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転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第三章 少年期 入学編
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第九十二話「失踪」

 今日は有意義な一日だった。


 サシャと第五寮へ続く帰り道を歩いている最中、俺はそんなことを思った。

 そう思ったのにも理由がある。


 まず、フェラリアの研究室で復唱インコの召喚用魔法陣を頂くことが出来た。

 これで、あとはインコを召喚して言葉をインコに覚えさせれば、メリカ城まで声を通して情報を送り届けてもらえる。

 ジャリーを追うように去ってしまったガラライカのことを早急に伝えねばならないので、この魔法陣を頂けたのは非常にありがたい。

 サシャやジュリアも、メリカ城にいるであろうルイシャやジャリーに伝えたいことは一杯あるだろうし、声の録音は明日の朝にでもやろうと思う。


 それから、エクスバーンの部屋で得られた情報も大きい。

 なんと、エクスバーンによれば、魔大陸には二人の魔王がいて、今も戦争が続いているというのだ。


 魔大陸最強の魔術師であるメテオバーンと、万の眷属を作り上げた吸血王(ヴァンパイアロード)ブリタニア。

 魔大陸の北と南に領土を分けて戦争をしているという話だが、どれほど壮絶な戦いが繰り広げられているのか俺には想像もつかない。

 それでも一つ言えるのは、どちらかが戦争で勝って魔大陸が統一されたとき、今度はメリカ王国が危険かもしれないということだ。


 ポルデクク大陸の国々は、イスナールの『他種族との友好を重んじるべし』という教えもあったため、戦争が終わった後も魔族との親交を深めてきたらしい。

 エクスバーンが大学に入学しているのを踏まえると、少なくともメテオバーン側の魔族はポルデクク大陸の国々とはある程度友好的なのだろう。


 だが、メリカ王国は別である。

 ユードリヒア帝国としか親交が無く、閉鎖国家であるメリカ王国は、魔族との親交はない。

 歴史的にも、五千年前にパラダインの侵攻を防衛したという歴史がバビロン大陸にはある。

 五千年経った今、魔族達がもう一度メリカ王国に攻撃を仕掛けようという考えになったとしても不思議ではないだろう。


 最悪の場合、魔族とポルデクク大陸の国々が協力してメリカ王国に攻め込んでくる恐れもある。


 前に、ダマヒヒト王国でフレアと話した時に、フレアはメリカ王国と国交を結びたいと言ってくれた。

 しかし、ダマヒヒト王国と国交を結んだだけではどうにもならないのが実情だろう。


 ほとんどのポルデクク大陸の人間はバビロン大陸の人間を敵視している。

 それは歴史的な問題であり、現状、変えようがない。

 ダマヒヒト王国のフレアやクレセアのような人間は希少なのだ。

 一度(ひとたび)、魔族がメリカ王国を攻めると言えば、ポルデクク大陸の国々も協力することは間違いないだろう。


 そうならないためにも、魔大陸の魔王とは一度会っておきたい。

 どのような人物か見定める必要があると考えている。


 また、俺は前世の魔王がこの世界にもいるのではないかと疑っている。

 でなければ、俺がこの世界に転生した理由が分からないからだ。

 前世の魔王がなんらかの術を使って、俺をこの世界に連れてきたのではないかと考えている。

 それならば、前世の魔王がこの世界にいたとしても不思議ではない。


 もし、メテオバーンやブリタニアが前世の魔王と同一人物であった場合、最悪だ。

 前世の魔王は、残虐非道、世界の魔族以外の者を蹂躙することしか考えていなかった。

 そんな魔王が魔大陸を統一したとしたら、この世界は大変なことになるのは確実。

 世界中で戦争が繰り広げられるだろう。


 そのため、メテオバーンやブリタニアがどのような人物か知るためにも、一度会っておきたいのである。

 特に、メテオバーンはエクスバーンの父親なわけだから、エクスバーン経由で会いやすいのではないだろうか。

 魔王メテオバーンと会うためにも、エクスバーンとはこれからも仲良くしていかなければならないな。


 なんて、考えながら夜道を歩いていると、ふと隣でサシャが前方を指さしながら呟いた。


「エレイン様。

 あれ、ピグモンさんじゃないですか?」


 そう言うので、サシャが指さした方向を見ると。

 前方には、松明を持ってきょろきょろしながら、こちらに向かって歩くピグモンがいた。

 よく見ると、ピグモンの額には汗が流れ、なにやら焦っているようにも見える。

 一体どうしたのだろうか。


「おーい、ピグモーン!」


 俺が声をあげてピグモンを呼ぶと。

 ピグモンは、俺を見つけるや否や、こちらに急いで走り寄ってきた。


「え、エレイン様!

