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 暗がりの中、すっかり冷え込んだ夜にはやや薄い寝間着姿のテラが畳の上に正座をしている。セイはテラを注意深く観察し、テラはその視線から逃れようと顔を背け、ナノはそんな二人を見比べる。

「どうしたんだよ二人共」

 ナノは不快な静寂を払い除けるように口を開いた。

『マスター、ソーン・テラが何を言っていたのか理解できていますか?』

「そりゃあ、一緒に寝てほしいってことだろ?」

 顔を背けているテラの横髪の隙間から朱が差した頬が見える。しかし、テラは意を決したようにナノの顔を正面に据えて高ぶった感情をぶつけた。

「そうです! 私と寝てください!」

「分かったから待ってろって、今布団を用意してやるから」

「そういうことではなくて! 一緒の布団で寝てください」

 私の気持ちを全て明かしたと言わんばかりに真っ直ぐにナノを見つめるテラ。そんなテラの言葉に得心したナノ。

「なんだよ。そういうことか、いいぜ。だったらセイも一緒に寝ようぜ?」

『マスターが望まれるなら』

 崩れた文字が書かれていた。

「ナノ! あなた、やっぱりそういうつもりでこの子を侍らせているのね!」

「まぁまぁ夜にそんなうるさくするもんじゃねぇぞ。そんな興奮してたら寝れるもんも寝れなくなるぞ」

 ナノは敷布団の上で横になり、掛け布団を開いて二人を招く。

『マスター、本当にいいんですか?』

「いいぜ、俺も誰かと寝たいと思ってたところだし」

 ナノの気持ちを受け止め、初めに動いたのはセイだ。小さな身体をナノの胸に顔を埋めるようにして密着する。ナノの下腹部あたりには柔らかい膨らみが二つ押し付けられる。その二人の姿を見たテラは自分の寝間着のボタンを上から一つ、二つと外す。

「何脱いでんだよ。さっさと入れよ」

「着たままでいいんですか?」

「そりゃそうだろ」

 ナノの機嫌を損ねないようにテラは寝巻きのボタンを留め、いそいそと布団に入る。身体の大きなナノが右に、身体の小さなセイが真ん中、身体の細いテラが左。文字通り川の字で布団に入る。セイの後頭部には柔らかな膨らみが押し付けられる。

「俺もこんな寒い時は母さんと一緒に寝たもんだよ」

 ナノの胸の中にいるセイはピクリと動き、ナノと向かい合っているテラの目は冷たい何かが宿った。

『マスター、質問をしてもいいですか?』

「なんだ、質問って」

『マスターは赤ちゃんがどうやって産まれるか知ってますか?』

「それぐらい知ってるぜ。母さんの腹を割って出るんだろ」

「ナノ、赤ちゃんはどうやってお母様のお腹の中に宿るか知ってますか?」

「そりゃあ神様が母さんのお腹に俺を入れたんだろ? ほら神から授かるっていうじゃんか」

「子供を授かるにはお父様がいるはずですが……」

「そんなわけねぇだろ。俺に父さんはいないけど俺は産まれたぜ」

「……」

 無言のテラと文字を書く事を放棄したセイは頑なに張った身体の緊張を解いた。

「あなたは言葉を言葉通りに受け取る人なんですね」

 小さな呟きは誰の耳にも届かない。月明かりに照らされたテラの髪は艶やかに光り、褐色の肌は扇情的な雰囲気を纏わせ、自然に笑みを浮かべていた。そして、テラは自分が抱いていた覚悟の滑稽さと、ナノが思った以上に素朴で、朗らかで、自身のことを女性として見ていないことが分かった。

