもう少し腹に何か入れておきたい。
そう考えて首を巡らせたダグラスは、通りの向こう側に揚げパンの店を見つけた。その奥に見える店の軒先を見たダグラスは、すぐに手にしていた荷物を道端に下ろした。
「荷物が多いから、ここで待ってろ。……食料買ってくる」
「はい。行ってらっしゃい」
「動くなよ?」
「もう、わかってるわ」
今日、何度言われたかわからない台詞にミリアは口を尖らした。皇城で女共の似たような表情を見た時は、何の感情も沸かなかったが、ミリアのそれは微笑ましいし、純粋に可愛いとしか思わない。そう感じる自分に戸惑いを隠せない。
「…それならいい。すぐ戻る。悪いが荷物を頼む」
足早に背を向けて、ダグラスは通り向こうに走っていった。
読んでくれてありがとうございます!まだまだ序盤です。




