表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第四章 少年期 ジュリア救出編
98/129

第九十六話「コロナリカ女王」

「お待たせいたしました。

 私は、べネセクト王国宰相のマロンと申します。

 バリーさん。

 もう一度、ご用件をお聞かせ願ってもよろしいでしょうか?」


 再び城門が開き、現れたのは高級感のある布を身にまとった初老の男性。

 髪や髭も綺麗に整えられているものの、なんだかやつれていて、疲れているような印象が見受けられる。


 どうやら、この男がベネセクト王国の宰相らしい。

 いきなり宰相が門で応対するというのは普通ではないだろう。

 それほど、バリー寮長の名前が効いたということか。


「あたしたちは、イスナール国際軍事大学の者だ。

 コロナリカ女王に用があって来た」


 バリー寮長はマロンに短く説明した。

 バリー寮長の声音と身体の大きさは、ただ説明しているだけなのに威圧感があるが、マロンに一切(おく)する様子はない。


「それはもう聞きました。

 その用件とは一体なんでしょうか?

 具体的にお聞かせ願ってもよろしいですか?」


 いたって丁寧な言葉使いであるが、質問にやや圧を感じる。


 だが、マロンの態度は執事として当然の対応である。

 いきなり自国の女王に会わせろと言ってくる見ず知らずの者がいたら警戒するというものだろう。

 ここは、しっかり理由も説明せねばならないな。


「うちの大学の生徒が失踪したんだよ。

 その子の捜索のために、あんたたちのところの千里鏡を使わせてもらいたくて来たんだ」

「……ふむ、なるほど」


 説明をしたのはバリー寮長だった。

 バリー寮長の説明を聞き、マロンは少し考えるような仕草をとった後、バリー寮長の方を再び見上げる。


「用件は分かりました。

 生徒が失踪とは災難でございましたね。

 しかし、バリーさんは知っていると思いますが、うちの女王陛下は……」


 言葉尻を濁すようにそう言うマロンにバリー寮長はため息混じりに返答する。


「あんたらのところの女王のことは分かってるよ。

 前回、千里鏡の件で交渉したときも随分ふんだくられたからねぇ。

 それでも、今回は人命が懸かってるから出来るだけ交渉するつもりだよ」


 バリー寮長の言葉にマロンは納得した様子。

 そして、即座に頭を下げた。


「かしこまりました。

 それでは、女王陛下の所までご案内しますのでついてきてくださいませ」

「ああ、頼むよ」


 マロンとバリー寮長の会話が終わると同時に、マロンが守衛に合図をして正門が開く。


 そして、俺達はベネセクト城へと入城するのだった。



ーーー



 ベネセクト城は優雅な城だった。 


 庭園には大きな噴水や薔薇園があったりとオシャレである。

 そして、庭園の中をしばらく歩くとベネセクト城にたどり着いたのだが、かなり大きい城で驚かされた。


 メリカ城と違って三階建てでデザインも全く異なるのだが、大きさだけでいえばメリカ城と遜色ないほどに大きい。

 俺は大学までの旅中でベネセクト王国のスラム街を見て回っていたので、ベネセクト城がここまで大きいとは予想していなかったので圧倒された。


 そして、それと同時に嫌悪感が湧いた。


 このお城がここまで立派なのは、民衆から重い税をとっているからなのは明白である。

 俺はベネセクト王国のスラム街の現状、それから辛い思いをしたピグモンの過去を知っているだけに、なぜそのお金を民衆に分けることができないのかと少し苛立ちを覚えた。


 だが、これから会うのは重い税を課した張本人。

 ベネセクト王国の女王陛下である。


 女王陛下の前でこの苛立ちを見せるわけにはいかない。

 少しでも女王陛下の心象を悪くすれば、ジュリアを見つける手立てが無くなってしまうからである。


 俺は、一旦深呼吸をして今思ったことを忘れ、緊張しながらもベネセクト城内へと赴くのだった。



ーーー



 しばらく城内を歩くと、大きな扉の前にたどり着いた。

 おそらく、ここが謁見の間の入り口である。


 そして、俺は入り口の扉を見てギョッとした。

 扉には、女王陛下と思われる偉そうな人が鞭を打って民衆を裸で労働させている絵が掘られていたのだ。


 なんとも趣味の悪い絵である。

 なぜ謁見の間の入り口にこのような絵が掘られているのか知らないが、これを見るだけでもこの国の女王の気質がうかがえる。


「中に女王陛下がおられますので、一度武器などを預からせて頂きますが、よろしいですか?」


 扉の絵を見ていたら、隣にいたマロンがそう声をかけてきた。


