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転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第三章 少年期 入学編
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第九十話「紫闇刀の素材」

「じゃあ、まずエレイン君はこれを持ってもらえるかしら?」


 そう言って、フェラリアが懐から取り出したのは、小さな小瓶。

 その中には、見覚えのある白い石が入っていた。


「もしかして、吸魔石ですか?」


 俺がそう聞くと、少し驚いたように目を見開くフェラリア。


「あら、知っていたの?」

「ええ。

 メイビスさんの研究室でも触らせてもらいましたから」


 俺の答えを聞いて顔をしかめるフェラリア。


「……なるほど。

 私よりも先に、メイビス君のところで確認してもらったわけね。

 私よりも先に(・・・・・・)……」


 嫌味のように、二度同じことを言ったフェラリア。

 どうやら、俺がフェラリアより先にメイビスの研究室へ言ったことを、思ったよりも根に持っているらしい。


「ええと……すみません……」


 俺が素直に謝ると、フェラリアは一つため息を吐いてからこちらを見る。


「ま、いいわ。

 だって、やっとエレイン君が来てくれたんだもの。

 こうなったら、とことん私の研究に付き合ってもらうわよ!」


 そう言うと、フェラリアの顔はパッとニコリとした笑顔に切り替わって、明るいトーンで話し始めた。


「それで?

 吸魔石には触れることは出来たのかしら?」

「ええ。

 普通に持てましたし、何も起きませんでしたよ」


 俺はそう言いながら、フェラリアから受け取った小瓶の中から吸魔石を取り出して、手のひらの上に置いて見せる。

 すると、フェラリアは俺の手にある吸魔石を驚いたようにまじまじと見つめる。


「本当に、エレイン君には全く魔力が無いのね。

 本来なら、魔力を吸って吸魔石の色が変わるはずなのだけど……」

「え、色が変わるんですか!?

 それは知らなかったです。

 何色になるんですか?」


 吸魔石が魔力を吸うことはメイビスから聞いていたが、魔力を吸うと石の色が変わるというのは初耳だった。


「紫色に光るわよ。

 その色の濃さで、どれだけ石に魔力が溜まっているのか分かるの。

 多分、見た方が早いと思うわ。

 エレイン君、ちょっと吸魔石を机の上に置いてみて?」


 俺は言われるがままに、机の上に吸魔石を置く。

 すると、フェラリアが呪文を唱え始めた。


「業火に燃え盛る、炎の化身。

 全てを燃やし恵みを与える、火の精霊よ。

 火矢を放ち、かの者を貫け。

 火射矢(ファイヤーアロー)

「え!?」


 急に唱えた呪文は、まさかの攻撃呪文である火射矢(ファイヤーアロー)

 フェラリアの指先に出来た炎の矢を見て、俺とサシャとドリアンは咄嗟に身構えた。


 なんで、こんなところで火系統の攻撃呪文を?

 吸魔石に当てようとしているのだろうが、当てどころを間違えたら研究室が燃えてしまうじゃないか。

 

 俺は非難するようにフェラリアを見る。

 だが、フェラリアは俺の非難の視線など眼中にない様子。

 フェラリアの指先から火射矢(ファイヤーアロー)が真っすぐと吸魔石に向かって発射された。


 危ない!

 と思って、即座に腰元の紫闇刀に手をかけながらサシャの前に立つ。

 しかし、すぐにその行動は不必要だったことを知る。


 発射された火射矢(ファイヤーアロー)は、吸魔石に当たる直前で火が段々と弱まり、吸魔石に吸収されたのだった。


「すごい!

 綺麗ですね!」


 最初に口を開いたのは、俺の肩越しに吸魔石を覗くサシャだった。


「そうでしょ?

