女性は最後を望み、男性は初めてを欲しがる。この物語で一番損をしているのは誰なのだろうか
俺の幼馴染である西田由乃は超絶の美少女だ。どれぐらい美少女かと聞かれれば、芸能界入りしていないことが俺の高校の七不思議の一つになっているほどには誰もが認める美少女だ。そして彼女は天然なのである。人口とか養殖とかではなく、抜けたところがあるのだ。
「おっはよ~、京谷起きるの早いね」
「お前が俺のベットに入り込んできたから嫌でも起きたんだよ…」
こいつは自分が美少女であることを自覚していないのだろうか?わざわざ自分から男のベットに入るとは…。警戒心の薄さに心配になってしまう。
「由乃、知ってるか?男ってみんな狼なんだぞ」
「京谷もそうなの?」
「そうだ、だから俺を誘うようなことはするなよ」
「京谷が言うならそうする、時間的にまだ余裕あるからもう少し寝よ」
「すごいな、一言で矛盾するじゃん」
「え?私に襲われる覚悟があるなら寝ていいってことでしょ?」
「それはどっち、俺が襲うのか俺が襲われるのか…」
「どっちも、じゃおやすみ」
そのまま寝息を立てて俺のベットの上で寝てしまった。由乃は顔がいいだけでなく、スタイルもいいため一つのベットで寝るとなるとその豊満な何かが俺に猛威を振るう。勘弁してくれよ…。俺は由乃のことがずっと好きだしここまで理性を保てているのが奇跡に近い。というかすでに奇跡の領域だ。
結局俺はその後寝れず、俺だけいつもより早めに起きたという結果だけが残った。いや、俺のベットに由乃のにおいも残ったけど…。なんか変態的思考だからやめよ。
「由乃、今日の昼鮭だけどいいよな」
「うん!京谷のご飯おいしいからなんでもいいよ」
「なんでもいいって、今は決まってるからいいけど未定の状況でそれ言ったら怒るからな」
「分かってるって」
俺が由乃のお弁当を作るようになったのはお互いの親の仕事が忙しくなってからだった。俺の親はもともと仕事で多忙だったため一人で料理することが多かったが、由乃の両親は急に海外出張が決まってしまったのだ。日本に娘一人を残すのは嫌だったようだが、由乃も海外に行くのが嫌だったらしく俺の家に住むという形で日本にいさせてくれるようになった。正直俺も男だし、好きな子と一つ屋根の下なこの状況は耐えがたい何かがあるのだが由乃と離れ離れになることのほうがよっぽど嫌なので手を出さないように頑張って生きている所存だ。
「誰と連絡とってんの?」
「ふぇ、えーと。あのー、京谷の知らない人…」
「そっか」
俺がお弁当を作っている間は基本俺の手元を見て楽しんでいた由乃だが、ここ最近誰かと連絡を取るようになってしまった。今まで反応してもらってただけに少し寂しさを感じてしまう。
学校につき、午前の授業を終え昼休みを迎える。いつもなら由乃が俺と一緒に食べようといってくるのだが…。今日は珍しく俺の作った弁当片手に教室を出て行ってしまった。最近の行動と言い、どこか違和感を覚えた俺は由乃の後を追ってしまった。
ついたのは学校の屋上。基本はかぎが締まっており、外には出れないのだが階段を上がったところに由乃の姿はなく屋上の外に出たことを確信する。ドアを開けるか悩んだところで由乃が誰かと話す声が聞こえてきた。
「ゆのっち~、あの幼馴染とはもう縁切っちゃえよ」
「え~やだよ、このお弁当も京谷が作ってくれてるんだよ?」
「じゃあ、俺が作ってきてあげるからさ」
「月曜からならいいよ…」
「まじ?じゃあ縁切って来いよ、明日の土曜楽しみにしてるからな」
「うん!」
ふむ…。これは多分彼氏ができたのだろうか。少しぐらい俺に話してくれてもいいのになとは思うが、別に気にしすぎることでもないか。それよりも…。
「九条さん、そこにいるんでしょ」
「…ばれてたのね」
