ステータスが全てじゃない
「ヒール・・・・・・・・」
「あ・・・・・・・れ?体が急に軽くなって・・・・・動ける」
「あっ、兄貴大丈夫ですか?」
「おう、い、生きているぞ・・・・・」
「あの、兄ちゃん俺らの味方ですかねぇ?」
虹色の剣を構えた謎の少年は、ニタニタと笑いながらその剣から虹色の光が螺旋状に美しく反射し機械音のような振動を響かせる。
その振動は少年の呼吸を合わせるように周囲を響かせ彼の髪がざわざわと揺らいだ。
そしてその愉悦そうな笑みで空いた手を使いチンピラのボスを回復させる。
「勘違いするな。お前らの味方じゃねぇよ・・・・・。俺はただ、目障りな転生者を殺るのに、てめぇらが邪魔なだけだ」
「わ、分かった。この恩は忘れねぇからな・・・・・」
そうチンピラのボスは部下に抱えられながらもこれからの戦いに巻き添えを食らわないように限界まで走り逃げた・・・・・
それを見たハヤトは下品に笑った。
「はっ。お前相当馬鹿だなぁ。あのゴミを助ける為に自分が犠牲になるなんて英雄になったつもりか?」
「英雄?そんなのなりたいと思っちゃいねぇよ。俺はただ、人を殺したり壊すのが好きなだけのただの・・・・・・・・・悪党だ」
男は、目つきが悪い形相でで剣を正面に向けなお、戦闘形態にうって変わった。
「ねえーーご主人様ーーーーーー?本当にあのお兄さんと戦うつもりですかーーーーーーーー」
「そうですわ。見るからに優しそうなお方だから話せば分かるじゃありませんか?」
「なんだお前達、随分とこの無謀な男の肩を持つじゃないか?もしかして惚れたのか?」
「そうではない・・・・・・ただお前は少し冷静になった方がいいと思っただけだ」
「はいはい、お前達の言う通り平和的に事を終わらせるから心配するな」サスサス
「あーーーーーーーーう。ご主人様に頭撫でられるの気持ちいいですーーーーーー」
「あたしもーーーーーー」
「勿論わたくしもですわ・・・・・・・」
「くっ!!サッサと終わらせろ馬鹿者」
ハヤトの周りには様々な女性が取り囲みその全員を愛すかのように頭を撫でて、四人の取り巻きの女性は嬉しそうに増々男のそばに寄った。
その姿はまさに男の理想郷と言えるハーレムと言える存在であった。
だがそれを魅せられてなお男は変わらずに目を光らせる。
「お前、この戦い退かないんだな?」
「当然だ」
「しょうがないやるか・・・・・・・・だがその前にお前のステータスカードを見せろ?」
「理由は?」
「そんなの簡単だろ?俺は天下無敵の勇者様だぜ。その勇者様が直々に相手にするんだ。お前の経験値を上げる為にギリギリまで手を抜いて戦ってやるよ」
「そうか・・・・・・・いいだろう」
ハヤトはこの勝負すでに勝ったと思い慢心を見せる。一見武器は派手だがそれ以外はただの平凡の男だと、彼の観察眼のスキルを見てとれていた。この男は大したことはない。なら相手の情報が分かりやすく記載されているステータスカードを見ればギリギリな状態で戦って遊ぼうと思っているのだ。そうとは知らず男は静かに自分のステータスを公開する。
名前 ジレン ウェナトール
男
レベル5
AT 55
BF 30
MAF 55
MDF 40
スキル
武器装備レベルMAX、応急処置、物拾い
「はt。なんだよ。この低すぎる能力値に、ありふれた初期スキルは、そんな数値で偉そうなこと言えたな。ハハハハハハハハハハ」
「確かに、唯一変ったスキルと言えば装備できる武器のレベルくらいですね。もしかして彼が装備してる虹色の剣が高レベルの武器なのでしょうか・・・・・・・」
「フン。あやつがいくら上等な武器を持ってようとこれだけの数値の差では太刀打ちできんだろうな」
「そういうことだ。どんな武器を持ってこようと神からもらったチート持ちの俺には敵わないんだよ」
「御託はいい。さっさと構えろ」
「はいはい。とりあえず最低限に手を抜くか」
男の一言でお互い構える。ハヤトはこの勝負を決しているので、腰に指している黄金の剣を鞘から抜き取り緩い構えで振る舞った。
「ご主人様、これだけ差が開いてもなお、魔剣『グラム』を使うなんてーーーーーーーー」
