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1-7

クックの血抜きを始めてから30分後、わたしは必死に林の中を走っていました。

そして、わたしの背後から、左から、右からと獣の唸り声が響き渡ります。


クックの血抜きをはじめて、いくらか時間が掛かることを思って暢気にお湯を沸かそうと枯れ枝を集めて焚き火をはじめようとしていました。

そして、小枝を集めていざ火を付けようとした時、背後から落ち葉を踏みしめる音と、獣の唸り声が聞こえたんです。

とっさに剣をもって振り向きざまに剣を抜き放ちました。

すると、わたしの背後10メートルくらいの位置に、ブラウンウルフが現れました。


「ブラウンウルフ!」


思わず剣を持つ手に力が入ります。

そして、ブラウンウルフはベビーウルフとは比べ物にならなくらいの強さを持っています。

大きさも、体高1メートル、体長1.5メートル、ベビーウルフを二周りは大きくした感じです。

それでも、一対一であるならば負けるつもりはありません。わたしだってそれだけの訓練はしてきています。


わたしは、周りの木や枝などが邪魔をして上手く剣が振り回せそうにないので、突きを主体に攻撃しようとしました。そして、剣先をブラウンウルフへと向けたその時、左右の茂みからさらに2頭のブラウンウルフが現れました。


そんな、3匹なんて!


3頭はそれぞれわたしを囲うような動きをします。そして、もし囲まれてしまったら私では絶対に勝てない。


逃げなきゃ!


そんな思いが頭をよぎりました。そして、咄嗟に前にいるブラウンウルフへと今自分の全力での突きを放ちました。

ブラウンウルフはわたしの突きに対して、後ろへと飛び下がります。それでも、わたしはそのまま足を止めずに走りきりブラウンウルフの手前で溜めていた力を解放しました。


「ハァーーーー」


全身を伸ばすように、そして、それに突進力を加味した突きの切先はブラウンウルフへと突き刺さり、そのまま一気に貫き通します。


「ギャン!」


剣は、そのままブラウンウルフを深々と貫きました。


まずは一匹!


そう思ったとき、左右からブラウンウルフが飛び掛ってきました。

そして、わたしは貫いた剣を引き抜こうとして失敗します。あまりに深く突き刺さった剣が、なにかに引っかかったように抜くことが出来ません。

とっさに左腕のアームガードで飛び掛ってきたブラウンウルフを叩き付けようとします。でも、逆にその腕に牙が深々と食い込みました。


「ああああ」


利き腕でブラウンウルフの頭を殴りつけた時、背後からもう一頭のブラウンウルフが両肩を押さえつけるように飛び掛ってきました。しかし、殴りつける動作のお蔭で投げ飛ばすような形で前方へと転がります。


左腕に噛み付いたブラウンウルフは殴りつけたにも関わらず、いまだに噛み付いたまま食いちぎるかのように頭を左右に振ります。わたしは、あまりの激痛にただ、まともな攻撃など出来ず、ただ右腕で闇雲に殴るだけでした。


そして、気が付くと先ほど投げ飛ばしたブラウンウルフが飛び掛ってきました。


ああ、もう駄目だ!


そう思ってただ、その眼前に迫り来る牙を呆然とみている事しかできません。


こんな事で、死んでしまう、わたしは甘かった。何が強くなるだ、5年間頑張ってきた、だから強くなったつもりだった。


頭の中には後悔と、悔しさと、絶望と、両親への謝罪と、さまざまな思いが溢れてきました。

そして、最後に浮かんだ思いは、


死にたくない、こんな事で死にたくない、わたしはまだ何もやってない!


わたしは、噛み付かれたままの左腕を、今まででは考えられない力で飛び掛ってきたブラウンウルフに叩きつけました。噛み付いていたブラウンウルフごと!


「「ギャワン!」」


2匹は重なるようにして吹っ飛びます。そして、左腕は大きく抉り取られました。

左腕からは血が止め処も無く流れます。わたしは、思わずその場にしゃがみ込みました。


「グルルルル」


1頭のブラウンウルフは飛ばされたときに後ろ足を痛めたのか、後ろ足を引きずっています。

それでも、もう一頭はさしてダメージを受けた感じがありません。

わたしと言えば、左腕はもう感覚すらなくなり始めています。それでも、なんとか剣を取り戻そうと剣が刺さったままのブラウンウルフへと視線を投げます。


武器が無いとただ殺されるだけだ、なんとか剣を。


そして、その視線の意味を感じたかのように、足を引きずった方のブラウンウルフが回り込むようにそちらへと移動しました。


諦めるな、諦めちゃ駄目だ!


