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15 考え事、と私。

この学園にはチャイムがない。授業開始時には教師が入っていき授業を始め、終われば出ていく。

もちろん開始時刻は決められていて、始まるまでに席についているのがルールではあるものの学園長は頭のネジがきっとどこか一本外れた方なのか、授業終了5分前に入ってきたとしても誰もが優雅な挨拶を交わしていた。何でもモットーその二としては「時間は決められて動くものではない」とかなんとか。


(言ってることはかっこいいけどねぇ)


なんだかなぁ、である。


社会に出てから大変だぞと思いはするが、よくよく考えればこの学園のほとんどの人間は一般の人が送るような生活をこの学園を卒業したあときっと、送らない。

それを考えれば、この学園のルールに慣れて苦労するのはこの学園に通ってしまった椎菜のような者たちであろう。


(・・・頑張ろう)


いろいろーーーと。


「本日は、ここまでです。お疲れ様でした。」


そんなことを何となく考えていた椎菜は教師の終わりの一言に現実に戻された。

普通ならガサガサやバタバタ。教科書をしまう音や次の授業時までどこか行こうとする靴の音が聞こえるところだが、聞こえるのは全く違う物音である。


カチャ、そんな音が間近に聞こえて椎菜は視線を向けた。


「おはよう、椎ちゃん。今日は心ココにあらずって感じだね。何かあった?」


自前のティーカップを優雅に持ちながら聞いてくるその光景はまだ慣れない。ここは高校の教室である。


「・・・何も」

「相変わらず無口だね。つれないなあ。今日は銀の双子はいないからチャンスと思ってんのにさぁ。」

「・・・はい?」


どう言う意味だ。本気で意味不明だ。

顔に出ていたのだろうか。そんな椎菜を見て何故かにやりと笑う。


「なんのチャンスかって?そりゃ色々と仲良くなるのを今か今かと毎回狙っていたからねぇ。・・・って何その顔は。もしや記憶にない?」

「・・・」

「そんな!!もう三ヶ月もたつのにぃ!あんなに話しかけたのに?!毎回授業終わりや放課後に邪魔されながらも話しかけてた俺の苦労はいずこ!?」


(そんなまさか)

記憶にないなんてどんな頭をしていると思っているのか。

こんなに目立つ外見をした男。

椎菜より同じくらいの身長に薄茶色の髪に赤色のメッシュをいれたこの男は何故か入学した頃から何かと構ってくる。が、その度に猫たちやリューネ、時々寮長にも阻まれていた。

それでもめげずに構ってくるのには密かに「すごい」と思っていたのではあるが。


確か。


「ゼノン」


(あ、あれ、違った!?)


しん、となった教室に若干冷や汗が出る。呼んだ相手の方にそろりと目を向け、・・・驚いた。

しかしその表情は一瞬で、取り繕うかのように喋りだす。


「うれしいなぁ。覚えてたんだ!?しかも初めから名前呼びなんて照れるじゃんか!!心の準備がいるじゃんか!!」

「・・・そうですか。では変えます。メッシュくん。」

「ええ!?それ頭のこと!?でも何かニックネームみたいで近づいたのか離れたのかいまいち・・・ああ、いやでも!!んん、いやでも!!出来ることならやっぱさっきので!!」

「・・・」


どうでもいいな、別に。


「メッシュくん。次の授業が始ります。」

「わぁお!聞いてなぁ~い!」

 

ニコニコしながら机に突っ伏す。持っていたティーカップはあくまで優雅に置いたあとに。


「ゼノン、演技が随分とわざとらしいよ。バカっぽいからやめて。椎菜、困ってるじゃない」


・・・というよりは呆れていたのだけど。

短く切りそろえた金髪の髪に紅の瞳。彼と話すときいつも首が痛い。それほど長身の彼も、よく椎菜に何故か構ってくる。その度にやっぱり猫たちや寮長に邪魔されてはいるけど。

ゼノンがおいたカップをつかむと彼が飲み干す。毎度のことだがその度に「きゃ」だの「わあっ」だの何故か黄色い声援が聞こえてくる。


「まぁ。チャンスはチャンスだしね。僕も乗っかりたいからね。」

「・・・?。アキ君。授業始まります。」

「大丈夫、大丈夫。あとまだ3分はあるじゃない。真面目だなあ。椎名。」


ニコニコ。腕時計をちらりと見ながら話すアキスに呆れる。

しかし、気づけば驚愕、そんな顔をしながらこちらのやり取りをみていたゼノンに首をかしげる。


「おおおぃ!!いつの間にそんな仲いいの!?しかもニックネームの呼び方が俺よりより近い!!」

「ゼノンがいない時に、だよ。お前が知らないんだからそうだろ普通。馬鹿なの?」

「そりゃそうだな!!でもそういうことを聞いてるんじゃねぇつーの!!」

「いちいいち声がでかいんだよ。バカっぽいなぁ。」


なんだか心底嫌そうにつぶやくアキスにゼノンの笑がぴくりと引き攣る。


「何なんだよ。嫌に突っかかってくるじゃねぇか。」

「ああ、分かってくれた?この無意味な口争いには嫌気がさしてね」



(仲がいいのか、良くないのか・・・)

人の机の目の前でその無意味な口争いを未だ展開している二人を見上げて椎菜はひっそりとため息をついた。




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