表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第三章 少年期 入学編
90/129

第八十八話「目標の確認」

 次の日。

 朝のジュリアとの修練を終えた俺は、海辺の高台で手元の羊皮紙にメモを取っていた。


 メモの内容は、大学に来てから知り合った人物や得た情報の整理である。

 大学に来てから丁度一週間経っているが、既に色々なことが起きている。

 ここらで、一度まとめておこうということだ。


 まず大学に来てから知り合った人物は以下の九名だ。


 サラ、シュカ、ドリアン、アンナ、ガラライカ、メイビス、エクスバーン、ラミノラ、バリー寮長。


 このうち、俺にとって最も重要なのは、大学に来てから俺の部下となったシュカとドリアンについてだ。


 部下とは、自分の手足である。

 しかし、その中に裏切り者がいれば、自分の首を絞めることになる。

 そのため、部下選びには細心の注意を払わねばならないのである。


 その点、シュカはかなり信用が出来る。

 シュカは、ザノフ宰相の部下であり、ザノフの命令で俺の部下となっている。

 ザノフの部下であるならば問題ないだろうし、メリカ王国出身で出自も明白なわけだから、裏切られる心配も薄いだろう。


 ただ、シュカに関しては、全身黒装束の恰好で顔も明かしていないため印象が悪いのか、周りに嫌われがちなのが問題だろう。

 特に、剣術の試合稽古が原因でジュリアやサシャには嫌われている。

 忠実で実力もある部下なだけに、そこが勿体ない。


 仲間内でも上手くやってほしいところだが、シュカもシュカでジュリアやサシャを仲間だとは認識していないふしがあるので、どうしようもない。

 それが(しのび)だと言われれば、俺から何か言えることはもうないが、出来ればもう少し社交性を持ってもらいたいところである。


 一方、ドリアンはまだ社交性はある方だが、あまり信用は出来ないと思っている。

 なぜなら、ガラライカの部下だったことが判明したからだ。

 口では俺の部下になると言ったものの、ドリアンの心の中ではガラライカのことを忘れられていないだろう。

 俺達の情報をガラライカに流されないためにも、ドリアンには注意するべきである。


 それに、ドリアンは俺にあまり忠誠を誓っているようには思えない。

 どちらかというと、サシャに忠誠を誓っているのではないかと思えるほど、サシャとつきっきりである。

 まあ、サシャに好意があるというのは伝わってくるのだが、どうにか俺に対しても忠誠を誓ってもらいたいところだ。

 今もサシャと楽しそうに談笑しているドリアンを見て、少しため息が漏れる。


 そして、次に注目するべき人物は、第一階級の者達だ。

 つまり、既に俺の部下であるシュカを除いた、ガラライカ・メイビス・エクスバーンの3名である。


 この中で、一番危険だと身をもって感じたのはガラライカである。

 近くで見ただけで、この人物は危険だと直感させられるほどの雰囲気がガラライカにはあった。

 おそらく、今の俺では勝てないだろう。


 そして、気になるのはガラライカの居場所だ。

 ガラライカは、ジャリーの居場所を知った今、メリカへ行くと言った。

 メリカ王国へ行って何をするのか気になるところである。


 とはいっても、ここからメリカ王国まで、馬に乗ってもおおよそ二ヶ月はかかる。

 まだすぐに何かが起きるということはないだろうが、ガラライカがメリカ王国に到着したら、何か大変なことが起きるに違いない。

 それが起きる前に、どうにかしてそのことをメリカ城にいるシリウスやジャリーに伝えたいところだ。


 メリカ城に伝えるといえば、気になっていることが一つある。

 フェラリアがイスナール川で見せた召喚術だ。

 確か彼女は、大きなインコの魔獣を召喚していた。

 そして、インコに自分の声を覚えさせて大学に飛ばし、連絡手段として使っていた。


 あのとき、フェラリアの家から大学まで、馬車に乗っても移動するのにおよそ十日はかかる距離だった。

 しかし、あのインコはその日のうちに大学にフェラリアの声を届け、ジェラルディアがすぐに転移鍵を使ってフェラリアの家までやって来た。

 つまり、馬で走って十日かかる距離を、あのインコはほんの数刻で声を届けたということになる。


 遠方の地に情報をすぐに届けることが出来るあのインコは何としても手に入れたいところだ。

 そのためには、あのインコの召喚方法をフェラリアから学ばなければならないだろう。

 魔法陣分析の授業に出ることは必須というわけだ。


 さて、次にメイビスについてだ。

 