「まぁね」
「由乃の奴また彼氏つくったっぽいわね」
「らしいね、会話を聞く限りだと」
「近くにこんないい男いるのにもったいないわね」
「俺のことか?」
「あなた以外いないじゃない」
「俺はそんないい男じゃないぞ」
「じゃあ、私と付き合ってみない」
「はぁ…それはどういう意図で言ってるの?」
「私浮気には寛容的なのよね」
「つまりは?」
「今があなたと付き合える最大のチャンスかなって思って」
九条咲那、高校に入ってからの由乃の友達だ。髪が腰ほどまでに長く、文武両道、容姿端麗、非の打ちどころのない性格をしている完璧な美少女だ。由乃がいなければこの学校のアイドルだっただろう。いや、今でも十分アイドルではあるけど。
「まぁいいよ、付き合ってあげる」
「随分と上から目線ね」
「君が申し込んだからじゃないか」
「まぁいいわ、じゃあ付き合いましょ」
「さっきの発言はそういうことでいいんだよね」
「そういうことがどういうことかわかんないけど、たぶんあなたの思た通りのことよ」
「じゃあ、好きにさせてもらうね」
「その代わり私と一生一緒よ?」
「愛が重いなぁ」
「軽いよりかはいいでしょ」
「それは言えてる」
はたから見れば急展開だろうが、当事者である俺と九条咲那にとってこれはあまりにも普通のことだった。由乃が彼氏であろう男を作ったのはこれで十回目だ。基本別れるのは由乃からではなく彼氏からだった。理由はわからないが、近くに俺という男が気に入らない彼氏が多いようだ。それを何回目かで学んだようで、彼氏ができたら俺から距離をとるようになっていた。俺から言わせてみれば距離をとったタイミングが彼氏のできたタイミングだとわかるのでありがたい話ではある。
放課後を迎え、由乃がそそくさと教室を出るのを見届ける。その間に咲那が俺の目の前に来ていた。
「京谷、帰りましょ」
「帰るというより放課後デートしたいだけだろ」
「ばれた?初めての彼女なんだから大事にしなさいよね」
「じゃあ素直に大事にされてくれよ」
「あら、さっそく今日の夜裏切る人のセリフかしら」
「…最後が欲しいだけだろ」
「えぇ、初めてなんて由乃にあげていいわ。私は京谷の最後が欲しいの…最後の彼女も私、最後の経験も全部私だけ。それが理想だわ」
「分かってるよ。じゃ、どこいく」
「まずはこのお店行きたいわ」
「あぁ、この雑貨屋か」
「知ってるの?」
「行くタイミングなかったからいけてないけど、こういうお店めちゃくちゃ好きでチャックだけはしてるんだよね」
「雰囲気がいいわよね」
「分かるか?」
「えぇ、私も雑貨屋さんの空気がすごく好きだわ」
「互いに新たな一面を知れたようで」
「有意義な会話ね」
「なんというか、益体のない会話をしなくて済むところが好きだ」
「あら、急に何?私のこと少し好きになってくれたの?」
「別に、元から好きではあった。ただ、由乃が一番なのは譲れないがな」
「彼女の前でそう言うこと言えるんだ、無粋すぎて神経疑うわ」
「それで興奮できる特殊性癖者には言われたくない」
「あら、気付いていたのね」
「気づかないわけないだろ」
「ふふ、お互い様だものね」
そんな話をしながら、雑貨屋さんに向かう。そこで買い物をした後もそのままデートは続き、腕時計の針が7を指したところで由乃から電話がかかってきた。
「京谷~、どこにいるの?」
「まだ外だよ」
「珍しいねぇ、京谷がこんな遅くまで出かけてるなんて」
「まぁね、今デート中なんだ」
「デート?…誰と?」
「由乃も知ってる人」
「咲那よ、京谷借りてるわ」
「え…」
少しの間沈黙が続く。それもそのはず、俺が咲那以外の女性とふたりっきりで出かけたことなんかなかったからだ。由乃にとって俺はただの幼馴染だが、心の奥底では今まで作ってきた彼氏なんかよりも好きでいてくれているのは明白だった。でなければ俺と一緒にいるせいで別れるなんてふつうあり得ない。
