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10 空腹感、と私。

ああ、遅くなってしまった(´・_・`)

(ああ、会いたくない・・・)


往生際の悪いことを思いながら、思い足取りで椎菜は階段を上っていた。

できることなら上にのぼりたくないし、進みたくもない。今すぐ降りて、出来ることなら一人になってじっとしていたい。

けれど自室に戻る事も出来ない。


理由は明確。怒られたくないから、である。


あまりあかりの乏しい寮内も椎菜の気持ちを暗くさせた。

外に目を向ければ見事に真っ暗だった。

ポツポツと見える街灯の明かりがより暗さを増しているように思える。


(うう。足が気持ち悪・・・)

午後に降り出した雨のせいで、靴下まで濡れていて気持ち悪い。

時間が経つにつれて若干乾きつつはあるが靴下が足に張り付いている感じがして、あまり心地の良い感じはしない。


・・・そういえば、今は何時?

気になって、カバンの中を手探りで探す。

目を凝らし見れば時刻は24時を過ぎている。


(うそだろ)

・・・やばい。そんなに経っていたのか。と驚く反面、確実に怒られる材料が一つ増えたとまた沈む。


ぐぅぅ。


しかし正直なもので時刻を意識した途端、お腹が音を立て主張をしてきた。

・・・夕御飯の時間はとうに過ぎている。

いままで空腹感を感じてななかったことのほうが驚きではあるが。


(あー・・・おなか、すいた。確か今日の夕食当番はアカシアだったか)


彼女の料理は少し変わっている。奇想天外な創作料理の天才。

正直見た目がイマイチな料理が出来上がり、味もなんだか微妙な料理が出来上がる。

椎菜の感想を言えば「身体には良さそう」である。

彼女の料理だけだと少々不安があるが、いつもどおりきっとリューネやアリスの手が沢山加わっているに違いない。

それならば、・・・美味しいに決まっている。


ぐぅぅぅ。


(あぁ。お腹がすいた・・・)

更に主張をしてきたお腹に椎菜は苦笑した。

カバンを覗いてみたがお腹の足しになりそうなものは、やはり無い。


「「・・・はぁ」」

(腹が減っては戦は出来ない、っていうし)

けして戦うわけではないが、気分はまるで戦闘前の気分。

確かこの階の辺りに自販機があったような。頭の中にある寮内の地図をなんとか思い出す。

カバンの中から財布を取り出しながら見渡してみれば、思ったとおりすぐ近くにそれらしき機械の明かりが見えた。パンの自販機に飲み物の自販機である。


(チーズパンがいいね、ついでに飲み物も買おう)

少し遅くなっても、もうあまり変わらないだろう。


かなり遅いから少しでも早く行こう、などの考えは椎菜には初めから無い。もともと行きたくないし、もしかしたら今日はいないが明日にはディーノ教授がいると思えばなんとかなりそうな気がしていた。

隣にあったベンチに座りパンの袋を開ける。

香ばしい匂いにさらにお腹がなったのは少々恥ずかしく、誰もいないのについ周りを気にする。


「「・・・美味しい」」

(お腹すいてたんだな・・・)

つい口元が緩む。

『・・・その程度で笑うなんて君って結構単純な人間なんだね』


・・・パンを噴かなかったのは褒めて欲しい。

皮肉げにからかうように話しかける、少し幼さが残る少年のような声。それがすぐ近く、急に隣から聞こえてきたのだから。

先ほど確認した時には確かに誰もいなかったのに。

そろりと声がした方に向けば、そこには確かに幼い少年がいた。


背丈で言えば今の椎菜とそう変わらないだろう少年、しかし一番に目を引くのは銀の髪。

暗闇の中でも波打つように流れる銀の髪を後ろに一つにまとめている。


(び、美少年だ・・・)


見とれてしまった。

幼さがまだある顔立ちだが、透き通った肌にすっと伸びる鼻先。少し長さのあるまつげの中から見える銀色の瞳。幽霊かもしれないがあまり美貌がありすぎれば怖くない、らしい。それくらい彼は綺麗だった。

しかし、見覚えがある。

椎菜の周りにいる銀色の猫たち。その双子に。

(どっちかと言えばアリスに似ているな)


『今、わたし美味しいものを食べているんです。美味しい気分になるのは当然です。』


(またこの子だ)

さすがもう驚かない。椎菜にそっくりな少し幼いこの少女。

(確か・・・名前は、シーナ)

 

(また挟まれてる・・・)

少女シーナと銀髪美少年との間に。

ニッコリと笑いながら答えた少女、シーナの返事に銀の髪を持つ美少年は、はぁ?と形のいい眉を寄せた。そして馬鹿にするような眼差しでシーナの手元を見た。


『それはそれは、何とも安い気分だね。』

『安い気分?』

『一部始終見ていたけどね。僕らが毎日食べているものを作るのは一流のシェフたちだよ。普通は食べられない。まあ、君には想像もつかないだろうけど。』

『それは、よかったですね』


『?よかった・・・』

まるで他人事のような返答に意味がわからない、そんな顔をして少年はシーナを見た。

しかしシーナはその視線を気にすることなくパクリと手に持っていたパンを口に運ぶ。


『よかった?食べてみたい、とか思わない?』

『え、その一流シェフの料理ですか?』

『そう』

『思いますよ。けれど、今はお腹いっぱいになってきたので大丈夫です。』

『・・・』


ポカンとした顔をして少年はシーナを見る。

シーナはまた気にすることなくありがとうございますと言い、またパクリと手に持ったパンを口に運ぶ。


(いったいなんだこの回りくどい美少年は)


何が言いたいのかさっぱり分からない。

『・・・全部食べる気?』

『え?はい。今日のお昼代が浮いて助かりました』

『・・・』

『なんですか?』

『・・・おいしい気分?』

『え、はい。とても。』


その瞬間なぜか爆笑した銀髪美少年にシーナと同じく椎菜も首をひねって彼を見た。


(・・・やっぱ美形ってのは変な奴が多い)

そう思って、忘れかけていた手に持つパンを同じくパクリと口にした。






一ヶ月に一回は投稿できるよう頑張ります・・・

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