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転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第四章 少年期 ジュリア救出編
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第九十四話「バリー寮長の提案」

「一晩中探したぶひが、大学のどこにもいなかったぶひ……」

「私も大学内を見て回りましたが、同じくです……」

「俺は街を見て回ったが、どこにもいなかったぞ」


 第五寮のロビーで合流したピグモンとサシャとドリアンからそんな絶望的な報告を受けた。

 

 三人とも一晩中ジュリアを探してくれたようで、疲れている様子だ。

 俺も三人と同様にずっと砂浜を一晩中探し続けていたので同じ気持ちである。

 歩き続けて足が痛いし、寝ていないので眠気が物凄い。


 だが、ここでへこたれてる場合ではない。

 俺達がここに集まっている間にも、ジュリアが危機的な状況に陥っている可能性があることには変わりないのだ。

 捜索の手を緩めるわけにはいかない。


「じゃあ、次はどこを探そうか……」


 俺がそう呟くと、全員無言になってしまう。


 実は全員もう気づいているのだ。

 これだけジュリアを探しても手がかりの一つも出てこない以上、もう探す手立てが無いということを。

 闇雲に探しても無駄に時間を消費してしまうことを分かっているからこそ、これからどうすればいいのか分からずにいるのである。


 そういえば、シュカからもまだ良い報告が来ていない。

 シュカは部下を使って捜索すると言っていたが、シュカの部下二百人の捜索にも引っかからないとなると、いよいよ大学周辺には既に居ない可能性が高まってくる。

 となると、やはり何者かに誘拐された可能性が高いのだろうか?

 一体ジュリアはどこへ行ってしまったのやら。


 俺達はジュリアの行方を考えながら、ロビーに無言で(たたず)んでいると。

 後ろから声をかけられた。


「あんたたち。

 朝っぱらから何こんなところで突っ立ってるんだい。

 掃除の邪魔だから散りな散りな」


 声をかけてきたのはバリー寮長だった。

 大柄な身体に、いつものパツパツな制服の上に割烹着を纏ったバリー寮長が箒で追い払うように俺達にそう言う。


「す、すみません……。

 じゃあ、一旦外に出ようか」


 掃除の邪魔をするわけにはいかない。

 俺はバリー寮長に謝りつつ、ピグモンとサシャとドリアンに一緒に外に出るよう合図すると。


「ちょっと待ちな。

 そういえば、昨日ピグモンに言われて部屋を見たね。

 結局、ジュリアは見つかったのかい?」

 

 と、後ろから再び声をかけてくるバリー寮長。


「皆で一晩中探したんですけど、見つからなかったです……」

「なんだって?」


 質問に正直にそう答えると、バリー寮長は目を細めて険しい表情になった。


「どこに行くか言い残してないのかい?」

「いえ、全く。

 寮の裏にある海辺の砂浜で剣の練習をしていたらしいんですが、目を離した隙に居なくなっていたようでして。

 失踪してしまいました……」


 俺がそう答えると、バリー寮長はさらに険しい顔でプルプルと震える。

 そして、俺を睨みつけるように見下ろしながら大口を開いた。


「なんで、そんな大事なことをもっと早く言わないんだい!

 寮の生徒が失踪したのなら、まず寮長の私に報告しな!」


 と、説教するように怒鳴るバリー寮長。


「す、すみません……」


 そんな決まりがあったことは聞かされていなかったが、俺は相槌をうつように謝った。

 徹夜で疲れている身体にバリー寮長の怒鳴り声はかなり効くので、無駄なエネルギーを使わないようにしようと、とりあえず謝罪した。


 すると、バリー寮長は持っていた箒を壁に立て掛け、寮の入口に向かって歩きながら口を開いた。


「今すぐ、サラのところに行くよ。

 ついてきな」

「は、はあ」


 急に指示されて困惑するも、バリー寮長は有無を言わさないといった様子で歩いて行ってしまう。


 なぜ、サラ大学長のところに行かなければいけないのだろうか?

 今はそれよりも捜索に時間をかけるべきだと思うが。


 とは思ったものの、よく考えてみればこのまま闇雲に手がかりなしで捜索を続けるのも時間の無駄である。

 闇雲に探すよりは、手がかりを探すためにも大学長にジュリアのことを伝えることは手段として間違っていないような気もする。 


 そう考えた俺は、ひとまずバリー寮長について行くことにした。



ーーー



 本部棟三階の大きな扉の前。


 ここに来るのは二度目である。

 相変わらず大きな扉だなと思いながら見上げていると、バリー寮長が扉の前で勢いよくノックをした。


「サラ、私だ、入るよ」


 それだけ言って、返事も待たずに扉を開けてしまうバリー寮長。


 そういえば先ほどから気になっていたが、バリー寮長はサラ大学長のことを「サラ」と呼び捨てにしている。

 二人は親しい仲なのだろうか?

