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転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第四章 少年期 ジュリア救出編
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第百二十五話「未来視の力」

「イスナーーーーーール!!!!!

 ここでおまえを殺して、俺様が世界をとる!!!!!!!」


 イスナールを鬼の形相で睨みながら光の防壁の中に侵入してきたのは、ジュリアの身体を乗っ取った大魔王パラダイン。

 その後ろには、スティッピンとスティッピンの部下、それから倒れていたはずの黒妖精族(ダークエルフ)達も虚ろな目でこちらに向かって歩いている。


「まずいわ。

 黒妖精族(ダークエルフ)達は、幻惑魔術で操られてるね……」


 バリー寮長が額に汗を流しながら、こちらに進軍するパラダイン達を睨む。


 確かにバリー寮長が言う通り黒妖精族(ダークエルフ)達は操られていると見て間違いないだろう。

 俺達に虚ろな目を向けながらこちらに武器を構えている黒妖精族(ダークエルフ)達の姿は明らかに様子がおかしい。


 黒妖精族(ダークエルフ)達も敵だと考えるとこちらはかなり不利だ。

 単純に数だけ考えても、こちらは俺とイスナールとサシャとイスナールに治療してもらったばかりのエクスバーン・ラミノラ・バリー寮長、それからトラも入れて7人なのに対して、むこうは7人の黒妖精族(ダークエルフ)が加わったことで軽く10人は超えている数的不利な状況である。

 そのうえ、強力な手刀と影法師を使えるパラダインと第一階級のスティッピンが相手にいるとなると状況はかなり悪い。 


「おい、パラダイン!!

 よくもやってくれたな!!!

