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転生王子の情報戦略  作者: エモアフロ
第四章 少年期 ジュリア救出編
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第百五話「迷宮探索」

「一旦、止まりな」


 巨大樹の入口に入ってすぐのところで、バリー寮長が俺達にそう指示を出した。

 その指示に従って、俺達は隊列を崩さないようにしながら立ち止まる。


「サシャ。

 魔力は大丈夫かい?」

「まだ全然余裕です!」


 バリー寮長の質問に素早く返事をするサシャ。

 そんなサシャを厳しい目線で見つめるバリー寮長。


「本当かい?

 ここからは、薄暗くて視界が悪いからね。

 光が出せなくなったらすぐに言うんだよ。

 あんたの魔力が切れたら、朝までは迷宮(ダンジョン)攻略はストップだ。

 木の中で松明を焚くわけにもいかないしね」


 そう忠告するバリー寮長と、忠告を聞いて真剣な面持ちでコクコクと頷くサシャ。


 バリー寮長が言っていることはもっともである。

 入口付近はまだ明るいが、奥の方は暗すぎて何も見えない。

 確かに、この密閉空間の中で松明を焚くのは危険だし、サシャの光が無いと先を進むのは危険すぎる。


 この巨大樹の迷宮(ダンジョン)はどうやら巨大樹の中をくり抜くようにして出来ているらしい。

 いくつか木の壁に小さな穴があるため外からの光は入ってくるようだが、今は真夜中なので月の光がかすかに入ってくるだけである。

 

 天井は外から見た巨大樹ほど高くはない。

 外から見ると巨大な木なのに中はこうなっているということは、多層構造になっているのだろうか?

 そもそも、ジュリアは地下にいるのか上にいるのかも分からない。

 まずは、この迷宮(ダンジョン)の構造を知ることが先決か。


 すると、バリー寮長がこちらを見て口を開いた。


「準備はいいかい?

 ここからは罠がある可能性が高いから、周りに注意するんだよ」


 バリー寮長のその言葉により、俺達の緊張が高まる。


 いよいよ迷宮(ダンジョン)探索である。

 俺も勇み足で前へ進むのだった。



ーーー



 しばらく迷宮(ダンジョン)内を歩いているが、モンスターはまだ出てきていない。

 地面は草花が生い茂っていて、まるで草原。

 壁は木で囲まれていて、迷宮(ダンジョン)内は迷路のような構造になっている。


 先ほどから、この迷路のような道を足早に進むバリー寮長。

 ときたま止まり、屈んで地面を見たり壁を見たりしているが、何か確信があって道を進んでいる様子である。


「次はこっちに行くよ」


 そう言ってバリー寮長は左右に別れた道の右の方を選択した。

 こういうとき、俺だったら左の法則で左の道を選択してしまいそうなものだが。

 なぜ、バリー寮長は迷わずに右の道を選択できたのだろうか。


 そう思いながらも、俺達はバリー寮長について行く。

 正直、俺はもう来た道を真っすぐ戻れる自信が無い。

 バリー寮長は元S級冒険者でこういうことには慣れているだろうし、ここはバリー寮長に任せようという考えだ。


 すると、急にバリー寮長がピタリと止まった。


「あったよ。

 どうやら、上に行けるみたいだね」


 バリー寮長がそう言うので前方を見ると。

 そこには、木ので出来た小さな螺旋階段があった。

 上の天井に穴が空いていて、螺旋階段を上れば上の階層に移動できそうだ。


「どうして、ここまで迷わずにこれたんですか……?」


 俺は、あまりに簡単に上の階層に繋がる階層を見つけたバリー寮長に驚きを隠せない。

 素直に疑問をバリー寮長にぶつけると。


「先に入った黒妖精族(ダークエルフ)達の痕跡があったからね。

 それを追っただけだよ。

 モンスターが一匹も出ないのも、あいつらが倒したからだろうね。

 今頃あいつらは、あたしたちより上の層にいると思うよ」


 さも当然かのように説明するバリー寮長。


 確かに、ときたまバリー寮長は止まって床や壁なんかをチェックしていた。

 しかし、黒妖精族(ダークエルフ)が移動した痕跡なんてあっただろうか?

