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第6話 死闘

「ヤバイっす。ドラゴンっす」


「運が悪いな。隠れる場所がない」


「どれくらい強いんだアイツ?」


 ゴブリン達はひどく慌てているし、俺も外見からいかにも強そうだとは分かるが、正確な所は知らない。


「どれ位って、竜種は最強の種族っすよ」


 先程まで軽い調子で話していたゴブリンの若者が悲鳴じみた声を上げる。


「第4階梯の特級魔術でも倒せないか?」


「分かんないっすよ。そんな雲の上の次元の話」


 話している内に俺達の下へドラゴンが舞い降りてくる。


「「「ぎゃぁぁぁ」」」


「くぅぅぅ」


 その翼から放たれる風圧だけで、ゴブリン達は吹き飛び、俺も耐えられずに体勢を崩す。


「Gooo」


「ぎゃぁぁぁ、助けて」


 一度咆哮した後、ドラゴンは1名のゴブリンを咥え上げる。


「な、畜生」


 そのゴブリンを救出するためにドラゴンに攻撃することにする。手を前に突き出し、魔術を放つ。


「弱い魔術は無意味。『トルネード・ジャベリン』」


 風の第4階梯、特級魔術『トルネード・ジャベリン』。現状、俺がが使える中で一番速い特級魔術である。


 手を中心に、大きな竜巻の槍が形成され、その槍がドラゴンの首に直撃する。


「やった」


「当たった」


 喜びの声を上げるゴブリン達。しかし、その表情はすぐに絶望へ変わる。


「へ?」


「嘘だろ?」


「ありえない」


 竜巻の槍が消えた後、直撃したはずの龍の首は傷1つ無い緑色の鱗によって覆われていた。


「Goo」


 低く鳴いたドラゴンは咥えていたゴブリンを空中へ放り投げると大きく口を開けて落ちてくるのを待つ。ゴブリンを丸呑みにするつもりだ。


「畜生。くらえ」


 当然そんなことをさせるわけにはいかない。俺は咄嗟に右腕に風の魔術をまとわせ、振り抜いた。


 右腕の動きに合わせて発生した鎌風は竜の舌に直撃し、その衝撃で、竜は口を閉じる。


「ぐべっ」


 放り投げられていたゴブリンは竜の顔にぶつかると、その首と背中の上を転がって、地面に落ちる。


「Goo」


 低く唸って俺を睨みつけてくるドラゴン。奴は口から風の衝撃波を吐き出した。


「あっぶね」


 『飛翔』で上空へ逃げるが、ドラゴンも俺を追って飛び上がる。空の上で俺とドラゴンの命を賭けた鬼ごっこが始まってしまう。


「畜生」


 悪態をつくが、当然それでは状況は好転しない。時折衝撃波を放ちながら俺を丸呑みにしようと口を開けて追いかけるドラゴンの飛行速度は俺よりも速い。それに対して此方は小回りが効くことを武器に何とか逃げようとするが、徐々に追い込まれつつあるのが現状だ。

 更に言えば速度以外にも問題は有る。俺は『飛翔』以外にも『身体硬化』と『身体強化』を掛けていたが、そんなものはお構いなしとばかりに、ドラゴンが吐く衝撃波は余波だけで、皮膚に裂傷を起こし、ドラゴンの体などが掠ろうものなら骨が折れた。


「(このままじゃ死ぬな。どうするか。)」


 ドラゴンの様子を確認するが、以前追跡の勢いが衰える様子はない。


「(何とかしないと、こんな所で死んでたまるか。ん?)」


 起死回生の手を考えながら辺りを見回していると、目にあるものが飛び込んできた。


「アイツ、なんで舌に傷が有るんだ?」


 傷口と舌事態の色に変化がないので気づきにくかったが、よくよく観察するとドラゴンの舌の側面に小さな傷が有ることが見て取れる。しかしなんで舌に傷?自分で噛んだ?いや、まさかさっきの鎌風のダメージ?


