こんにちわ、女神様
「う、こ、ここは・・・?」
健は目を覚ますと、体全体が鋭い痛みを発していることに顔をしかめ、そっと上半身をもちあげた。
「・・・・・」
「や、やぁ、そっちは大丈夫だった・・?」
目の前には自分をジッとみている銀髪のいつもとかわらない少女がいた。
寝起きにジッとみられていたせいかドキリとしながら話しかけたが、相変わらずの無反応に少しホッとしながら、周囲を見渡すと
「物は少ないけどきれいな部屋だな・・・花の香りかな?それにゴブリンにやられた傷が手当てされてる・・」
白いベッドに木造の室内。花の良い香りがすることからとても癒される部屋であった。
「なんだかやっと落ち着けたな・・・とりあえずここがどこなのかを確認したいところだ。まぁ、あのゴブリンみたいのがいたことからだいたいは分かっているけど・・」
そう、ここは間違いなく異世界であろうことは明白であった。少なくとも地球上であのような生物を見たこともないし、聞いたことも無い。
そう、ゲームやアニメの世界を除いて・・・だが。
ここが異世界であることはなんとなくはわかったが。いったいどうして?なにがおこって?ということは全くの謎であった。
「なにか変わったこと。といえば・・・・この子だよな・・・」
銀色の少女にそっと視線を向け。大きくため息をつくのだった。
「あら、目が覚めた?」
声のほうをむくと先ほどの栗色の髪の毛の女性が立っていた。
健より少し年上だろうか?大人びてはいるが無邪気な雰囲気がとりきれていないその女性は健に「具合はどう?」と引き続き話しかけるのであった。
「あ、はい。首がちょっと痛いですけど、手当てもしてもらったおかげが大分楽です」
「あぁ、首ね。ちょっとおかしい角度に曲がったものね・・」
少し申し訳なさそうな顔をしたが
「私はフィリ、貴方の名前は?」
スッキリと切り替えた。健はそのことに『ちょっとおかしい角度』じゃないだろ。人間の首はあんなふうに曲がりません。と納得いかなかったが
「ツヨシです。あのここは・・・・?」
あれは夢だったんだ。と自分に言い聞かせて返したのだった。
「ここはボスキュエ村よ、その村の中にある一軒家とでもいえばいいのかしら。
ここでは私とお父さんの二人暮らしをしているわ。
それより貴方!ツヨシ君だっけ?!なんで川からでてきたのよ!
すっごくびっくりしたんだからね!モンスターかと思ったわ!」
「え、いや、その・・・森で迷って・・・モンスターにおわれて・・・」
「モンスターにおわれた?貴方『一般人』よね?良く無事だったわね・・・」
全くびっくりしたわー。と話をしていたがいったん区切り、「それで、その・・」と
少し気まずそうに銀髪の少女に視線を向けたのだった。
「この子はなんなのかしら・・・?貴方が意識を失って此処まで運んでるときも黙ってついてきて。話しかけても無反応だし・・ずっとそこで貴方を看病?みていたのよ。」
「いえ、僕にもちょっとよくわからないですけど・・・なんだか懐かれてる?んですかね・・・」
とお互いに苦笑いをし合うのだった。
そのまま少し世間話をしていると、この世界には魔法を使うことができる人がいる。らしいということ、冒険者という職業が存在しギルドで仕事をうけることができるということがわかった。
そう、異世界といったらまず確認しなければならないことは魔法が使うことができるか、冒険者、ギルドがあるか?がとても重要である。なぜか?ロマンがあるからだ!
いやいや、違う。ふざけている場合ではない。今回はゴブリンからは生き残ることはできたが
これからも生き続けることができるのか?
又は生き残る必要があるのか?という疑問があがって来た。
生きるということにはいくつか種類があると思う。ツヨシの場合は悲しむ人がいるからが主な理由だったと言えるであろう。
悲しむ家族がいるから。
悲しむ友人がいるから。
そんな家族と、友人と、パソコンと過ごしている時間が楽しかったのであって、おそらく異世界である此処には・・
いや、今フェリさんの話を聞いてハッキリと確信した。ここは自分が住んでいた世界ではないのだと。ここに迷い込んだ理由は分からないが、『おそらく』はこの銀髪の少女が関係しているだろうと当たりをつけてはいるが、コミュニケーションがとれない現状ではこの疑問を確認することもできない。
そんな世界で健が必死になって生きていく意味があるのだろうか?