 あったとしても、よく見ないと気づかないレベルの微細な痕跡だろう。

 それをあんなに手際よく短時間で見つけた上で正しい道を進むとは。

 流石としかいいようがない。


「じゃあ、上に行くよ。

 引き続き、警戒を怠らないように」


 俺達は一層身を引き締めながら木で出来た螺旋階段を上る。



ーーー



 二階層を歩き始めると、すぐにピクリと何かに反応したバリー寮長が動きを止める。


「どうやら、ここから別れて動いてるみたいだね」


 地面の草花を見ながらそう呟くバリー寮長。

 俺達も同様にして草花を見ると、確かに踏まれた痕跡が残っており、それがいくつかの方向に別れている。

 つまり、十人ほどいた黒妖精族(ダークエルフ)達は何個かのグループに分けて移動を始めたということだろう。


「じゃあ、どうするぶひ?」


 ピグモンがバリー寮長に聞く。


「こうなると、どの道が正解だか分からないからねえ。

 手あたり次第行ってマッピングするしかないよ」


 ぶっきらぼうに答えるバリー寮長。


 バリー寮長がそう言うのであれば、それ以外方法は無いのだろう。

 それならば、どの道から探索しようか。

 そう考えながら周りを見渡していると。


「~・~・~・~・~・~・~・~・~・~!!!!」


 突然、遠くから叫び声が聞こえた。

 いまの叫び声は明らかに人の声だった。

 どうやら、誰かが近くにいるらしい。


「あちらから聞こえました!」


 サシャが隊列の右手側の先を指さす。

 そこには通路と思われる小さな穴がある。


「どうしますか?」


 一先ずバリー寮長に判断を仰ぐと。

 少し考える素振りをするバリー寮長。


「今の悲鳴は、間違いなく妖精語だった。

 おそらく、さっき巨大樹に入って行った黒妖精族(ダークエルフ)達だろう。

 悲鳴が聞こえたということは、強いモンスターに遭遇したか罠にかかったか。

 おそらく、どちらかだろうね。

 助けに行くのは危険だしジュリアを助ける時間のロスになるだろうけど、どうするかい?」


 そこまで説明して俺に振るバリー寮長。


「助けに行きましょう」


 俺は即答した。

 決してジュリアのことを忘れたわけではない。

 

 現在、この巨大樹の中には黒妖精族(ダークエルフ)が十人ほど入っている。

 黒妖精族(ダークエルフ)というのは相当強い種族だというのは聞いている。

 もし、仲間になってもらえれば、連携してジュリアを救出出来るため助ける価値はある。


 それに、ジュリアがもしかしたら悲鳴が聞こえた方向にいる可能性だってある。

 そもそも手当たり次第動いてマッピングするしかないとバリー寮長が言っていたし、あちらの方向に行ってもいいだろう。


 元勇者であった俺の正義の心が黒妖精族(ダークエルフ)を助けたいと思っているのもある。

 生前は俺も迷宮(ダンジョン)で何度もモンスターや罠に絶望したものなので、迷宮(ダンジョン)で困っている人を見たら助けたいと思ってしまう(さが)なのである。


 そんな俺の感情をくみ取ったのかどうかは知らないが、バリー寮長は俺の言葉を聞いてフッと微笑する。


「じゃあ、悲鳴が聞こえた方に行くよ。

 隊列を崩さないように、周りをよく注意しながら移動するんだよ。

 出来るだけ足音はたてないように」


 バリーの号令に俺達はコクリと頷く。

 そして、俺達は足音をたてないように気を付けながら、右手の通路へと向かうのだった。



ーーー



 通路に入ると、急に地面の草花の色合いが派手になる。

 赤白黄青のような色とりどりの大きな花が一面に咲いていて、逆に不気味である。

 明らかに雰囲気が変わっているためか、バリー寮長の足取りも慎重だ。

 

 俺達はその花々を踏みながら先へ進むと。

 大きな空間が目の前に広がった。


 そこにあったのは大きな花畑だった。

 広い部屋の中には、色とりどりの大きな花がたくさん咲いている。

 

 迷宮(ダンジョン)の中にこんな綺麗な空間があるのか、と一瞬感歎していると。

 バリー寮長が後列の俺達に向かってハンドサインで「止まれ」の合図をする。

 明らかに警戒をしているバリー寮長を見て、花畑に見惚れていた俺も身を引き締める。


 よく見ると、部屋の中央に倒れている人影が見えた。

 大人の黒妖精族(ダークエルフ)が花畑の上に三人ほど倒れているのが見える。

 こんなに綺麗な花畑の上で黒妖精族(ダークエルフ)が倒れているというのは異様な光景である。

 それに気づいたバリー寮長や俺は黙って観察していると。


「あ!

