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新・仮面舞踏会  作者: 千同寺万里
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新たな刺激を求めて

これは遥か昔、ヨーロッパにあった王国「アスガロ」で起こった、数奇な運命を辿る三人の物語である。


アスガロは産業が盛んな国で気候も良く、非常に栄えた国であった。貴族たちは朝はゆっくり起き、昼はお茶を嗜み、夜には晩餐会を開いた。その様子を表すには「豪華絢爛」という言葉が丁度いい。そんな素敵な日々であっても、その内に飽きてきてしまったのだった。

集い好きのビルヌ公爵は、近いうち自らの宮殿に貴族達を招き、晩餐会を開こうと考えていた。

この日、書斎で貴族たちの名簿と睨みあいながら、ビルヌ公爵は独り言を呟いていた。

「晩餐会も今宵で何度目だろうか。流石に話すこともなくなったし、メンバーも変わらない。いくら貴族が沢山いるからといっても、たかが知れている。もっと刺激はないかね」

頭にペンを当ててグリグリと押し付け、溜息をつくと召使いを呼んだ。

「おい、クリス!ちょっと来たまえ」

扉の前でいつも待機していたクリスは

「失礼します」

といって部屋へと入ってきた。

「どうかなさいましたか、公爵」

「晩餐会に舞踏会。何度行っても刺激が足らん。それはわしだけではなく、貴族中のやつらが考えていることだ。何人の貴族を呼んだって、会話をするのは結局同じ人たち。下の位の者は上の者に頭を下げて、上の者は上の者で偉く見せようと気が休まらない。何のためにやってるのか全く分からない。何かいいイベントはないものかね」

クリスは頭を傾げた。

「すみません、あまりそのようなことに知識がありませんので、公爵のお気に召す答えは出せないかと……」

「まあ、わしも最初から期待などしてない。試しに呼んだだけだ」

「申し訳ございません」

「ふーむ、しかし困ったな」

そう言ってしばし考えた後、何かを思い付いたように手を叩いた。

「そういえば、他の国の貴族はどうしておられるのだろう。隣のアルバット王国はどうだ」

「お言葉ですが公爵、あちらは近年治安が悪くなっており、貴族もそれどころではないかと」

「そ、そうだな……ならばノードン王国はどうだ」

「ああ、確かにあちらなら余裕もございましょう。何かやっているかも知れません」

「よし、ならば(すべ)はひとつだ」

公爵は引き出しから書簡を取り出すと、綺麗な模様の羽ペンでスラスラと文字を書いた。それを封筒に入れて蝋で封をすると、召使いに手渡した。

「クリスよ、今すぐこれをノードン王国の伯爵に渡すのだ。顔見知りだからな。きっとすぐに返事をくれるだろう」

「かしこまりました。至急使者を出します」

クリスは受け取った封筒を外交官の使者に渡し、翌朝に出発させた。


三日後、ついに返信を持って外交官が帰ってきた。クリスは急いでそれをビルヌ公爵の元へ持っていった。

「おう、クリス。待ちわびていたぞ。早速その手紙を読ませてくれ」

「はい」

ビルヌ公爵は受け取った封筒をビリビリと破き、中から手紙を取り出した。


アスガロ王国ビルヌ公爵へ

この度は沢山の果物をありがとうございました。家族で美味しく食べました。近い内、そちらへ遊び  に行きたいものです。

さて、手紙に書いてあった件ですが、ちょうど私の国でも流行っていることがあります。それは仮面  舞踏会です。これはどこぞかの国から伝わってきたものです。内容は通常の舞踏会とあまり変わりま  せんが、大きな違いは皆が仮面を被っているのです。ですから、その人の素顔も素性も分かりません。つまり、身分の高低に関わらずやりとりができます。同性同士にしろ、異性同士にしろ、関わりあう時には一体それが何者か分からない。この刺激というものは何とも言えない。うちの国では貴族のみならず、国王陛下も楽しみにしているとか。是非とも一度、そちらの国でもやってみてはいかがでしょうか。


追伸

昨年は私の庭でブドウが沢山採れました。果物のお礼に、そのぶどうから造ったワインを数本送ります。ご賞味ください。

ノードン王国伯爵



これを読んだビルヌ公爵は跳んで喜んだ。

「なるほど、その手があったか。いや面白いこと間違いない。よし、こうなったら早速手回しだ」

ビルヌ公爵の指示の元、舞踏会の実行係たちは動かされた。町にあるそこらじゅうの仮面職人達に大量に仮面を発注した。職人は目を丸くさせた。

「こ、こんな量を!?何でまたこんなことに」

「公爵閣下の指令だ。必ずやりなさい。対価は払う」

「は、はあ。もちろんやってはみますが……」

と、今までにない注文に不安があるばかりであった。

次に貴族達へ通達をした。貴族とは言っても、その人数は非常に多い。舞踏会を行う時は、王国にある2階建ての広間を用いるが、貴族達を呼べばそこそこの圧迫感を感じてしまうほどである。そして、その貴族の中にも身分の差がある。ちなみに公爵は中でも高い地位にいる。

その膨大な数の通達の製作と配達は公爵の召使達に託された。公爵の指令ともあれば、召使達は慎重に作業を行った。一人ひとり名前を確認して、人数を数えて、一字一句間違えないように。しかしそれも最初のうちだけ。段々と単純な作業に嫌気がさしてきた彼らは、手を抜き始め、しまいには流れ作業のように仕事を進めていくのだった。


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