 思い返せば、ドラゴンの傷の場所は、先程俺が咄嗟に鎌風を当てた場所であった。

 普通に考えて、第4階梯の特級魔術を受けて無傷だった奴に第2階梯の下級魔術が効くはずない。でも人間だって皮膚より舌の方が弱い。ましてやアイツは外皮は鱗に覆われているが、口内には鱗がない。試してみる価値は有る。俺は1つの覚悟を決めることにした。


「体内からなら攻撃が通じる。そう仮定して一回わざと飲み込まれるしかないか」


 外れていれば間違いなく命は無いが、どうせこのままでもジリ貧だった。


「胃袋の中から最大級の魔術をぶつけてやる。狙うは心臓」


 決断したなら即行動。『鉄魔術』で砂鉄をかき集め、『鋳造』して防御膜を作る。心もとないが少しでも消化に耐えられるようにと俺なりに考えての防護膜だ。


「よし、腹くくるぞ。行け。」


 ドラゴンが大きく口を開けているのを確認した後、逆走。自分からドラゴンの口の中に飛び込んだ。


「「「ああぁぁ」」」


 どうやら俺が喰われたと思ったようだ。ゴブリン達の悲鳴が響き渡る。


 さて、ドラゴンの腹の中に入ったわけだが、即座に6つの魔術を同時に展開する。2つは自分の身を消化液から守る為の『身体強化』と『身体硬化』。

 そして後の4つはドラゴンを打ち倒すための魔術。周囲の鉄を槍状にして無数に飛ばす、鉄属性第2階梯の中級魔術『アイアン・ジャベリン』とその槍に付与した物体の貫通力を上乗せする風属性第3階梯の下級魔術『貫通』更に物体の速度を速める風属性第3階梯の下級魔術『加速』。

 極めつけが、通常金属に擬似的に上位魔性金属アダマンタイトの性質を与える。鉄属性第4階梯の特級魔術『アダマン・エンチェント』


「狙いは真上、心臓。異常な貫通力を持った高速で飛来するアダマンタイトの槍、鱗の無い胃壁で受けれるものなら受けていろよオオトカゲ」


「食らえぇぇぇ」


 気合の咆哮と共に発射された無数の槍は、ドラゴンの胃に大穴を開け、更に上の器官へ、そのまま肺と心臓を破壊し、肉を貫通し、骨と鱗に当たって停止する。


ーーーーー


 一方ゴブリン達は異常な光景を目の当たりにしていた。


 何とかドラゴンに食らいついていた希が喰われ、もうお終いだと思った瞬間、ドラゴンが1度痙攣したかと思うと、口から濁流の様に肉片混じりの血を吐き出し、地面に落下したのだ。

 地面に倒れ伏したドラゴンは更に2、3度痙攣すると、動かなくなった。


「いったい何が起きた?」


「あ、彼処見るっす」


 1人のゴブリンの若者が吐瀉物の中から希が這い出してくるのを見つける。


「そうか。勝ったのか」


「マジですごいっすね。ドラゴンスレイヤーの誕生に立ち会えるなんて早々ないっすよ」


 ゴブリン達は荷物の中から毛皮を取り出し、何枚にも重ねた後、その上に希を寝かせた。


「本当にすごいな。しかしどうやって勝ったんだ?普通勝てる相手ではない」


 初日から集団を仕切っているゴブリンの若者が希に問いかける。


 ドラゴンは魔物の中で最強の種族だ。稀に上位進化個体や特殊進化個体のネームドでドラゴンを上回る強さを得る者はいるが、コンスタントに生まれる種族の中で、ドラゴン達竜種を超える者は1種類も無い。

 通常、無属性の雑竜でも第6階梯の魔術師か、それに匹敵する戦力を持った軍勢を用意しなくては倒せない。

 ましてや、今回希が倒したのは下位属性竜の『ウィンドドラゴン』である。いくら2つの属性を持つとは言え、両方共第4階梯の希に太刀打ちできるものではない。更にあの絶命の仕方は異常だった。彼は希が何をやったのか興味を持っていた。


