14 散歩、と私。
(・・・お腹がくるしい)
少し出てしまったお腹をさする。実際はあまり変化はないが、椎菜の目にはポッコリなんていう効果音が聞こえてきそうだった。
食べ過ぎである。
あんなに大量に朝食を取ったことはない。別段、小食でもないが大食漢でもないのだ。
まさか椎菜の苦し紛れに出た空腹を3人がしっかり信じて、あんなに大量の朝食(一人分)が出来上がるとは思いもしなかったのである。
(いやぁ、見事なフルコースだった・・・)
さすが金持ち。あれが彼らの本当の朝食だったのならいつも物足りないんじゃないだろうか。
あれを見たときは違う意味で、具合が悪くなりそうであった。
まあ、自業自得と言われればそれまでであろうが。
そんなわけで今は食後の散歩をしている。
一人で歩いても全然問題はなかったのだが、昨日のことも手伝って更に心配性が上がった三人に止められた。まあ、何人と歩いても問題はない。
しかし、危ないもなにも学園内である。
「椎菜、今日は学校に行くつもり?」
「・・・行きます」
この質問2回目である。寮を出てからどことなく不機嫌なアカシアは椎菜のその答えに更に不機嫌に黙り込む。
「・・・」
「何か問題でもありますか。アカシア。」
「・・・別に。何言っても行くだろうしねぇ」
不貞腐れたようにつぶやきそっぽをむいた。
なんでそんなに不機嫌になっているのか分からない。銀の髪がさらりと揺れる。
ちなみに銀髪美少年の幽霊はアカシアについてこなかった。アリスが「少し用が」と部屋を出ていくときに一緒についていってしまった。部屋を出るまでどこか楽しそうに椎菜を見てはいたけれど。
(どうしようか・・・)
なんとなく周りを見渡して見る。
寮の周りは緑に溢れている。季節ごとに違う花を咲かせているので見ていて結構楽しいのだ。花や木の植え替え、世話は用務員の方がすべてやっているらしいがいったい何人いるのだろうか。
この巨大な学園内の清掃も兼ねてしているらしい。
しゃがみこんで、近くに咲いていた白い花を取る。ふわりと花の香りがする。
いい香りだ。
はい、とアカシアに花を見せればアカシアも訝しげにその花に視線を落とす。少し灰色に近いその目を見開きはしたが、それが何とばかりに椎菜に視線を送った。
「あげます。花、好きでしょう?」
「嫌いじゃないけどねぇ。・・・こういうのアリスの方が喜びそうじゃないかねぇ?」
「喜ぶのはアリスです。でも、好きなのはアカシアです。」
「・・・ええ?」
(あれ、かわいい)
文字通りキョトンとしたアカシアに本人にはなんとなく言えない感想を抱く。
しばらく花を見つめていたけれど、少しばかり恥ずかしそうにその花を受け取った。いい香りだねぇ、とケラケラ笑い出したところを見ると機嫌が少しは治ってきたようである。
花を指でくるくると回して遊んでいる。
・・・そんなに気に入ったのなら良かった。
「何ていう花かねぇ」
花を見つめながらアカシアがつぶやくように言った。
「今度、聞いてみます」
「まぁた、クリーン・クロウのところ?」
(あれ、また機嫌悪くなったな・・・)
確かに教授なら知っていそうである。たとえ心理学を担当教科としていようが、椎菜の中の彼の地位はいわゆるなんでも知っている「物知り博士」のようなのだ。しかし、聞くならもっと妥当な人がいるであろう。だから、椎菜はその人を思い浮かべながるアカシアに向かってふるふると小さな頭を振った。
「いいえ、本人に聞いてみます。」
「本人?あの胡散臭い教授に聞くんじゃないのなら誰?」
「・・・失礼です。アカシア。」
「はいはい。で、誰だい?」
はあ、とため息を吐きつつ答える。
「女子寮の周りの清掃用務員の方です。彼がここの花や木の世話もしているようだったので。」
「へぇ。そう。あたしも行こう。」
「はい?」
にっこり笑いながらアカシアは椎菜の頭を撫でた。何故だろう少し引きつって見えるんだけど。
「いや、この花の名前がとぉっても気になったんでねぇ」
「そ、うですか・・・」
そんなにその花が気に入ったのか・・・
目が笑ってないアカシアに首をひねりつつ椎菜は仕方なく一緒に行くことを了承し、放課後待ち合わせの約束をした。
(ああ、今日もディーノ教授に会えないのか)
結構話したいことがあったのにと心の内で残念に思いながら。
双子、結構好きです(^O^)