 今度こそお前に魔術を当てるぞ!!!」


 パラダイン達の様子を見ながらどう動くか考えていたら、後ろからそんな叫び声が聞こえてきた。

 横目でチラリと後方を見ると、そこにはすでに地面に手を置いて魔術を放つ体制が整えた状態のエクスバーンがパラダインを睨んでいた。


 パラダインの手刀で胸に穴が空いたときは明らかに死んでいたのに今これだけ元気なことには驚かされるが、それよりもエクスバーンが戦線に復帰したことに注目するべきだ。

 ここでエクスバーンが蜘蛛と戦ったときに見せた部屋を覆ってしまうほどの大魔術を放てば、この状況でも勝機は見える。


「闇をも照らす光輝の化身……。

 爛々と輝く、光の精霊よ……。

 光を放て……。

 光で惑わせ……。

 我に光の力を貸し、かの者の意識を奪え……。

 奪心光(スチールライト)……」


 エクスバーンが魔術を放とうとしたそのとき、前方から詠唱が聞こえたと同時に視界が真っ白になった。


 ドサリ。


 視界が真っ白で見えないが、後方で何かが地に落ちるような音が聞こえた。

 そして、段々と光が薄れ視界が広がってくる。


「すまない。

 咄嗟のことでそなたらのことしか守れなかった」


 目を開くと、両手を広げたイスナールが光の壁で俺達を守っていた。

 イスナールが作る光の壁は、サラの祝福で出来た光の壁とは違い、厚く光に満ちた壁となっている。

 どうやらこの壁が俺達のことを守ってくれたらしい。


 ではなぜイスナールは謝っているのか。

 そう思って周りを見回すと、後ろには原っぱの上に倒れたエクスバーンとラミノラがいた。


「また、あの壁で防がれましたか……。

 まあそれでも、エクスバーンさんを戦闘不能にできただけでも良好ですね……」


 ボソリと呟いたのはパラダインの隣にいる白黒の魔装を着て片手に本を持ったスティッピン。

 やはりあの光魔術はスティッピンの魔術だったようだ。


 すると、パラダインがスティッピンを見る。


「スティッピン。

 その魔術を使うのはもうやめろ、目障りだ。

 残りは俺様が殺す。

 お前は、そこの部下と操り人形ども(・・・・・・)を使ってイスナールの周りにいるガキ共の相手でもしてろ」


 少し苛立った様子のパラダインがスティッピンを一睨みしながら言う。

 すると、ただちにスティッピンはパラダインに手を胸に当てながら頭を下げる。


「御意に……」


 パラダインはスティッピンが頭を下げていることなどに全く見向きもしない。

 イスナールを真っすぐ見ながら手刀を構えた。


「いくぞおおおおおおおお!」


 パラダインは吠える様に叫びながら走り出した。

 そのパラダインの動きはジュリアの動きとは全く異なり、目にもとまらぬ恐ろしいスピードでこちらに駆け寄ってきている。


「あなたたちもパラダイン様をサポートしてください……。

 殺すつもりでいってくださいね……」


 パラダインが走り出すと同時に顔を上げたスティッピンが、ボソボソと部下達に指示を出す。

 そして、指示を聞いた白黒の魔装を着たスティッピンの部下達と虚ろな目をした黒妖精族(ダークエルフ)達が、パラダインを追いかける様に走り出した。


 まずい。

 頼みの綱のエクスバーンもスティッピンの魔術によって再び倒されてしまった。

 今のこの状況でパラダイン達の攻撃を防ぐ方法があるのだろうか。

 どうしたらいいのか分からない。


 俺は自然とイスナールの方に視線を送った。

 この絶体絶命の状況をどうにかできる可能性を感じるのは、やはり神とまで称されるイスナールのみだろう。

 そう考えて目線を送ったのだが、図らずもイスナールと目があった。


「エレイン。

 私は力を使いすぎた。

 じきに私の精神はサラの身体から消えることになるだろう。

 この左手の刀剣の魔力も無くなってきているからな。

 その前にそなたに力を授けよう。

 この力と手に持つ不死殺しでパラダインを殺せ」


 イスナールの声や立ち姿は凛としているが、確かにイスナールの左手に刺さる紫闇刀の光が薄くなっている。

 おそらく、エクスバーンやバリー寮長に対して行った蘇生術のために紫闇刀の魔力を多く消費したのだろう。

 となると、紫闇刀に貯まっている魔力を媒介に現世に召喚されていたイスナールも、紫闇刀の魔力を失えば現世に存在できなくなりサラの身体から精神が消えるということか。


「……力?」


 俺はイスナールの後半の言葉に首をかしげた。

 一体この状況で俺に何の力を与えてくれるというのだろうか。

 すると、イスナールは俺の顔に右手の平を向けた。


「エレイン。

 お前に私の未来視の力を少しだけ授ける。

 あとは頼んだぞ。

 パラダインを必ず殺せ」


 イスナールは言いながら右手をこちらに差し出し、右手の平から光が放出された。

 そして、俺の目に向かって一直線に光がやってくる。


「うわあ!!!」


 光が俺の目に当たった。

 同時に俺の目に熱い感覚が走り、思わず叫んでしまう。

 両目を手で抑えるが、目の熱さが取れない。


「イスナールさん!!!

 一体何をしたんですか!?」


 俺が目を抑えながらイスナールの方を向いて叫ぶと。


 ドサリ。


 イスナールは急にフラっと倒れた。

 原っぱの上に倒れてた老婆の身体から光は消え、先ほどまでの異様な雰囲気は消えていた。

 昏睡したように目をつむっている老婆を見て俺は思考を進める。


 まさか、イスナールの精神がサラの身体から消えたのか?

 力を渡すと言っていたが一体……。


「エレイン様!

 敵が近くまで来てます!!」


 目の痛みにこらえながらサラをじっと見下ろしていると、後ろからサシャの掛け声が聞こえてきた。

 その掛け声にはっとしてイスナールが張った光の壁の外を見ると、すでに先頭を走るパラダインがすぐそばまで来ていた。


「どうした、イスナール!!

 俺様に恐れをなして逃げたのか!?

 お前がいないなら、あとはそこのガキどもを殺すだけだな!!

 今すぐその壁を破壊してやる!!!」


 手刀を作ったパラダインは、物凄いスピードでこちらに向かって走ってきている。

 あの勢いでイスナールが作った光の壁に突っ込まれたら、パラダインの言う通り、壁を破壊されてしまうかもしれない。


 イスナールが消えてしまい、サラも昏睡している今、光の壁を作り直す手段もない。

 状況は悪くなる一方だ。


 この最悪な状況に歯噛みしながら、俺は迫りくるパラダインを睨みつけた。


「……え?」


 パラダインを目視した瞬間、俺は異変に気付いた。

 そして、これがイスナールがくれた力なのだとすぐに気づいた。

 気づいた俺はすぐにバリー寮長の方を向いた。


「バリー寮長!

