青い正義 一章2
一章
2
斉藤茜と名乗るその少女はゆっくりと落ち着いた口調で切り出した。
「私の家族を探してください。どうか、お願いします」
そう言った斉藤はその華奢で小さな体を震わせていた。
長机を挟み、互いに向かいあうようにして座る一色と斉藤。来客用に買いだめしておいた少し上質なお茶を出し、一色の隣に腰掛ける。
「もちろん請け負いますよ」
二つ返事で一色が答える。
「その前に、まずは自己紹介をしましょう。私は一色冴、そしてコイツは助手の近藤伊織です。」
言われて軽く会釈をする。
「依頼を受ける上で一つだけお話しておきましょう」
そうしていつものように一色が依頼人に説明する。
「我が事務所はどんな依頼も請け負います。ただし、依頼内容によっては相応の金銭を頂きます」
「……それだけですか?」
「ええ、それだけです」
言い終えて斉藤に笑顔をむける。一色お得意の営業スマイルだ。
「わかりました。その上でもう一度お願いします。家族を探してください」
「承りました。それでは詳しく話してもらえますか?」
一色がそう言い終えると同時にボイスレコーダーに電源を入れ、メモ帳を用意する。依頼人の話を記録するのは俺の仕事である。
斉藤は少しかしこまった様子で話し始めた。
「私は児童養護施設で暮らしています。施設には私以外にもたくさんの子供がいて、家族のように日々暮らしているんです。」
開口一番斉藤の意外な情報に反応してしまいそうだったが、ここで彼女を見るのはなんだか失礼な気がして、メモ帳にペンを走らせた。
「でも、一週間くらい前に施設の子が一人、いなくなってしまったんです。」
「警察に届けはだしていないんですか?」
「もちろん、だしました。私も施設長と警察にいきましたから」
「それなら警察に任せればいいのでは?」
一色が割り込んできた。しかし実質一色の言うとおりである。すでに警察に捜索願いを提出しているのなら、後は彼らの仕事だ。
「警察が動いてくれていないからここにきたんです!」
突如斉藤の口調が強まった。大人しいイメージを抱いていたからこれには少しばかり驚かされた。同時にこれほど感情が表にでるということは、よほど大切な人なのだろうとも思った。
「失礼、思慮が足りていませんでした」
一色がすかさず謝罪する。
「こちらこそ、急に声を荒げてしまいすみません」
落ち着きを取り戻した斉藤が続ける。
「それで、探して欲しいのはこの子なんです。学校に行ったきり帰ってこなくって……」
そうして彼女がスクールバッグから取り出したスマートフォンの画面に写っていたのは、満面の笑みを浮かべた少女の写真だった。見たところ七、八歳といったところか。
「名前は神宮みき、といいます」
「失礼。こちらの写真を頂いても?」
自分も携帯を取り出し、仕事用のアドレスに画像を添付してもらう。
「こちらの写真は捜索以外には使用しませんし、捜索が終わった際には消去致します」
斉藤にしっかりと確認をとる。個人のプライバシーのためにも大切なことだ。
「それでは、神宮みきさんの捜索依頼、正式に承りました。」
一色が続ける。
「斉藤様にも協力を仰ぐ場合がございますので、ご了承ください」
「もちろん、いくらでも協力します!」
そう述べた斉藤に狂気じみた強い意思を感じた――