お姫様現る
ドガラガシャーンッ!
「うにゃ────────っ!?」
ある一室から聞こえた物が崩れる大きな音と少女の悲鳴(まぁ悲鳴かどうかは非常に怪しい)が長い廊下に響き渡る。
数分後、その部屋の前には人だかりが出来上がっていた。
「今日はまた一段と派手になさいましたね・・・」
人だかりをかき分け入ってきたのは、髪をきっちり結い上げお団子にしたメイド服を着た女。
「あ、ユーナ!」
そう言いながら瓦礫並みにぐちゃぐちゃになった本やら棚やらペンやら置物やらその他諸々からひょこっと少女が顔を出す。
「お怪我はございませんか?」
ユーナが呆れながらも心配の言葉をかける。それに対してエリルは嬉しそうな顔をして大きく頷いた。
「うん!かすり傷一つないよー」
ユーナはほっとしたのも束の間、今度は深々とため息をつき腰に手を当て言う。
「それはようございました。時にエリル様、勉強をなさっていたはずですよね?どうしてこのような有様になっているのでしょう?」
エリルは顎に手を当てしばし考える「振り」をする。
「勉強をしようと窓に身を乗り出したらバランスを崩して棚に倒れて・・・こうなったのかな?」
小首を傾げている少女エリルはこの国の王女である。
思春期をすぎた頃であるにも関わらず、自由奔放で言動にはまだまだ幼さが残る。
「・・・それは、勉強から逃げようとなさったと、そういうことでございますね?」
ユーナがにっこりと微笑む。それはもう見事な作り笑いで、目は笑っていない。
そんな表情で息を吸う。周りにいた者は一斉に耳を塞いだ。
「ちゃんと勉強しないと恥をかくのはエリル様だと、散々申しておりますでしょうがぁぁぁあっ!!!」
この叱責は城の外にも聞こえたという。
「で、俺が城に呼ばれたってことは・・・」
清掃依頼、だろう。
「めんどくせぇ・・・」
城に向かう途中でいろんな人と話したが、聞いた話をまとめるとなんてくだらなくて、何てだるいことだろう。
「てゆーか、依頼自体にはコート関係ねぇ」
イライラしながらこの場にいないラルフにツッコミをいれ、城の門の前立つ。
とりあえず、門番か衛兵に事情説明しないと城に入れない。
「・・・ライに会いませんように」
「俺がなんだって?トーマ?」
切実に願いながら呟いたのにその矢先に出会うとかなんて運が悪い。神様がそうしたのなら全力で殴っても許されるだろう。
「聞こえてただろ、あ、それともまさか聞こえてなかった?歳なの?ねえ歳なの、老化現象なの?」
トーマが嫌味を言うとライの額に青筋が浮かぶ。
「ほーぅ、俺を年寄り扱いか、生意気を言うようになったな、灰被り?」
言いつつ、突然襲いかかってくる。
トーマが丸腰なのに合わせて、ライは何も使わない。トーマがライから逃げ回り出すと、ライは本気で追いかける。
「このクソガキ待ちやがれ!」
「ふんっ、ヘボ衛兵に捕まってたまるかバーカ」
バタバタと走り回る二人はいい歳して何やってんだろう、というくらい、見苦しい。
思わず引くくらい、見苦しい。しかも低レベルな喧嘩。本当に見苦しい。
「さっさと頭冷やして冷静になったらどうだ?この愚弟共が」
突然背後から声が降りかかる。くるっと見て見たら、そこに立っているのは郵便屋の制服を着て小包を抱えているアルトだった。
「あ、アルト。なんだ、城に用か?」
ライがピタッと走るのをやめ問う。
「アルト兄さん、だろうが、この体力バカ?そして用が無いのにここに来るほど暇な仕事じゃないんだよ、どっかの誰かさん達みたいに走り回る暇なんてない、ほら、母さん宛に小包だ」
さらっとムカつく発言をされているにも関わらず、言い返す暇も与えず用件を告げてきたため出鼻を挫かれる。
ライは小包を受け取ると、宛先がユーナであることを確認し、渡しておく、と告げた。
「じゃ、俺はまだ配達あるからこれで。さっきみたいな見苦しいガキレベルの喧嘩は辞めておけよ?」
会話をすっと切り上げ城に背を向け、アルトはまた仕事に戻って行った。
それを見送ったあと、トーマとライは改めて向き直った。
「本題を忘れていたが、トーマは何の用だ?」
「詳しくはわかんねぇ。でも親父が母さんから依頼されたって言ってたから来た。とりあえず何らかの依頼を受けた」
かなり抽象的だが、清掃依頼かどうかはまだはっきりとしないので確実にわかっていることだけを告げる。
ライはなるほど、と頷き小包トーマに渡す。
「入城許可ついでだ。母さんのところにいくだろ?ついでに頼むよ何でも屋の“灰被り”」
いや、今は煤だらけ、か?とからから笑うライにトーマは怒ったような顔で
「余計なこと言わなきゃまともな兄貴なのにな、この下っ端衛兵は!」
と言い小包を奪い取ると逃げるが勝ちだと言わんばかりに走り去って行った。
広い城内をトーマは迷う事なく歩き続ける。