 パラダインは俺に任せてください!

 スティッピンの部下達に関しては任せます!」

 

 壁の中で構えを取っていた臨戦態勢のバリー寮長が、俺の提案を聞いて眉を潜める。


「大魔王と一対一で戦うつもりかい?

 分が悪そうだけどねぇ。

 イスナール様から力はもらえたのかい?」


 バリー寮長の言葉に俺は大きくうなずいた。


「今の俺には未来が見えます。

 この力と不死殺しでパラダインを俺が殺します」


 バリー寮長を見上げながらそう言うと、バリー寮長は二ヤリと笑った。


「流石は全知全能のイスナール様だね。

 それなら大魔王はエレインに任せるよ。

 必ず、ジュリアを取り戻すんだよ!!」

 

 バリー寮長はそう言うと、次はサシャの方を振り返る。


「サシャ!

 あんたは私の後ろにつきな!

 エレインのサポートをするために、スティッピンの部下と黒妖精族(ダークエルフ)をあたしらで追い払うよ!

 あんたは、その風の魔剣を振り回しているだけでいい!」

「は、はい!!」


 バリー寮長の指示を聞いて、バリー寮長の後ろに駆け寄るサシャ。

 これで戦闘準備は整った。

 いよいよ開戦だ。


「はぁぁぁぁぁ!!!!」


 すると、手刀を作ったパラダインが物凄い勢いで俺達の目の前にある、イスナールが残した光の防御壁に向かって手刀を伸ばしてきた。


 パリンッッッッ!!!!


 今日何度聞いたか分からないほど聞いたその音。

 光の壁が割れる絶望的な音が鳴った。


「ふはは!!

 イスナールの壁ですら、この身体なら破壊できるわ!

 黒妖精族(ダークエルフ)の身体は幼子でも身体が頑丈でよいな!」


 イスナールの光の壁を壊して得意げなパラダイン。

 身体が頑丈とは言っているが、ジュリアの手からはたくさん血が流れている。

 パラダインがジュリアの身体に見合っていないオーバーワークをしていることは明らかである。

 

 俺はそれを見て怒りが湧いた。

 それと同時に、不死殺しを握りしめてパラダインの元へと駆ける。


「ふん。

 また、お前か。

 その刀剣は厄介だが。

 ガキの剣術に俺様が負けるはずもない」


 走り寄る俺を見ても余裕そうな表情をしたパラダインは、すぐにその姿を消した。

 影法師である。

 

 だが、俺は数秒前からパラダインが姿を消すことを知っていた。

 俺の目にそう映ったのである。

 

 数秒後の世界が見える、といえばいいだろうか。

 目で見えるだけでなく、俺がどう行動すれば相手がどう行動するかも直感的に分かる。

 これがイスナールがくれた未来視のようだ。


 そして、この未来視によると。

 次にパラダインが現れる場所は俺の背後である。

 俺は後ろを見ずに、脇越しに不死殺しを背後に放つ。


「ぐはぁぁぁぁ!!!」


 俺の背後で大きな叫び声が聞こえてきた。

 ゆっくりと振り返ると、そこには俺が持つ不死殺しに右脚を刺されたパラダインが立っていた。

 

「お、お前……なん……で」


 俺の不意をついたつもりで使った影法師がいとも簡単に破られ動揺している様子のパラダイン。

 俺はそんなパラダインを冷酷に見下ろす。


「ジュリアの身体を返せ」


 パラダインの右脚に刺さる不死殺しをグリグリと回しながら言うと。


「ぐあああああああああああああああああ!!

 やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 絶叫するパラダイン。

 相当効いているようだ。

 これが不死殺しの効果といったところか。


 しばらく不死殺しをグリグリしながら絶叫するパラダインを観察していると。

 パラダインはこちらを睨みあげる。


「はあ……はあ…はあ…………。

 許さん……許さん……。

 お前は……俺様が殺す……」


 右脚を抑えながら、俺のことを憎悪するように睨むパラダイン。

 そして、パラダインは俺の顔を見ながら二ヤリと笑った。


「……影剣流奥義『暗影』」


 その言葉を口にした瞬間。

 パラダインは姿を消した。


最近忙しくて更新遅いです。。。

お仕事したり、音楽したり、配信したり、新作書きたかったりもして、大変です( ;∀;)

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