ずるいずるいとあまり双子の妹が言うので、ならずるいというのならあなたと私の立場を取り換えてみない? と提案してみました。王太子殿下の婚約者なんてとうれしそうにしてたんですけどねぇ。
「ずるいですわ。お姉さまばかりずるいですわ!」
「なら取り替えてみない?」
「え?」
「私たちは双子ですし、見かけはよく似てますからばれませんわ」
いつも双子の妹にずるいずるいといわれてきたのですが、王太子殿下との婚約が決まり、ずるい攻撃が増しました。うっとうしくなって私はこう提案してみたのです。
「……どうして」
「だから、双子だから私とお姉さまを間違ったのですわとかいうのなら取り替えてみましょう」
実際、甘やかされ放題のこの妹、私が姉というだけでお姉ちゃんだから許してあげてと親に言われて辟易していたのです。
ここで自分の立場を思い知らせてやるのもいいかと思ったのですわ。
「ぜひ喜んで!」
「はいなら、あなたがこれからアイリス・エルグランド。私がアクア・エルグランドですわ」
着替えて着替えて、と私が言うと服を脱ぎだす妹。
見た目はそっくりなので、まあ短期間なら大丈夫でしょう。
「王宮に帰るのはあなた、私は実家に残るわ」
「はーい」
るんるんで出かける支度をする妹、でも妹を見たお母さまが何かあっと叫ぶのを私が慌てて口をふさぎ、弟のローリイが変な顔で私たちを見ています。
お父様だけがまた帰ってくるんだよとかなんとか声をかけていますわ。
「ではまたお姉さま~」
私がひらひらと手を振ると、お母さまがあなたたちなにをしているの! と怒鳴りました。
あはははは、さすがにばれてますか。
「どうした、ユーリ」
「あなた、あなた、アイリス、あなた今出て行ったのはアクアですわよ! 何を考えて!」
私はしいっとお母さまにいってにやりと笑いました。取り換えっこですわと……お母さまがああといって倒れ……お父様が医者だ医者だと叫びます。
ごめんなさい……でも思い知らせる方法はこれしか思い浮かばなかったのですわ。
「ああ、気楽ですわ」
おいしいお菓子を食べて、ごろごろして、本を読んで、お母さまに怒られて……。
令嬢のお勉強なんて軽い軽い、妹にされているものはね。そしてローリイが遊んで~というのをかまう。
こんな日々天国ですわ。
ローリイはアイリスおねえちゃまと甘えてきます。
やはり騙せませんか、お父様はがみがみと私たちに怒りましたが、まあうん……。ある人から頼まれ黙りました。
「お姉さま、もう嫌ですわ!」
「あらまだ1週間なのに」
バンと部屋の扉が開いて、そこから妹が顔を出しました。げっそりやせ細っています。
顔色も青白いですわあ。
「どうしてどうしてどうして、あんな!」
「うーん、あれが日課ですが」
「毎日毎日毎日、侍女がうるさいし、妃教育とやらで宿題とか勉強とか! それに王太子殿下は馬で遠乗りとか、剣のけいこの相手をしろとか、そして……」
いつもそれが日課のルーティンですわ。朝はやくたたき起こされ、妃教育、昼から殿下との交流ですけど、剣のけいこと遠乗り、夕方からは……。
「王妃様の愚痴を夕方から夜遅くまで聞かされて」
「ええそれもありますわね」
私が言うと、もう夜も眠る時間がないですとクマができた顔でいいます。
それからドレスをまくり上げ、生傷だらけになった肌を見せました。
「これ、遠慮なしに殿下が!」
「あなた馬に乗れませんし、剣も使えませんしね、でもほんものじゃ」
「木でできた剣といえどもたたかれたら痛いですわ!」
「まあそうでしょうねえ」
「馬から落ちたら痛いし、それに毎日毎日……」
妹がうわーんと大声で泣き叫びます。私は平気でしたが、やはりだめですか。
取り換えます? と聞くといやですうと泣きます。
というか天国でしたわあ。跡取りでもない令嬢って楽ですわ。
私がああ王宮に戻らないとというと、ぜひ行ってくださいと言われましたわ。
「……ただいま、殿下~」
「お帰りアイリス、どうだった?」
「もうだめっていってましたわ、あの子」
「少しきつくやりすぎたかなあ」
「あれでちょうどいいくらいですわ」
殿下が剣のけいこにつきあってくれとニヤッと笑います。
私は殿下にわかりましたわと笑いかけました。
初日に、殿下は一目見て妹とわかり、館に馬で来て私に何でだと聞いてきたのですわ。
そして私のたくらみを聞いて、それにのってくれました。
うん、お気楽な立場の妹がこれに耐えられるわけがないとわかりましたし、うんうん、まあお灸をすえられてよかったですわ。
「もう少し木剣で叩いてあげたらよかったかな、君、妹の我儘で割を食ったようだし」
「まあ、しばらくは懲りたでしょう」
私は木剣を持ち、さあ行きましょうと殿下に笑いかけました。
長女っていうのは次女より大変ですし、次期王太子妃というのも大変ですのよ。あなたは我が儘が理由で婚約者に婚約破棄された気分屋さんですけどねぇ。私はため息をついたのでした。あれからあの子寝込んでるそいですわ。これくらいで大げさですわ。
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