 メイビスはとても優秀で尊敬出来る魔法陣研究者だ。

 特に、魔法陣分析の授業に初めて出席したときに見せてくれた、あの簡易型転移魔法陣には度肝を抜かれた。

 メイビスはあの小さな魔法陣を大量生産すると言っていたし、俺はその可能性を信じて、メイビスとはこれからも仲良くしていきたいところではある。


 ただ、一つ問題がある。

 メイビスから依頼された迷宮(ダンジョン)での吸魔石採掘の件だ。


 メイビスの信用を勝ち取るためにも、どうにか吸魔石を採掘したいところだが、前世でも体験してきた通り、迷宮(ダンジョン)に潜るのは危険である。

 モンスターが大量に潜み、奥まで潜れば帰るのさえ難しくなってくる迷宮(ダンジョン)で、わざわざ罠部屋に飛び込まなければならないのは危険すぎる。

 迷宮(ダンジョン)に行くためには、迷宮(ダンジョン)に行けるだけの戦力と、迷宮(ダンジョン)に詳しい人を見つけるのが必須だろう。


 戦力的には、やはりジャリーが抜けた穴が大きい。

 新たに部下としてドリアンやシュカという強力なメンバーが加わったものの、二人ともジャリーのように個の戦闘能力だけでなく全体を指揮する能力も兼ね備えている人はいない。


 特に、迷宮(ダンジョン)攻略には個の力だけではどうにもならない場面が確実にある。

 そのため、迷宮(ダンジョン)攻略には、俺達を指揮出来る上に迷宮(ダンジョン)攻略の知識が深い者を仲間にすることが必須だろう。

 迷宮(ダンジョン)知識が深い者が大学にいるか探してみよう。


 それから、厄介なのがエクスバーンである。


 俺は昨日、エクスバーンの子分になった。

 とはいっても、俺の意思に関係なく半強制のものだった。

 なぜなら、エクスバーンの方が力関係が上だからである。


 第一寮の大浴場でエクスバーンが見せた、水系統の上位魔術水龍(ウォータードラゴン)

 あれだけの魔術を呪文の詠唱無しで発動したエクスバーンは、ある意味で最強である。

 

 魔術師が戦闘をするとき、ネックになるのはやはり呪文の詠唱時間。

 詠唱中は隙だらけなので、魔術師と剣士が戦う際、短距離であれば剣士の方に分があるといえる。

 だが、あの詠唱無しでの魔術はその常識を覆している。


 短距離であっても、詠唱無しで魔術を放たれれば、剣士であっても負ける可能性が高い。

 そのため、今の俺ではエクスバーンと一対一で戦っても勝てる見込みはないだろう。

 そういう意味で、力関係がはっきりしているため、エクスバーンに子分になれと命令されれば、子分にならざるを得ないのである。


 エクスバーンの怖さは、その幼さにある。

 俺は、前世の記憶があるから五歳といえど頭は大人ではあるが、エクスバーンは見た目通り頭の方も幼いのである。

 そして、俺はその幼さが危険だと思っている。


 大人であれば、ある程度倫理観も身につき、やってはいけないことを分かるものなのだが、幼いエクスバーンはそれを理解していない。

 それなのに、エクスバーンは強大な力を持っているから厄介なのである。

 もし、エクスバーンを怒らせれば、下手したら殺されてしまうかもしれないという恐怖があるため、今はエクスバーンに従わなければならないということだ。


 とはいえ、エクスバーンの子分になるメリットもある。

 エクスバーンは魔王の息子だという話だから、エクスバーンと話すことで、現在の魔大陸事情を知ることが出来る可能性があるということだ。

 魔大陸事情を知るためにも、魔王が何人いるのか、魔族がどれほどの戦力を持っているのか、魔大陸はどういった土地なのか、などなど。

 どうにかして教えてもらいたいところではある。


 そのためにも、エクスバーンと仲良くなることは必須だろう。

 幸い、エクスバーンは歳の近い俺のことを気に入っているふしがある。

 これから子分として毎日エクスバーンの部屋に通うことで、エクスバーンの信用を勝ち取っていこうと思う。


 もし、エクスバーンが味方になってくれたら、俺達の戦力は大きく上がる。

 現在、俺の部下で魔術師なのはサシャだけだが、サシャが使える攻撃魔術は火射矢(ファイヤアロー)が限界だ。

 つまり、強力な攻撃魔術を使える仲間がいないのである。

 そのため、エクスバーンが俺の仲間になれば、戦力は大きく補強されるだろう。


 そして、最後にまだ正体をつかめていない第一階級の生徒がいる。

 スティッピンである。


 スティッピンは、光魔術と闇魔術を専門としているというのは聞いているが、現在は何かの研究のために消息を絶っているらしい。

 消息を絶っているのであれば、俺の方からどうにかしようが無いのだが、ここまで第一階級の者が全員物凄い能力を持っていると、スティッピンがどんな人物なのか気になってしまう。