 ジュリアは見ませんでしたか!?」

「ジュリア?」


 ピグモンの表情は、間近で見ると青くなっていた。

 ジュリアがどうかしたのだろうか?

 普段であれば、ジュリアとピグモンは午後のイスナール語の授業を受けた後、この時間は寮に戻っているはずなのだが。


 すると、隣でサシャも仰天した様子で叫ぶ。


「ピグモンさん!

 まさか、ジュリアが居ないんですか!?」


 そのサシャの叫びを聞いて、俺もはっとした。


 ピグモンがジュリアの居場所を俺に聞くということは、ジュリアが居ないということなのだろう。

 当然、エクスバーンの部屋に行っていた俺も、ジュリアの行方は知らない。

 まさか、失踪したのか……?

 

 ピグモンの方を見ると、神妙な面持ちでゆっくりと頷いた。

 俺はそれを見て、背中に冷や汗が流れるのを感じた。

 そして、急いでピグモンに問いただす。


「ピグモン。

 お前は、ジュリアと一緒にいたんじゃないのか?

 確か、イスナール語の授業を一緒に受けていたはずじゃないか」

「はい……。

 午後のイスナール語の授業は一緒に受けていたぶひ。

 授業の後は、いつもジュリアは海辺の砂浜で日が暮れるまで修練をしているから、俺も付き添っていたんぶひけど。

 丁度夕暮れ時くらいに、俺がトイレに行きたくなって一旦寮に戻ったんぶひ。

 それで、用を足してから砂浜に戻ったら、ジュリアが砂浜から居なくなっていたんぶひ……」


 ピグモンは小さな耳を垂らしながら、暗い顔でそう説明する。


 つまり、ジュリアが失踪したということか。


 俺は、この事実に衝撃を受けながらも、一旦冷静になって考える。

 こういうときは最初の対応が肝心で、まず冷静になってどうするべきか考える必要があることは前世の経験で知っていた。


 理由は三つ考えられる。


 一つは、ジュリアがどこか別の場所をほっつき歩いているというパターン。

 しかし、その可能性は薄いだろう。

 なぜなら、もう日は暮れてから大分時間が経っているからだ。

 こんな時間まで、ピグモンに何も言わずにジュリアがどこかへ行くとは考えにくい。


 二つ目は、ジュリアが既に寮に帰っているという可能性だ。

 ピグモンは男だから、男女に部屋分けされたあの部屋で、ジュリアが部屋にいるかどうかはは確認できないだろう。

 もしかしたら、ジュリアとピグモンはすれ違っただけで、既に部屋に戻っているのかもしれない。


「ピグモン。

 ジュリアが寮の部屋にいるという可能性はないのか?」


 俺がそう聞くと、ピグモンは苦い表情で首を振る。


「俺もその可能性を考えて、バリー寮長に確認したぶひ。

 事情を説明したら、バリー寮長が部屋を見に行ってくれたんぶひが。

 サシャの部屋とジュリアの部屋を両方確認したらしいぶひが、部屋の中には誰もいなかったらしいぶひ……」


 ピグモンはがっくりと肩を下げながら、落ち込んだように言う。


 どうやら、寮の部屋にジュリアがいるという可能性も無い様だ。

 薄い可能性として、バリー寮長が嘘をついている、もしくは部屋の中にいたジュリアを見逃したという可能性も考えられなくはないが、ほとんど無い可能性だろう。

 バリー寮長に嘘をつく理由はないし、あんなに狭い部屋の中を見て人影を見逃すなんてことはあり得ない。


 となると、考えられるのは三つ目の選択肢だ。


「ジュリアが何者かに誘拐された可能性があるな」


 俺がそう呟くと、ピグモンとサシャは青い顔になる。


「な、何者ってどなたですか!」


 サシャは、そう声を荒らげるようにして言う。


「……」


 そんなこと聞かれても、俺だって分からない。


 誘拐する理由としては、ジュリアを恨んでいるか、もしくはジュリアを人身売買の売り物にするためだろうか。

 だが、来たばかりのポルデクク大陸でジュリアに恨みを持つ者などそういない。

 剣術の試合稽古でジュリアに負けた者は多少遺恨があるかもしれないが、あれは授業中の話で、それで誘拐しようなどと思う生徒はいないだろう。


 一方、人身売買の売り物として誘拐するのであれば、まだ考えられる。

 実際に、メリカ王国を出てすぐの時に、一回そんな輩に遭遇したことがある。

 あのときは、光速剣を使える光剣流の上級剣士がいたからジュリアも深手を負った。

 もし、同じようなことがあれば、ジュリア一人だと捕まってしまう可能性も考えられなくはない。


 だが、上級剣士がそんなに至る所にいるだろうか?