「気が変わったわ。やっぱり女子寮に戻るわね」

 布団から出るテラ。

『送ります』

 セイも布団から這い出る。

「じゃあ、俺も送るよ」

『いえ、マスターは寝ていてください。明日も早いですから』

「そっか、それもそうだよな。じゃあ、テラのこと送ってやってくれ」

『任せてください』


 男子寮をテラとセイの二人が出る。夜も更け、月明かりだけが二人を照らす。

「ここでいいわ。あなたも戻りなさい」

『ソーン・テラ。どういうつもりですか』

「どういうつもりって何のことかしら?」

『私はマスターと違って、先程のやり取りの意味は分かっています』

「あら、分かってるのなら聞かないで」

『そういうことではありません。何故、マスターに接触を試みたんですか。あなたはマスターと敵対していたはずです』

「私にも事情があるのよ。ナノに近付くにはあなたにも言っておく必要があるでしょうし」

『なんですか』

「私はナノを婿として迎え、ナノの子供を孕まなければいけない」

 直接的な言葉をセイにぶつける。それは遠回しな言葉ではなく言葉通りの意味、意思、義務。

『なぜ、マスターを』

「簡単な事よ。魔力を持つ女と男が交わればその子供は優れた魔女になり得る素質を持つ。あなたも戦士ならこの意味が分かるでしょ?」

『あなたはマスターに好意を抱いているんですか』

「あら、好意がないと夫婦になれないなんて随分と純情なのね」

『はぐらかさないでください』

「別にはぐらかすつもりはないわ。私は求められたから応える。ただそれだけよ」

『マスターはあなたを求めてなどいない』

「……」

 不敵な笑みを浮かべるテラ。まるで履き違えた靴のまま舞台に立つ滑稽な道化を見るような目をセイに向けていた。

『なにがおかしいのです』

「なんでもないわ。せいぜい今のマスターと仲良くすることね」

 テラは女子寮へと足先を向ける。

(まさか、ソーン・テラは……)

 セイの胸中には暗く靄がかかったわだかまりが沈殿した。

 

 翌日、普段より眠りにつくのが遅かったナノは少しだけ寝過ごして食卓につく。寝ぼけているせいか朝食の味付けがあまり分からない。そして、ゼプトとセイのナノに対する態度が少しだけ変わっていた。しかし、ナノの母親のアンも時折、不機嫌になったり料理の味付けが少し変わったりすることもあったため、ゼプトやセイにもそういう時期があるのだろうと結論づけた。

 二日目は音魔術の授業。いつもの教室にいつも通りナノとシャノンの二人が最後に現れ授業が始まる。今日はデシベルが教鞭を振るう日だ。

「今日の授業は音というものについて学びましょう。まず、音とはなんでしょうか? 音は何かが衝突したり、叩いたり、強く引っ張った紐を弾いても音は鳴ります。紐を引っ張る力の強さで音の高低も変わります。音とは大気を振動させることで発生する波のことを指し、これを音波と言います。この音波を操ることが音魔術になります。実際にやってみましょう。sáund/sound」

 デシベルは音の概要の説明の後、杖を抜き詠唱する。すると教室にいる者全員がやや高いキーンとした音が聞こえる。

「これがサウンド、単音を発する魔術です。実戦では相手に詠唱を聞かれたくない場合や相手の会話を妨害することが主な使い方ですが、更に大きな音を発生させることで相手の鼓膜を破ったり、昏倒させることも可能です。ただし、そこまで強い音を出す場合、自分や味方を巻き込むことも忘れないでください。では実際にサウンドの魔術を使ってみてください」

 音を発するだけの魔術のため演習場に向かわず、教室内で思ったとおりに魔術を使う。一番音魔術が上手かったのはテラ。得意気にしているテラは昨日と比べると表情が柔らかく明るい印象をナノは受けた。

 テラの次に上手いのがマイ。慣れれば複数の音が出せるようで高い音や低い音を任意に操っていた。その次に上手いのがパスカル。基本となる力学魔術や適正のある熱魔術以外は苦手なようで一つの音を出すのが限界のようで、音の大きさを一定に保つことにも苦戦していた。その次がミリア。ナノの前で一度、サイレントの魔術を使っているため、使えないということはないだろうが、音を出すことは不得手のようでパスカル以上に音を保つことに苦戦をしていた。そして、ナノはサウンドの魔術を使えていなかった。

「ナノ君。どう? できないかしら?」

「sáund/sound」

 ナノが唱えても音は出ない。

「どうしてかしら……」

「俺の発音が悪いとか?」

「発音は大丈夫よ。……たぶん、ナノ君の魔素の力の傾向が強すぎるせいだと思うわ」

「そうなのか?」

「あまりに一つの系統に集中しすぎると他の系統が拙くなるの。天は二物を与えずってことかもしれないわね」

「じゃあ俺はどうすればいいんですか?」

「ナノ君の魔素が力に寄り過ぎてるなら魔素の性質を変化させて音に適した魔素にすればいいのよ」

「そんなことができるのか?」

「方法は色々とあるけど、一番手っ取り早いのは杖を変えることかしら」

「そんなことで簡単にできるのか?」

「できるわ。そもそも魔術を使うために何故杖が必要なのか分かるかしら?」

「そういえば、なんでだろう」

「じゃあ、そこらへんも踏まえて説明するわね。昔は魔術を使うのに杖なんて必要なかったのよ。杖を使わなくても魔術を発動するための器官があったの。それが第六器官シックスオルガン。ほら時々、第六感シックスセンスなんて言葉を聞かないかしら? それが第六器官シックスオルガンが退化した残滓になるの。だから、第六器官の代わりに杖を使うの」