たしかに魔法。ギルドといったら胸は躍る。使ってみたいとも思うし、行ってみたい。冒険してみたいとも思う。
しかし、仮に魔法を使えるようになり、冒険やギルドの依頼を受けるとなったときにはまたあのゴブリンと、又はもっと極悪なナニカと対峙しなければならないのだろうか?
ここの世界の魔法というものが創造できないので地球の武器であるマシンガンや日本刀などを所持していたら対峙できるであろうか?
健はハッキリと言うだろう、嫌だ。と。
それほどまでに怖かった。
明確な殺意を持って自分を殺せんとするその姿はたとえ130cmの小さな姿だったとしても恐怖の対象にしかならず、まさしく悪魔だった。
マシンガンがあれば『アレ』と対峙して無双できる?いやいやありえない。
一瞬でも
ほんの一瞬でも気をぬいたらその瞬間に殺される。
殺さなければ殺される。
そんな命のやり取りをだれが好き好んでやるのだろうか。「今からマシンガンやるから戦争してこい」といわれて、戦場に送られるのと同義であるとおもった。とても正気の沙汰じゃない。ありえない。嫌だ。では、生きていく意味はあるのだろうか?
「多分無いのだろう思う。」
多分、というのをつけたのは、意図していった事ではない。意図して言った事では決して無いが納得がいかなかった。なぜこんな目にあわなければならないのか・・
たしかに悪いこともしていたし、社会からは蔑まれる目でみられていた時期もあった。しかし、それを含めて「青春であった」と今後も地球で生きていくことは分かっていた。気付かないうちに当たり前だとおもっていた。生きていけることが当たり前で、生きることが当たり前だと思っていた。
「どうしてだよ」
少し怒気をはらんだその言葉に
「大丈夫?怖かったのね?」
とフェリさんが気遣ってくれ思わず目頭が熱くなった。
「もう男の子でしょう!メソメソしないの!
とりあえずスープでも持ってくるからまってなさい。」
「はい・・」
弱弱しく返すことしかできなかった。
あぁ、情けない。自分が情けない。
怒りのあとに急激な空しさが自分を襲い、なんともいえない気分になりながら思いつめていると。
スープを持ってきたフェリさんが
「はい、もってきたわよ。あぁ、片腕そんな怪我じゃ自分じゃ食べれないわよね・・・」
「はい、あ~ん」
という言葉で一瞬でナイーブな感情はどこかに吹っ飛んでいった。
え・・・・・・?
いいんですか?
いいんですよね?
これって噂に聞く彼氏と彼女がイチャイチャとちちくりながらやる食事方法の、「はい、あ~ん」ですよね?
本当にいいんですか?
僕、イケメンじゃないと思うんですけど本当にいいんですか?
いや、お腹は空いてるし、貴方のそうなキレイな年上の女性に食べさせてもらうことができるのなら喜んで食べさせていただきますけど・・
なんだかとてもいけないことをしているような錯覚、いや妄想が襲ってくる。
しかし、たべたい。この機会をのがしたらもう一生ないかもしれない。
どうする。
どうすればいい。
そんなふうに考えていると「どうしたの?」という視線を向けられて「はい!いただきます!」と言わない男子がはたしているであろうか。
いたとしてもかまわない、僕はかまわない。僕は食べる。絶対に食べる!
「あぁ、生きてて良かった・・・・」
思わずしみじみと呟いてしまい、フェリさんが「おおげさね」と口元を隠しながら笑うので、恥ずかしくなり俯いてしまった。
「ほら、この女の子にも上げたいから、早く食べちゃいましょう?
はい、あ~ん」
引き続き食べさせてくれるフェリさんをみて
女神か・・・・と思いながら、二口目をたべたのであった。
あぁ、生きてて良かった。
さっきはあんなことおもったけど、こんなことをしてもらうことができるのなら僕は冒険に行きゴブリンと対峙してでも、こんな世界でも立派で生きていける気がするよ・・・
神様、ありがとう。
ほんとうにありがとう。
今まで「神なんていねぇよ」と散々けなしてきたがすべて謝りたいと思います。
こんな祝福の時をくれてありがとう。
健は歓喜のあまり「ありがとう、ありがとう。」と繰り返しながら涙を流しそうになるのを堪えながら、一口一口をしっかりと味わってたべるのであった。
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