月花の少女
オロックセルウィンが襲撃される数分前、『夜明大翼』本部は、大広間にて食事会をしており、そこには『聖天教』討伐を含む依頼を終え今しがた帰ったジレンとススの姿があった。
この大広間は普段はアジムが一人で食べるのだが二人が招待されたのは戦況報告を含めての食事会である。
そしてこの場には『転移者』で料理研究部の斎藤朱莉の姿があり、アジム達の為に今夜も料理を作っているのだ。
「アジムさんお味はいかがですか」
「うん。お寿司というのはとてもおいしいわね。とくにこの緑のはワサビだっけ?単体ではとても辛いけどシャリと具の組み合わせをすることでより旨味を引き立ててくれてるいるわ。ありがとう朱莉」
「ありがとうございます。実はこのワサビ今日採れたばかりなんです」
料理部の斎藤朱莉は転移前は料理部であったが為、転移時の戦闘ステータスはこの世界の住民とほぼ変わらない性能だったが料理スキルは極めて高かった。それもあってか朱莉は基本的には戦闘に参加せずに料理と材料作りの要となる農業スキルを重点に挙げた結果、この世界に来てわずか二年でプロ顔負けの料理センスとこの世界では存在しない元の世界にある野菜をゼロから作ることができるのだ。
そして今現在彼女が作った高級寿司屋にある寿司をある程度再現し、アジムは上品にフォークとナイフを使用しておりアジムにとってはこの料理はとても好評だった。
「フフフ。とうもろこしやお茶の葉に続き今回はワサビか・・・・・・この調子でいろいろな農作物を作って欲しいわね」
「はい。アジムさんのお仲間さんのお陰でなんとか仕上げることができました。次回作に期待してください。
彼女は今現在町はずれの畑を使いこの組織の農業チームと転移し保護されたクラスメイトを数人使い日々新たな野菜を作っているのだが、現地の人間ならまだしもこの世界に来た『転移者』は農業というものには全く知らず最初は本末転倒な感じで失敗はただただあったが自慢のチート能力と農業チームの指導の元でグダグダながらもなんとか近くの町で仕入れを出すくらいには成長していたのだ。
ダン
「帰る・・・・・・・」
「ジレンどこに行く?まだ報告は始まってないぞ」
「別に・・・・・報告なんて後でいいだろ?こんな不味そうなもん見たら吐きそうだ」
アジムを初めお付きの二人とススがおいしく食べてる中ジレンは、目の前にある敵の料理と目の前の転移者の存在が気に食わず椅子に掛けている団服を片手に退出するが、その前にお付きの坊主前の男に止められた。
それに対しジレンは舌打ちをし唇を噛んだ。
「ジレン?結局今回も彼女が出した物は食べないのね・・・・・」
「今回もじゃない。今後ともだ・・・・悪いな俺はこいつらとはあまり関わりたくないんだ」
「だけどそろそろ慣れた方がいいんじゃない。ホラ朱莉が怯えてるわよ。私達家族じゃない」
「家族?笑わせんなよ。俺はこいつらのことを目の前にいる害虫としか見えてないんだわ。普通飯食ってる時にゴキブリが来てみろよ。食欲なくすだろ?それと同じだ」
「ジレンさん貴方の言い分こそ下品ですよ」
「あ?」
「これお前達、副団長がいる前で喧嘩をするな。出ないと一週間地下牢に閉じ込めさせるぞ」
「いや、むしろ今すぐ入れて欲しいわ。貴方が今回やってきたことを含めるとね・・・・」
アジムはそういいながらうさ耳眼鏡秘書から報告書を貰いパラパラと拝見する。
「今回貴方達がこなした5つの依頼『聖天教討伐』『ガルルウルフ討伐』『東部魔族残党征伐』『ヴァンシュタイン卿謁見護衛』『緑光石発掘』どれもいい結果で終わってるのだけど、私が気になるのは、『聖天教討伐のことよ」
