断定マシン
誰もいない裁判所第三法廷、監視カメラとモニター以外何もない打ち出しコンクリートの小部屋の中央で、一人の男が両の手に手錠を掛け立っている。
ふいに、耳につくがさがさした機械音が鳴り響く。
―――判決、死刑を言い渡す
数秒後、男の立っている床が開き、男は処理された。
微かな駆動音が響き、床が元に戻る。
一分ほどすると、新たな罪人が刑務官に引っ張られ部屋に入ってきた。
刑務官は何も言わず、入ってきた鋼鉄製の扉を閉め、がちゃんと大きな音を立て鍵をかけた。
部屋に残るのは、一人の男だけであった。
―――判決、死刑を言い渡す。
機械は無情にも音を発し、罪人を床下へと落とした。
再度扉が開き、罪人を連れた刑務官が入ってっ来る。
その時、刑務官の手にしている時計がアラーム音を鳴らした。
刑務官は何も言わず、罪人を連れ再度扉をくぐり出て行ってしまった。
部屋には、モニターと監視カメラがあるだけだった。
「あー、今日もよく働いた!」
刑務官が帽子を取り、大きく体を伸ばした。
罪人は手にかけられた手錠を外し、パイプ椅子に座った。
「まったく、機械ってのは即断即決が好きなんだから。今日30回も落とされちゃいましたよ。」
コーヒー缶に口をつけ、罪人がぼやく。
隣に腰を落とした刑務官が、屈託のない笑顔で違いないねと返した。
「ま、お機械様がいらっしゃらないと、俺たちもおまんま食い上げだから、そう言うなって。」
「そちらは扉開けたり閉めたりするだけだから楽でしょうけど、こっちは落とされるんですからたまったもんじゃないですよ。」
今や、人に変わりほとんどの仕事をこなすロボットは、人と同じような感性を備えるように設計されるようになった。
数年後、原因不明なAIの故障、自壊が多くなり、国家専門チームによる原因究明の結果、複雑なAI処理の不具合、いわゆるストレスが原因であると確認された。
人間は既にほとんどの仕事をロボットに移行済みであり、ロボットの破棄は認められなかった。
そして、人間は考えた。
ストレスが溜まるのならば、発散させればよいと。
人間のような食欲や性欲はなく、知識欲も持ち前のインターネットで満足をさせてしまうロボットに最も有効だったのは、本来の意味ではロボットの仕事ではない、決定をさせることであった。
ゆえに、人はロボットに決定をさせる機械の為の娯楽施設、断定館できあがった。
「しかし、いっつも思うんですよ。」
罪人の問いかけに、刑務官は何がだと返した。
「人間は、自分が働きたくないからロボットを作ったじゃないですか。でも、今僕らはこんなテーマパークで働いている。他の奴らも同じようなものです。結局、働かせるものの為に働いて、これって意味があったのかなあと。」
「知らないね。でもまあ、必要なら行わなければならない。それは変わらん心理だろうな。」
「なるほどなー。」
二人は時計を見た。
時間は18時過ぎ、外はもう暗い。
いそいそと準備し、二人は建物を出て鍵を閉める。
スタッフの通用口でロボットに鍵を預け、道路を歩いていると、何体もの掃除ロボットがアスファルトをピカピカに磨いていた。
二人は何も言わず、ピカピカとネオンが光る居住区へと歩くのであった。




