こんにちわ、筋肉
お母さんへ
お元気ですか?僕は今、逃走劇という名の生死のやり取りを繰り広げています。貴方の息子はこんな元気に走り回ることが出来ています。子供の頃から落ち着きが無かった僕ですがこんなに元気に育つことができました。お母様のおかげです。
自分の死ぬ間際の感情を汲み取り、育ててくれた家族の顔が頭に浮かび、感謝の言葉が駆け巡ったが
「あぁ、くそ!あきらめるな!こんなこと考えてる場合じゃない!」
なぜ今こんなことを思ったのだろう。
なぜ?なぜだろう。そんな言葉が頭の中で何度も反響しているが
「くそっ、さっきより増えてないか・・?!」
背後からは10匹は優にこえるであろうゴブリンが追ってきていることが現実へと戻す。
足を止めることなく走り続けてはいるが、左肩には少女を背負っていることもあり。全力疾走時のスピード、体力の消費は急激に失われつつあるのだった。
幸いなことにゴブリンの足は現状の健に追いつくほどの足の速さではなく、かといって離せる速度でもなかった。
「このままだと時間の問題だな・・」
そう、今は『まだ』勢いで走り出したがためにまだ体が疲れを感じてはいない。
しかし、このままでは体が疲労を自覚したときが健と少女の最後であることは明白であった。
少女を捨てればいいのではないか?そうすればゴブリンの集団は少女に喰らい付き、時間を少しは稼ぐことができるであろうし、健一人なら逃げ切ることができる確立が少しはあがるかもしれない。
そうゆう思想が頭を過ぎってしまうのも仕方が無いことであると思う。人間は生死の境に落ちいると本性を表す。とはよくいったものだ。
それは健の性格故であるのか、又は日本人としての性であるか。ということははっきりとは不明であるが少なくともまだ余裕のある健は少女をそのようにするつもりは無いようであった。
たとえ頭に過ぎったとしても、『まだ』実行するにはいたっていないのである。
ただ問題はいつまでその誘惑に打ち勝つことができるのか。
又は誘惑以前に捕まってしまうのかもしれない。
今のままでは誘惑に打ち負けるよりも先に、体力が尽きる。ゴブリンに追いつかれる。というほうが濃厚であるが・・・。
「んもぉーやばい、んもぉーやばいよ。足がガックガクになってきた・・・
もういっそのこと僕がここで勇敢に立ち向かってこの子だけでも逃げてもらうか?」
この選択肢も先ほどから脳裏に流れてはいたが。実行するには見逃すことができない不安要素があった。
「けどこの子に言葉が通じていなかった場合だ・・・」
健が勇敢に立ち向かったはいいが、少女が健の意図を汲み取ることが出来ずに、立ち止まってしまった場合だ。それでは晴れて二人そろってゴブリンの餌となってしまうであろう。
そんなときだからこそ先が崖であることに少しばかりの希望を抱いてしまった。
「下は川か?!飛び込めるか・・?!」
走っていたスピードを落とし、崖に近づき下を見た
「た、たかいんですけど・・・」
少しばかり高い崖であった。たしかに下には川が流れていることも確認できるが、崖の上から確認していることもあり、本来よりも川が小さく見えることから恐怖を仰ぎ、思わず足をとめてしまう。
この川に飛び込むことは果たしてできるのだろうか?いや、それ以前に自分は1歩踏み出してとぶことができるのだろうか?という疑問が頭をかき乱していく。
飛び込む「だけ」であるなら可能であるだろう。
しかし、現在右腕がゴブリンに噛まれた傷口からの出血。自分が地面を殴ったときに出来た出血という負傷している状態。この両足の疲労困憊状態。なにより彼女が泳ぐことが可能か不明なので抱えて泳ぐことも考慮しなければならない。岸までたどり着かなければならない。はたしてそれは可能なのだろうか?