「それが?」
「お前は今回の依頼、偶然『転移者』南條 隼人の付き人のアウラディーテクラウンに許可なく同行してたな。そればかりか過剰の惨殺行為に挙句の果てには、『夜明大翼』の存在を大きく露見させたことだ」
「それに加え、ただいまヴァンシュタイン側から連絡があり、ジレン ウェナトールが捕獲した『聖天教』信者ですが、あの惨殺行為を見て皆精神崩壊をしており、一人はなんとか回復の見込みがありますが、情報を聞き出すことは現段階不可能ということです」
秘書は静かに報告書をし、ジレンが行った悪行についてさらされており団長がとある事情で行方を眩ましてる中、現組織の最高責任者であるアジムはやれやれとため息を吐き黒髪を雑に掻きむしり口を出す。
「分かってるジレン?貴方がやってることはいかにバカげたことを・・・・・我々は一応ゴッドスレイヤーと名乗っているがそれはあくまで裏で表はあくまで自営団体のようなものよ。こうゆうのは段階を踏んで公にするのが定石なのにこんなに早く名乗ったら余計な敵が増えて決戦が長引くわよ」
「んなもん。向かってる敵をただ薙ぎ払えばいいだろ。現時点で俺らに適うのは無敵状態の元凶以外にはそうはいねぇだろ。まぁ仮に残りの転移者の呪いを解けなくても俺は無敵状態の元凶に挑むけどな」
「ジレンさん貴方死に急いでいるんですか・・・・・?とても馬鹿馬鹿しいです」
「ああ・・・・俺は、元凶のせいで自分の村も家族を失い、生を諦め本来死ぬはずの人間だった。だがな、そんな俺を師匠が・・・・いや、アンタが着けていたジンのペンダントが俺を選んだからこそ生きることが出来たんだ。残された俺にあるのは、復讐、殺戮、冷酷だけだ。目的があれば速やかにこなし、歯向かう者がいれば皆殺しにする。それこそが俺の乾いた喉を癒してくれる聖水だ。自分でも狂ってるのは分かってるよ。だけど俺はその渇きを癒すために幾多の死体を乗り越える。
。俺が仮にこの世界を滅ぼす新たな脅威になるとしたらアンタの責任だぜ。・・・・・・・アジム」
ジレンの無謀と思える言葉で一同呆れかえっているが、それでもジレンは目の前の湯飲みを握り神殺しの力で握り潰し自分の決意をぶつける。
そして秘書がアジムに耳打ちする。
「(どうします。この場で葬りますか?このままでは副団長の新たな脅威になりますよ)」
「(いや、そう急ぐこともないでしょ。私はいち早く元凶を倒しこの国を立て直したい。ジレンは色々問題があり脅威になり近い未来に脅威になるかも知れないけど戦力にはなる。要するに諸刃の剣でも使いようよ)」
「(はい?)」
「(以前、神殺しの転移者がいるとしたら戦力に加えるといったわね?アレも諸刃の剣よ。その双方は脅威であるが破格の力があるがそれ以上のリスクがある。そのリスクを受けずに扱うにはただ一つ、少しでも綻びを生じるのなら・・・・・それを壊すまでよ・・・・・今のジレンはまだ、脅威の内には入らないからいいのよ)」
アジムはその冷酷な言葉を秘書に走らせ戦慄させる。彼女は世界のバランスを調整する『調停者』。
それは二つの顔を持つ。一つは苦しんでる弱者の救済する救世主の人格。そしてもう一つは、脅威となるものを殲滅する覇王の人格。その二つの人格を織りなすことで、新世界を築こうとするのが彼女の道だ。
「なんの話をしている・・・・・・」
「分かったわ。ジレン・・・・・これから」
キュイイイイイイイイイイイイイイイン!!!!
