こんにちわ、筋肉再び
「フェリーーー!帰ったぞーーーー!」
だから、だろうか。今聞こえた声を夢だと思いたかったし、認めたくなかった。
今きこえたであろう声はまさしく僕を一発OKに追い込んだ筋肉の悪魔であろうことはなんとなくわかった。
確かに今僕は人生最高の時を迎えていた。
しかし、悪魔にとってはまさに歓喜。いや、狂喜の時間であろうか。その本領を発揮するのにこれほどまでに整っているステージはないであろう。
思わずフェリさんも固まり、僕も死んだ様な目になりドアから入ってきた人物をうっすらと、しっかりと確認したのであった。
目が合った。
悪魔と目が合った。
悪魔、デーモン、デビル。
130cmのゴブリンとは比較にならないほどの身長。覇気。筋肉。
そんな体格である筋肉の悪魔が僕をしっかりととらえた。
うえから下までしっかりと捕らえた。
もちろん今僕が置かれている状況もしっかりと把握しているだろう。
悪魔が舌なめずりをしている・・・・
いや、筋肉が痙攣をおこしている。
僕の息子は早々にキュっと身を小さくし身を守る体勢に入っている。
悪魔が口を開き、その口から思わず噴火しそうな火山の湯気がでるんじゃないだろうか。という疑問を感じながら、しっかりと。
しっかりと。一言一句見逃すまいと目を見開いた。
もしかしたら、もしかしたら僕をこんな状況に追い込んだ自分に負い目を感じて少しは優しい寛大な対応をしてくれるかもしれない。
まだだ、まだあきらめるな。
まだ終わっちゃいない。
「・・・・・・」
「てめぇ、覚悟はできてんだろうな?」
神は死んだ。
男には、やらなければならないときがある。
それが例え無謀だと罵られようとも、己を貫かなくてはならないときがある。
そこには譲れないものがあるから。
それは客観的にみたら「くだらない」と一脚されてしまうかもしれない。
それでも構わない。一向に構わない。
いつから人間は「我慢」で自分を抑制するようになってしまったのだろうか。
大人は口を揃えてみな同じことを言う「社会は甘くない」と。
健には「社会」というものはよく分からないが、はたしてそれは自分らしく生きることができているのだろうか。と疑問を感えない。
健のこの思想は、まだ若いから。これから社会を知っていくとそうはいかない。と思われるかもしれない。
しかし、それでもいい。いくら罵られようが、蔑まれる目でみられようが健は戦う。
そこに男、いや、「漢」であるために必要なものが待っているから。
負けることは許されない。
決して許されない。
覚悟を決めて相手を直視する。
ソイツは、漢になるための壁である。壊さなければならない。超えなければならない。
自分の状態をしっかりと確認する。やれるか?僕はまだ戦うことができるか?
自分に言い聞かせながらしっかりと、確認するように拳を握る。
いける、俺はまだ戦える。
繰り返そう。漢にはやらなければならないときがある。
それが今である。
「うぉぉぉぉぉぉぉ」
健は治療中の体にムチを打ち、勢い良く駆け出した。
その拳にすべてを賭けて・・・
一発
一発で良い。
しっかりと顎を捉えることができれば勝機があるはずだ。
そう自分を信じて全体重を乗せて拳を振り切った。
その拳はプロの挌闘家からすればまさに「ハエが止まれる」といわれてしまうほどに滑稽だったかもしれない。
しかし、壁は避けない。
避ける必要が無い。と言わんばかりに不動な体勢で待ち構えている。
そのことに健は余計に腹を立て、まさに全力の一撃を放ったのであった。
顎を捉えればなんとかなる?そう思っていた時期が僕にもありました。と思わず弱気になってしまいそうになるほど壁は健の拳を受けても微動だにせず。変わらず射殺さんとする目を健にむけている。
まだだ!
まだおわっちゃいない!
拳はまだ握れる。
健は闘気をみなぎらせ、あらん限りの暴力を解き放った。
殴る
蹴る。
ひたすらに威力だけを考え殴る。
大振りになるのも構わずに殴る。
棒立ちのサンドバッグを殴るように、ただひたすらに全体重を乗せた一撃一撃を解き放っていった。
「ハァ・・・ハァ・・・・」
10分ほどだろうか・・・?殴り続けていた健の体は体力の限界を訴え、その嵐を止めた。
疲労困憊、だせるものはすべて出し切った。
思い残すことはもうなにもない。
健はどこかスッキリとした面持ちを壁へと向けた。「どうだ」と言わんばかりに見上げた。「効いただろ?」と見上げた。
そこには、悪魔が立っていた。
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