07 第三図書館の階段下、と私。
閉じ込められた。何これ、どんなハプニングなんだ。
「・・・連絡、取れるものを持っていませんか?」
じろりと彼を睨みつつ問いかける。少し刺のある話し方になってしまったが気にしない。こうなったのは彼、抱きつき魔の生徒会長のせいなのだから。そんな彼女に彼はクスリと笑い、少し待つように一言うと彼女に背を向け歩き出した。
(どこに行くんだか)
訝しげに後ろ姿を見送るが、待てと言われたのでとりあえずその場に留まっておく。カチリ、音がした方向、真上にある時計を見上げてみると時刻は20時半を過ぎていた。
「「いつのまに・・・そんなにいたかなぁ」」
ぼやきつつ、閉館時刻を一時間近く過ぎてしまった現実にため息をつくその反面、そんなに長居をしたのかと不思議に思う。
「「早く帰らないとまた怒られ・・・あ。」」
しまった、忘れていた。両手で握りしめていた本に気づき本棚に戻す。
当初の目的はこれだったはず。まあ、これでここに来る用も無くなったのだから安心して普段の日常に戻れるはず・・・そんな事を考えつつぼんやりと本を眺めていた椎菜は、はたと気づく。
(・・・王国の秘密・・・?)
その本の題名が読めていた事に。否、読めるようになっている事に。
「「え、何で・・・?」」
読める訳ない、見たこともない字だったのだから。そう思いながらも、自然と手がもう一度本に伸びた瞬間。
「「・・・わっ」」
誰かが椎菜の後ろを駆け抜けた。
足音は軽やか。目を向ければまだまだ幼い。4、5歳くらいの少女。肩まで伸びた黒い艶のある髪を紫のリボンで一本に結び淡い色の紫紺のワンピースをふわりと靡かせ走る。
急いでいるというよりは、何かを追いかけているような。
どこかで見たような、そう感じた光景に足が自然とその少女のあとを追いかけていた。
その少女は本棚の角を曲がると、やはり何かを追いかけているのだろうか。キョロと何かを探し、見つけるとまた走り出す。髪を結ぶ紫色のリボンをひらりと揺らしながら、少女は階段を目指しているようだった。学園にふたつある図書館は三階建てだが、この第三図書館だけは二階建てである。二階に続く幅のある大きめの階段の手すりに手をかけたが、少女は階段に足をかける事はなく、その下に回った。つまりは階段下、である。
同じく椎菜も下に回ると少女の姿が見当たらず古びた本特有の匂いが強く、埃だらけの場所。
倒れない程度に両側どちらにも大量のたくさんの本が積まれていたその場所、その中にドアの取っ手を見つけ、手を掛ける。
カチャというよりもギィと錆びたような音を響かせた事に眉をひそめながら、中にそろりと足を踏み入れた。
『・・・可愛らしいお客さんね』
パタリ、本を閉じるその音と共に聞こえた声に目を向ける。椎菜はまるで自分に話しかけられているように感じた。しかし、目の前の光景には見覚えがある。・・・何故だろう。
そこにいたのは女性。肩にゆったりと白い衣をかけて、深い緑色の足まで隠すような長いワンピースを着て、椅子に深く腰をかけていた。ただ室内が少し暗いせいで、顔までは見えない。腰まであるように見える髪がサラリと揺れながらこちらを向く。
『こんな所でなにしてるの?』
まだ幼い少女が問いかける。少し幼い、その声が愛らしい。
それを聞いた女性はクスクスと肩を揺らす。光の加減だろうか、髪が蜂蜜のような色に見えた。
少女にもそう見えたのか、女性の発言よりも先に話した。
『きれい。』
『・・・え?』
『その髪、きれい』
女性がはっとしたのが分かる。動作が一瞬止まり、じっと少女を見つめた。その視線に釣らたのか、少女の足が女性に向かって歩き出す。
「「待っ・・・」」
咄嗟に発した自分の声に椎菜は最初誰の声なのか分からなかった。その声に少女が振り向くまでは。
(えっ!?)
聞こえないんじゃなかったのか。この光景の中の人々に自分の声は。
話しかけたことはないが、勝手にそう思っていた。
しかし、少女が振り向き、黒い瞳が確かに椎菜を捉えた。目が合った、その瞬間。
カチリ。
音がした。
どこからなど、問うまでもない。音は自分の中から。
どこにあったのか、椎菜の心の中にあった、”何か”。鍵やら鎖やらで厳重に開かないようにしていたその”何か”を椎菜は今、見つけた。
そしてその音は”何か”の鍵がひとつ開いた音だった。
タイトル、そのまんまや(*゜▽゜*)!
相変わらず忙しくて脳内壊れ気味な作者です。
ちょっと、今回短いのは次が長くなりそうな予感のためです。
あらすじで大体のネタバレをしているのに、椎菜さんがまだそこまで追いつきません・・・