 どうやら、ベネセクト城では訪問者の武器を女王に会う前に預かるらしい。

 よく考えてみれば女王の危険を回避するためにも当然なのだが、そういえばメリカ城では訪問者の武器を預かっていなかった。

 俺を帝国の大学に誘いに来たカインとかいう男は、謁見の間で黒色の刀剣を所持していたのを覚えている。


 あれは、もし訪問者が暴れたとしてもメリカ城内の者で鎮圧できるという自信から来ているのだろうか。

 確かに、ジャリーがいれば大抵の敵はどうとでもなるだろうが、もしもの場合もある。

 訪問者の所持する武器は、謁見の間に入る前に預かるよう見直しをしたほうがいいな。


 と、俺が腰の紫闇刀をメイドさんに渡しながら、ベネセクト城のシステムから学びを得ていると。


「皆さん武器を渡されましたね。

 それでは、女王陛下のもとにご案内致しますので、私のあとをついてきてくださいませ」


 そう言って、マロンは入り口の趣味の悪い扉の方を向く。


「訪問者四名が参りました!

 これより入場します!」


 扉の前でマロンがそう声を張り上げると、扉が自動的に開いた。

 あれは、メリカ城と同様に中の兵士が開けてくれているのだろう。


 マロンは慣れた足取りで謁見の間へと歩を進めるので、俺達はついていく。


 謁見の間は金色の絨毯で女王陛下の元まで道が出来ていた。

 その両端には金色の甲冑を着たベネセクト王国の兵士達がこちらを見ている。

 俺達はその兵士達の間をゆっくりと緊張しながら歩いていく。


 すると、目の前に小さな階段が現れ、その上にある玉座に誰かが座っているのが目に入った。


 あれがベネセクト王国の女王陛下か。


 玉座の上にはこちらを睨むかのように見下ろしてくる一人の女性がいた。

 女性は、典型的な肥満体型で、かなり体がでっぷりしている。

 その肥満体型に金色のドレスを身に纏い、ネックレス、指輪、イヤリング等、様々な豪華な装飾品を身に纏っている。


 女王の後ろにはやつれた様子の大臣達が女王に怯えるようにして並んで立っているのを見るに、この国は女王強権国家なのだろうということが容易に分かる。


 俺がベネセクト王国の女王をまじまじと見ていると、目の前でバリー寮長が勢いよく膝をついた。

 俺たちも慌ててバリー寮長に合わせて、後ろで膝をつく。


「お久しぶりでございます!

 私はイスナール国際軍事大学職員のバリー・ハリスと申します!

 この度は、コロナリカ女王陛下にお願いがあって参りました!」


 バリー寮長は、普段の態度とは打って変わり、胸の前で両手を結びながら謙った態度でそう叫ぶ。

 それを聞いて目の前のコロナリカもピクリと反応を示した。


「お久しぶり〜?

 あたしは〜、あんたの顔なんか覚えてないけど〜?」

 

 コロナリカは、クルクルとパーマのかかった長い髪を弄りながら、面倒くさそうにそう返答する。


 バリー寮長相手にこの態度とは流石女王である。

 見るからに態度が悪いのを見ると、来る前にバリー寮長が散々彼女のことを悪く言っていた理由も見えてくる。


「……私は以前、千里鏡をお貸しいただいときに交渉に訪れた者でございます」


 バリー寮長は既にコロナリカに少し苛立っているのが顔に出ているが、なんとか謙った態度での応対を続けている。


「あ〜、あのときのしつこいおばさんね〜。

 千里鏡を貸してくれと何度も頼みに来るから、面倒くさかったのを覚えてるわ〜」


 と、思い出したように悪口を言うコロナリカ。

 その言葉に、バリー寮長のこめかみにピキッと筋が入った音が聞こえて、後ろの俺たちも震える。


「覚えていただき光栄でございます……」


 顔をうつむけながらそう呟くバリー寮長。

 謙った態度を続けてはいるが、おそらくうつむけている顔は怒り顔に違いない。


 すると、コロナリカは後列の俺たちの方にも目線を向ける。


「で~?

 今回は私に何の用なのかしら~?

 前来たときと違って、随分と人が多いじゃないの~」


 コロナリカのその言葉と同時に、バリー寮長は俺の方へと視線を向ける。

 俺から説明しろということだろう。


 俺はバリー寮長と同様に、両手を胸の前で結び、頭を下げた。

 

「初めまして。

 俺は、エレイン・アレキサンダーと申します。

 昨日、大学の生徒であり、俺の護衛であるジュリア・ローズという黒妖精族(ダークエルフ)が失踪しました。

 失踪後、俺たちの方でも探したのですが中々見つからず、お手上げの状態でして。

 どうか、女王陛下がお持ちの千里鏡のお力で、私の護衛を見つけていただけないでしょうか?」


 俺は顔を上げて、コロナリカの目を見て真摯に訴えた。

 しかし、その瞬間、コロナリカは明らかに嫌悪感を持った目つきへと変わった。


「は~?

