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何か正統派?の主人公から脱線し始めている気がします。
このあと、更に仲間を集めて正統派!のファンタジー小説に・・・ならないのでしょうねぇ
その後、無事に王都へと戻りました。
キアさんと一緒にまずは冒険者省へと向かいます。
「「依頼達成の報告を御願いします」」
わたしは、薬草と毒消し草と併せて依頼の紙を取り出し、依頼の報告を行います。
キアさんは何の依頼を請けていたんだろう?特に何も持っていないけど?
そう思って依頼達成の紙を見ると、配達の依頼だったみたいです。受領のサインが確認できます。
「はい、確認しました。アリシアさんは銅貨6枚、キアさんは銀貨5枚になります」
銀貨5枚の配達って何を配達したんでしょう?わたしの依頼との格差を感じます。
じ~~っと銀貨6枚を凝視していたのですが、キアさんはまったくスルーで説明もありません。
美味しい依頼だったら教えて欲しい!
そんな御願い光線もまったくスルーです。手強いです。
「さて、まずアイテムを売ったほうが良いね」
キアさんの指示に従ってブラウンウルフの素材をカウンターの上に並べます。
「これも買取御願いします」
「は~い、ブラウンウルフですね、皮3枚と牙6本で銀貨3枚と銅貨60枚です」
報酬を受け取った私たちは、その後分配も兼ねてキアさんの泊まっている宿屋兼酒場の”ロマンス亭”へと向かいました。
「ロマンス亭ですか、なんかすっごい名前ですねっていうか名前負けしてますよね?」
「うん、そう思う」
年季の入った所々煤けたっていうか汚れた壁に、ギシギシ音がする扉。そして、中に入ると丸い4人掛けテーブルが4個、カウンター席にストールが4個です。もし、これで中が綺麗で、お花が飾ってあって、テーブルにキャンドルが煌いてなんかしてたらロマンスもありかもしれないですけど、これは何処から見てもただの寂れた酒屋ですよね。
私たちは、そのまま扉をくぐると奥のテーブルに座っている人へと向かいました。
キアさんがそのテーブルに近づくと、奥のテーブルで話していた二人の人が顔を上げてこちらに手を振ってきます。
「キア~~お帰りニャ。どうだったかニャ?」
「無事終わった、アリシアはここに座って」
わたしは、その隣の席に座りながら、奥にいる人たちを見ます。その二人はキアさんと同じ猫族の人でした。
それもお一人はどうみても純血種と思われる大きな猫さんです!
うわ~~はじめてみました。ほんとに大きな猫さんです。でも、あれでどうやって装備を身に付けるのでしょう?
思わずその人の手や装備に視線を走らせます。
「くふふ、どうかニャ?ネコミミ、肉球の虜になってしまったかニャ?」
「師匠、そのあやしいニャーニャー言葉は止めてください。迷惑です。我々猫族のイメージダウンです」
「ニャ!ニャにを言うのニャ!これは猫族のアイデンティティーだニャ!」
「いえ、そんな文化はありません!」
「フニャーーー!猫族の美学ニャ!萌ニャ!」
あの、何か訳のわからない事で争いが起きています。純血種の猫族の人はやっぱり語尾がおかしいです。きっと人族と声帯とかが若干違うのでしょうか?
