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翌日、わたしが目を覚ますと、珍しい事にお父様が帰ってきていました。


「お父様!今日はお休みですか?」


もし、お休みならわたしも出かけるのを止めようかな?

そんな事を思っていると、


「いや、しばらくは家に帰って来れそうにないので着替えを取りに来ていたんだよ」


そう言って笑いながらあたしの頭に手を置きます。


「お前のほうはどうかな?まだ冒険者になって3日だ、無理をするんじゃないぞ」


お父様は、ちょっと心配そうな顔でわたしを覗きこみます。


「はい、気をつけます」


先日、もしかしたら死んでいたかもしれない、そんな事とても言えません。

わたしは、急いで出かけようとするお父様に戦争になるのかと思わず聞いてしまいました。


「む、もうすでに噂になっているか。おそらくだが戦争になるのだろう。ただ、王都はひとまず安全だろう」


「やはり、ナイガラの街が戦場になるのでしょうか?」


「そこまで情報は広まっているのか。陽動の可能性がまだ無いではないが恐らく戦場はナイガラになるだろう。ただ、今のイグリアを攻めるのは愚か者のする事だ」


わたしの質問に、お父様は優しく笑いかけてくれます。

でも、そのお父様の言葉の裏には転移者達がいるから安全だっていう意味が含まれているんだと思います。


「転移者はそんなに強いのですか?」


わたしは、当たり前の事を聞いてしまいました。それは、いまこの世界では常識とされている事だからです。


「うむ、強いな。うちの団長は転移者の中でもそれほど強い方ではない。ご本人曰く副官の方々のほうが遙に強いという事だ。その団長ですらわたしを含め旧イグリア兵であれば100人は楽に相手に出来るのではないかと思う」


「お父様を100人・・・」


「まぁわたしとて、転移者の方々を相手にまともに戦う気はない、いざとなればあらゆる手を使ってでも頑張るがな」


お父様はそう言って笑います。でも、お父様の今の言葉にわたしは、わたしと同じ不安を持っている事に気がつきました。


もし、転移者達が私達に圧政を強いたとしたら、誰がそれに立ち向かう事が出来るのでしょうか?

すでに、イグリアは王女様が秋津嶋国王に嫁がれ、転移者が頂点にいます。

そして、今のところ彼らと私達の間に問題は発生していません。逆に、腐敗した貴族が一掃されイグリアは安定してきたとも言えます。

それでも、いつ圧政が行われてもおかしくは無いのだとわたしは思います。


「そう心配するな、お前はお前の信じるままに行きなさい」


そうわたしに告げ、またわたしの頭を軽くポンッっと叩いた後、お父様は家を後にされました。

わたしは、溜息をついて振り返ると、お母様が心配そうに見ていました。


「あ、お母様、おはようございます!」


わたしは、一際明るく挨拶をします。そして、急いで椅子へ座ってテーブルの上に用意されていた食事を食べ始めました。


「アリシア、戦争が始まるのですか?」


どうやら、お母様にお父様との遣り取りを聞かれていたみたいです。


「はい、おそらくは」


「そう、また戦争になるのね」


お母様の悲しそうな顔を見ると、わたしは何も言えなくなってしまいました。

そして、急いで食事を終えると、冒険者省へと向かいます。


「気をつけてね、無理をしないでね」


出掛けに、お母様に言われた言葉が胸に残りました。


◆◆◆


冒険者省へと入ると、あいかわらず10人近い冒険者の人たちが依頼をみたり、テーブルで何かを調べたりしています。

中へ入った途端、みんなが一斉にこちらを見るのは相変わらずですけど、今日もみんなすぐに視線を戻しました。

一体なんなんでしょうか?

わたしは、依頼の掲示板に急いで行き、何か手ごろな依頼はないか調べます。

すると、依頼が昨日とは一変して、薬草や毒消し草などの調達依頼の数が一気に増えていました。


「これって、戦争がはじまりそうだから?」


わたしが、思わずそう掲示板のみながら呟くと、すぐ横から声がしました。


「そうですね、ポーションの蓄えを増やしたいのでしょうね」


慌てて横を見ると、昨日PTで一緒だったゼクンさんがいました。


「あ、おはようございます」


「アリシアさん、おはようございます。今日も狩りに?」


「あ、はい、依頼しだいですけど」


わたしは、そう言って掲示板を再度見渡します。でも、もちろん昨日のような依頼はどこにもありません。


「そうですか、王都周辺でも一応警戒するようにと指示が出たようですね。その為、近場の依頼しか出てないみたいです」


そう言われてみると、冒険者ランクの低い依頼は王都の中での依頼か、あとは薬草などの採取しかありません。

高ランクの依頼を何気なく覗いて見ると、義勇兵の募集と王都近郊の警戒の臨時募集などです。


「いやぁ、困りましたねこれは」


そう言ってゼクンさんが笑います。でも、笑い事じゃないですよね?