 ポルデクク大陸の砂浜で偶然人身売買を専門とする上級剣士と出会う確率なんて相当低いのではないだろうか。


 そもそも、この世界でジュリアの剣に勝てる奴なんてそう居ない。

 正直、今のジュリアは相当強いのである。


 前にジェラルディアに剣のコツを教えてもらったおかげか、剣術の授業ではメキメキと技量を上げていた。

 今だったら、昔出会った上級剣士にも勝てるのではないだろうか、と思わせるほど剣速や技量が上がってきているし、負けるとしても影剣流を使えるジュリアがそう簡単に負けるとは思えない。


 一先ず、俺の目でも現場を確認しないと、何とも言えないな。

 そう結論づけてから、俺はサシャとピグモンを見る。


「ピグモンは、俺と一緒にもう一度砂浜を探しに行こう。 

 サシャは、寮の部屋やトイレをもう一度確認してきてくれ。

 バリー寮長が部屋を見たときは部屋にいなくても、今はいる可能性も考えられるからな。

 もし、寮にジュリアが居なかったら、そのまま砂浜にそれを伝えに来てくれ」

「分かりました」

「わ、分かったぶひ」


 サシャとピグモンはコクリと頷く。

 そして、俺達は足早に夜道を駆けながら、ジュリア捜索を始めたのだった。



ーーー



「ジュリアー!

 いるかー!」

「ジュリアー!

 どこぶひかー!」


 砂浜に到着した俺とピグモンは、松明で明かりを照らしながら、声を上げてジュリアを探す。

 しかし、聞こえてくるのは波の音だけで、ジュリアの返事は返ってこない。


「くそっ、いないな……」


 俺は、吐き捨てるようにそう叫ぶ。

 砂浜には人っ子一人おらず、段々と俺も焦ってきていた。


「エレイン様!

 ここでジュリアは剣を振っていたぶひ!」


 ピグモンはそう言いながら、砂浜を指さす。

 そこには、おそらくジュリアが沢山修練をしていたのであろう踏み込みの跡が見て取れた。

 午後の授業が終わった後は、ここで日が暮れるまで毎日練習していたのだろう。

 そりゃあ、ジュリアも強くなるわけだ。


 感心しながらジュリアの練習場所を見ていたら、後ろから掛け声が聞こえてきた。


「エレイン様ーー!

 寮にも、ジュリアいませんでしたーー!」


 高台からそう叫ぶのは、サシャだった。

 その声を聞いて、俺の中の焦燥感が再び増してきた。


 いよいよまずいな。

 砂浜にも寮にもいないのであれば、手がかりはもう全く無い。

 焦燥感と絶望感が押し寄せる中、俺は小さい声で呟く。


「シュカ、いるか?」

「はい、ここにいるでござる」


 すると、俺の後ろからそんな声が聞こえてくる。

 隣でピグモンがビクッとするのが目に入ったが、俺は気にせず、すぐに質問を続ける。


「ジュリアの行方は分かるか?」

「拙者も、先ほどから部下に探させているでござるが、未だ見つかっていないでござる。

 申し訳ないでござる」

「そうか、分かった。

 シュカはそのまま捜索を続けてくれ。

 何か分かったら報告するように」

「了解したでござる」


 そう言ってシュカは再び消えた。


 かなり状況は厄介だ。

 シュカの捜索でも見つからないとなると、いよいよどこにいるか分からない。


「手分けして探そう。

 俺はここら一帯を探すから、ピグモンとサシャは大学の敷地を探してみてくれ」

「わ、分かったぶひ!」


 ピグモンは頷くと、急いでサシャの方へと走り去ってしまった。


 一体、ジュリアはどこへ行ってしまったのだろうか。

 俺は、焦燥感と絶望感に包まれながら、再び砂浜でジュリアを探すのだった。



ーーー



「はあ……はあ……」


 俺は、息を切らしながら砂浜を歩く。

 ジュリアを大声で呼びながらずっと砂浜を歩いていたので、体力の限界だった。

 

 ふと海を見ると、遠くで真っ赤な日が昇り始めているのが見えた。

 それを見ると同時に、俺は絶望した。


 どうやら、もう朝らしい。

 サシャやピグモン、それからシュカからも全く報告は入ってきていない。

 結局、夜通し捜索をしたが、ジュリアは見つからなかったのである。


「ジュリア……」


 俺は、絶望しながら砂浜に座って、日の出を眺めるのだった。


これにて、第三章の入学編が終わりです!

次回の第四章からは、大きな動きが始まるのでお楽しみに!


ブクマ、星☆☆☆☆☆評価いただけると励みになります!

是非、よろしくお願いします!


それから、転生王子の情報戦略は、一週間程休載させていただきます!

次回の更新は、1/25の予定なので、楽しみに待っておいていただけると嬉しいです!

実は、この休載期間で一気に新作を書こうと思っていまして、近々その新作も発表すると思いますので是非お楽しみに!

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