「ああそれは、」


ーーーーー


 どう答えようか少し迷ったが、自分が考えた仮定と、腹の中で使った魔術をゴブリン達にそのまま説明することにする。俺が説明する間ゴブリン達は目を見開いて驚いていた。


「確証もないまま食われに行ったのか?胃が鱗と同じ硬さなら死んでいたぞ」


 俺の話を聞いて青ざめるゴブリン達。


「まあそうだけど、あのまま続けてたらどうせ死んだからな。一か八かの掛けに出たんだ」


 あっけらかんとした口調で言って笑うと、リーダー格のゴブリンが苦笑する。


「ふ、底抜けの阿呆か、大物か?」


「ん?どうした?」


「希。お前はたった今竜種を倒してドラゴンスレイヤーとなった。だからその戦利品を受け取るべきだ」


 そう言うと、ゴブリンの若者は開きっぱなしになっている口からドラゴンの死体の体内に入ると、しばらくして大きな緑色に輝く石を抱えるようにして持ってくる。


「これだ」


 目の前にドスンと置かれた緑の石を下ろす。


「何だこれ?」


 本気で何か分からず首を傾げることしか出来ない。


「『ウィンドドラゴン』の魔石だ。特級の属性魔石。風の属性魔石だから緑色に輝いている。これを使えばこの中に内包されている分だけ魔力が回復するのはもちろん、魔力の総量が1割増加する上に風魔術の適性が1階梯分上がる」


「そんな便利なもんが有るのかよ」


 正直魔力はスッカラカンだ。早速試してみることにしよう。魔石に手を置き、内部の魔力が自分に流れ込むように念じる。


「成功したようだな」


 程なくして魔石は灰色になって崩れ落ち、替わりに俺の中にはドラゴンとの戦闘で使い切った魔力が回復する。以前よりも量が多く、溢れ出しそうだ。


「なるほど、魔力が全快した上に量が増している。風の階梯も1個上がったのなら」


 呟くと同時に魔術を行使する。水属性第3階梯の上級魔術『キュア』


「おお、治ってく」


 『キュア』の効果を持った水に包まれた俺の体からは裂傷が消え、骨折していた骨も繋がる。


「確か1人大怪我したよな。アイツも直してやらないと。どこにいるんだ?」


「ああ、こっちっすよ。案内します。しかし希さんすごいっすね。水属性まで持ってたんですか?」


「ああ、それは違う。俺が持ってるのは風と鉄だけだ」


 魔術の属性は12種あり、それが4つずつ3つの階層に別れている。


 火,水,風,土で第1階層


 鉄,氷,雷,木で第2階層


 光,闇,力,生命で第3階層


「で各属性の配置図がこれだ。」


 俺は地面に正方形を45度傾けた図を描くと、上の角に水、下の角に火、右の角に風、左の角に土の魔術記号を書く。


「反対の物同士は打ち消し合う。で、自分の属性の隣りにある属性は2階梯下の状態で使えるんだ。つまり、風が第5階梯なら火と水も第3階梯で使える」


 更に水の隣に氷と闇,火の隣に鉄と光,風の隣に雷と力,土の隣に木と生命の記号を書く。


「第2層と第3層の配置も今書いた位置だ。つまり第2層では氷が水の位置、鉄が火の位置、雷が風の位置、木が土の位置に来る。」


「希さんは鉄の第4階梯も持ってるから雷と木も使えるんっすか?」


「第2階梯相当だけどな


 そう言った後、怪我人を治しに行こうとしていたことを思い出し、「あっ」と声を上げる。


「話してる場合じゃない。早く行かないと」


「ああ、そうでした。案内します」


 俺はゴブリンの若者に連れられて、急ぎ怪我人の下へ向かった。



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