 吸魔石は魔力を吸うと、こんな感じで紫色に光るのよ」


 と、サシャに同調しながら説明するフェラリア。

 確かに、机の上にある吸魔石は、紫色に綺麗に輝いていた。


 そして、それを見た瞬間、俺はあるデジャブを感じた。


「まるで、俺の紫闇刀みたいですね……」


 俺が、紫色に輝く吸魔石を見ながらそう呟くと、フェラリアがピクリと反応した。


「そういえば、エレイン君の九十九魔剣は紫闇刀っていうのね。

 確か、前に話した時に、魔術を吸い取る能力があるとか言っていたわね?」

「ええ。

 魔術に刀身を当てると、魔術を吸う能力があります。

 もしかしたら……」


 俺がそう言うと、フェラリアは俺を見ながら大きく頷いた。


「ええ!

 おそらく、その魔剣を作るのに吸魔石が使われているわね!」


 言葉を被せるように、やや興奮気味で言うフェラリア。

 俺と全く同じことを考えたフェラリアのその意見に、俺は同意するように頷いた。


 今見た、フェラリアの火射矢(ファイヤーアロー)を吸い取った吸魔石の様子は、明らかに紫闇刀の魔力吸収の能力に酷似していた。

 それに、魔力を吸い取ったら紫色に光るという特徴まで一致している。

 十中八九、紫闇刀の素材に吸魔石が使われていることは間違いないだろう。


 すると、フェラリアは何かを思い出すように俺の方を見た。


「そういえば、あなたたちから魔剣を借りるのがまだだったわね!

 丁度サシャちゃんもいるし、烈風刀と紫闇刀の二刀を三日くらい貸してもらってもいいかしら?」

「ええ。

 全然良いですよ」


 俺は即答した。

 前から魔剣をフェラリアに貸してくれと頼まれていたし、これを貸すことで第二階級に上がる条件である、大学の発展に少なからず貢献することに繋がる。

 それならば、拒否する理由もないだろう。


 俺は、フェラリアの頼みに頷きながら、机の上に紫闇刀を置く。

 隣にいるサシャも、俺にならって、緑色に光る烈風刀を机の上に置いた。


「こうして九十九魔剣が二刀も揃うと、壮観ね……」


 フェラリアはそう呟きながらも、一本一本手に取って刀身抜いて眺める。


「俺達から魔剣を借りて一体何を調べるんですか?」


 俺はフェラリアのその様子を眺めながら、前から思っていた疑問を口にする。

 魔剣の能力なら、前にフェラリアの家で説明した通りだし、これ以上魔剣について何を調べることができるというのだろうか。


 そんな俺の素直な疑問を聞き、フェラリアはやや難しい顔をする。


「私に出来るのは、実際に刀剣を振った時の能力を見て、どういう仕組みで魔術が刀剣から放出されているのかを考察するくらい。

 正直、あまり九十九魔剣の研究は上手くいっていないのよ。

 なんせ、今までジェラルディア将軍の爆破刀しかサンプルがなかったから……」


 と、やや尻すぼみな発言をするフェラリア。

 しかし、すぐにパッと笑顔に変わった。


「でも!

 今のエレイン君の話を聞いて、この紫闇刀は吸魔石を元に作っていることが分かったわ!

 今まで、九十九魔剣の製作に使われている材料すら全く分かっていなかったから、これは大きな進歩よ!

 今まで、九十九魔剣には、誰かが膨大な魔力を込めて、それが魔術となって放たれるものだと思っていたけれど、もしかしたら製作過程で使われている鉱石そのものの能力がそのまま九十九魔剣に受け継がれているのかもしれないわね!」