そして由乃は今、少し寂しい思いをしているのだろう。まさか自分をほっぽり出して俺がデートしているだなんて考えたこともないだろう。それも自分の親友である咲那とだなんて…。
「そ、そうだよね。京谷も男の子だもん、デートの一つぐらいするよね…」
「そうだな」
「ははは…」
「それで今日の夜ご飯は何にしたい?」
「適当なのでいいよ…」
「今日の朝、何も決まってないご飯に対して適当でいいって言ったら怒るって言ったよね」
「ご、ごめん。忘れてた…」
「ま、オムライス作るつもりだったからいいんだけどね」
「ほんと?嬉しい!」
「うん。じゃあ卵買って帰るね」
「わっかた!まってるね」
「はーい」
そのまま電話を切る。一瞬は落ち込んだというのに、夜ご飯が自分の大好きなオムライスだとわかったらこうも調子を取り戻すのだ。本当に単純明快な子だ。
「ね、由乃かわいいでしょ」
「えぇ、かわいいわ」
「じゃあ、卵買いに行こうか」
「そうね、私もあなたに渡さなきゃいけないものがあるの」
「渡さなきゃいけないもの?」
「えぇ、京谷の家の近くのスーパーに行きましょ」
「最初からそのつもりだよ」
雑貨屋も俺の家も今から行くスーパーもすべて高校から近い。咲那の家はどこかしらないが、俺の家から近いらしい。近いというのは徒歩で三十分ぐらいのところにあるらしい。
「それで買い物終わったけど俺に渡すものって?」
「これ」
そう言って渡してきたのは、小さな箱の入った袋だった。中を見ずともこの箱が何なのかわかる。避妊具だろう。
「彼女らしいこと一応するんだね」
「京谷のことだからどうせ避妊とか考えないんだろうなと思ったの」
「ふーん、なんかここまで思考読まれると軽く引くね」
「ありがとう」
「この程度でも興奮できるんだ…」
「今この置かれている状況に興奮してるのよ」
「こんな特殊な状況、めったにないね」
「彼氏が、彼女以外の女性と生でやらないために彼女が避妊具を上げてるっていう状況だもの」
「言葉に出して読みたい日本語だね」
「まさにね」
自分の思考だけ読まれるのは癪だから、彼女が次に聞いてきそうな質問を先に答えておこうと思った。例えば、今夜何時に由乃を襲うの…とか。
「今日の夜十一時」
「一応聞くけど何が…?」
「何って、咲那が一番楽しめる時間だよ」
「なるほど、思考の先読みは気持ち悪いわね」
「ありがとう」
「私にののしられて興奮するたちじゃないでしょう」
「俺は由乃自身と、負の感情にとらわれたときに由乃にしか興奮できないよ」
「なんで私と付き合ったかなんて愚問も愚問ね。私もそれで興奮するから人のこと言えないんだけどね」
そのままスーパーで別れ、十分も歩かずに家に着く。玄関に入った瞬間涙目の由乃が俺に抱き着いてきた。
「おかえり!」
「ただいま」
「さ、咲那とのデートどうだった…?」
「楽しかったよ」
「私といる時よりも…?」
「そんなわけないだろ、由乃といる時のほうが楽しいよ」
「ほんと?よかった!」
本当に単純な子だ。今の反応からするに、初めて自分から彼氏を振ったのだろう。あぁ、何てかわいらしいんだろう。俺が思う通りにちゃんと動いてくれるなんて…。
「京谷のオムライスはやっぱおいしいね」
「当たり前だろ」
「ふふふっ!あ、もうこんな時間なんだ。先にお風呂入ってきちゃうね」
「あぁ、いってら」
「は~い」
今の時刻は十時、あと一時間で俺は由乃を襲う。俺の親は仕事で忙しい、二人して出張なんて珍しくとも何ともない。こんな日に両親がいないなんて由乃がかわいそうに思えてくるが、かわいそうな由乃を想像するだけかわいらしく興奮してしまう。