 あそこに黒妖精族(ダークエルフ)が倒れてるじゃねえか!

 早く助けに行かないとだ!

 おーい!

 大丈夫かー!」


 後ろからそう叫ぶドリアンの声が聞こえた。

 俺は、目前の黒妖精族(ダークエルフ)に注視していたこともあり反応が遅れる。


「ドリアンくん!」


 すぐにサシャの叫び声が聞こえた。

 俺もサシャの声に反応するようにドリアンの方を見ると。

 既にドリアンは部屋の中の花畑に一人で足を踏み入れていた。


「ドリアン!

 一人で勝手に進むんじゃないよ!

 戻ってきな!」


 花畑を一人で突き進むドリアンを見て、急いで戻るように指示を出すバリー寮長。

 しかし、バリー寮長の言葉を聞いてもドリアンは止まらない。


「なんでだよ!

 目の前に倒れてる人がいるなら助けるべきだろう!」


 そう叫びながら、どんどん中央の黒妖精族(ダークエルフ)の元まで突き進むドリアン。


 確かに、ドリアンの言うことはもっともだ。

 目の前に倒れている人がいれば助けるべきだろう。

 しかし、もしこれが罠だったとしたらどうだろうか?


 俺も最初はこの花畑を綺麗だと思ったものだが、冷静になって考えてみれば怪しさ満点である。

 先ほどまでは小さな草花が多少咲いているだけの草原だったにも関わらず、この部屋だけこんなに大きな花が咲いているというのは普通ではない。

 まるで、誰かを誘っているかのような綺麗な花々である。


 それに、もしただの花畑だとしたら、あそこで黒妖精族(ダークエルフ)が三人も倒れているのはおかしい。

 彼らは、同族のジュリアを助けに来た戦士である。

 まさか、迷宮(ダンジョン)で花畑を見つけたからといって、そのうえで居眠りをしようなどとは絶対に思わないだろう。


 だとすれば、なぜ黒妖精族(ダークエルフ)はあそこで倒れているのだろうか。

 そう考えると、余計にこの花畑は怪しい。

 何かしらの罠だと考えられる可能性がある以上、不用意に足を踏み入れるのは危険だろう。

 そう思ってドリアンを止めたのだが、ドリアンに止まる気はないらしい。


 すると、もうそろそろ中央の黒妖精族(ダークエルフ)の元に辿りつくというとき。

 急にドリアンが声をあげた。


「うがああ!」


 その声は、明らかに悲鳴だった。


「ドリアン!?」

「ドリアンくん!?」


 俺やサシャがドリアンに呼びかけても反応はない。

 ドリアンは、その場で立ちながらプルプルと小刻みに震えだし、急にパタリと身体を倒したのだった。


 それを見てバリー寮長は目を細めた。


「あそこに、何かいるね……」


 バリー寮長の言葉を聞いて、俺もドリアンと黒妖精族(ダークエルフ)達がいる方をよく見ると。

 何やら、花畑の花々がカサカサと揺れるように蠢いているのが分かる。

 

 そして、次の瞬間。

 ドリアンはスーッと何かに引っ張られるかのようにして中央の黒妖精族(ダークエルフ)の隣に倒れた。


 まるで幽霊にでも引っ張られたかのように勝手に移動したドリアンを見て、俺達が唖然としていると。


「まさか、あれが幻影の花(ファントムフラワー)かい?」


 バリー寮長は驚愕の表情でそう呟いた。


幻影の花(ファントムフラワー)?」


 聞いたこともない言葉に、俺が聞き返すと。

 バリー寮長は額に汗を流しながらもコクリと頷いた。


「あたしも文献で読んだことがあるだけだから分からないけどね。

 特徴が幻影の花(ファントムフラワー)というモンスターに酷似しているよ。

 でも、あのモンスターがなぜこんなところに……」


 妙に引っかかる言い方をするバリー寮長。

 その表情に焦りが見えるだけに、余計に気になってしまう。


「その幻影の花(ファントムフラワー)というモンスターは、本来こんなところに生息していないんですか?」


 再びバリー寮長の呟きについて俺が聞くと。


「ああ。

 そもそも、あの幻影の花(ファントムフラワー)は絶滅したはずなんだよ。

 なんたって、大昔パラダイン・ディマスタという大魔王が魔大陸で育てていたと言われるモンスターなんだからね」


 バリー寮長は、額に汗をこぼしながらそう呟いた。


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