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転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第二章 少年期 大陸横断編
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第二十五話「城塞都市ドバーギン」

 旅を始めて十日ほどたった。


 ジャリーから紫闇刀の能力を聞いてから、色々試してみた。


 サシャにお願いして水球(ウォーターボール)を出してもらい、飛んでくる水球(ウォーターボール)を何度も紫闇刀で斬ったが、全てを吸収した。

 一体どれほどの魔力量を吸収できるのかは分からないが、少なくとも初級魔術である水球(ウォーターボール)を二、三十発程度であれば連続で吸収できると分かっただけでも収穫である。


 ジャリーの話では、魔力が限界まで溜まると刀身が紫色一色になり、強力な一太刀を放てるということだったが、サシャの初級魔術二、三十発程度ではまったく色は変わらなかった。

 強力な一太刀を放つのにどれほどの魔力が必要なのか分かったものではないが、できるだけ溜めておくに越したことはないだろう。


 それから、ジャリーに言われて試してみたが、自分の影に紫闇刀を刺してみたら、ジュリアとジャリーは影法師で俺の影に転移することができなくなった。

 おそらく影法師は、敵の影に魔力で干渉することにより発動することができる転移の術であるため、影に紫闇刀を刺しておけば魔力が吸収されて発動できなくなるのだろう。

 とはいえ、現在影剣流を使えるのは味方であるジャリーとジュリアだけというのだから、この情報はあまり必要ではないかもしれない。

 まあ、知識はなんでも増やしておいて損はないだろう。


 紫闇刀については、これからも研究していく必要があるが、今のところはこの程度で十分だ。

 刀にばかり執心していないで、旅のことに気を張ろう。


 現在、俺たちが乗る幌馬車は草原地帯を抜けた。

 あたりからは緑が消え、岩ばかりの岩石地帯となっている。


 気づくと、道を歩く人やすれ違う馬車が増えてきた。

 街でも近くにあるのだろうか?


 すると、御者台でサシャの隣に座っているジュリアが立ちあがった。

 そして、こちらを嬉しそうな顔で振り返る。


「ママ!

 エレイン!

 大きな門が見えるわよ!」


 声に反応して前を見る。

 馬車の三百メートルほど前方に、大きな石造りの城壁と巨大な城門が見える。

 

 都市だろうか?

 首都のタタンほどではないが、大きそうな都市である。

 城門から、たくさんの馬車が出入りしているのが見える。


「あれは、なんですか?」

「城塞都市ドバーギンだ。

 炭鉱が盛んで、小人族(ドワーフ)が多く住んでいる。

 ポルデクク大陸までの道で最後に通る都市だな」


 俺の知らなかった情報まで教えてくれるジャリー。

 ジャリーは旅中、通る村や街をそれぞれ解説してくれたりした。

 メリカ王国軍総隊長として、メリカ王国中の至る所に出兵したりしているため、バビロン大陸内の土地勘はかなりあるらしい。


「エレイン様!

 あの門の中に入りますか?」


 馬車を運転しながら後ろを向いて聞くサシャ。

 その額には汗が溜まっている。


 サシャもこの十日間ずっと運転してくれていた。

 疲労も溜まっているだろう。

 一日くらい、あの都市で休ませてあげた方がいいかもしれない。


「ああ、入ろう。

 今日はあの都市で一泊することにする。

 サシャ、城門まで頼む!」

「はい!」


 俺の声と同時に、サシャは手綱を取る。


 馬のヒヒンという鳴き声と共に、幌馬車は城塞都市ドバーギンへと向かうのだった。



ーーー



 城門では、サシャが衛兵の者に詰め寄られた。

 おそらく、ピンク色の髪が珍しいため、不審だと思われたのだろう。

 しかし、ジャリーが顔をだすと、衛兵の顔は青ざめ、すぐに通してもらえた。


 流石は、メリカ王国総隊長様だ。

 こんな辺境の都市でも顔は効いているのだろう。


 一応、俺は王子という身分を隠してポルデクク大陸へと向かっているので、ジャリーには衛兵に「極秘任務のため、私がここへ来たことは内密に頼む」と言ってもらった。

 本来であれば、王子である身分の俺がメリカ王国内の都市に赴いた時は、その都市の領主の者のところへ出向くべきなのだが、今回はそれが理由でパスだ。

 なにはともあれ、城塞都市ドバーギンへと入ることができたので一安心である。


 城門の中に入ると、圧巻だった。

 都市の雰囲気が、首都のタタンとは全然違う。


 まず、建物が違う。

 見た目は岩でできたゴツゴツした感じの建物が多い。

 タタンのときは、建物の形や色が整っている感じがしたが、ドバーギンの建物は形や色も整っている感じはない。

 統一感はないものの、それぞれの建物の造りは精巧に出来ているように感じた。

 岩の削り方や、組み方が凝っているように見える。


 人種もやや異なっていた。

 聞いていた通り、小人族(ドワーフ)が多い。

 俺やジュリアと身長が変わらない者たちが、通りをたくさん歩いているのだ。

 身長は変わらないのに、顔が異様に老けている者が何人もいる。

 さながら、小さなおじさんだ。


 そして、もう一つ気づいたことがある。

 なにやら、ピッケルを持っている小人族(ドワーフ)が多い。

 そういえば、ジャリーは炭鉱が盛んな都市だと言っていたから、都市内で炭鉱をしているのだろうか。

 と思ったところで、御者台のジュリアから歓声が聞こえた。


「すごい!

