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第4話 魔術

 この世界には魔術という物が有る。魔物はもちろん、人間にも魔術を使える者は数多く存在する。そして魔術は強力な武器となりうる。魔術で敵を攻撃するも良し。自身の肉体を強化するも良し、千差万別の使い方が有った。

 俺は玄吾を探し出して捉えるため、そして何より、魔物や猛獣から身を守るため、ゴブリンの村長からこの魔術を教えてもらうことにした。


「まず魔術とは己の体内のマナを消費して使います。上級者になると空気中のマナを集めて使うことも可能らしいですが、私は出来ません。まずは此処までが基礎の基礎ですが、大丈夫ですか?」


「ああ、一応は。でも、1つ質問が有るんだけど?」


「何でしょうか?」


「マナは皆持ってるのか?」


 村長の説明を聞く中で1番気になったのが此処である。日本では体内に『マナ』などと言うエネルギーが有るなど聞いたこともない。自分の中にマナが有るのか不安である。


「我ら魔物は全てマナを持っていますが、貴方方人間は全員ではありません。5人に1人です。しかしご安心ください。希殿にはマナがあります。私が感知しておりますので間違いありません」


 言い切る村長。しかし感知しているか?


「マナを感知?そんなこと出来るのか?」


「ええ、これは実力とは関係なく長く魔術を使ってきた者程容易に行えます」


 村長は自信を持って俺の中にもマナが有ると断言した。


「さて、説明を続けます。マナを消費して魔術を使いますが、マナだけでは魔術は使えません。マナを流す魔術回路が体内に備わっている必要があります」


 村長の説明は続く。


「この魔術回路があなたに備わっているかどうかは分かりません。調べる必要があります」


「大丈夫かそれ。もし備わってなかったら」


 一気に不安が押し寄せる。もし魔術回路がなければ魔術が使えず、俺はこの魔物が跋扈する世界で無防備となる。


「まあ、魔術回路が備わっている確率は人間の方が我らゴブリンよりずっと高く、マナ持ち2人に1人ですからな。そう不安がることもないかと。それに、極論すれば要は猛獣や魔物に対抗できれば良いわけで、無かった場合の方法も考えておりますので」


 そう言って村長は杖を構えた。


「今から1つ魔術を貴方に掛けます。害は無いものなので安心してください」


 村長の杖から淡い光が出て、俺の体に吸い込まれる。


 しばらく変化がなかったが、徐々に胸の奥が熱くなってくる。もっと正確に言うと、心臓付近に熱を感じ始めた。


「村長今の魔術は?」


「マナ感知の魔術です。本来は自分に掛けて、他人がマナを持つかどうか調べる為のものですが、マナを持っているがまだ自身のマナを感じ取れていない者に掛けることで、手っ取り早く自身のマナに気づかせることが出来ます」


「この熱いのがマナ?」


 既に結構熱いが、更に温度が上昇しているような気がする。このままだと拙くないだろうか?


「そうですな。胸の内、心の臓付近に熱を感じるでしょう。それがマナです」


 会話している間も心臓はどんどん熱くなり、息苦しくなってくる。本格的に拙い。


「村長。すごい熱い。苦しいんだけど?」


「そこまでですか?相当マナ量が多いのですな」


 俺の言葉に驚いた表情を見せる村長。マナの量が熱の様に感じられる魔法では有るが、通常は少し暖かい程度で終わるのだそうだ。俺のマナはよっぽど多いのだろう。


「とにかく、熱いと錯覚しているだけで、本来マナに熱が有るわけではありませんので体に害はありません。落ち着いてその熱が水の様に全身に流れるイメージをしてください。ゆっくりと深呼吸をして」