 フェラリアはやや興奮した様子で俺に顔を近づけて説明してくる。

 それほど、俺の紫闇刀と吸魔石の能力が酷似していることが大きな発見だったのだろう。

 フェラリアの表情から、ひしひしと嬉しさが伝わってくる。


 俺としても、フェラリアの研究が捗ることは良いことだと思っている。

 フェラリアの研究の最終目標は魔剣量産だと、この前言っていた。

 もしそれが成功すれば、その技術を持っている国が強大な軍事力を持つことは確実。

 それならば、俺はフェラリアに協力し続けることで、研究が成功したときに研究成果を俺にも配分されるようにするべきだろう。


 俺は、そんな打算的な考えを頭の隅に置きながら、興奮しているフェラリアを見て微笑みかける。


「研究に進歩があったら、俺にも教えてくださいね」

「ええ、もちろん!」


 フェラリアは烈風刀を見ながら、元気にそう答える。


 よし、言質はとった。

 これで、一先ずは大丈夫だろう。


 ここで、一旦フェラリアとの会話が終わる。

 すると、今まであまり会話に参加していなかったドリアンが、待っていましたと言わんばかりに口を開いた。


「ところで、フェラリア教授。

 俺、この前貰った、氷霧(アイスヘイル)の魔法陣切らしちゃって……。

 また、貰えないですかね?」


 そう、いつにもなく敬語低姿勢で懇願するように頼むドリアン。


 氷霧(アイスヘイル)というのは、ドリアンが俺と戦ったときに使った氷系統魔術のことだろう。

 あの大量に氷の粒を放った大技は、目の前で放たれれば確実に逃げきれない魔術で、俺も体を凍らされた。

 おそらく、中級か上級であろうあの魔術はフェラリアに描いてもらったというのは、戦闘中にも言っていた。

 それをまた描いてもらおうということか。


 しかし、そんな低姿勢な様子のドリアンを見て、フェラリアは大きなため息を吐いた。


「あのねえ、ドリアン君。

 君は、自分で魔法陣を描こうとは思わないのかしら?」

「もちろん、あります!

 でも、中級魔術以上の魔法陣はまだ難しくてですね……」

「そんなこと言って、今日の授業全部寝てたでしょ?

 私、ちゃんと見てたんだから」


 フェラリアがそう言うと、ギクッと青い顔になるドリアン。

 ドリアンは、実際に魔法陣分析の授業を全部寝ていたので、何も返せずに口をパクパクさせている。

 その様子を見て、もう一度小さくため息をつくフェラリア。


「はぁ……。

 ドリアン君。

 知っていると思うけれど、魔法陣はそんなに安い物じゃないんだからね?

 最近は、吸魔石も品薄で、出来るだけ節約するようにしているんだから。

 この前は、勉強のためにどうしてもと言っていたから描いてあげたけど、授業中寝ているような人にはもう描いてあげません。

 自分で描けるように頑張ってください」


 と、きっぱりとした口調で言うフェラリア。


「そ、そんなぁ……」


 それを聞いて、ドリアンは大きな巨体を小さくしながら、椅子の上でショボンとしているのだった。


 すると、フェラリアは再び俺の方を見てきた。


「でもまあ、エレイン君の頼みだったら魔法陣を描いてあげてもいいわよ?

 だって、エレイン君だったら、吸魔石も自分で取りに行けるでしょ?