 大きな穴だわ!」


 ジュリアの歓声が気になって、ジュリアが見ている左手側に首を向ける。

 俺は目の前の光景を見て、驚愕した。


 目の前には、直径五百メートルくらいはありそうな巨大な大穴があった。

 ここからでは、最深部が見えないくらい深くまで掘られている。

 都市の中心に巨大な大穴があるといった異様な光景だった。


 よく見ると、大穴の端に縄梯子が掛けられているのが見える。

 縄梯子からピッケルを担ぎながら降りて行く小人族(ドワーフ)たち。


 なるほど。

 おそらく、この大穴の中で小人族(ドワーフ)たちは採掘活動をしているのだろう。

 これほどの大穴を作るくらいだし、たくさんの鉱石が採れるということか。


 俺が大穴に見とれていると、サシャが声をあげた。


「エレイン様!

 あそこに宿があります!

 今夜はあそこでいいですか?」


 サシャが指を指す方を見ると、二階建てで少し大きめの宿があった。

 宿の脇には、馬車を泊めるところもあるようだ。


「そうだな、あそこにしよう」

「分かりました!」


 幌馬車は、大穴を後目に宿屋へと向かうのだった。



ーーー



 宿の中は割と綺麗だった。

 生前、勇者時代は散々汚い宿に泊まらされたりしたので、それに比べれば全然マシである。

 宿代も、一人一泊メリカ銀貨二枚だというから安いものだ。


 ちなみに、メリカ銀貨というのは、メリカ王国内で流通している通貨だ。

 メリカ王国の通貨は、銅貨・大銅貨・銀貨・金貨・大金貨がある。

 全て銅貨換算で計算すると、

 

 ・銅貨(銅貨一枚分)

 ・大銅貨(銅貨五枚分)

 ・銀貨(銅貨十枚分)

 ・金貨(銅貨百枚分)

 ・大金貨(銅貨千枚分)

 

 である。


 今回の旅には、シリウスから大金貨五十枚分のお金を支給された。

 そのため、この世界での通貨の価値についてはまだあまり分かっていないが、メリカ銀貨二枚×四人で八枚程度の出費は余裕なのである。


 それに、メリカ王国の通貨はメリカ王国内でしか使えない。

 ユードリヒア帝国には、ユードリヒア通貨というものが流通している。

 これから行くポルデクク大陸の国々では、イスナール通貨という通貨が出回っているという。

 メリカ王国とユードリヒア帝国は通貨が違うのに、ポルデクク大陸の九カ国は通貨が共通しているあたり、国同士の信頼度の違いがうかがえる。


 ともかく、メリカ通貨はメリカ王国内でしか使えないのだから、メリカ王国内の領土で消費しておくに限るのだ。

 ポルデクク大陸に行ってこの通貨を出したら、バビロン大陸の者と疑われてしまうため、消費し切ってしまったほうがいいかもしれない。

 一番良いのは、メリカ通貨とイスナール通貨を交換してくれる業者を見つけることだが、そう上手くはいかないだろう。


 一応、城からポルデクク大陸でお金に困らないように、高く売れるであろう宝石類をいくつか持ってきている。

 ザノフから聞いた話だが、イスナール国際軍事大学には入学するのにイスナール金貨百枚程必要らしい。

 俺とサシャ二人分の入学費用でイスナール金貨二百枚かかるわけだが、持ってきた宝石類はいずれもメリカ王国内では大金貨何百枚相当の価値がある代物なので大丈夫だとは思っている。

 とはいえ、念のため持ってきたメリカ通貨をイスナール通貨にどこかで交換できればいいな、と思っているのが心情だ。


 と、入学費用について俺が考えている間に、サシャは宿のチェックインの手続きを済ませてこちらに戻ってきた。


「エレイン様。

 これから、どうしますか?」


 この質問は、「このまま宿に滞在するか、それとも外出しますか?」といった意味だろう。

 

