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05 大賢者さんの愚痴に付き合うのも業務の内なのです。

 かつて勇者と大魔王の戦いがあった。


 大魔王によって絶滅寸前まで追い込まれた人類に神からもたらされたと言われる希望の光は『勇者』と呼ばれる一人の男だった。

 勇者という光のもとに集いし人々は勇者とともに大魔王に支配されていた世界を徐々に取り戻していった。


 最初は絶滅寸前種族の悪あがきと相手にもしていなかった大魔王が勇者の真の力に気がついたときには既に手遅れになっていた。

 大魔王が油断しているうちに力をつけた勇者とその仲間たちは、立ちふさがる魔王軍十二将を次々と打ち倒し、やがて大魔王の住まう魔王城にたどり着いた。

 そこで待ち受けていたのは魔王城を守りし六大魔将。そして大魔王直属の魔王軍四天王。

 対するは勇者、そして彼が率いる精鋭300人の仲間。


 しかし一気呵成に攻め込んだものの、激しい戦いの末、大魔王の間にたどり着いたのは勇者、賢者、僧侶、踊り子、羊飼いの五人だけであった。


 大魔王との最後の戦いは熾烈を極め、なんとかの玉とか、なんちゃらの雫とかで弱体化させ、満身創痍になりながら遂に大魔王を倒す事ができたの。


■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇■◇


 最後の戦いの説明が雑すぎる。

 なんちゃらの玉って何?

 一体どんな戦いがあったのかさっぱりわからない。


 私はカジノの中にあるカフェ&バーコーナーで酔っ払った大賢者様に絡まれ、無理やり聞かされた英雄譚に心の中でツッコミを入れます。


 そして何よりに気になるのは「羊飼い」という存在だ。

 魔王軍を打ち倒し大魔王にまでたどり着いた最強のメンバーであるはずなのに、そのうち一人が「羊飼い」という謎の職業である。

 他の四人については私も良く知っている職業なのだけれど、それだけは初めて耳にする職業だった。

 気にならないわけはない。


「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」


 本来なら酔っ払って愚痴モードに入っている大賢者様の話は『相槌を打って聞き流す』のが一番の対処法だと私は既に身を持って知っていたのですが、つい好奇心に負けてそんな事を聞いてしまいました。


「ああん? なぁにぃ?」


 一見未成年にしか見えないロリB……大賢者様が、トロンとした目つきで口からアルコール臭い息を吐きながら私を見つめます。

 その手にはアルコール度数50°のお酒が注がれたコップを握りしめているのですが、まだ飲むつもりでしょうか?


「その勇者様と一緒に大魔王に立ち向かった『羊使い』様と言うのはどのようなお方なのかお聞きしても?」

「ああ、あいつね。アタシがこの話をすると大体の人が聞くのよねぇ~」


 やはり皆さん疑問に思うようですね。

 実際私も大賢者さんの話以外では聞いたことのない職業ですし。


「あいつについては私ですらよくわかんないのよねぇ~、職業だって自称だし」

「自称ですか?」

「そうなのよぉ~、あいつとは勇者くんと一緒に魔王軍十二将の一人だったゴートーとかいう黒目が真四角でくっそ気持ち悪い魔人を倒しに行った村で出会ってねぇ~」


 そこで大賢者様は手持ちのグラスのお酒を一気に飲み干します。

 あの度数のお酒をこんな飲み方する人を私は彼女以外知りません。


「あいつが言うにはぁ~ヒック、なんか大魔王が羊とかいう生き物を絶滅させたのが許せないとか言ってたのよねぇ~」


 羊……私も聞いたことが無い生き物でしたが、大魔王の手によって絶滅させられていたとは驚きです。

 なぜ大魔王はその羊とやらを全滅させたのでしょうか?

 よほどの脅威だったのでしょうか?


 私の頭のなかで巨大な体躯で炎をまとい、大魔王の軍勢に襲いかかる強大な魔物の姿が浮かびました。

 大魔王すら恐れさす『羊』という存在をも使役していた羊使い。

 そう考えると最終決戦の場に残っていてもおかしくはありませんね。


「そ、それでその羊という生き物はどのような姿かたちをしていたのでしょうか?」


 私はそれを尋ねずには要られませんでしか。

 なぜなら聞かずにいると私の中の『羊』に対するイメージがとんでもなく恐ろしくなっていくばかりだったのです。


「ん~、あいつの最強特技に大量の羊を呼び出す攻撃があったんだけどさ」

「えっ? 羊は既に全滅してたのでは?」

「そうなんだけどさ、召喚魔法の一種だと思うんだけどあいつが呼び出すとすごい勢いで砂煙が的に向かって突っ込んでいってとんでもないダメージ与えて殲滅しちゃうのよね」

「砂煙? 羊じゃなく?」

「あいつは『羊の魂だから見えないのだ。実体があった頃の威力はこれの比ではなかったのに……』とか言ってたけど流石に嘘だと思うわ~」


 もしかして大魔王が羊という生き物を絶滅させた理由はその技対策だったのではないでしょうか。

 私は疑問が少し解消した事に安堵し、しかしそれでは実際の羊とはどのような生き物だったのかがわからない事を残念に思いました。


「それで羊って生き物の姿なんだけどさ、なんかあいつってずっとわけの分かんない格好しててさ、聞いたら『これは羊の姿かたちを模した羊使い伝統の装備なのだ』とか言ってたからあれが羊って生き物の姿だったんじゃないかって思うのよ」

「羊の姿を模した装備品ですか? それはどのような?」

「もふもふよ」

「もふもふ?」

「ええ、真っ白な毛に包まれた丸っこい格好でね、頭にくるくる丸めたようなツノが頭の左右についてて、あいつの顔さえ見えてなければとんでもなく可愛くてもふもふだったわね」

 

 随分と酔っ払っているとはいえ、大賢者様が嘘をつく理由が見当たりません

 つまり羊という謎生物は真っ白でもふもふで丸まったツノという、私の想像とは全く違う姿であったようですね。


 かつて人類を滅亡寸前まで追い詰めた伝説の大魔王すら恐れたという『羊』という謎の生き物。

 それを操る『羊使い』という勇者パーティ最強の一角。


 しかし彼(?)の存在は私の知る限りの文献には記されていないのは何故か?


「では、大賢者様。その羊使いという――」

「すやぁ・・・」


 どうやら彼女の愚痴から始まった私の質問タイムも今宵はここまでのようですね。 

 眠っている彼女は、まだまだあどけなさの残る年若い少女にしか見えません。

 私は彼女を起こさないように静かな声でウエイトレスに毛布を頼み、大賢者様にそっと掛けてあげました。


 カフェ&バーコーナーにはこんな深夜になっても店内にお客様は何組もいらっしゃいますが、眠っている大賢者様に手を出すような命知らずは居ないでしょう。

 私は休憩にならなかった休憩時間を終わらせ、大賢者様をテーブルに残してカジノホールへもどりました。


「とりあえず僧侶さんに大賢者様の介抱を頼むのが先ですね」


 カジノホールは24時間営業。

 多分僧侶さんはいつも通り勇者様の近くにいらっしゃるはず。


 総判断すると、私の足は自然に勇者様と思われる悲痛な嘆きの声のする方へ向かうのでした。


 カジノの夜はまだこれからなのです。



 ウ◯ティマオン◯インで羊使いを選びたい人生だった……。


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