ミリア町へ行く
(11) ミリア町へ行く
「大丈夫か」
「はい。なんとか?」
「もう少し速度を上げる。俺によりかかるように、しっかり体重を預けろ。その方が安定する」
「はい」
ゆったりとした歩きから、並足に変わる。そうなってくるとどうしても体が上下にゆさぶられてしまう。ダグラスは強靭な下半身で自身の上体を支えられるが、バランスを取るだけで精一杯だったミリアは、途端に不安定になる。
「わ、わ…ひゃ」
「怖がるな。キーヴァと一体になれ」
「ど、努力、します。…わわっ」
そうは言うものの、すぐには難しいだろう。ダグラスは左手をミリアの腹に回してぐっと自分に押しつけるように抱きかかえた。少しお尻が浮いたかもしれない。
「しばらくこれでいく。力加減を体で覚えろ」
「は、はい」
ミリアのいつになく礼儀正しい返答に、先生と生徒のような気分になってくる。冬の森の空気はきりっと冷たい。その中を白い息をたなびいて進んでいった。
しばらくそのまま進み、町まで残り半分ほどになった辺りで、ミリアの肩から余分な力が抜けたのがわかった。そうなると、やけに大人しいのが気になって来る。ちらりと見た顔はまっすぐ前を向いているが、顔色が悪い。
(風を正面から、まともに受けているからな)
「大丈夫か」
「……大丈夫」
(意地っ張りめ。……そろそろ限界か)
しばらく走らせた後、ダグラスはおもむろにキーヴァを止めた。案の定、揺れが止まってもミリアの体は小刻みに震えている。
「…どうしたの? 町、まだだよね」
小さく歯を鳴らしたミリアは、ぎこちなく後ろを仰ぎ見る。
「ミリア、こっち向いて座れ」
意味が分からずダグラスを見上げるミリアを、ダグラスはひょいっと抱き上げると、横乗りの状態で座らせ彼女の体を自身の胸にぐいっと引き寄せた。そのまま自分の外套の中にミリアをすっぽり抱き込んでしまう。
「ダグ?」
「この方が寒くない。後ろに乗せるのはまだ無理だろう。そのまましがみついとけ」
「はい。……あったかい」
外套ごとミリアをしっかりと抱き込むと、ダグラスは片手で手綱を握り、今度は並足より少し早い速度で走る。小さな体を右腕でしっかり抱き、自身の太もも上に細い足をちょこんと乗せている。いつもしっかり食べているが、彼女は彼が不安になるほどまだまだ軽い。
慣れない乗馬と寒さに固まっていたミリアは、ダグラスの外套の中で背中に腕を回し、ぎゅっと抱き着いた。男の高い体温が冷えた体をじわりと温めていく。
体がほぐれていくのを感じて、ミリアはダグラスの腕の中で、深く息を吸い込んだ。ミリアの大好きな彼の匂いだ。実は、以前取り上げられた上着の匂いを時々隠れて嗅いでいるのは、ミリアとアッシュだけの秘密である。
「ダグラス、ありがとう」
「別に。…落ちるなよ」
落とすつもりなど欠片もないくせに、ぶっきらぼうに声を返したのは、湧き上がる感情をごまかすためだ。
(これはちょっと…選択を間違えたか?)
それでも腕を解く気になれず、ダグラスはミリアを下ろすことなく、ウィローまで駆け続けた。
1話ずつ投稿します。