 まだ、太陽は上り切っていない、昼前だ。

 昼食をとるなら、外出するべきだ。

 しかし、宿に貴重品などを置いて出るのは怖い。

 来たばかりのこの都市の治安がどれほどのものかは知らないが、物盗りくらいはいるだろう。


「昼食を食べたいから外食したいが、貴重品を残して外出するわけにもいかない。

 誰かここに残っててもらおうと思うがどうする?」


 と、全員に聞いてみる。


 すると、やはりジュリアは嫌そうな顔をした。

 先ほど見た大きな穴が忘れられないのだろう。

 冒険をしたいという気持ちが顔にでている。


 それから、ジャリーは無表情だが、俺が外出するとなるとジャリーを置いて行くわけにはいかないだろう。

 ジャリーは俺の護衛である。

 この旅中において、俺から離れるといったことはあってはならない。


 だとすると、やはりサシャか。

 もしかすると、サシャも置いていかれることに不満を言いそうなものだが。

 と思って、サシャをチラっと見てみると、何かを察した様子。


「そうですか。

 丁度、馬車の運転で疲れていましたので、私が宿で留守番をしてもよろしいでしょうか?」


 やはり、疲れていたか。

 ずっと座っているとはいっても、馬車の手綱を引いて道に沿って運転するのは大変だったろう。

 宿の中であれば、そうそう危険もないだろうし待っていてもらうか。


「分かった。

 じゃあ、俺たちは買い出しに行ってくるから、サシャは宿で休んでいてくれ。

 サシャの分の食べ物も何か買ってくるからな」

「はい、ありがとうございます、エレイン様!

 気を付けて行ってらっしゃいませ!」


 ニコリと返事をするサシャ。


 俺は頷いてから、ジャリーとジュリアを連れて外に出た。



ーーー



 昼時だからか、都市の市場は賑わっていた。

 通行人は人族と小人族(ドワーフ)でごったがえしている。

 市場には屋台が多く並んでおり、近づくと美味しそうな料理の匂いが鼻に入る。


「まずは食べ物よ!」


 お腹が空いているのか、ジュリアは屋台の方まで走って行ってしまった。


 すると、ジュリアに多くの通行人の視線が集まる。

 やはり、黒妖精族(ダークエルフ)は目立つのだろう。

 

 しかし、ジャリーに対しては、すれ違いざまに敬礼する者もいる。

 ジャリーの正体を知っている兵士だろう。

 これを見ると、流石メリカ王国の総隊長様だと思う。

 ジャリーは面倒くさそうな顔をしているが。


「エレイン!

 早く来なさい!

 美味しそうな食べ物があるわよ!」


 ジュリアの呼ぶ声が聞こえる。


「ジャリー。

 行きましょうか」

「……ああ」


 俺は、ナップサックから紙と羽ペンを取り出してジュリアを追った。

 ジャリーは俺のあとをついてくる。


 紙と羽ペンは城から持ってきたものだ。

 俺は旅中、事あるごとに紙にメモをとっている。

 得た情報を忘れないようにするためだ。


 今からメモする情報は、メリカ通貨の価値。

 どれくらいの通貨でどれほどの物が買えるのか分かれば、通貨の価値が分かるというものだ。


 そう思って、ジュリアの所に来ると、果物屋さんが目の前にあった。


「ジュリア、どれが食べたいの?」

「このリンゴが食べたいわ!」


 ジュリアは木箱一杯に入ったリンゴを指さす。


 いい機会だ。

 リンゴ一個の値段はどれくらいか、聞いてみよう。

 俺は屋台の店主の人族のおじさんに聞いてみる。


「おじさん。

 このリンゴ一個でおいくらですか?」

「ん?

 ああ、それなら一個メリカ銅貨二枚でいいぞ」


 なるほど。

 リンゴ一個メリカ銅貨二枚か。

 大体予想通りだ。

 宿代が一泊銀貨一枚なのを聞いてから、それくらいが相場だろうとは思っていた。


 俺は、このことを紙にメモする。

 すると、ジュリアは俺の紙をチラチラ見てくる。


「エレイン、何書いてるのよ!」

「りんごの値段を書いているんだよ」

「なんで、そんなの書くのよ!」

「お金の価値を知るためだよ」

「お金のかち……?」


 ジュリアは、あまり理解していないような顔をしていた。

 まあ、ジュリアに言っても分からないだろう。

 これの必要性は、自分で買い物を何度かしてみないと分からないものだ。


 気づけばジュリアは、俺が言ったことなどもう忘れたといった様子で、俺からもらったお金でリンゴを買って丸かじりしていた。

 まあ、ジュリアが満足ならそれでいい。

 俺は美味しそうにリンゴをかじるジュリアを後目に、屋台の商品のメモをとっていく。


 すると、背後から物音が聞こえた。



「ひいいいい!」



 気配を感じた先から男の悲鳴のような声が聞こえる。


 俺はその悲鳴に驚いて、後ろを振り返る。

 すると後ろには、ジャリーに頭を掴まれ、首筋に剣を突きたてられた小人族(ドワーフ)の男が泣きそうな顔で拘束されていた。


「お前、意図的にエレインに近づいたな。

 何をしようとした?」


 ジャリーは強烈な殺気が籠った視線で、男を見下ろす。



 この男は、誰だろうか。


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