第1話「背中合わせの一人。」
今回のは、全て手元に完成原稿があります。
毎日0時更新です。
彼女は空を部屋の窓を通して見上げていた。
「・・・・」
「真霜?何してるの?」
肩までかかるくらいの髪の毛をいじりながら"ナヅハ"は"琴ノ葉 真霜"に声をかける。
「え?あぁ。今日は空が青いなぁ、って思っただけ。」
「いつも青いでしょうに、、、。そんなことより早く準備した方がいいわよ?」
ナヅハに言われて、真霜は部屋の壁に掛けてある少しファンシーなデザインの時計を見る。
「わっ!結構な時間じゃん!」
真霜は慌てて鞄を持って部屋を飛び出した。
「朝ごはんは食べた方がいいわよ?11時くらいになれば眠気が襲ってくるわ。」
「それは分かってるんだけど、少しでも多く寝たいんだよね。私ロングスリーパー気味でしょ?普通の人より疲れやすいし。」
通学路を歩きながら真霜は目をこすり、少し不満げに言った。
「あら、私のせいだと言いたいわけ?」
ナヅハはむっとした様子で真霜に尋ねる。
「そうは言わないけどさ、、。」
「真霜?何"ひとり"でぶつぶつ言ってんの?」
「わっ!?」
真霜の友人である"雛橋 愛華"が急に真霜の横から声をかけたのだ。
「お、おはよ、、。びっくりしたぁ~。」
真霜は跳ね上がりそうな心臓を苦笑いしながら抑えて、そう返した。
「うん、おはよ。真霜っていっつもひとりごと言ってるよね?癖?」
「え、え?そう、、かな?」
「学校でもちょいちょい話しかけても気づかないし、悩みごとでもあるの?」
心配そうな顔で愛華は真霜の顔を覗き込んだが、真霜は彼女の目と合わせにくかった。
「大丈夫だよ、ありがとう。」
真霜はなんとか笑顔で言った。
ナヅハはこの光景を何度見ただろうか。ナヅハと会話している真霜を第3者は"ひとりごと"の多い人間だと認識する。
「ほかの人には見えない、聞こえないっていうのはやっぱり不便ね、、。」
ナヅハは真霜には聞こえない様に呟いた。
ナヅハは"真霜の頭の中だけ"にいる存在である。
いつから彼女が真霜の中にいたのかは真霜自身も記憶が曖昧であり、ナヅハ自身も語ろうとはしない。
ナヅハはところ構わず話しかけることは少ないのだが、外で会話自体することは多く、不意に他人に話しかけられると真霜は何テンポか遅れて反応せざるを得なくなってしまう。
そんなことがままあるのだが、真霜は不満な感情は一切抱いていなかった。
恐らく、どこか抜けている自覚がある真霜にとって、自分を律してくれることが多いナヅハには助けられていると感じているのだろう。
「え、賢哉くんと約束したの?じゃあ愛華、来週勝負じゃん、、!」
「まぁ、勝負だけどさ、何その言い方~!」
笑いながら通学路を歩いていく真霜をナヅハは静かに見守っていた。
この手の、所謂イマジナリーフレンドにはいろいろな種類がいる。
真霜のように"いつからか出会っていた存在"ということもあれば、
"自分で理想像を考えて、対話シミュレーションを繰り返し出来た存在"というタイプもある。
後者は孤独感の解消を目的として行われることが多いが、理由は様々であり、作る事に成功した場合は賑やかな生活が待っていたりするという。
だが、イマジナリーフレンドは人間の未解明領域である脳の深層を引き出してしまう危険性を孕んでいる。
自分のコントロールを離れると、性格に依るところが大きいのだが、脳内の子は本人にところ構わず話しかけたりすることもあり、本人が外界への注意が散漫になったりする。
また、現実逃避、精神の拠り所として創造されることもあり、自分に都合のいい事ばかり言わせるようにした結果、その子に完全に依存してしまったり、脳内の子が本人の意識を乗っ取ったりして、解離性同一性障害になる危険もある。