「そうですね、でも、どのみち薬草採りをしながら近場でビックマウスとかを狩るしかないですよね?」


「ええ、ただ本当にユーステリアの軍が来ていたら目も当てられないですしね」


「はぁ、でも今回はナイガラ方面が戦場になるみたいですよ?」


「ええ、でも何が起こるかわかりませんしね」


そう言いながら、ゼクンさんはまた考え込んでいます。

わたしは、他に適当な依頼がない事を確認して、薬草採取の依頼は、薬草を採取してきてから請ければいいかな?って思ったので何も依頼を請けずに出かけることにしました。


昨日薬草が群生していそうな所は判っていますし、とりあえずそこへ行ってみることにします。

わたしが、何も依頼を請けずに掲示板を離れたので、ゼクンさんはちょっとこっちを見て何か呟いていました。


「そうですよね、危険なときにわざわざ外に出なくても・・・」


何か勘違いしているみたいですが、わたしはそのまま外へと出かけました。


昨日教えてもらった薬草の群生地へと行くと、すでに数人の冒険者の人達が薬草を採取していました。

わたしが近くへ行くと、それぞれこちらをチラッっと見ますが、そのあとすぐにそれぞれが薬草の採取へと戻っていきます。

わたしも、昨日採取した辺りから少しずれた場所で薬草を探し始めます。

1時間ほどで薬草24個、毒消し草8個が採取できました。

人がわりといるからなのか、それとも昨日狩ったためかビッグマウスもベビーウルフもぜんぜん出てきません。ちょっと残念です。


わたしが、更に林の奥へと向かおうとすると、不意に後ろから視線を感じました。


「ん?」


あたしが振り返ると、先ほど薬草を採取していた人の一人が、じっとこちらを見ています。そして、わたしが振り向くと、視線をそらせてまた薬草を探し始めました。


なんかちょっといやな感じ、もしかして?


わたしは、警戒しながら森へとそのまま行くか、それともここで引き返すか考えました。

すると、その人の更に先のほうにシローさんがいるのに気がつきました。そして、何かわたしに合図をしています。

わたしは、その合図を見て更に森の中へと入って薬草を探すことにしました。


森の中に入ると、昨日教えてもらったように、森の中で光が差している場所を中心に薬草を探します。

光の差さない所だと、薬草はあまり育たないらしいのですよね。それとは逆に、あまり日当たりが良いと毒消し草は育たないらしいですけど。

そして、森の中で更に薬草8個と毒消し草11個を見つけてました。

それより嬉しいのは、森の中でビッグマウスを2匹倒せたことです。昨日とは違って一人で倒せたことに大満足です。

わたしは、倒したビッグマウスを紐で括っている時、不意に真後ろから人の気配を感じました。振り返ると、やはり先ほどの冒険者の人が10メートルほど後ろに立っていました。