そう言い聞かせながら、剣をなんとか手に入れるために、足元にあった石を拾い、右手に握りこみます。

そして、無傷のそのブラウンウルフへと投げつけようとした時、ブラウンウルフの真横から、矢が飛んできてブラウンウルフの首へと深々と突き立ちました。そして、何が起きたのか理解が出来ない間に、さらにもう一本の矢が、足を引きずるブラウンウルフの首へと突き刺さります。


「な、何が・・・」


わたしは、状況が理解できないまま矢の飛んできた方向を見ます。すると、突然木の上から一人の少女が飛び降りてきました。


「よかった、無事」


その、降り立った少女は、手に持った弓を背中に廻し、わたしの傍らにしゃがみ込んで左腕を手にとりました。


「はぅ!」


突然の動作で、激痛が突き上げます。わたしは、とっさに左腕を抱え込もうとしました。

でも、その少女はわたしの左腕を抱え込むようにして、そして、そこにポーションを振り掛けました。


「ごめん、沁みる」


振りかけられたポーションによって、先ほどの比ではない程の激痛が体を突き抜けます。そして、左腕を力いっぱい引いて、その腕を抱え込むようにしてわたしは蹲りました。


「う、あ、う・・・痛いです、焼け付くようです」


「うん、沁みる」


「いっぱい血が流れた。これ飲む」


そういって先ほどのポーションの残りが渡されました。

わたしは、涙目っていうか本当に涙が流れてますけど、そのポーションを受け取って飲み干します。

すると、傷が治り始めてるからなのか、それともポーションを飲んだおかげなのか痛みが静かに引いていきます。


「え?これってハイポーションじゃ!」


「うん、傷に良く効く」


「そ、そんな高価な物!」


ポーションは市価で銀貨1枚で買えます。それでもちょっと高価です。ハイパーポーションは銀貨50枚はします。効果は10倍くらいなのですけど、効き始める時間がはるかに短いのです。あと、ポーション10本なんて飲んだらお腹がタポタポになって大変だという事もあります。


「助けていただいてありがとうございます」


わたしはお礼を言いながら、改めてその人の姿を見ました。

頭の上に、二つの猫のような耳がピコピコしています。そして、後ろから同様に長い尻尾が揺れているのが判ります。年齢は、わたしとそんなに変わらないくらいで、多分15歳前後、でも、こんなに強いのですからもしかしたら20歳近いのかな?亜人の人は見かけで年齢がわからない事が多いのではっきりしません。

そうなんです、この人はおそらく獣人族の方だったのです。


「あ、わたしはアリシア・シープドッグと申します。冒険者ランクEです」


「ん、わたしはキア・ロシアンブルー 冒険者ランクEだ」


「え!ランクEですか!」


あまりの驚きにわたしは呆然としました。

先ほど、キアさんはブラウンウルフをそれぞれ一本の矢で1匹ずつ倒しました。それってEランクではとても不可能だと思うんです。


「うん、登録したのは昨日。まだ成り立て」


「あの、」


わたしが、更に質問をしようとすると、キアさんは耳をピコピコさせながら後ろのほうを気にしはじめました。


「まず、剥ぎ取りしよう。血の匂いが強い、危険」


「あ、はい!」


わたしは、自分で倒したブラウンウルフからまず深く突き刺さった剣を抜き取ります。そして、犬歯を切り取りました。

その間にキアさんは手際良く残り2頭から犬歯を切り取りさらには尻尾を切り落とします。


「あの、尻尾も討伐部位なのですか?覚えがないのですけど」


「違う、でもあとで使い道がある。できれば皮を剥ぎたいけど時間無いから諦める。まずは街に戻ろう」


「あ、あっちにクックが吊るしてあります」


戦闘で少し移動してしまいましたけど、少し先に吊るしたクックが見えます。

すると、キアさんの尻尾がパタパタします。


「あ、助けていただいたお礼に差し上げます」


思わずわたしがそういうと、パッっとこっちを見て嬉しそうに吊るされたクックへと走っていきました。

そして、大事そうにクックを抱えると、こちらに戻ってきます。


「ありがとう」


「あ、とんでもないです。ハイパーポションまで使っていただいてしまってますし」


クックは一匹丸ごとでも銀貨5枚くらいで買えます。とても値段がつりあっていません。

それでも、嬉しそうにクックを見るキアさんに、わたしは少しホッとしました。


そして、まず街へと戻ろうという事になって、周りを警戒しながら、それでも出来る限り急いで街へと向かいました。


初の猫耳さんです!ついに登場です!

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