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青い正義   作者: 門左衛門
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二章2

          二章

           2


 ターゲットを観察するというのはなかなかにしんどいもので、対象がおばあさんであるのなら尚更である。


 桜庭をマークしてからこの三日間、彼女は決まった時間に起きて、大体同じ時間に買い物に行き、それ以外は施設にこもりきりなのだ。それは俺も同じで、一色の用意した窮屈な車にほとんど一日こもっているのである。話相手もおらず、一色にも「動きがあるまで連絡するな」なんて言われてしまい精神的に参ってしまいそうだった。


 今日も同じように車に引きこもることになるのだろうと思い、自宅から漫画や小説をこれでもかともちこんできた。

 

 車内でパラパラとページを軽くめくっていると、視界の端に動くものがあるのに気がついた。慌てて本を閉じ、助手席の双眼鏡を手に取り覗きこむ。スーツを着た三十代程の男性が、施設へ向かっていく様子が見てとれた。


 急いで別のポイントに待機している一色に電話する。コールしている間にスーツの男は施設に消えていった。


「何か動きがあったのか?」


 いつの間にか一色に繋がっていた。


「ええ。たった今スーツの男が施設に入っていきました」

「わかった。今すぐお前のところに向かう」


 早口で言い終えたかと思うと同時に通話が終わる。少し散らかった車内を綺麗に整頓しつつ、一色を待った。


 五分もしないうちに窓を指でコンコンと叩く音がして、車のロックを外す。直後、一色が運転席の扉を開けながら言った。


「降りろ。今からあいつを追跡するぞ」


 言っている意味がよく分からなかった。追うのなら俺が車を降りる必要はないのではないか。表情にでてしまっていたのだろか。一色はそんな俺の顔をみて、


「こんな住宅地で歩きの人間一人を車で追いかけるつもりか?」

「あっ、そういうことですか」


 言われてやっと理解する。俺に歩いてあいつを追えと言うことらしい。車内で待つのにも飽き飽きしていたところなので丁度よかった。


「私が電話で指示を出すからイヤホンで聞いてろ。お前から私に話しかけるのは基本的には無しだ。電話していることにも気づかれるなよ」


「了解です」


 イヤホンを携帯に接続しながら言う。車を降りて足早にポイントへ向かう。あの男が何かを握っていて欲しいという淡い期待と共に尾行の緊張感が高まっていた。


 指定されたポイントは施設からおよそ三十メートル程離れた自販機の横だった。丁度施設からは死角になっているので、スーツの男に視認されることはないが、こちらも男の動向を探ることはできない。しかし、そこは車内で待機している一色に任せてひたすら指示を待つ。平日の昼間でもあるせいか、人通りも少なく、辺りにはあの小さな公園で遊んでいる子供と母親と思われる人物がいるだけであった。


 車から降りておよそ一時間ほどが経って、お気に入りのアルバムを聞き終えそうになっていたころ、曲に割り込んでコールがイヤホンから聞こえてきた。


「出てきたぞ。スーツの男だ」


 何も答えずに指示を待つ。


「今から追え。もう私からは見えなくなる。しくじるなよ」


 小声で「うす」と呟き、男を追う。男は駅への道のりを足早に進んでいた。ある程度近づいてみて分かったが男は背丈は高いが、痩せていて髪の毛は整髪剤でしっかりとセットされていた。パッと見た感じお堅い職業か、それなりの役職なのかと思った。付かず離れずの距離を保ち、携帯をいじる素振りを見せつつ歩く。ちょうど大通りに出るあたりで男がコインパーキングへ向かうのが見えた。慌てて身を隠す。


「冴さん、男が車に乗ります。」


 なるべく小声で話す。見られてはいないはずだが、念のためだ。


「車の特徴とナンバーは?どこへ向かっている?」

「今すぐ確認します」


 通りすぎる様を装ってパーキングを見る。ちょうど男が車に乗り込むところだった。黒のクラウンに12-10のナンバー。


「黒のクラウンにナンバーは12-10です。これから大通りに向かうみたいです」

「分かった。後は任せときな」

 

 電話越しにエンジンを掛ける音が聞こえてくる。ここは一色に任せよう。


「お願いします。冴さん」


 通話が終わって、さっきまで聞いていた歌に切り替わる。曲のせいなのか、何かが大きく進展する予感がした。


 


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