 村長が若干焦りながら指示を出し、俺は村長に言われるままに胸の奥に有る熱が体中を流れるイメージをする。もっともイメージは水ではなく血管を流れる血液だが。


 しばらくすると村長の言う通り、胸の内の熱は全身に広がり、息苦しさは大分マシになった。


「おお、無事にマナが流れましたな。魔術回路がある証拠です」


「それは良いけど、全身が熱いんだけど」


「ああ、すぐに魔術を解きましょう。もうこの魔術が無くても自分自身のマナを感じられるでしょうから」


 村長がもう1度杖を振ると体中に感じていた熱が嘘のように消えた。しかし、替わりに何とも言えない力の流れのようなものを全身に感じる。


「これがマナか?」


「ええ、そうです」


 村長は大きく頷くと説明を続ける。


「ココからが少し厄介でして」


「厄介?」


「ええ、魔術師の適正には12種類の属性と6段階の階梯があります。私は炎属性の第1階梯なので、大したことは教えられません。そこで、これです」


 村長は洞窟の奥から1冊の古びた本を持ってきた。表紙に踊っている文字は地球の国のどの文字とも違い当然ながら読むことが出来ない。


「何かの本か?」


「はい。魔術の指南書の様なものです」


「これを読んで、魔術を覚えろってことか?さっぱり読めないんだが?」


 試しに本を開いてみるが、表紙と同じく意味不明な文字が踊っているだけである。


「それは解っています。そこで希殿には今から1つ魔術を覚えていただきます」


「魔術?どんな?」


「『解読』と呼ばれる魔術です。翻訳の文章版ですな。書かれている文章が頭の中で自分の知っている言語で綴られた文章に置き換わるのです」


 そんな便利な魔術が有るのか?『翻訳』といい『解読』といい、便利な魔術が多い。この世界の人間は相当快適だろう。少なくとも語学に悩まされることはない。とは言え…


「村長に掛けて貰うわけにはいかないの?」


 さっき村長は俺に使って貰うと言ったが、まだ魔術について何も知らない。村長に掛けてもらった方が良いような気がする。


「無属性とは言え上級魔術に当たりますので私にはとても扱えず」


 村長は申し訳無さそうに言う。


「いきなり上級魔術使えってか」


 一方、そんな村長の言葉に、俺は思わず大きな声を出してしまった。『翻訳』の魔術のおかげで言葉の意味が理解できる様になっているので、上級とは文字通り幾つかの魔術の中で上位に位置するもののはずである。間違っても初心者にやらせる類のものではないと思う。


「ああ、上級魔術と言う言葉で難しい物と誤解したかも知れませんが、特にやり方は難しくありません。大量のマナが必要なので私には無理なのであって方法は簡単です」


 言い終わるとすぐに、村長は地面に杖で2つの記号を書く。


「この2文字を最初にマナがあった場所、心臓辺りですかね。そこで描くイメージをしてください」


「描く?」


 言っている意味が今ひとつ分からず、俺はオウム返しに繰り返した。


「心臓の辺りに有るマナをこの形にするイメージです。イメージしたらマナはその通りに動きます」


 言っていることは未だに判らない事が多かったが、要はイメージすればその通りにマナが動くと考えて、目を閉じて言われた通りのイメージをする。


「イメージできたら次は、全身を流れているマナがその文字に流れ込むイメージをして、全身のマナを残さず流し込んだら次に、その文字を胸から外に思いっ切り飛び出させるイメージで」


 言っている事が抽象的すぎて分かりづらいが、なんとか自分でイメージしやすくしようと思い、青い血液の様なものが胸の辺りで記号を作り出し、そこに全身を流れる青い血液が流入するイメージをする。


「後は、これを出す」


 思わず呟きながら、胸の内に作った記号を外に出すイメージをする。


「おお。成功ですな。それも青貴色とは」


 村長の声を聴き、目を開ける。


「これが俺の魔術?」


 俺の目の前には煌々と輝く青い光の塊が浮いていた。


「そうです。その光を自分に当ててください。それで貴方にその魔術が掛かります」


「どうすれば動くんだ?」


「念じてください。結局魔術はイメージが半分以上です」


 村長に言われた通り、自分にぶつかるように念ずると、青い光は動き、急に俺に打つかってきて消えた。


「それで『解読』の魔術が掛かったはずです。どうぞ」


 村長が差し出してくる本を手に取る。表紙は相変わらず意味不明な文字。だが、その文字を見た瞬間対応する日本語が俺の頭の中に浮かんできた。『魔術学 基礎入門・著:ウィリアム・ロワード・フォン・アルフォロス』


「なるほど。これが『解読』か」


「ええ。これで魔術が学べるでしょう」


「そうだな」


 とりあえず、全て読めるのか確認するためにペラペラと本をめくり、一分を読んでいく。


「まずは自分の属性と階梯を知らないとな。魔石がアレばすぐ解るけど、無いよな?」


「そうですな。魔物の体内には必ず魔石がありますので、我々の中にもありますが、流石に死ぬのは嫌ですから」


 村長が冗談めかして言う。


「此処まで教えてもらってそんなことしないよ」


 村長のジョークに苦笑してしまう。


「とりあえず、地道に調べるしか無いかな?」


「そうですな」


 俺の言葉に、村長が首肯して同意を示す。


「此処じゃ拙いから外に出て試すな。危ないから他のゴブリンにも近づかないように言ってくれ」


「判りました」


 俺は本を片手に持ち、魔術が練習しやすい場所を求めて洞窟を出た。




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