しかし、ナヅハはそれとは一線を画す、異質な存在だった。
真霜の中にしかいない以上、真霜が持っている知識以上の事は出てこないし、真霜が見ていること以上の何かが見える訳でもない。
だから真霜にとって、ナヅハは"高度に別人格化されたもう一人の自分"という認識が強かった。
考える時は道筋を一緒に考え、違う人格としての意見をひねり出す事を無意識の内に繰り返した結果、まるで自分の中には無かったことが彼女から出てきたような錯覚を覚えることが出来るほどだった。
ナヅハがぼーっとしている間に真霜達は彼女たちの通う高校に到着していた。
「じゃあね真霜!」
愛華はクラスの違う真霜と別れ、階段を登って行った。
「はぁ~~~。寿命が縮むかと思ったよ。」
声を出さずに真霜は頭の声でナヅハに言った。
「確かに今日は急だったわね、、。」
ナヅハも苦笑いをしている。
「いっそナヅハの事言った方が楽なのかなぁ?」
「よしなさいな、精神病院に連絡されるのがオチよ。」
手をひらひらさせてナヅハはあきれたように言う。
「それ自分で言うの?」
真霜はナヅハの言葉が可笑しくて、笑って言った。
「あら?そこはしっかり自己認知出来ている方が優秀だと思わない?」
「それは、そうかも?あはは」
そんな会話をしながらクラスに入り、真霜は自分の席に着いた。
「おっはよう!真霜!」
大きな声で、笑顔で声を掛けてくれたのは真霜の友人の中でも特に仲の良い"沙羅木場 奏"だった。
「うん、おはよ!奏。」
かなり気の置けない友人ではあるが、ナヅハの事はまだ言えずにいる。
高校に入学して既に半年以上が経っていた。
「真霜昨日のライブ見たでしょ?」
奏は動画サイトの人気配信者の大ファンで配信をかかさずチェックしており、趣味の少ない真霜にとっては珍しいが、真霜もファンの一人だった。
「うん、昨日はボケがやけに強かったじゃん?だからずっと笑っちゃった~。」
「だよね!私も夜中なのに笑いっぱなしだった!」
奏はこの話になるとこの上なく生き生きとするため、真霜も元気がもらえるような気持ちになっていた。
「あぁ、そういえば、」
奏は思い出したように話題を変える。
「今日女の子が転校してくるんだって。」
「そうなの?こんな時期に?」
入学式はとっくに終わり、梅雨にいよいよ突入するという時期だった為に真霜は少し不思議がった。
「あ、噂をすれば影だね。じゃあ、あとで。」
クラス担任のやけにやかましい足音が聞こえて、奏は席に戻った。
「転校生ね、、。あなたには余り関係はなさそうね。」
ナヅハは悪戯っぽい笑みで言った。
「なんと失礼な、、。私にはコミュニケーション力が不足しているから話しかけないでしょうから、関係が無いですって?」
「いや、そこまでは言ってないわよ。被害妄想が過ぎるわ、、。」
教室の扉が開いて、ガタイのいい担任教諭と、それとは対照的な女子の真霜から見ても小柄で華奢な女の子が入ってきた。
それまで喋っていたクラスの男子もぞろぞろと自分の席に戻り、いつもより静かになった。
「おし!今日も休みはいないな!結構結構!さて何人かは知っていると思うが転校生だ、じゃあ。」
担任は転校生に自己紹介を促し、担任を一瞥した少女はクラスに声を響かせた。
「はじめまして、綾紫野 椥叉と言います。よろしくお願いします。」
小さく冷ややかな声でそう言い、開いている席、真霜の前の席に向かっていき座った。
余りに簡単な自己紹介、かつ壁を作っているような雰囲気にクラスの皆は椥叉を見つめていたが。
「、、なんで、、?嘘でしょ、、?」
真霜とナヅハは唖然として椥叉を見つめていた。
特に真霜は頭の中のナヅハと椥叉を交互に見ていた。
何故なら、、、
「どうしてナヅハと綾紫野さんがそっくりなの、、!?」