分からない。いや、無謀であろうことはよく分かった。とても正気の沙汰であると
は思える行為ではなかった。
「ウンガァァァァァ!」
ゴブリンが背後から殺してやるといったように声をあらげてきている。
そのことでいっさいの思考をやめ、健は崖から少し離れ、助走をつけて飛び込むのであった。
「やっ、ほおぉぉぉぃ!」
恐怖をかき消すために楽しくなりそうな声を出したがいいが、恐怖のあまり声が震えてしまっていた。
「考えたらこの川深いのかな・・?深いよね?深いよね?」
少女をしっかりと抱きながら目を閉じて着水するのであった。
岸から死神が上がってきた・・・
いや、訂正しよう。それは健であったが、顔がとても精気に満ち溢れている表情とはいえず、まさにこれから死の世界へと誘ってくれるであろう死相を浮かべた表情であった。
「もぉ2度とこんなことやらねーぞ!絶対に!絶対にだ!溺れて死ぬかと思ったわ!」クソ!ふざけんな!などと声を荒げながら、ビチャビチャと音を立てながら健は少女をかかえながら無事?に岸へとたどり着いた。
川に着水しても案の定少女は川の中に入っても特に反応を示さず、それが項を評したのか援助はしやすかった。
しかし、だからといって、健に負担がなかったといえばそうではなく、とても負担がかかっていた。右腕は思うように動かせないし、両足も思うようには動いてはくれなかった。
ただ、思うように動かすことができなかった、のであって動かせなかったわけではないので、なんとか、なんとか岸にたどり着いたのであった。
「もう疲れたよ・・少し転がって休憩し「キャッァァァァァァァ!」?!?!」
ため息をつき腰を下ろそうとしたときにすべてをかき消すように女性であろう叫び声が鳴り響いた。
そっと視線を向けるとそこには、川で洗濯?をしていたと予想される髪の毛が栗色の女性が口元を覆い隠し、目を見開きながら此方を凝視していた。
「だ、だれかー!だれかー!」
と叫びながら走り去っていく様子を健はただ呆然とながめていることしかできなかった。
「川で洗濯をしていたら、半裸で片腕を真っ赤に染めてもう片方の手では少女を抱えている男性が川から出てきた。うん正常な反応だ。僕でも叫ぶな・・・」
うんうん、と唸りながらこれからどうしよう。と途方にくれるのであった。
とりあえず地面に転がり小休止していると、地面を伝って誰かが近寄ってくるのを感じた。
「お父さん!お父さんみて!モンスターよ!」
「おう!どこだ!ぶん殴ってぶっ殺してやる!」
・・・・なにやらとても物騒なセリフが聞こえました。
立ち上がってみてみると・・・
それはそれは、とても逞しい体をしたダンディーなおじさんと先ほどの栗色の髪の毛の女性がいました。
思わず貴方の筋肉のほうがモンスターです。あの、そんな腕で殴られたら本当に死んでしまうかもしれないのでやめていただけませんか。と思いながら
「モンスターじゃないです!人です!人間です!やめて!お父さんやめて!」
僕は現在残っている体力を総動員してあらん限りの大声で叫んだのだった。
するとダンディーなおじさんは僕の目の前で立ち止った。
「そうか、人間だったか・・・しかしな・・・」
「はい・・・?」
「てめぇに「お父さん」なんていわれる筋合いはないわぁぁぁ!」
「ぶへらぁぁあ」
お父さんの逞しいからだから繰り出される強烈な一撃が健の頬に突き刺さり。
思わず人形を殴ったんですか?とききたくなるような角度に首が曲がり。
飛んでいった。
「お父さん!お父さんもうやめて!しんじゃうよ!」
「うるせぇ!お前こいつとどうゆう関係だ!」
「知らないわよこんなモンスターかと見間違えるような人間!いきなり川からでてきたの!」
「お前俺に隠してこいつと付き合ってたんじゃないのか?!えぇ?!」
おい、ちょっと失礼じゃないか。間違えたのはお前だろう。
たしかにひどい状態ではあったと思うが、なにもその状態の人間を殴ることは無いだろ・・
と不満をあらわにしながら健は意識を手放したのであった。
「おい、なんかダンクさんの一人娘が男と密会してたらしいぞ?」
「そうなのか?俺はただモンスターだった、ってきいたが・・・」
「いやいや、モンスターを手手なずけてたんじゃないのか?」
いやいや、俺はこう聞いた。俺はこう聞いた。と村の住民の中では噂が広まっていた。
ここはとても小さな村であろうか。総人口100人未満。日本社会では中々お目にかかることが出来ないウッドハウスが立ち並び。村の周囲には木の柵で囲いを作り。ところどころにある高台から見張りが周囲を警戒していた。
村の大門にあたるであろう場所には「ようこそ、ボスキュエ村へ!」とかかれていた。
「それでその男だかモンスターはどうしたんだ?」
「なんかダンクさんに殴られて意識失ったらしいから今ごろ地面にキスしてるか、一人娘のフィリちゃんが介抱してるのかどちらかだな・・」
「そりゃあまぁ・・・災難なこった・・・」
「あぁ、全くだ。ダンクさんに殴られるなんて考えただけで身震いがするぜ・・」
そんな命がいくつあってもたりない様な行為はしたくないものだ。
もしも、その相手が人間で生きてたら一度顔をみてみたいな・・・
等という言葉を合図に噂をしていた男たちはちりじりになっていった。
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