「なるほど」

「魔素を溜め込む能力もこの第六器官の仕事の一つよ。例えるならそうね……水を汲むことができない井戸ってところかしら。それで杖が釣瓶」

「ああ、納得した」

「他には音の系統の魔素を持つ者の身体の一部、例えば爪や髪や血を媒介にして魔術を行使することもできるわ」

「ってことは、テラの髪とか爪があればいいのか?」

「具体的に言えばそうなるわね。そういった媒介を特殊な溶液に漬けて溶かすと魔素を蓄えた薬になるの。それが魔薬と呼ばれるものよ。結構高値で取引されてるわ」

「俺の髪とか爪とか血も?」

「そうね。かなりの高値が付くはずよ。髪の一房で一万エルグぐらいかしら」

「そんなにするのか……」

 米の値段が一○キログラムで二○○エルグ程。逆算すれば髪の一房で五○○キログラム相当の米が手に入る計算だ。

「それだけ髪は貴重ってことよ。ナノ君も髪や爪が伸びたら切って溶液に混ぜるといいわ。いざという時に役立つかもしれないわ」

「そっか、今度からそうするか。そういえば、テラとかマイは髪を長く伸ばしてるけどそれも関係してるのか?」

「そうね。髪は長ければ長いほど力を持つからそういった考えで伸ばしているかもしれないわね」

「ミリアとかパスカルは?」

「ミリアさんは機械弄りの邪魔だからって短めにしているわね。パスカルさんは料理の邪魔になるからって片側だけ伸ばして、片側は短くしているらしいわよ。ケルビン先生がそう言ってたもの」

「へぇー……。じゃあ先生達が髪を伸ばしてるのもそういった理由なのか」

「そうよ」

 シャノンがそう答えたところでサウンドの魔術の練習が終わった。シャノンは新しい杖を持ってくることをナノと約束して一度離れた。そして教壇に再びデシベルが立つ。

「さて、音魔術に実際触れてみてどう感じましたか? 一口に音と言っても大きい、小さい、高い、低いと色々な音が出せます。人間の知覚の八割が視覚、一割が聴覚と言われています。その一割を削ぐとどうなると思いますか?」

 テラが手を上げる。

「はい、テラ」

「聴覚を失った人間は視覚に頼り、戦闘において与しやすくなります」

「そうですね。聴覚は周囲全てを知覚するのに対し、視覚は前方のみです。よって死角からの攻撃には脆くなります。あるいは声や足音を任意に発生することができれば、相手は正しい情報得ることはできず、敵は焦り、背後を取ることが容易となります」

 ナノがシャノンと戦ったときも確かに背後を取られ、喉元を簡単に晒したことを思い出す。

「音魔術には基本となるサウンドの魔術、任意の場所に声を伝えるボイスの魔術、任意の場所に足音を発生させるフットステップ。そして、音魔術を学ぶ先にはこんな魔術も使えます」

そういってデシベルはガラスのグラスを取り出す。

「réznəns/resonance」

 一定の音が発せられる。グラスはピシリと亀裂音を上げ、パリンと割れた。

「これは共振と呼ばれる現象です。このように音だけで物体を破壊することができるようにもなります。音魔術は直接的な攻撃力こそ乏しいですが戦闘を補佐する魔術としては優れています。皆さんも音魔術を使えるように頑張ってください」

 そうしてデシベルは教壇を降りた。昼まではサウンドの魔術を使いこなして、午後からは他の魔術にも挑戦するとのこと。

結局、ナノは午前中には一度もサウンドの魔術を使うことができず、昼食の時にはパスカルから何故できないのだとからかわれた。そして、ナノ、パスカル、マイ、ミリアの四人が卓を囲む中にテラが突然割って入る。

