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05 第三図書館、と私。2

さて、どうしようか。

館内に飾られた大きいグレイ色の時計の音がやけに響く。

内心ヒヤヒヤしながら椎菜は館内を音を立てないように静かに、とにかく静かに歩いていた。目的は本を返すだけ、である。

古びた本特有の匂いを鼻に感じながらそろり、そろり、抜き足差し足で歩く。若干自分の行動に疑問はあれど、彼に気づかれるよりはマシである。本が並ぶ隙間から彼を伺えば、やはり窓に寄りかかり立つだけ。時折、辺りを見渡しているのかアイスブルーの瞳を動かす。

それはまるで誰かを探しているようでヒヤリとさせる。

(まさかね)

そんなことある訳ない。一度見かけた相手を探しているなんてどこの恋愛小説だ。

第一あの時、目はあったが姿ははっきりとは見られていないはず。今のように本棚越しでの出会いだったのだから。そしてすぐに逃げたのだから。誤算は本を持ってきてしまったことだけで。

しなし何故か足がぴたりと止まる。

(あれ?こんな事前にもあったような・・・)

こうやって図書館の中を誰かから逃げ回ったような。今のようにヒヤヒヤしながら必死に。

館内を動き回りながらふと感じる懐かしさに椎菜は頭を振った。

(あああ。ここは変だ!何かをおかしくさせる!)

まるで夢を見ているような感じ。頭の中に深い霧が立ち込めてきたかのような錯覚を起こさせる場所。

チラリと頭上にある時計を見れば閉館まであと僅か。

それに、そろそろあの心配性なルームメイト達が帰りが遅い椎菜を探し出してしまう頃である。

子供ではないのにと呆れるが、一回朝まで帰らなかった時には凄かった。いや凄まじかった。

ただ単にディーノ教授の研究室でしたうたた寝を朝までしてしまっただけであるが、そのあとの事は今思い出しても身震いする程。いつもはほんわかしている、もう一人のルームメイトのリューネでさえ静かに怒っていて、しばらくディーノ教授の研究室へ立ち入り禁止になってしまったのだから。

(・・・怒られるのは嫌だな)

それだけはもう御免だ。よし帰ろうとさっさと足を動かし持ってきた本が並んでいた本棚を探す。大体の目星をつけたところに、持っていた本がちょうど入りそうな空間を見つけ、カバンから本を取り出した。


無意識で時計を見た、その時だった。


誰かの手が真上から出て来るのを椎菜は時間が止まったように感じながら見ていた。それほどゆっくりとした時間の流れを感じた。

綺麗だが、ゴツゴツと角張っていて男の人の手だと分かる。


『いい加減にしてくれませんか、王子様』

我に返ったのは女の子の声がしたから。今度はより近くから。

(またこの子だ)

今の椎菜より少しだけ幼い椎菜そっくりの女の子。

ツンとした声で彼女が睨みつける相手を同じように見上げて見てみる。黄金色の髪をサラリと靡かせアイスブルーの瞳を蕩けるようにして彼女を見つめるその瞳を椎菜は確かに知っている気がした。

椎菜はその二人に挟まれているようだった。

(この状況は何だ・・・)

『・・・そんな他人行儀な呼び方しないでよ』

苦笑しつつ楽しそうに笑う彼は王子様だ。服装はシャツに細身のパンツとラフだが、見ただけで分かるその気品と出で立ちは、生まれついた環境で身につけたものだろう。

女の子は呆れた眼差しを送りつつ答える。

『・・・他人ですけど』

『サーシャへの呼び方とは若干違って聞こえるんだけどね』

『姫様と王子様は違います』

さらに呆れて答えた様子の女の子に彼は目を細めた。その目がまるで肉食獣のような光が灯った気がして少しだけ腰を引く。しかし、それを阻む手を腰周りに感じる。

傍から見ればそれはまるで抱き合っているように見える。もちろん女の子の方は離れようと必死である様子でバシバシと彼を叩く。

『何するんですか!離してください!』

『・・・妬けるなぁと思って』

『はぁ?何の話で・・・きゃあ!どこを触っているんですか!?』

『シーナ、ねぇシィー。』

そう呼んだ瞬間耳まで赤くなった女の子を彼は嬉しそうに見下ろして、腕に更に力を込めた瞬間。

『・・・何をやっておいでですか。お兄様。』

凛とした声が聞こえた。聞き覚えのある、優しい、あの方の声だ


「「あっ」」

その声に反応した瞬間、手から何かが落ちた事に気づく。

慌てて椎菜は手を伸ばした。

(本が)

しかし、本は落ちることはなく誰かの手に受け止められた。

(え。現実?・・・本物?)

手をじっと見つめる。傷ひとつさえ無い綺麗な手である。しかし角張っているので男の人の手だと分かる。

若干混乱中の椎奈を置いてその本は椎菜の手の上に戻された。

お礼を言わなければ、と咄嗟に顔を上げて目を見開く。

・・・そうだ、そうだった。この人が居たのだった。見つからないようにしていたのにーーー

そう心のうちでは後悔したのに、スカイブルーのその瞳を見た瞬間出た呼び名に椎奈自身でさえ驚いた。


「・・・姫様」

そして、そう呼ばれた彼は嬉しそうにスカイブルーの瞳を蕩けさせて、呟いた。

「・・・懐かしい呼び方だ」


だけど何故だろうか。

その笑い方はどこか泣きそうに見えた。

読んでくれてありがとうございます!!


長かったので、ふたつにしました。

次も早めに更新できれば、と思います(´・ω・`)



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