・・・例え嘘でも言葉は生きるという力になる・・・
ちょっと悲しい感じの物語です。(怖い感じも・・・)少年が何を想っているのか、考えながら呼んでみて下さい。人間にとって大切なものがなんなのか、それが伝わればいいと思います。
『父さんは、あの大きかった父さんは、もういない。
ハヤク、ハヤクキテ。ホントウハサミシクテ、シカタナインダ。トウサン、トウサン。
だってヒトは・・・だから。』
三年前に僕はこの町に来た。
大きかった父に手をひかれて、ヒトの死なない町だといわれて。
実際に人を手に掛けた事は一度もなかった。
なかったけど・・・。
人を殺すことをなんとも思えなかった。
それが『いけないコト』だとは知らなかったし、
その行為で悲しむ人がいるコトすら知らなかった。
だって、眠っている様に倒れるだけじゃないか。
立ち去った後にいつもみたいに立ち上がって、微笑むんだろ?
だったら人を殺すってどんなこと?
人は、本当は死なないんじゃないのか?
その疑問の答えを探すために、
僕は今日、真っ赤に流れる血を求めて、夜の街に足を運んだ。
そこで僕は初めて、見た。
人の死を初めてみた。
真っ赤に染まったナイフを持った男が目の前を走りすぎる。
僕はただ、呆然とその光景を見ていた。
走り去った男のいた場所には、血に濡れた女が倒れている。
動かない。
女は倒れたまま動かない。
きっと僕が見ているコトを知っているんだ。
だから起き上がらないんだ。
僕はゆっくりとその場を離れた。
だってそうすれば、あの女は起き上がって、いつものように家に帰って、温かい家族のトコロに帰って、また・・・。
なのに・・・
なんであの赤が、血が、倒れたまま動かない女が、僕の中を渦巻いている?
知らない。
あのヒトは普通に起き上がって、会社にいって、それでいつもみたいにわらって・・・。
いままでもそうだったじゃないか。
血に濡れて倒れても次の日にはもういなかったじゃないか。
だからヒトは死なないんだ。
人間は不死の生き物だから。
そうだろう。父さん。
だから僕をこの町においていったんでしょう?
だってここは、沢山の人が刺されて、倒れて、起き上がって、笑ってる町なんだから。
そうでしょう?
だから僕はここにいるんだ。
だけど、僕は・・・好きでこの町にいる訳じゃない。
こんな・・・。こんな・・・。赤い町・・・。
ねぇ、父さん?
早く迎えに来てよ。
ねぇ、父さん・・・早く。はやく・・ハヤクキテ。
ボクガマチガイヲオカスマエニ・・・。
僕、本当は知ってるんだよ。
ヒトが死ぬってこと・・・。
だから父さん。僕のコト迎えにきてよ。
ぼく寂しくて死んじゃうよ。だって僕も、死ぬ人間なんだから。
ねぇ、父さん。
僕のコト、愛してくれた?
嘘でもいいから本当は『愛してる」って言って欲しかったよ。
人間はいつか死んじゃうんだ。
本当は知ってるんだ。父さんが僕を捨てたんだって事。
もう迎えに来ないって事、なんとなく知ってたんだよ。
だけど・・・。
父さんも人間だって事、
「だれもおしえてくれなかったじゃなか。」
えっと初めてのセリフが最後の一言だけという物語です。いつもはセリフばかりの進行なのでセリフに頼らず、少年の気持ちや想いを考えながら読んでもらえればと思って書きました。このあと少年がどうなったかは読者様におまかせします。捕え方が人によって異なる作品なので、感想などをいただけると幸いです。
追伸⇒この続きを書きたいというひとがいたら作者までご連絡ください。