 役職の上下関係を考えれば敬称を付けそうなものだが。


 不思議に思いながらも、バリー寮長に続いてサシャとピグモンとドリアンと共に部屋へ入室すると。

 部屋の中には、奥の机で羽ペンを走らせている着物姿のサラがいた。

 俺達が入室すると、フェラリアとサラの視線が一気に俺達に集まる。


「おや、バリー。

 どうしたんだわさ」


 俺達が入室すると、サラは羽ペンを動かしながらこちらを見ずに話しかけてきた。

 何やら手紙のような物を書いていて忙しそうだ。


「サラ、緊急事態だよ。

 生徒が一人失踪したらしいわ」


 バリー寮長がそう言うと、ピタリと羽ペンが止まった。

 そして、ジロリとこちらに視線を向けるサラ。


「失踪?

 誰が、居なくなったんだわさ?」


 眼鏡の裏から覗かせるサラの視線は、得体のしれない威圧感を感じる。

 すると、バリー寮長はサラと同様に俺に視線を向けてきた。

 俺から説明しろということだろう。

 

 その視線を受けて、俺は一度背筋を正してから説明を始めた。


「失踪したのは、先日俺と一緒に入学したジュリア・ローズという黒妖精族(ダークエルフ)の護衛です。

 昨日、第五寮の裏にある海辺の砂浜で消息を絶ちました」

 

 俺が畏まった口調でサラにそう説明すると。


「それは困ったねぇ……」


 サラは表情を変えずに、ただそれだけ感想を述べたのだった。


 まあ、俺達があれだけ探しても見つからなかったのだから、大学長に伝えたからといって今すぐに何か出来るわけでもないだろう。

 この反応は当然といえば当然である。


 すると、再びバリー寮長が口を開いた。


「サラ。

 べネセクト王国のあいつに、またあの鏡を頼めないかい?」


 バリー寮長がそう言うと、サラの眉間に皺が寄る。


「コロナリカのことかい?」

「ああ、そうだよ。

 あの自分勝手な女王のことだよ」


 嫌悪感を漂わせながら答えるバリー寮長。


 コロナリカ?

 初めて聴いた名前である。

 女王ということは、おそらくべネセクト王国の女王なのだろう。

 

「あの子は我儘だからねぇ。

 いくらあたしでも、交渉は難しいかもしれないだわさ」


 やや苦い口調で言うサラ。

 この常に表情の変わらない老婆にこんなリアクションを取らせるということは、そのコロリカという人物は相当気難しい人物なのだろう。


 すると、俺の後ろでピグモンが叫んだ。


「コロナリカ女王!?

 べネセクト王国の女王様のことぶひか!?」


 何やら動揺した様子で叫ぶピグモン。


「知っているのか?」


 そういえば、ピグモンはべネセクト王国で暮らしていた。

 俺のような部外者より、王国の住民だったピグモンの方が詳しいだろう。

 そう思って聞いてみると。


「知っているも何も!

 俺はあいつに重税を課されたせいで、キースにお金を借りなくちゃ生活出来なくなったぶひ。

 べネセクト王国の貧民街に住む人は、皆嫌ってるぶひ。

 俺は、あいつのせいでポプラと……」


 言いながら顔を俯けるピグモン。

 べネセクト王国でキースを倒し、元彼女のポプラとは決別していたが、それでも未だに元彼女のことを引きずっているようだ。


 それに関しては、俺からかける言葉は見つからない。

 ピグモンが自分の心の中で整理をつけてちゃんと決別出来るようになるのを待つしかないだろう。

 

 だが、そもそもピグモンにこんな悲しい思いをさせた原因は、べネセクト王国の女王であるコロナリカという者にあるらしい。

 俺もべネセクト王国の街は見たが、首都のポリティカの街以外はほぼほぼスラム街と化していた。

 ピグモンの話を聞く限り、あれは国に重税を課された結果のように思える。

 つまり、そのコロナリカという女王は国民よりも自分を優先するタイプの王のようだ。


「でも、なんでべネセクト王国の女王の名前が今出てくるんですか?」


 俺は素直に疑問を口にした。

 べネセクト王国はこの大学から馬車で二十日はかかる距離の場所にあり、ジュリアの失踪とは関係あるはずがないだろう。

 なぜ今べネセクト王国の女王の名前がサラとバリー寮長の間の会話で出てきたのか謎である。


「あの女王に頼めばジュリアの場所を見つけられるかもしれないからだよ」

「ほ、本当ですか!?

