21 長い話、と私 2
お待たせしました!遅くなりました!
待ってない?まあ、それでも、どうぞ見てやってください!!
ゆっくりと話しだした彼の話は、聞いてみれば時々ユーモアも交えていて実に興味深かった。
少し渋みのあるような太い声。
その時間、すごく長く感じる。
堂々とした出で立ちで、身長も高そうで、多少あやふやなのは椎菜自身彼をよく見ていないからだ。
否、見れないのかった。
(こわい)
こんなにも恐怖を感じたのは初めてだ。
でも、怖いって、私は今日初めてあの人を見たはずだ。
視線だけを上げる。寒くもないのに手は震えてる。こういう時、手に汗握るって言うけど怖すぎて汗すら引っ込んでる。ガクガクってこういう時に出るものだろうか。顔だって多分蒼白だ。
だって両隣に座っているリューネと彼女の二人もなんだか心配しているような雰囲気が伝わってくる。
多分、そんな声をかけられているのだろうけど聞こえてこない。どこか遠くで聞いてます、みたいな感じだ。
舞台にいる彼とは実に遠い距離で目も合わないと思う。
視線を上げたのは・・・少し気になったからだ。
恐怖より好奇心。
こんなにも何故怖いのか、知りたいと強く思ったのも事実だった。何故かすごく、気になった、すごく。
そろりと目を向けた先。
多分、自分は今相当、情けない顔をしているはずだ。
(・・・あ?)
ピタリと目が合う。漆黒の瞳。
多分相手は最初から自分を見ていたとこの時椎菜は感じた。確信を持った。
本当のことはわからないけれど。
見た目は多分三十路を少し過ぎたくらい。
少し皺の出てきた目元を緩ませて彼は笑った。
にたり。
効果音が聞こえたなら,椎菜にはきっとそう聞こえた。
しかしその時、効果音どころか人の声雑音、物音すら風の音すら聞こえなくなった。
そう、椎菜は意識を手放した。
「これ、なんて読むんですか?」
「気になるのかしらシーナ」
どこからか聞こえてきた懐かしい声に耳を澄ます。声からするに女性。一人は少女で一人は女性。
少女は、その女性の問いに対して、んーとかえーとか何やら渋ったような声を発している。それにクスクスと楽しげな様子の女性の笑った声にどこか呆れたような声が混ぜる。
「教えてあげればいいだろうに、お前は意地が悪いね」
どこか皮肉げな声。けれど温かみのある青年の声だ。
「嫌ですわ、お兄様。それほどでも」
「まったく褒めてないんだけどね。」
「いえいえ、姫様に殿下甘やかさないで下さい。考えるのもひとつの勉強ですので。」
「お前は厳ししいね。だいたい今まさに勉強している最中なんだけどね。」
「だから言っているんです」
その声たちの混じったのはどこかキビキビとした声で、背筋をピンとしたくなるような声だ。
その間にも少女のムーとした声が聞こえる。
・・・そんなに難しい事しているのか。
そんなことを考えながらさらに耳を傾ける。聞こえてきたのは少年の声。
「・・・どんなものかと思ったら。これ読めないの君は」
「いま解読中です。返してください。」
「解読・・・って暗号じゃなんだからさ。頭も残念なのか」
「失礼ですよ兄上。」
重ねるように言ったのはそんな少年と似ている声だけれど多分これは女の子だと思う。
・・・聞いたことあるな。誰だったけ。
楽しげな会話だ。目を開けていないけれど何だか、ほのぼの。
どこか擽ったくて、柔らかい。ふわふわとした綿の上で眠っている感覚だった椎菜には心地のいい声だ。
すごく楽しそうだった。
自然と笑みがこぼれた。
「離してください。王子様。」
「シーナ。昔のように呼んでよ、ねぇ」
「殿下とお呼びしましょうか。」
「選択肢はもう少しあるべきじゃないかな。」
「別の方ならもっとたくさんの選択肢が頂けるかと」
「・・・まったく意地が悪いね」
「それほどでも。」
「褒めてないんだけどね」
笑みがこぼれる。楽しげな会話は聞くだけで楽しいものだ。
成長した少女の声だった。いや、女性だ。なぜ分かるのか。
いや、知っていた。呼ぶなら多分経験だ。
見なくてもまるで見ているかのように彼らの容姿も表情も分かる。
カツンカツンと靴の音が聞こえる。この音はあの人だろうか。
足早ではなく静かに、たぶん彼、。あの人なら優雅に近づくだろうから。
「しつこい男は嫌われるわよ。いらっしゃい、シーナ」
「あ、はい。リヤ様!」
「しつこいのはお互い様のような気がするんだけどね」
「・・・可愛い妹分だもの。守りたいじゃない。」
今度はパタパタと何だか忙しない足音だ。急いでるのもその要因だと思うけど。
「大変シーナ!!また怒られちゃうわ!」
「えええ。ど、どうしたの。今度はどうしたの。」
「落ち着いて。また君かい」
「またって失礼な・・・ひぇっ殿下!げっリヤ様まで!」
「げって人を化物のように・・・」
毎回彼女はどこか落ち着かなかった。姉御肌でしっかり者。それはきっと彼女の見た目だけ見た人が言った言葉だった。姉御肌で確かにしっかり者ではあったけれど、どこか抜けた人だったのだから。でもそれが魅力であり、そこが好きだった。
「おわぁ!」
おわっ凄い音だ。多分この音はすごく痛そうだ。ゴンとかじゃなくゴッツン!だった。
もしかして前からいったのか。
「よくこんな何もないところで・・・」
「言わないでよ、シーナ。ちょっと滑ったのよ。」
「なんもねえから驚いたんだろう。ほら手貸なって」
「結構よ。いつから居たのかしら。」
「さっきから居ただろ!俺は空気か!」
「煩いね。空気ならまだいいんじゃない?吸えるから。」
「・・・お前のそれは褒めてんの?それとも貶してんの?」
「馬鹿にしてるんだよ」
ああ。ダメだ。笑ってしまう、同時にどこか懐かしい気持ちにもなる。
・・・シーナ、あなたは優しくて楽しいこんな人たちに囲まれてたんだね。
『そうだね。あたしは恵まれたと思うよ。』
(え?)
唐突だ。
聞こえた声にパチリと慌てて目を開ける。
首を振ってあたりを見てもじっと目を凝らし見てもそこには誰もいない。
『ごめんね。まだ・・・そこまでの事が出来ないんだ。今はこれが限界。』
「「限界?今はって何?」」
『え?あ、そうか。ありゃ、それもだめだ。ま、しょうがないや。』
ちょ、ちょっと勝手に納得しないでくれませんか。こっちはすごくすごく混乱中なのに。
人を無視してその人、いや女性の声は名乗った。
いや、何となく予想はしていたけれど。
『あたしはシーナ・スカルヒー。はじめまして椎菜ちゃん。』
その声はどこか楽しそうに聞こえた。
次はそう待たずに更新できるかと思われます(予想)
(´・ω・`)