「スス何事なの?」
アジムがこれからの事を話すその時、ススは突如として、放心状態になり目をギョロギョロと回しながら機械のような快音を広間中に響かせる。『夜明大翼』一同はこの反応を聞いて焦りを見せておりその状況を唯一理解できてない朱莉は、皆目見当もつかなかった。
『能力・・・・・・『珀船』強制発動します・・・・・警告・・・・・『銃乱暴風適合者オロック セルウィンの危険探知。これより救援の為にこの場にて転移装置を配置します』
コンピューター音のような言葉を発するススは、片手を上げ目の前から白い電流の中から純白の扉を目の前に出現させその衝撃により食事が吹き飛び、皿という皿が粉々になり台無しになってしまった。
そのありえない現状の連続で朱莉は腰を抜かしていた。
ススの能力『珀船』の能力は転移能力専門の能力だ。以前、ジレンとハヤトの戦いに見せた、発動範囲にいた者が瀕死のものだけに察知し死ぬ直前に箱の中に入れ、それまで受けたダメージをなかったことにする強制転移能力があるのだが、これの他にも目の前に扉を作り、遠方の座標まで捉えそこに移動できる。
だがそれは、ススがこの能力をまだ完全に扱いきれないことであってか転移範囲は最大10キロメートルが限界で一時間に一回しか使えない程コントロールが出来ないのだが例外はある。
それは、仲間が危機的状況になった時は緊急発令が発動し、これにより『珀船』の本来の能力に近い力を得るのだ。
その発動範囲は、仲間がいる場所が例えこの大陸の最果てだろうと星の裏側だろうと全開の魔力を一気に空にすることで最大範囲太陽系圏内と同等の広さでは、仲間のピンチに察知し転移することができるのだ。
「なんですかこれは・・・・・・・・」
「ススの能力『珀船』の警告信号ね・・・・・・スス、場所は?」
『アヴァルロリヤ、南部のアルカブール街郊外の小屋にて、転移者三名を保護し、こちらに連絡するところに新手に襲われた模様。今相手の力を分析します』
緊急状態のススの眼は白く映されており周囲の状況の解析を始める。そしてススは息を飲んだ後に、口を開ける。
『ただ今、微弱な魔力を察知したところ、対戦相手は・・・・・・・・・ゴッドスレイヤーを持つ『転移者』です』
「なんだと・・・・・・・ススそいつの能力はなんだ」
『・・・・・・・解析したところスキル『能力解析無効』の効果により不明」
「『転移者』ながらの過剰に多いスキルの量で解析できないのね・・・・なるほど相手の力量が分からないかどう対策すればいいのかしらね」
「どっちだっていいだろ。俺はいくぜ。オロックのオッサンをサッサと救うぞ・・・・」
「ジレン待て。お前にはまだ処分が言い渡されていない。ここは俺が行く」
ジレンは、仲間を救うと言ってたが、優先先は相手の神殺しの力を持つ転移者の撃退に頭がいっぱいなのが完全に眼に見えていた。それを止めようと坊主頭の男が前に立ちはだかろうとする。
「いえ、貴方は、ここで待機をしなさい。救援には、私とジレンの二人で行くわ・・・・・」
「しかし・・・・・」
「ススは今『珀船』の力を使い援護は不可能しかもその発動時間は30分だけ・・・・・・・そんな中貴方一人で行くのは救う確率が低い。ここは確率が高いカードを選びましょ。ここは貴方に任せるわ。この村のゴッドスレイヤーは貴方一人になるけど充分でしょ」
「・・・・・・・・分かりました」
「ジレン貴方の処分はこの戦いの成果で判断するわ。足を引っ張らないでね・・・・・・」
「あ?師匠。誰に言ってんだ?行くか・・・・」
「ええ・・・・・・」
ジレンはすでに虹色の剣を震わし、アジムはいつもの動きにくそうな黒のドレスのまま、『珀船』の白い扉を開け、救援先に向かう。
するとそこは、一面、月の光しか灯りが見えない。世界に入り込んだ。周囲は月の光だけで少し明るいのだがそれでもまともに歩けないくらいの視界なのでジレンは、足元にふらつきを見せる。
「暗いな・・・・・・ここか・・・・」
「ジレンスキル『暗視』を使いなさい」
その暗闇の中アジムは『暗視』を使い視界を明るく映っている。彼女から見た世界だととある森に転移したらしく今のところ、戦闘時の派手な動きや相手の気配などは現時点では全くなかった。
「そんなもん俺にはねぇよ。嫌味かよ」
「なら自分でなんとかしなさい」
「分かってるよ。『虹霞剣』・・・・・・・」
虹の光を輝かせジレンは虹色の剣を螺旋に回転させ周囲を発光させる。これにより半径数十メートルまでは視界が明るく良好になっていた。