「ここ、いいかしら?」

「いいぜ、入れよ」

「ありがとう」

「あれれ? テラちゃんもナノとお喋りしたいのかな?」

「そうね。昨日の夜、もっとナノのことが話したい、知りたいと思ったわ」

 牽制。

「……昨日の夜、何かあったのかしら?」

「テラが昨日の夜、俺のとこに来たんだよ」

 貴族のお嬢様達は食事中にも関わらず口を開けていてはしたない。

「それはどういうことなの?」

「なんか一緒に寝てくれって言われてさ。昨日は寒かったし良いぜって言ったんだけどさ、テラが気が変わったとか言って帰ってんたんだよ。結局、セイも自分の布団に戻るし」

「あら、あの子戻ったの」

 テラが意外そうに言う。

「まぁな」

「そんなことより、ナノ! お前どういうつもりだよ!」

 いつもなら会話より食事を優先させるパスカルがくってかかる。

「どういうつもりって寒かったから一緒に寝ようとしただけだよ。よく母さんと一緒に寝てたからな」

「……本気で言ってるの?」

マイは珍しく少しだけ刺のある口調で訊く。

「俺は嘘は言わん」

「嘘とかそういうことじゃなくて……」

 どう言ったもんかと眉を顰めるマイ。

「みんな、怖いの……」

 周囲の空気の揺らめきに敏感なミリアは小声でナノに囁く。

「ほらほら、ミリアが怖がってるじゃんか。それよりさ、今度の街の調査のことなんだけどさ、皆は何か知らない?」

「うーん、うちは知らないの。休みの日は機械弄りばっかりしてるから」

「……私は学園の外に出てないから噂には詳しくないわね」

「あたしは少しだけ聞いてるな。奇妙な格好って皆は言ってるけど、実際は顔面を真っ白に化粧してるんだよ。だから、素顔を見た奴がいなくてさ、それで犯人特定を難しくしてるらしいよ」

「白い化粧かー」

「私が街の知人から聞いた話だと、奇妙な音の正体って弦楽器や打楽器や管楽器が単調で不気味に繰り返す音楽らしいわ」

「ってことは仲間がいるってことになるのか?」

「でも、楽器を持ってったらおかしいって皆が思うと思うの」

 ミリアの答えにナノは確かにそうだと思う。

「……だとするとその奇妙な音楽って魔術によるものじゃないかしら? ほら、デシベル先生がやっていたみたいに声とか足音とか再現ができるなら楽器だってできるんじゃないかしら?」

「ああ、確かにできそうだな。テラはどう思う? 複数の楽器を鳴らすなんてできるのか?」

「そうね……精巧な音を出すのは無理だけど、噂みたいに単調な物ならたぶんできるわ。でも、魔術を使うには杖が必要なのよ? 噂ではその犯人が杖を持ってるなんて話は聞かないわ。もし、持っているなら犯人はヴィッチということになるけれども」

「そういえば、ヴィッチってどういう存在なんだ? 悪い魔女ってことは分かったんだけどさ」

 ナノの中でふと湧いた疑問にテラが答える。

「ヴィッチは魔術によって人を傷つけ、騙し、貶める魔女のことよ。例えば、魔術で戦闘力を持たない平民を攻撃したり、魔術を奇蹟と騙って自らを神子だと信じさせたりするの」

「なるほどね。じゃあ、魔術と奇蹟ってどう違うんだ?」

 ナノの問いに答えたのはマイだ。

「……一言で言うと、魔術は起こりえることを起こす。奇蹟は起こりえないことを起こす。例えば、魔術で人を殺せるけど、人を蘇らせられない。奇蹟は人を殺せるし、人を蘇らせることもできる」

「奇蹟って凄いんだな」

「奇蹟を起こせる神様は凄いの!」

「……神様は凄い」

「あたしも神様は凄いと思うな」

「私達は神様がいるおかげで存在できるのよ」

 その四人の言葉に不思議な薄ら寒さをナノは覚えた。


 午後は演習場でもう少し規模の大きい魔術の練習をすることとなった。テラとマイが動きやすいように髪を後ろに束ね、ミリアは汚れてもいいようにと茶色のツナギを着ている。そして横一列に並ぶ学生達の前にデシベルが立つ。