「これ分配だ」
キアさんの言葉に慌てて机を見ると、銀貨1枚と銅貨80枚が置かれています。
「え?あ、わたしが倒したのは1匹なので銀貨1枚と銅貨20枚で、それでも命を助けていただいたのに申し訳ないくらいなので」
わたしの言葉に静かに考え込んだあと、キアさんは静かに銅貨60枚を受け取ってくれました。
すると、突然奥のテーブルから声が掛けられました。
「キアのお友達かニャ?王都に来た早々お友達が出来るニャンてすごいニャ」
「あ、いえ、お友達に成れるなら嬉しいのですけど、キアさんにブラウンウルフと戦っている所を助けられたんです」
「ブラウンウルフはそんニャにいたのかニャ?」
「あ、はい!3匹も現れて」
わたしの言葉に師匠さんはちょっと考え込んでいるみたいです。
3匹も出たことで驚いているんでしょうか?普段はそんなに出ないんでしょうか?でも、ブラウンウルフは群れるって聞いたことがありますけど。
そんな疑問を感じていると、キアさんが唐突に質問をしてきました。
「アリシア、剣の修行を初めて5年、間違いないか?」
「え?あ、はい!お父様に習って5年間毎日素振りや型ですが行っていました」
「ふむ、そうか」
何か考え込んでいるキアさんを見ていると、キアさんは徐に隣にいる猫族さんに声を掛けました。
「師匠、今の話どう見る?」
「フミャ!突然なんだニャ!言いたい事は解るけどニャ!」
そう言うと、わたし達のテーブルにいそいそと移動をして来ます。
「お嬢さんは冒険者かニャ?」
「あ、はい、先日登録したばかりですけど」
「ちょっとステータスを見させて貰うニャ!気分を楽にするニャ!」
「え?ステータスですか?」
わたしの疑問をそっちのけで師匠さんは何か呪文を唱えました。
「うみゃ!」
何かすっごい驚かれています。
「師匠?」
「これは困ったニャ!言うべきかニャ?でも言わないと後悔しそうだニャ!」
師匠さんの様子にただ戸惑っているわたしは、チラチラとこっちを見る師匠さんの様子に何かわたしの事だと感じました。
「あの、何かありました?」
「うん、アリシアさんだったかニャ?なんで剣士を目指したのか聞いていいかニャ?」
「あ、はい、お父様が昔も今も騎士なのと、そんなお父様に憧れて、あと強くなりたいんです!」
「う~~ん、比重はどんなかんじかニャ?」
「比重ですか?えっと、思いの比重ですか?」
「そうだニャ」
「それは・・・お父様のように強くなりたいが100%でしょうか?」
「むむむ、難しい所だニャ。気分を悪くしたら申し訳ニャイけど聞くのだニャ。アリシアさんに剣士の才能は無いニャ!ステータスをみてもそれは判るニャ」
「え?あの、それは・・・」
「アリシア、師匠は他人の素質を見ることが出来る。そして、その人が向いている職種や武器を見極めることが出来るんだ」
「ニャ!キアが長文を話したニャ!今日は雨だニャ!」
「耳の後ろ洗ってない。雨は降らない」
なんか憮然とした様子でキアさんが返事をします。でも、そんな事は良いんです。わたしに剣の才能は無いって事なんでしょうか?でも、それって見極めるなんて事ができるんでしょうか?
「あの、今のお話だとわたしは剣士に向いてないって事なのでしょうか?」
二人の会話に割り込む形になってしまいますが、聞き流すには大きな事すぎます。
わたしは、強くなりたいのです。それなのに、剣士に向いてないなんて言われたらそのままにしておく事はできません。魔術師や治癒士に成れない事はすでに適性調査で解っているんですから。
イグリアでは10歳までに子供はみんな魔術師と治癒士の適性検査を受けます。なぜなら、魔術師や治癒士は非常に数が少なく、国にとって非常に重要だからです。わたしも、10歳の時に適性検査を受けました。そして、結果は適性無しと判断されました。それ以降、わたしは残る唯一の強さを求めて剣士の修行を始めたんです。
そして、お父様もそんなわたしを応援してくれました。今では、警邏隊の兵士の人と互角に戦えるくらいにはなっています。それでも、剣士に向いていないっていう事なんでしょうか。
「うん、そう思った。で、師匠に見てもらおうと」
「そうだニャ。キアのお友達だからはっきり言うニャ。向いている職業としては、まず細工士ニャ、これはすでに適正が出てるニャ。あと、戦闘職では剣士はよくて冒険者ランクCまで行けるかどうかニャ。上位を狙うなら剣士は諦めるニャ」
「そ、それではどの武器を使えばいいのですか?」
「むぅ、難しいニャ、短剣はAGIが足りないニャ。槍なんかはSTRが足りないニャ。成長補正が無いニャ。弓もきついニャ」