「それ最高ランクの魔剣じゃないですかーーーーーーーご主人様、大人げないですーーーーーーーー」
「いやこのままでもいいかも知れないな。魔剣グラムは、力を自由に調整する特性を持っている。やつの実力と同じ状態で戦うつもりだろう」
女剣士の言う通りハヤトの持つ魔剣は抜いた直後にただならぬオーラを纏っていたが、徐々に力を小さく納めジレンという生意気な少年に大けがをさせずその生意気な歯をへし折る位の力まで調整していた。
そしていつの間にか周りにはその騒ぎを聞きつけ見物人が増えていた。
「じゃあ行くか。精々俺を楽しませてくれよ」
まず先手を出たのはハヤトだった。取り巻きの女を即座に離れあっという間にジレンの間合いまでたどり着いた。そしてその剣先はジレンに向かい殺さないように剣の柄で殴ろうとしたその時、
なにやらスパっと何かが切り裂いた音がし、それと同時に紅の地がポタポタと舞い降り、地面降った。
取り巻きの女を始め観戦していた人は誰しもがジレンの血だと思ったがそうではなかった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!俺の、俺の右腕がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
声にもならない悲壮な叫びを出したのはジレンでもなく、先に仕掛けたハヤトであった。最初に攻撃した彼の攻撃は、ジレンの静かなる一振りによって右腕は切断無効になり、剣を握った右腕は、地面に鈍い音を立て落ちていた。ハヤトは切断された腕を抑え回復魔法で止血した。
そして降りかかった血はジレンにもかかり、その顔についた血を指でなぞり愉悦そうにゆっくりと舐めた。
「どうした?それが世界を救った『転移者』の力か?」
その一言に同時に状況はひっくり変わり、戦いはジレンという虹の剣を持った男によって変わってしまった。
「くそぉ!!!!クソガァァァァァァァァァァァァァァ。なんでこんなことになるんだ。俺は世界最強なんだぞ。これだけのステータスに差がありながら俺はなぜ負けるんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「そんなぁハヤト様が・・・・・・いったいどうなってるのでしょうか?」
「そんなの知るか!!!よくもハヤトをォォォォォォォォォ!!!」
「ま、待て」
予想外のハルトの負傷により、取り巻きの女剣士は、ハヤトが声で止めようとするがそれは構わずに剣を抜きジレンに向かって斬りつけようとするが、ジレンは顔色一つ変えずに虹色の剣を地面に刺した。
「邪魔をするんじゃねえよーーーーーーー『螺旋三式 光杖光牢』
「な・・・・・・なんだこれは?」
「あわーーーーーーー壊れないですーーーーーー」
「ハヤト様、どうするどうするのーーーーーーーーーーーー」
「あらあら面白くなって来たじゃないですか?」
ジレンの持つ『虹霞剣』から三つの球が浮き出てそれを螺旋の如くジレンの周りを回転した直後には弾け、女剣士の攻撃を防いだ後、ジレンとハヤトの間に虹色の柵が取り囲み侵入を防いだ。
それを見た直後おっとりしたエルフ以外の取り巻きがその牢を壊そうとするが、傷一つつかなかった。
「くっどうして壊れないんだ?なんなんだこの牢はーーーー」
「無駄だ。この牢は一定の間、いかなる攻撃さえも遮断する」
「はぁ・・・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・ならこれでどうだ・・・・・・」
右腕の切断で激痛を耐えたハヤトは片手で渾身の魔力を纏いそれを瞬時に放出した。そのあまりにも強力な威力は、反動により隔離された牢全体の大地はほぼ剥がれる程の勢いだったが、それも虚しく傷一つつかなかった・・・・・・・・
「だから言ったろ。無駄なんだって」
ジレンはさきの放出された魔術の反動によって砂埃がついたためそれを静かに払った。
あまりにも予想外の連続でハヤトは驚きを隠せずに口が塞がらなかった。
