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愛しき太陽  作者: 宝来
命の終わり、物語の始まり
1/2

――――終わり――――






人気の無い暗い路地裏は静寂でどこか不気味な雰囲気を漂わせている。それは(アヤカシ)のせいだろうと背筋に走る悪寒を感じながら身構える女は考える。


目の前の妖の姿はまるで操り人形の様で彼等の意思ではない事には気付いていた。きっと誰かが操っているのだろう。その人物が誰か、とは分からないが目的は分かっている。



その為に己の愛する宝を守っているのだから。




「ふふっ、慎二(しんじ)くん。昔を思い出すわね」


「いつも麗子(れいこ)ちゃんは無理をする」


「でも、いつだって守ってくれたわ」


「僕はいつだって君を守る。そして、天芽(あまめ)も」


「ええ、必ず」



二人の瞳には大切な人を守りたい強い意志、そして微かな恐怖が入り交じりながらも巨大な力を感じる方を睨み付けた。闇のせいでその力の持ち主である人物を視界に移す事が出来ない。


襲い来る妖を麗子は札で、慎二は光を纏う拳で対抗しつつ麗子は声を上げる。



「こんなちまちました事してないで、いい加減出てきたらどう!?」




麗子の言葉に答える様に闇から男が姿を現すと同時に雲に隠れた月が顔を出しその男の姿を妖しく照らす。その男が姿を見せたせいだろうか、辺りの霊気が一層強まり麗子はそっと眉を寄せる。

その男の顔は余りにも完璧過ぎる上に元々肌が白いのか、月の光によってさらに白く見えるせいで人形にも見えてしまう。黒い髪の毛はきちんと整えられており光に反射して、少し紫帯びている。


…漆黒の瞳は何を考えているのかも分からず恐怖を与える瞳だ。麗子はその男を静かに見つめる。人の気配ではないそれは妖。



「流石大日女ですね。…そう簡単には死んではくれませんか」


「あら何の目的?って、聞くべきかしら?」


「ククッ、既に分かってるんでしょう?我々の目的が。貴女の大切な宝物ですよ」


「それは残念だわ、手を出しても出そうとしても無駄よ。…大日女はこのあたしなんだから」


「だから貴女を殺すんでしょう?」



細い目を更に細目笑う姿に不覚にも背筋を震わせようとしてしまう己を情けなく感じるが、ここが勝負所なのは麗子自身良く分かっている。いつか来る日が少し早まった。それだけなのに麗子と慎二の愛する者から離れるかもしれない。そう考えるだけで胸が締め付けられる思いになる。…だがこれは自分達で決めた事だ、もう後にも引けない否、あの子の為なら何でもする。


愛する者への気持ちが今麗子をこの場に立たせている。大丈夫、自分なら出来ると言い聞かせて。



そんな麗子を嘲笑う様に右手を前に出すと手から霊力が感じられ慎二は麗子の前に立つ。その背中には黒い翼を広げ、まるで(からす)の様な出で立ちに男は少し驚いた表情を見せた。



「ほう…貴方が烏の…。中々面白い、貴方の力を試させていただきますよ」



その言葉と同時に慎二の足元が眩く光り始めるも、瞬時に羽を使い空高く飛んだかと思えば既に男の真後ろへと立っている。男の華奢な背中に手を置くと衝撃波を送る。



「この程度の力とは残念です」


「これからが本番じゃないのかい?」


「あたしを忘れてるんじゃないわよ!」



麗子が握った札に霊力を送ると凄まじい力が槍となり何本、何百本となり男へと向かっていく。それを慎二は風で後押しをしながら槍に紛れ混むと空高く羽を飛ばし男へと落下させる。


激しい衝突音と共に辺りは煙に包まれ男がどうなったのか確認出来ないが、まだ、気配がある。慎二は気配の感じる場所へと衝撃波を纏った足で蹴りを喰らわせようと勢い良く煙の奥深くへと飛ぶ。



「…此方はあまり時間が無い、遊びには付き合ってられない。貴女よりも愛しい"本物"の大日女が私は…我々は欲しいのです」



全く無傷の男は無表情で話す。飽きた玩具を捨てるように衝撃波を纏った慎二の足を掴み引き寄せ顔に手を近付けると衝撃波を与えた。1度ではなく、何度も何度も繰り返し衝撃波を与えるその姿に麗子は何枚もの札を出し男へと向かって札を投げ付けると、札は麗子の意思を読み取ったのか男の周りに浮かぶ。



「爆発」



麗子の言葉に従うように凄まじい爆発音が辺りに響く。音は住人には聞こえない。何故かと問われればそれは簡単。麗子は辺りに結界を張っており、その結果は外から姿が見えなければ音も聞こえない。


これで思う存分やれるわね。



「……貴女を殺すのは悲しいです、とても…ね」



男の瞳には微かに悲しみの色を滲ませている。その瞳に麗子は一瞬思考が停止してしまった。…何故?そんな瞳であたしを見つめるの?ああ、しまった。――――そう思った時にはもう遅かった。目の前には男の姿と先程までの悲しみの色は既に無く、殺意しか感じられない。札を取り出そうとしたが目の前が真っ暗になると同時に体に痛みが走る。

だが衝撃波の痛みではない。地面にそのまま倒れたのだ、まるで何かが自分に覆い被さる様に。



「まだ…っ、僕も、い……るんだけ、ど?」



慎二の優しげな瞳は鋭く、しかし表情とは似合わない体の傷、出血に麗子は泣きそうになった。昔も彼はこうして血だらけになってでもあたしをこうして守ってくれていた、そう思えば思う程大日女の血を恨みそうになった。…だがそれは昔の話。

ゆっりと立ち上がると傷だらけの慎二の隣に立つ。



「慎二くんばっかりかっこつけないでよ?あたしだってかっこいいとこ見せちゃうんだから!」


「ほんと逞しいなあ…麗子ちゃん」


「ええ、慎二くん」



同時に二人は男へと向かって行く。口角を上げ嘲笑うと衝突音と共に煙に包まれた。







――――――――――――――――――

――――――――――

――――






静寂が辺りを包んでいる。麗子は薄く瞼を開くが、瞼は重たい。体は痛みのせいで動きもしない。…月が、綺麗。ぼんやりとした意識の中で隣で同じように地面に転がる慎二の手を力無く、握ったが暖かい温もりは徐々に消えていってしまっている。


……………ああ、あたし達死ぬのね。



天芽、ごめんね。一人にして。何も言わなくて、隠して、あなたに全て背負わせるかもしれないのに。出来れば遠く、遠く誰の手も届かない所へ行って、大日女だなんて縛られない人生を歩んでほしかった。でもね、悪い事ばかりじゃないの、どんなに辛くても、どんなにきつくてもね、…あなたには沢山の味方と繋がりがある。笑顔と希望さえ忘れなければ、大丈夫。でも、きっと心配なんて要らないわね、だってあたしと、慎二くんの子ですもの。……………もっと、もっと、もっと、天芽と生きていたかった、覚悟してたなんて、覚悟なんて出来ない。我が子と離れるのが、こんなに辛いなんてね、大丈夫…ええ、大丈夫よ。






「あまめ…………あい、し…て、る…………」





慎二くん、逝きましょう。





「死に行くあなた達には言っておかなければなりませんね、私の名は黒夜(こくや)。…って言っても、もう、死んだのか」




麗子も慎二も閉じられた瞳からは涙が零れ落ちている。そんな二人を無表情で見つめるが、麗子を見る瞳はどこか悲しげだった。




「これで、貴女に、会えますね…大日女様」






2つの神の命が消えし今、始まろうとしていた。






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