 なんで、あんたたちに千里鏡を使わせてあげなきゃいけないのよ~。

 あんたたちの国は、二つも神器を持ってるじゃないの~。

 それで解決すればいいんじゃない~?」


 挑発するような口調でそう言うコロナリカ。


 神器が二つ?

 どういうことだ?


 俺がコロナリカの言った言葉の意味を理解出来ないでいると、バリー寮長が間に入るようにして口を開いた。


「お言葉ですが女王陛下。

 以前来たときにも説明しましたが、大学の持つ転移鍵とナルタリア王国が持つ魔除けのネックレスは、どちらも人探しには向いていません」


 なるほど。

 コロナリカが言っていたのは、ナルタリア王国と大学の持つ神器を合わせると二つになるという話か。

 転移鍵はサラが個人で所持しており、実質ナルタリア王国は二つの神器を所持していることになるため、コロナリカの言うことは一理ある。


 それにしても、魔除けのネックレスというのは初めて聞いたな。

 ナルタリア王国の持つ魔除けのネックレスがどのような物かは知らないが、名前から想像するに人探しに向いていないのは確かだろう。


 しかし、ここでコロナリカは表情を変える。

 バリー寮長の「以前来たときにも説明した」という言葉にイラッときたのか、むっとした表情に変わる。


「あんたたちさ~。

 虫が良すぎない~?

 うちの王国にだって失踪した人は沢山いるっていうのに、なんでどこの国の人かも分からないあなた達のお仲間の捜索を私がタダで手伝わなければならないなかしら~?」


 コロナリカの言葉によって、俺達は一瞬静まる。


 コロナリカの言ったことは正論である。

 コロナリカが部外者である俺達を無償で助ける理由など一切ない。


 だが、「うちの王国にだって失踪した人が沢山いる」と言うが、それはほとんどコロナリカの悪政のせいだろうとは思う。

 それに、どうせ自国の失踪者すらコロナリカは千里鏡で助けていないのだろう。

 それを棚に上げて俺たちを責めるコロナリカに苛立ちを覚える。


「もちろんタダでとは言いません」


 俺が苛立ちを覚えているのを余所に、バリー寮長は冷静にそう呟いた。

 すると、待ってましたと言わんばかりに、コロナリカの表情が露骨に笑顔になる。


「あらそう~。

 じゃあ今回は何を差し出してくれるのかしら~?

 二回目だから、前回よりも多めにお願いするわね~?」


 ニヤニヤしながらそう言うコロナリカに嫌気が差す。

 おそらく、元々俺達に千里鏡の使用を懇願された時点で、俺達から金銭をふんだくるつもりでいたのだろう。


「ベネセクト王国民を十名ほど無償でイスナール国際軍事大学へ入学させることができる権利はいかがでしょうか?

 イスナール国際軍事大学は、入学するのに一人イスナール金貨百枚が必要なので、十名でイスナール金貨千枚分の価値になります。

 既にサラ大学長の許可は取っています。

 エレイン、あの手紙を女王陛下に」


 そう言ってバリー寮長は後ろの俺の方に振り返る。


 「あの手紙」というのは、ベネセクト王国に来る前に大学長室でサラから貰った手紙のことだろう。

 俺はナップサックから手紙を取り出し、近くにいたマロンに渡す。

 そして、コロナリカはマロンからサラの手紙を受け取って読み始めた。


 だが、読んでいるコロナリカの表情は微妙であった。

 しばらくして読み終わったのか、俺たちに手紙を見せるように持ち上げた。

 そして、手紙の真ん中を両手でつまむように持つ。


「はっきり言って、ありえないわ~」


 そう言いながら、コロナリカはサラの手紙を縦に思いっきり破るのだった。


「なっ……!

 コロナリカ様!

 イスナール国際軍事大学の大学長様の手紙をそんな簡単に破ってはいけません!」


 コロナリカが手紙を破ると同時に、コロナリカの隣りに立つマロンが叫ぶ。


「ん〜。

 でも、手紙読んだらマロンも破りたくなると思うよ〜?」


 そう言いながらコロナリカは俺たちの方に視線を向ける。


「大学に無償で入学できる権利とかベネセクト王国民を優遇するとか書いてあったけど〜?

 そんなものどうでもいいから、お金を渡してくれないかしら〜?

 じゃないと交渉決裂で帰ってもらうわよ〜?」


 コロナリカは面倒くさそうに髪を弄りながらそう言うのだった。

火曜日は引っ越しで忙しくて更新できませんでした。ごめんなさい(T_T)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