「なっ・・・・・・・・・なんなんだお前は?人が手加減してたのに付けあがりやがって・・・・・俺はチート持ちの異世界転移者なんだぞ。それなのにたかが一人の異世界人にこんなボロカスにやられるなんてお前おかしいだろ?ここは空気を読んで俺にやられろよ。大体お前は何者なんだよ?」
「俺か?・・・・・・・・・俺はゴッドスレイヤーだ」
『ゴッドスレイヤーだと?」ざわざわ
その奇妙なフレーズで牢に閉じ込められたハヤト以外に周囲のやじ馬も騒いでいた。
「はぁ・・・・・・・・はぁ・・・・・・・・なんだよそれは・・・・・」
「これから死ぬ奴に応える理由はない。あいつが来る前にサッサと終わらす」
「くっくそーーーーーーーーーーーーー」
これが終わりだと宣言しジレンは指していた虹の剣を抜きとり構える。対するハヤトは激痛で頭が混乱するなか、切断された右腕が握った剣を抜きとり最大限の力を放出した。
その力はこの周囲だけではなく街全体が泣き叫ぶような程の激しい力の圧であった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
その轟々とした力を振り上げハヤトは叫びながらジレンに振り上げ、閃光が立ち上がる。
「ハヤト・・・・・・・・・」
「ご主人様・・・・・・・」
『ハヤト様・・・・・・』
ハヤトの取り巻きの女を始めやじ馬はこの予想外の戦いの結末を見守った。そして決着がつく。
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・やっぱり大したことないな。『転移者』ってもんは」
戦いの結末はジレンの『虹霞剣』によってハヤトのグラムごと貫かれ、ハヤトは燃え尽きた大木の如く生気はなく絶命した。そしてジレンはハヤトの屍をモノを扱うように剣を振り上げ雑に放り上げた。するとハヤトは灰のように消滅した。
「そ、そんなハヤト様がーーーーーーーーー」
「うわーーーーーーーーー、うわーーーーーーーーー」
突然の従者のハヤトが死に双子の獣人が涙をポロポロと泣き出し悲しみの不覚に落ちていた。
「まさか、こんなことになるなんて思いませんわね・・・・・」
「くっ・・・・・・・・」
それぞれが悲しみに浸る中、周囲の虹の牢の効力が消え消滅し、ジレンは虹の剣もいつの間にか消えていた。それを確認した女剣士は、憤怒の表情でジレンに向かって突っかかってくる。
「きっ・・・・・・・・・・貴様ーーーーーーーーーーーーーーよくもよくも・・・・・・・・・」
女剣士は、涙を貯めながらジレンの袖を掴んで問い出するもジレンは無言のまま見下げた。
「お前・・・・・・・・殺してやる・・・・・・・殺してやるぞ・・・・・・・・・うっうううううううう」
「・・・・・・・・・・・・・・安心しろやつは、生きている気に食わないがな」
「え?」
ジレンは軽く舌打ちし苛立った風にしながらも上空に指をさし、取り巻きの女は貯めた涙を擦りながら上空を見上げる。
すると上空には、二階建ての建物程の大きさ程の白いサイコロ状の物質が浮き上がっていた。
それを見た一同は腰を抜かすほど驚愕する。あまりにも衝撃過ぎて女剣士はジレンの袖をそっと放した。
「なっなんだこれは・・・・・・・・」
「この中にお前のご主人様がいるぞ・・・・・・」
「え?」
『ちょっとーーーーーーー。ジレンさんまった勝手に動いて!!!!副団長にまた怒られますよ!!!!』
「え?今声が?」
その時白い物質から女の子の声が聞こえた。
「ちっ、お前ついてくるんじゃねーよ。お陰で殺し損ねたじゃねーか」
「私の仕事は勝手に動くジレンさんの監視です。とりあえず一度私達の街に戻りましょう。それとこの中にいる『転移者』の知り合いの人、良かったらついてきてもいいですか?」
「はっはあ・・・・・・・・」
「くそ、」
ジレンは頭を掻きむしりため息をつきながらハヤトの取り巻きに呟く。
「とりあえず説明するか。俺はジレン ウェナトール・・・・・ゴッドスレイヤー部隊・・・・・・・・『夜明大翼』の一員だ。今からお前達を本部に連れてやる」