 魔法陣を描いてあげる代わりに、吸魔石を取ってきてくれたらなー、なんて。

 どうかしら?」


 そう言って、俺にウインクするフェラリア。


 それを見て、やはりかと俺は思った。

 どうやら、フェラリアもメイビス同様、吸魔石が品薄であることに困っているらしい。

 フェラリアに関しては、大学の授業で魔法陣を使わねばならないため、それはもう困るのだろう。


「実は、吸魔石採集に関しては、メイビスさんにも頼まれています。

 ただ、迷宮(ダンジョン)は危険なので、悩んでいるところです」


 俺がそう言うと、フェラリアはピクリと反応する。


「そうだったんだ。

 メイビス君もやっぱり同じように困っているのね。

 本当に、吸魔石の買い占めをしたやつには困ったものだわ。

 でも、剣術の授業で好成績を修めたエレイン君なら、迷宮(ダンジョン)攻略もそんなに難しくないと思うけど?」


 そんな軽い調子で言うフェラリア。

 だが、俺は騙されない。

 俺は、しっかりと首を横に振った。


迷宮(ダンジョン)攻略はそんなに甘くないです。

 出現するモンスターがただ強いだけではなく、罠もたくさんありますし、道も複雑です。

 迷宮(ダンジョン)攻略経験のある人を連れて行かないと、誰かが死ぬ可能性があります。

 その可能性がある限り、簡単に迷宮(ダンジョン)攻略を承諾することは出来ません」

「ず、随分と現実的なのね……。

 流石、天才王子様ということかしら……」


 フェラリアは、俺の論理的な説明に気圧されている様子。


 まあ、こんな五歳の少年が、迷宮(ダンジョン)についてそんなに詳しく知っているとは思わなかったのだろう。

 だが、俺には生前の経験があるから、迷宮(ダンジョン)の怖さを知っている。

 だからこそ、フェラリアやメイビスの頼みに、そう簡単に首を縦に振ることは出来ないのである。


 すると、フェラリアは降参といったポーズを取りながら口を開いた。


「分かったわ。

 じゃあ、もし迷宮(ダンジョン)攻略しようという気になったら、また連絡して頂戴。

 私も出来るだけサポートはするわ。

 それから、九十九魔剣も貸してくれたことだし、一枚くらいだったら魔法陣を描いてあげても良いけれど。

 何か欲しい魔法陣はあるかしら?」


 それはありがたい。

 実は、フェラリアに描いて欲しい魔法陣は一つあったのだ。


「じゃあ、お言葉に甘えて。

 前にイスナール川で見せてくれた大きなインコの魔法陣をくれませんか?」

「大きなインコ?

 ああ、復唱インコのこと?

 あれだったら、そんなに魔力も使わないし、全然OKよ!」


 そう言って、フェラリアはその場をすぐに立ち上がり、研究室の棚に収納されたたくさんの羊皮紙の束から、一枚抜いて持ってきた。


「これが、インコちゃんの魔法陣よ!

 使い方は分かるかしら?」

「ええと……教えてもらっていいですか?」

「ええ、もちろん!」


 フェラリアはニコリと笑いながら頷くと、復唱インコの魔法陣が描かれた羊皮紙を机の上に置き、魔法陣の中心の円を指で指し示した。


「使い方は簡単よ。

 この真ん中の円に手を置いて『召喚』と言うだけ。

 そしたら、インコちゃんが出てくるから、話しかければ言葉を覚えてくれるわよ。

 ちなみに、インコちゃんを何に使うのかしら?」

「メリカ城にいる父や部下達に、伝言を伝えたいんです」

「ああ、そういうこと。

 それならちょっと待って頂戴?」


 そう言いながら、フェラリアは再度研究室の棚のところに行き、羽ペンと光るインクが入った小瓶を持ってきた。

 そして、羽ペンを持つと、光るインクにペン先をつけてから魔法陣の方に羽ペンを持っていく。


「メリカ城って、どんな城か簡単に説明してもらえるかしら?」


 フェラリアは魔法陣を見ながら、俺にそう質問する。


「え、ええと。

 五階構造で、青と白を基調とした大きなお城ですね。

 周りには大きな庭園があります」

「ふむふむ」


 フェラリアは、俺の言葉を聞きながら、魔法陣に印や紋様を描き加えていく。


「その庭園はどれくらいの広さかしら?」

「うーん。

 この大学の敷地より少し小さいくらいですかね」

「ふむふむ」


 スラスラと羽ペンを動かすフェラリア。

 そして、何かの紋様を書き加え終わったところでペンが止まる。


「よし!

 じゃあ、多分これでメリカ城まで声をインコちゃんが届けてくれると思うから!

 さっき言ったやり方で使ってみてね!」

「あ、ありがとうございます。」


 そう言って、完成した魔法陣を俺に渡してくれたので、素直に礼を言う。


 何を書き加えたのだろうか。

 メリカ城の特徴について聞いていたから、魔法陣で届ける場所を指定したということかな?


 俺は、そう考察しながらも魔法陣を受け取る。


「じゃあ、今日はもう遅いし、こんなところで良いかしら?

 また、三日後くらいに魔剣を取りに来て頂戴!」


 俺が魔法陣を受け取ると同時に、そんな締めくくりの言葉を放つフェラリア。

 俺としても早くエクスバーンのところへ行きたかったから、その言葉はありがたい。


「ありがとうございました。

 また、よろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」


 俺が席を立ってお辞儀をすると、フェラリアはそう言いながら俺の頭を撫でてきたのだった。


 結局、子供扱いされるんだな。


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