 なんで!?」


 あまりにも突飛な回答に、思わず食い入るように叫んでしまった。


 ジュリアが失踪したのは第五寮の裏にある海辺の砂浜であり、べネセクト王国とはかけ離れている。

 ジュリアのことを知るはずもないべネセクト王国の女王が、一体どうやってジュリアを見つけるというのだろうか。


「イスナール様の神器だわさ」


 すると、今度はサラが俺の疑問に答えてくれた。


 イスナールの神器。

 俺はそれを知っている。

 見たことがあるからだ。


 ディーンが持っていた再生の(つるぎ)

 フェラリアの家から大学に来るときに使った転移鍵。

 いずれもイスナール神の十種の神器のうちの一つのようで、まさに神がかった能力を持つアイテムだった。


「イスナールの神器をべネセクト王国の女王も持っているということですか?」


 俺がそう聞くと、サラはゆっくりと頷いた。


「イスナール様の神器は、代々ポルデクク大陸の国々がそれぞれ一つずつ所持しておるものだからねぇ。

 べネセクト王国も神器を一つ持っているということだわさ」


 イスナールの神器は、ポルデクク大陸の国々がそれぞれ一つずつ所持する物なのか。

 ということは、ジェラルディアが持ってきた転移鍵も国の物だったのだろうか?

 

 などと考えている間にも、サラは言葉を続ける。


「べネセクト王国が持っている神器は、『千里鏡(せんりきょう)』だわさ」

「千里鏡?」


 聞いたこともない言葉をそのまま口にだすと、サラもコクリと頷いた。


「千里鏡は、この世界のあらゆる場所を覗くことが出来る神器。

 探し物や探し人を見つけることができるんだわさ」

「そ、それはすごいですね……」


 俺はその説明を聞いて、ジュリアが見つからなくて絶望していた心に希望が満ちてきた。

 

 イスナールの神器が物凄い能力を持っていることは身を持って味わっているので、信憑性の高い情報である。

 今のままではジュリアの行方の手がかりすら見つからない状態なので、是非俺達にも使わせてもらいたいところだ。


 そんな俺の考えを打ち崩すかのように、今度はバリー寮長が口を開いた。


「でも、問題はあの横暴な女王だよ。

 前にあの鏡を使わせてくれるよう頼んだ時は、莫大な金銭を要求されたからね。

 二度目となると、何を要求されるか分かったもんじゃないよ」


 吐き捨てるように言うバリー寮長。


「そうさねぇ。

 コロナリカは気難しいからねぇ……」


 バリー寮長の言葉に同意するかのように頷くサラ。


 なるほど。

 あの大貧民街を作り上げた国の女王なだけあって、性格に相当難があるようだ。


 とはいえ、金銭であればダマヒヒト王国で換金してもらった千枚のイスナール金貨と、メリカ大金貨五十枚ほど、それからメリカ王国では価値が非常に高い宝石類まで持ってきている。

 金銭を要求されるだけであれば、なんとか交渉は出来そうだな。


「是非、交渉させてください。

 金銭面であれば、それなりに俺もメリカ王国から持ってきているのでどうにかなるかもしれません。

 ただ、問題はべネセクト王国までの距離ですね……」


 べネセクト王国まで、ここから馬車で二十日はかかるだろう。

 いくらジュリアが見つかる可能性があると言っても、それだけ時間をかけてしまえばジュリアが無事である可能性も下がってきてしまうだろう。


「転移鍵を使えばすぐにべネセクト王国に行けるわさ。

 転移鍵はあたしが保有する神器だから、いつでも使えるしねぇ」


 と、当たり前のように説明してくるサラ。

 だが、この事実に俺は驚愕した。


 一国が一つ所持する国宝級のアイテムである神器を、たかだか大学の長が所持しているというのは物凄いことなのではないだろうか。

 一体、このサラという老婆は何者なのだろうか。


 そう思って、サラのことをジロジロ見ていると。

 サラは言葉を続ける。


「でも困ったねぇ。

 あたしは忙しいからここを離れられないんだわさ。

 でも、転移鍵を生徒個人に貸し出すのは禁止していてねぇ。

 誰か大学の者に付き添いを頼みたいところなんだけれど。

 ジェラルディアもフェラリアも授業があるしねぇ……」


 と、困ったような口調で呟くサラ。


 そういえば、前回フェラリアの家で転移鍵を使った時は、ジェラルディアが転移鍵を持ってきた。

 あれは、ジェラルディアが信頼出来る大学の教授だから、サラから託されたということか。

 でも、ジェラルディアとフェラリアが授業の関係で付き添えないとなると困ったものだ。

 俺は、その二人以外の教授を知らないしなぁ。


 なんて思っていると。

 俺の隣でバリー寮長が口を開いた。


「私がこの子たちに付きそうわ」

「へ?」


 意外な人物の申し出に思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。


 バリー寮長は、ただの寮長じゃないか。

 ジェラルディアやフェラリアのように、大学の教授だとかいうわけでもないが良いのだろうか?


 そう思ったが、サラの反応は違うようだった。


「ああ、そうかい。

 バリーが行くなら安心だねぇ。

 じゃあ、よろしく頼むだわさ」


 そう言って、サラは机の引き出しを開けて、中から転移鍵を取り出した。

 そして、バリーに渡すように机の上に置く。


「ああ、任せな」


 そう言って、当然のように転移鍵を受け取るバリー寮長。


 こうして俺達はバリー寮長付き添いのもと、べネセクト王国へと行くことになったのだった。


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