「魔術の詠唱は多岐に渡るが本質は力を加える、音を鳴らす、光で照らす、熱が発生する、電気が流れる。こういった基本が根底にあります。例えば、力を加えるならフォース、光で照らすならライト、音を鳴らすならサウンド。こういった基本魔術だけで事足りるはずなのですが、魔術は無数に存在する理由は何故なのでしょう。それは基本魔術は汎用性にこそ富むものの何か一つの現象を起こそうとするには限界があるからです。実際に体験してもらいましょう。sáund/sound」

 デシベルが詠唱するとデシベルの杖先から音が聞こえる。

「では、皆さん。耳を塞いでください。塞がないと今日の授業を続けられなくなります」

 不意にデシベルが不穏な言葉を口にし、全員はデシベルの言葉に従い耳を塞ぐ。

「láud/loud sáund/sound」

 デシベルが詠唱を終えた瞬間、ナノは身体に異常をきたした。腹の底から震え、肌が強い雨に打たれたようにヒシヒシと痛み、心臓が異常な程ドクドクと脈動し、耳の奥がキリキリと痛む。それが音による働きかけだとは到底信じられない衝撃だった。デシベルは耳から手を離すようにジェスチャーを皆に送る。ナノは恐る恐る耳から手を離すと耳鳴りがしていた。デシベルが何かを話しているが、耳鳴りが酷くて聞こえない。テラは割と平気そうであり、パスカルもあまり身体に異常はなさそうだ。ミリアは少し足元がふらついており、マイは腰が抜けたようにへたりこんでいる。

暫くすると耳鳴りも徐々に収まり、マイやミリアも調子を取り戻していた。

「これが音魔術の恐ろしいところよ。音が大きい、ただそれだけのことで人は肉体的にも精神的にも負荷を受けます。さて、このような魔術に対して対処するにはどうすればいいでしょうか? テラさん」

「一つ目は反魔術を使う。例えば、サウンドに対してはサイレント。二つ目は纏う魔素を多くして干渉されにくくする。三つ目は詠唱している術者を狙い魔術を中断させる。四つ目は負荷を受けても耐えられるように肉体を鍛える」

「そのとおりです。まず一つ目は反魔術。例えば、力魔術の場合はフォースによって何かを動かそうとする。それに対する反魔術はストップ。又は右から左に向けての力の場合は左から右への力で相殺できる。これもある意味での反魔術となります。反魔術は相手の干渉力と自分の干渉力の競い合うことになるでしょう。二つ目が纏う魔素を多くする。常に纏っている魔素によって相手からの干渉を妨げる。全てを無力化できないですが、被害を減らすことができます。三つ目は詠唱している術者を狙います。術者の意識が魔術から離れれば魔術は霧散します。四つ目が肉体的に耐性を付けることです。戦士の皆さんは四つ目の方法で魔術に対抗しています。ちなみに先程の魔術による被害で皆さんの魔術に対する抵抗力が分かりました」

「そんな簡単に分かる、ですか?」

「はい。音魔術に対する抵抗力はやはり、テラさんが高いですね。次に抵抗力が高いのがパスカルさん。次がナノ。抵抗力としてはナノ以上が望ましいですね。そして次がミリアさんですね。足元がおぼつかないのは戦闘中において足でまといになります。そして一番音魔術に弱いのがマイさん。へたりこんでいては命はありませんよ」

「……はい」

「皆さんの成長は三つの要素からなります。それは才能、努力、環境の三つです。皆さんは非凡な才能を秘めています。そして、環境は私達が万全を期して整えます。あとは貴女達の努力次第だということを忘れないでください」

 デシベルは励ましなのか助言なのか、そう皆に伝え自習となった。

「ナノ君。さっき言ってた杖、貰ってきたよ」

 そういってシャノンはナノにもう一本の杖を渡す。

「これが音魔術を使える杖?」

「そうそう。稀に一つの系統が突出している人向けの杖。ちなみにミリアさんも同じ突出型らしいわよ」

「ミリアが突出型? ってことは電気魔術に特化してるのか?」

「そうらしいわよ。本人は嫌がってるみたいだけど、一つの系統の突出しているということは専門家エキスパートになれるってことでもあるの」

「そういうもんなのか」

「ええ、じゃあ実際にサウンドの音魔術を使ってみてくれるかしら?」

「分かった。sáund/sound」

 ナノが詠唱すると不安定ながらも確かに音が鳴った。低く厚い音質。獣の唸り声のような低い音が。


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