「何か御用ですか?」


わたしが、その人に声を掛けると、その人は自分の剣をわたしに向けながら言いました。


「お前の装備一式と持ち物置いていけ」


「え?嫌です!こんなもの盗ってもあんまり意味無いですよ?サイズだって合わないですし、ましてやこれ脱いだらわたしとんでもない格好になっちゃいますから」


「うるさい!俺は転移者だ!つべこべ言わずに素直に置いていけ!」


その言葉に、わたしは背筋が凍る思いがしました。転移者!それはわたしが絶対に敵わない事を意味していますから。


わたしの顔に恐怖が走った事に気がついたのでしょうか、その男は嫌な笑いを顔に浮かべこちらに近づいてきます。

わたしは、もっていた荷物袋を下に置き、後ずさりました。


「何をしている、とっとと武器も下に置け!鎧も外すんだ!」


男が、高圧的にこちらに怒鳴ったとき、わたしの後ろから声が聞こえました。


「う~~ん、出るタイミングに悩む所ですねぇ。早すぎた気がしないでもないです」


わたしは、急いで振り返ると、その人の所まで走りました。


「ごめんね、変なこと頼んじゃって」


そこにはシローさんが静かに立っていました。わたしは、シローさんの後ろに急いで廻りこみました。


「あ、あの人転移者だそうです」


わたしの言葉に、シローさんは笑いながらその人へと歩き出しました。


「ほう、転移者ですか」


「そ、そうだ!止まれ!止まらないと貴様も切り殺すぞ!」


「ふむふむ、それは恐ろしい」


相変わらずニヤニヤ笑いながら、シローさんは先ほどわたしが置いた荷物を拾い上げました。


「転移者Aさん、それではわたしがお相手いたしましょう。わたしも転移者の一人ですし、仲間の犯罪を許すわけにはいきませんからね」


その言葉を聞いた途端、その男の顔色がいっきに変わりました。

そして、後ろへと向きを換え逃げ出そうとしました。

でも、その動きにわたしが驚く間もなく、シローさんが男の真後ろに移動していました。そして、男に向かって何かをした途端、男は崩れるように倒れてしまいました。


「やれやれ、なんでわたしがこんな事をしないといけないやら」


「あ、ありがとうございました」


そんな事をブツブツと呟いているシローさんに、わたしはオズオズと近寄ってお礼をいいます。


「あ、いえいえ、こちらこそすっごい助かりました。最近、転移者を騙って盗みや乱暴をする奴がいて、どうやって捕まえようかと思ってたんです。まぁこいつで3人目ですけどね」


「え?騙りですか?」


「ええ、転移者っていうと簡単に盗みやなんやら出来ちゃうみたいでね。困ったものです。あ、捕まえるのに協力していただいたので、報酬が出ますよ。ギルドまでぜひおいでください」


わたしは、シローさんにそう言われて、そのまま推定淑女ギルドへと向かいました。

そして、その間にシローさんから転移者の見分け方を教わっていました。


「まずですね、転移者の装備はまず普通じゃありません」


「あ、はい、みなさんすごい装備ですよね?」


「あ、いえそうではなくって、格好やら、色使いやらがまず普通じゃありません。特に、強い転移者ほどそれが顕著です!」


「はぁ」


わたしは、何ってコメントしていいのか困ります。


「うちの団長もそうですし、ラビットのハルカ団長も真っ赤と極彩色ですよ、ありえませんね!美的センスの欠片も無いです」


なんかすっごい力説をされます。確かに、前にみたハルカ団長さんはすっごい派手でしたけど。でも・・・シローさんは真っ白です。すべて白色で統一されています。それも、ちょっと普通じゃないって思うのはわたしだけでしょうか?

白馬の王子様を狙ってるのでしょうか?今時ではないですよね?


わたしが、そんな事を思っている間も、いかに転移者が変かを力説されます。でも、それって自爆してませんか?


そんな事を思っているうちに推定淑女ギルドの建物まで着ました。そして、その看板を見て、わたしは改めてシローさんの意見があながち間違っていないって思いました。

だって、赤い色の板に白い文字で書かれてますし、これってこちらの世界だと借金差し押さえの札の色ですよ?

そんな事を思っているうちに、シローさんはさっさと建物の中へと入っていきました。

わたしも、中へと入ると、建物の中はなんっていうか・・・全面ピンクで窓にはレースのカーテンです。

椅子も、机もすっごい可愛らしいです。


「あ、あの・・・」


「ああ、何も言わないで良いですよ。言いたい事はわかりますから」


溜息混じりにシローさんが言いました。

わたしは、その後謝礼として吃驚した事に金貨1枚も貰ってしまってしきりに恐縮していると、エリィさんというお名前の可愛らしい女性が、気にしないで良いよって言ってくれたのでありがたく頂いて、そこを後にしました。


その後、冒険者省でも依頼達成をして、今日は帰りました。

寝る前にベットで今日の出来事を色々考えました。そして、シローさんの言葉は間違いではないって思いました。

転移者ってみんな変です!もちろんシローさんを含めて!

そして、改めて転移者は危険だと感じました。もちろん、いろんな意味で!


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