 シュカの話では、入学式後に始まる新入生争奪戦のときにスティッピンは現れたという話。

 三週間後にある入学式後の新入生争奪戦のときには、シュカに言ってスティッピンを探させようと思う。

 そして、出来ることならば接触しようと思う。


 まだ、大学に入学してから一週間しか経っていないが、かなり濃い時間を過ごしていると思う。

 だが、色々なことが起こりすぎて、やや情報過多になっているような気もするので、ここらで整理するという意味も込めて当面の目標を設定しておこう。


 大学での当面の目標は以下の通りだ。


 ①ジェラルディアから剣術を学び、光速剣と気堅守を覚える。

 ②フェラリアに、巨大インコの召喚方法を教わり、メリカ王国にガラライカの存在を伝える。

 ③迷宮(ダンジョン)について調べ、迷宮(ダンジョン)攻略に長けている人物を探す。

 ④毎日エクスバーンの部屋に通い、エクスバーンと仲良くなる。

 ⑤新入生争奪戦のときにスティッピンを見つける。


 この五つを当面の目標にしようと思う。


「よし、出来た」


 一週間で得た情報の整理を完了し、やりきったように声をあげると。

 先ほどまでピグモンとイスナール語で会話の練習をしていたジュリアが、こちらの方にやって来て、俺の持つ羊皮紙を覗き見る。


「何を書いてたのよ」


 と、俺の羊皮紙に書かれたイスナール文字を興味深そうに見ているジュリア。

 ジュリアの背中に背負われているパンダのトラも、ジュリアの肩越しに俺の羊皮紙をチラリと見てくる。


「見れば分かるだろう?」


 俺が、少しからかうようにそう言うと、ジュリアは少しムッとしたような顔をする。


「まだ、イスナール文字は勉強していないから分からないわ!」


 と、腕を組みながら言うジュリア。


 だが、ここで俺はふと気づいた。

 今ジュリアが話している言葉はユードリヒア語ではない。

 イスナール語ではないか、と。


「ジュリア。

 随分、イスナール語上手くなったな。

 発音が凄い良くなってるじゃないか」


 片言のようには聞こえない、しっかりした発音でイスナール語を話すジュリアの言葉を聞いて、俺が素直に驚いてそう伝えると。

 ジュリアは、ドヤ顔で胸を張り、俺の方を見下ろした。


「ふん!

 当たり前よ!

 ピグモンと沢山練習したんだから!」


 すると、ピグモンがジュリアの後ろから説明するように口を挟む。


「アーマルド・アレック教授の授業がとても分かりやすくて、良かったんぶひよ。

 俺も、イスナール文字を結構覚えてきたぶひ」


 と、嬉しそうに言うピグモン。


 そうだったのか。

 確か、ジュリアとピグモンはイスナール語の授業に出席し始めてから、まだ四日ほどしか経っていないはずだが。

 そんなに即効性があるのだろうか。

 アーマルド教授の授業、是非一度出てみたいものだ。


 なんて、羊皮紙をナップサックにしまいながら考えていると。


 先ほどまでドリアンと会話をしていたサシャだったが、俺が羊皮紙を片付け始めたのを見て声をかける。


「エレイン様。

 今日のご予定は?」

「そうだな。

 いつも通り、午前は剣術、午後は魔法陣分析の授業に出席する。

 それから、魔法陣分析の授業が終わったら、第一寮に行ってエクスバーンに会おうと思っている」


 すると、サシャが少し顔をしかめた。


「エレイン様。

 あのエクスバーンという子は、エレイン様を子分にするなどと失礼なことを言っています。

 そんなこと絶対にあってはいけません。

 いくら、あの子の魔術が強力だといっても、エレイン様はもっと反発するべきだと思います。

 エレイン様は、メリカ王国の王子なんですよ?」


 と、俺に言うサシャ。


 まあ、サシャの気持ちも分からなくはない。

 メリカ王国の王子である俺を子分にするなどと言われて、俺に仕えてるサシャとしても気が気ではないのだろう。


「分かってるよ、サシャ。

 言っても、あれは子供の戯言だ。

 ああいうのは、話し半分に聞いておけばいいのさ」


 そう俺がサシャをなだめるように言うと。


「エレイン様も、まだ子供なんですけどね……」


 と、小声でサシャが言っていたが、俺は聞こえないふりをした。


「さて。

 今日も一日頑張ろう皆!」

 

 そう声をかけながら、俺は立ち上がる。


 こうして今日も、大学の授業が始まるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