「こんなに明るくして、光で魔物が向かって来たらどうするの?」
「どうにかしろって言ったのは師匠の方だろ」
「まあいいわ。いきましょ」
ガサッ
アジム達が先を進もうとしたその時、周囲の茂みからなにかが忍び寄る音がし、警戒する。その瞬間突如として複数の猛獣が押し入るようにこちらに向かっており、あっという間ジレン達を取り囲んでいた。
その猛獣はジレン達に向かい獲物を狙う餌の目をしていた。
「グルルルルルルルル」
「はっ。ちょうどいいタイミングでモンスターの群れが来やがった。もしかして俺のせいなのか?」
「いえ、どうやらそうではないみたいね。このモンスター達、わずかながら微力の魔術を当てられている。もしかしたら敵は事前に私達が来るのを知ってて、このモンスターを呼び出す為のアイテムを使ったのだわ」
「じゃあどうするよ・・・・・」
「決まってるでしょ。貴方が好きな殲滅よ。・・・・・・・・・闇に還れ『魂蝶奏』」
そのモンスターの群れを見てアジムは神殺しの力を発動し、深淵の闇から漆黒の刀を生み出しそれを掴み軽く振るう。
そして全身黒一色の魅惑の美女と虹色の剣を持つ少年のゴッドスレイヤーが剣を抜いたと同時にモンスター達は、彼らに向かって一斉に攻撃をする。
「ふっ!!!!」
その瞬間、アジムは突如として足を踏み込み突撃し、気が付くとモンスターの遥か後方にたどり着きそれと同時に数十体の魔物がズタズタに斬り裂かれていた。これに連れてジレンも啖呵が斬ったように前進し前方の敵を斬りつける。
「ジレン私が、退路が切り開くから先に言ってちょうだい」
「いいのか現時点でのリーダーが引き立て役みたいなことをして」
「あら?私はただレベルが低い貴方が仮に慢心して一気にモンスター共にやれれないように考慮したまでよ。貴方は神殺しの力を持ってるとはいえ、これくらいのモンスター相手だと少しのダメージでも致命傷になるくらいの貧弱なのよ」
アジムの言う通りこの周囲の魔物はどれも高ランクと言っていいほどの迫力があり、レベルで言うと40クラスの魔物の群れだ。アジムは神殺しの力を得る前に優秀な魔術師であったため相当のレベルを持ってるため前線出来るがジレンにとっては少しの油断が命取りになるのだ。だからアジムは最善の策として効率が高い奥の神殺しの力を持つ『転移者』との戦いを譲ったのだ。
「私もすぐに片付けるから・・・・・・任せたわよ」
「ああ・・・・・・・『螺旋五式 色彩』
アジムは、黒の魔法と剣術で僅かな退路を作り、ジレンはそれに向かい虹の剣を光らせ、その退路に虹の道を、放出し、それに乗ることにより、レールのように走らせ加速させる。
この道はジレンが作った特殊の道で、それは彼にしか乗れず、ジレンがそれ前方に描くことで道を作ることが出来それによって海や空でさえ駆けることができるのだ。
それを使うことによりこの暗闇の道を黄金のベールのように輝かせ進ませ、向かってくるモンスターの急所を正確に狙いながら、モンスター共が沸きだした微弱な魔力をたどりながら先に進む。
そしてたどり着いた先はよある大樹の前で、その場所から微弱な魔力が消えていた。ジレンはその周囲を調べたところ大樹の前にはリコーダーくらいの縦笛が真っ二つに折られたのが見えている。
「なるほど、これでモンスターを呼んだんだな・・・・」
「その通りです。よくここにたどり着きましたね・・・・」
「なんだ・・・・・・」
声の方にジレンは目を向けると満月の下の元大樹の上部にて青白いオーラをただ寄せながら、黒髪で前髪パッツンで、日本人形のような静けさを感じ蒼の眼でジレンを見下げ、自分より大きい二メートルほどの長太刀を美しく絵になる風景で構える。
そのただならぬ雰囲気によりジレンは自然と冷や汗を掻いていた。
「お前『転移者』か・・・・・・」
「神代刹那です。どうぞよろしく・・・・ジレンウェナトールさんですね・・・・」
「神か・・・・・・随分、大層な名前じゃねぇか・・・・・なあオロックのオッサンはどこだ?」
「さあ・・・・・・私を倒したら教えますよ」
今ここにいるのはジレンと神代刹那だけで、当のオロックはどこにもいなかった。
ただ目の前の彼女が挑発的にジレンを誘っているだけだった。
「だな・・・・・・その方が分かりやすくいいや」
「ですね・・・・・行きますよ」
神代刹那はその大樹からふらっと飛び降り、急降下しジレンに向かい刀を構え、ジレンは、満面の笑みで虹の剣を光らせお互いの神殺しの力がぶつかり周囲を震撼させる。
これにより神殺しVS神殺しの幕が始まる