城には何度か入ったことがある他ユーナの居そうな場所に思いあたりがあるからだ。
トーマの向かっているのは中庭に面したテラス。きっとそこでエリルとお茶を飲んでいるか、部屋が使えないから勉強をしているかのどちらかだと踏んでいる。
「そういや、部屋を使えないくらいにグチャグチャにした王女はどんな奴なんだ?」
あった事の無い王女をひたすら想像するがもはや猿みたいな顔しか思い浮かばない。
「・・・まぁいいか、猿を想像してもそんなかわんないだろ」
失礼千万な発言をしていると間も無くテラスについた。
「そう、だからここをこうして・・・あら?」
ユーナはエリルに勉強を教えていたが誰かが立っていることに気づき視線をあげる。
それがトーマであることを確認すると、自分の元へ手招きをする。
それに応じてトーマはユーナの元へ行き、質問する。
「母さん、俺に依頼って?」
「その前にエリル様に挨拶挨拶」
そう言われ、めんどくさそうにした後エリルから見える位置に片膝を付く。
「お初お目にかかります、王女様。何でも屋をしております、トーマ・ミュンヘルと申します」
「たまにお話致しますが、私の一番下の息子ですわ」
トーマが淀みなく挨拶をした後にユーナはそう付け加えた。
エリルは
「トーマ?何でも屋?という事は今城下で話題の灰被りってこれ?」
目をキラキラさせトーマを見つめる。その視線にトーマか思わず引く。
「話題?」
「エリル様、これではないでしょう、この人、と言いなさいませ」
ミュンヘル母子が同時に言うとエリルは
「“常にあっちこっちで丁寧な仕事をしてみんなから好かれてる”灰被りって“この人”?」
と言い直す。終始目はキラキラー。
トーマは何と無くだがこの視線が苦手だと思った。
話題を変えるようにユーナに問う。
「で、結局俺に依頼ってなんだ?清掃依頼?」
「そう依頼しようと思ってたんだけど・・・部屋は片付いちゃったのよね。本当は昨日の夕方に来てもらう予定だったんだもの。それなのにトーマったらちっとも来ないじゃないの」
文句垂れるが、この場合非があるのは間違いなく情けないおっさんもといラルフだ。というか、部屋が片付いているなら部屋の方で勉強すれば良いものを。
「そこで、来てもらったのになにも頼まないのもなって思うん」
「いや、仕事ないなら俺帰る」
ユーナの言葉を遮りそそくさと帰ろうとするが、その行動を予期していたユーナに襟首を引っ張られ阻まれてしまった。
「仕事なら、あるわ」
「なになに、トーマはもう帰っちゃうの?」
「いいえ、エリル様トーマはまだ城にいますよ」
エリルがえーやだつまんなーいと言わんばかりで聞くとユーナはにっこりと微笑んでいた。
「エリル様、昨日思う存分遊べたら勉強するのに、とおっしゃっておられましたよね?その言葉に偽りはございませんか?」
「もちろんよ、王女に二言は無いわ」
えへんと胸を張りながら自慢するように答えるとユーナは更に笑みを深めトーマに向き直る。
「何でも屋のトーマに頼みたい事がある。今日から一週間、エリル様の遊び相手になって下さい。エリル様がやりたいと言った事は基本やる、周りに被害を及ぼす・常識の範囲内の遊びでないなどと言った場合は諌めてくださいませ」
よろしいですか?と目で問いかけながら告げる。
トーマはその視線を受け、いかに重要な仕事なのかを感じ取った。王女の遊び相手など下手をすれば処罰されかねない事態を招く。
重要過ぎて己が負うリスクが高すぎる場合トーマは絶対に仕事は受けない。そしてこの仕事はまさにトーマが仕事を受けない場合に値する。
だがこの場合、城の平穏及びこの国の評判に繋がる程の存在であるエリル。そのエリルがトーマを遊び相手に選べばトーマは完全に断る事は不可能だ。
トーマはちらりとエリルの様子を伺い、そして絶望する。
「・・・俺に、拒否権は無いな」
面倒な仕事を依頼されたものだ。
それもこれも元を辿ればラルフのせいだろう。
「・・・よし、帰ったらフルボッコだな」
ボソリとつぶやき、改めてエリルとユーナに向き直る。
「その依頼、何でも屋トーマが引き受けた」
諦念が浮かんだ投げ遣りな表情であるが、トーマはこの上なく面倒な依頼を引き受けたのだった。
こんにちは!
灰被り王子第3部ですね!
1部が短いのであまり楽しませられてないんじゃないかと思います、駄作で申し訳ない。
というか駄文で申し訳ない。
今回でほぼ役者が出そろった感がありますね・・・;この回でわかるかと思いますが王女様、めっちゃ自由人です。トーマ頑張ってください。
これを正規のシンデレラの流れに持っていくのはもう無理矢理な感じがしないでもないです。でもその流れに持っていく予定です。
全然面白くねえよこの話と思ってる方いるかもしれないんですが、もしよろしければ結末を見とどけてくださいまし。
では次回にまた会いましょう