うう、なんかみんな駄目って言われてます。わたしが絶望的な思いで師匠さんを見ていると、いままで私達を黙って見ていた男性が何か言いました。そして、わたしには聞こえなかったその言葉に師匠さんが反応しました。
「それニャ!それなら行けるかもしれないニャ!」
「では、シャムを呼びますね。あの子なら専門ですから。キア、シャムを呼んできて」
バタバタと動き出すみなさんです。当事者であるはずのわたしは、ただ机に座っているだけです。
そして、しばらくすると2階からキアさんと一人の女性が降りてきました、人族の方です。
「師匠、どうしました?」
降りて来た女性は、わたしをチラッっと見た後、師匠さんをみました。
「うん、この子はキアの友達ニャ、ただ剣士に向いてニャいんでシャムに鍛えてもらえればって思ったニャ」
「あら、わたしの弟子って事?この子も納得してるの?」
「え?え?あの、話についていけてないのですけど」
「ニャ?簡単に言うとニャ、シャムに強くしてもらうニャ」
「あ、はい!ありがとうございます。でも、お礼とかお金とかが」
「お金必要ない、みんな暇」
「あ、はぁ・・・」
キアさんのあまりの説明にみんなが一斉に爆笑します。
「うん、まさに正鵠を射ってるね」
「まんまだニャ!」
「さて、それではこのお嬢さんを拉致させていただきます。キアは付いてくるだろ?」
「行く」
その後、私たちは慌しく冒険者省の奥にある訓練所へと移動しました。
◆◆◆
「こら!腰が入ってないよ!そんなへな猪口な攻撃だと傷も付けれないよ!」
わたしは、使い慣れていない武器を教えられた通りに扱おうと頑張ります。でも、今までの剣を扱う癖が邪魔をして中々思うように扱えません。
「もっと手首をしなやかに使うんだよ!手首が硬すぎる!」
わたしの前方に設置された人型に攻撃があたります。でも、ピシャンという頼りない音しか聞こえません。
「う~ん、まだまだ体全体が硬いねぇ。その鞭はあたしのお古だけど初心者にでも扱いやすい一品なんだけどねぇ」
訓練所にきてもう2時間が経過しています。
「休憩しよう」
キアさんの一言で要約休憩時間となりました。キアさん感謝です!
訓練所でシャムさんに鞭を渡されたときには、ハッキリ言って戸惑いました。
今まで、鞭をしっかり見た事なんてありませんでしたし、これで魔物が倒せるとは思ってもいませんでした。
でも、先にシャムさんが模範演技をしてくれた時、訓練用の人形が一撃で粉砕されたのには呆然としました。
「まぁ初めてで戸惑っているんだろうけどさ、鞭はアリシアが考えている以上に有効だよ。特に対人にね」
そう言ってシャムさんはニヤリと笑います。
「まず使っている者が少ない、だからさ、相手が攻撃の軌道を相手が予想できないのさ。攻撃範囲も剣とは大きく違うからね」
「はい、攻撃での距離が掴み辛いです」
「まぁ近すぎても、遠すぎても威力は減るからね。ただ、剣よりはアリシアに向いてるね。あとは手首の使い方だね」
そう言うと、手首のスナップだけで鞭を操ってわたしには不可能な音を響かせます。
「剣とは使う腕の筋肉が違うからね。あとは練習さ。これから時々見てあげるよ、わたしも暇と言えば暇だからね、ただし、わたしが許可するまで冒険は単独は禁止だよ」
その言葉に、わたしは困った顔をしたと思います。現在の状況ではわたしにはPTに参加するほどの依頼は請けられません。
「大丈夫、わたしと組もう」
このままだと、ぜんぜんお小遣いというか生活費が稼げないかもしれない、そんな事を悩んでいたらキアさんがそう言ってくれました。
「あ、ありがとうございます!」
涙ぐむわたしに、キアさんがちょっと困った顔をしてわたしの頭をポンポンと叩きました。
「うんうん、キアにもPT仲間が出来て、わたしには弟子が出来て、何か楽しくなってきたね」
「うむ」
二人が頷いています。でも、いつの間にかわたしは弟子にされていました。
それでも、これで強く成れると思えばすっごく運が良いのかもしれない。このままだと遠からず死んでいたような気がします。
「あの~、ところで鞭以外の武器はやっぱり向いていないのでしょうか?」
なんとなく鞭がメイン武器って格好が悪い気がするので、思い切って聞いてみました。でも、聞かなければ良かったです。この後、1時間近くも鞭のすばらしさを滔々と聞かされました。
わたしは、心身共に疲れて家に帰りました。そういえば、師匠さんのお名前をお聞きしてなかったのに気がついたのはベットに入ってからでした。
でも、シャムさんが鞭を使うと男性に人気が出るって言うのですけど、なぜでしょう?