由乃がお風呂から出て、俺もお風呂に入る。いつもならこのままお互いの部屋で寝るのだが…。今日は違う。明日が土曜なのと、俺への感情を抑えれない由乃は一緒に寝ようと提案してくるはずだ。
「きょ、京谷…。明日土曜日だし…、一緒に寝ない?」
「なんかあったのか?」
「べ、別になんもないけど一緒に寝たくなっただけ」
「俺だって男だぞ…?」
「これは私のわがまま…今日ぐらいいいでしょ、京谷の親もいないしさ」
「はぁ…わかったよ。ほら、隣来な」
「うん…、ありがとう」
由乃はそのまま俺の隣に来て寝っ転がった。布団をかぶろうと伸ばした腕を俺はつかみ、由乃の上にまたがる。ちょうど時計の針が十一時を指した瞬間だ。
「な、なに?」
「さっき言っただろ…俺だって男なんだ」
「私の親とかに言われたら京谷おしまいだよ?」
「由乃は俺のこと嫌いか?」
「…嫌いじゃない」
「彼氏とはわかれたもんな…俺が咲那とデートしてるって知って」
「…ばれてたんだ」
「安心しろ、今日だけじゃない…。これから一生由乃のことだけを愛してやるからさ」
「すごい上から目線だね」
「上にいるからな」
「ふふ、位置の問題なんだ」
由乃がにこりと笑った後、俺の目をまっすぐと見つめてきた。
「いいよ、京谷なら…いいよ」
「はは、やっとか」
やっと由乃は俺のものになるんだ。これからは俺のせいで誰とお付き合えない体になってしまうだろう、俺以外の男を男として見れなくなるだろう。こんな最低で、自分が気持ちよくなるためだけに由乃を利用しているような男しか見えなくなるなんて…。本当にかわいい由乃だ。
いつの間にか日は上り、箱の中にあったゴムがなくなっていた。
「京谷…大好きだよ…」
「俺もだよ、由乃」
この日から俺と由乃の関係は続き、両親が出張の時は必ず朝までお互いに体を求めあった。もちろん忘れてはいけないのが俺の彼女である咲那で、彼女とは週一で彼女の家でやることにした。理由は簡単で、俺が咲那とやったところで由乃以上に気持ちよくなれないからだ。まぁ俺に道具のように扱われている状況に興奮して、毎日一人でやれるこの状況に興奮を覚えているらしいがな。
時は経ち、俺らが社会人になった時だ。由乃に俺との一番最初の子供ができた。由乃も俺も泣いて喜び、その日のうちに結婚することにした。その間も咲那との関係は続いていたが、いまだに本当の彼女は咲那で週一でデートに行っている。なんでこの関係をつづけられているのかという疑問は至極まっとうなことだが、大学生の時に咲那と付き合っていることをばれてしまった。これでこの関係も終わりかと思ったが、由乃はいたって普通で京谷、つまり俺の中で私が一番ならいいよと言われてしまったのだ。
簡単に要約するなら、嫁は由乃で彼女は咲那という普通ではない状況だ。
「ほんとこの関係続けられるなんて思ってもみなかったわ」
「俺もだよ」
「ふふ、由乃に感謝しなくちゃね」
由乃と結婚してから初めて咲那と二人っきりで喫茶店にいる。今日は咲那からの呼び出しだった。どうせ俺と結婚した由乃が妊娠してる裏でやることやれるこの状況が最高に興奮するとかいうんだろう。
「それで、今日もするのか?」
「由乃が妊娠してる裏で二人だけ楽しむっていうこの状況…私的には最高に興奮できるんだけど…」
「てっきりするために呼んだのかと思ってた」
「じつは私も妊娠しちゃったの…」
「え…」
「ねぇ…あの時の約束覚えてる?」
「あの時…とは」
「私があなたに告白したときに言った言葉」
咲那がニコニコと笑顔で俺に向けてきたものは離婚届と、婚姻届。
「私、もう我慢できなくなっちゃった…京谷の最後を私に頂戴」
誰が損してるかわかりましたか?
…正解なんてないので貴方の心の中で損してると思ったその子が損してますよ
面白いって思っていただけたら幸いです