coffee holick
「……」
「……」
私には無口な姉、坂神梨亜がいる。本当に喋らない。
授業であてられようが何をされようが喋らない。喋らないから絡んでこようものなら、男子は頬肉がはじけ飛んだんじゃなかってくらいいい音のするビンタ、女子には頭突き。
でもそんな姉でも自主的に喋るときがある。
「……コーヒーがない」
コーヒーが切れた時だけ自主的に喋る。中毒じゃないかってくらいにブラックコーヒーを飲むから、すぐになくなるけどまとめ買いしてるから常にストックはある。けれど、そのストックが切れたようで。
「愛美、コーヒーがない」
「買ってくれば?」
「……コーヒーがない」
「いや、だから買ってくれば?」
ソファでぐったりしていたら、姉が間近までせまってきてた。
「コーヒーが……ない」
このやりとりのたびにこの展開。ソファに仰向けでぐったりしていたら、馬乗りされて美人顔の姉が鼻先すれすれの近さで無言のプレッシャー。初めてこの状況に追い込まれた時はかなり焦ったなー。美人の顔が間近だもん。
「……」
「……」
無言で返して見るも、状況かわらず。
「ちょっと、近いって毎回言ってる――」
すぅと耳元に顔を近づけてきた姉は、
「コーヒーがない……」
耳にあたる息がくすぐったくて顔をそむけても、姉は執拗なまでに耳元でささやいてくる。
「コーヒーがない」
「自分でっ買いに行けばいいでしょ?」
「……愛美の胸、大きいからもみごたえありそうね」
体をおこした姉は、ごく自然な流れで私の胸の上手を乗せてきた。
「……コーヒー」
「だから自分でっ!?」
ここまで来たら最後まで反抗してやろうと思ったら、姉は思いのほか本気だったらしく手加減なしに揉みだした。
「ちょ、なんで揉んでくるのっ!」
「コーヒー」
「意味が分かんないからそれっ!!」
姉は妙な力加減をつけながら揉んでくる。馬乗りだから逃げられないっ!
「……思いのほか癖になりそう」
「何さらっと変なこと言ってんのよっ」
とはいえ目がマジだ。というか姉は一旦癖になると飽きるまでそれを繰り返す。
「ねえ、直接」
「だめに決まってんでしょうがっ! 何考えてんの!」
「……コーヒー」
あーもう、コーヒーくらい自分で買って来いっての。
「……脱がすの簡単そうな服ね」
マッサージのように一定のリズムで揉んできていた手が止まった。脱がすのが簡単そう?
「ちょ、何考えてんの?」
「コーヒー……それとも直接?」
なんて卑劣なっ! ……とは言ってもどっちかを選ばないと確実に脱がしにかかってくるだろうし。というか選択肢一個しかないじゃん。
「あーもう、いけばいいんでしょ行けば」
「よろしい」
胸の上から手がどいて、馬乗りになっていた姉もどいた。しかもすごい満足げな顔。
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「~♪」
「はぁ、ねえ。いつまで抱きついてる気?」
コーヒーを買いに行って帰ってきた後、私の手からコーヒーの瓶が数本入った袋をかすめ取ってキッチンに消えた姉は、アイスコーヒーを手にソファに座ると、それを満足げに飲んだ。私は、ソファにうなだれるように座ってこのまま寝ようかどうか考えていたら、姉に抱き寄せられてそのまま今に至る。というか長い。いつまで抱きついてるきなんだろう。
「んー? 私の気が済むまで」
はあ、今の姿を学校でさらしてやりたい。無口で何も喋らない姉が普段はこんなんだと知れば、それなりの話題性になるだろうし。というか今日はよく喋る。何日分喋る気だろう。
「それっていつ」
「さあ」
さあって、もう30分は経ってるけど?
「寝ちゃうの?」
「その方が楽」
もともと寝るかどうか悩んでたんだから、そのまま寝てしまえばいい。寝た後の扱いが気になるけど。目を閉じて、寝入る準備に入ると、
「おやすみ~」
なんともまあ、能天気な姉の声。
……久しぶりに長々と話したかな、姉とは。
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『おはよう』
「は?」
寝起き早々に見たのは、携帯の画面に映し出された文字。
「……声でないとか言わないでしょうね」
『枯れたちゃった。てへ』
普段喋んないのにあんなに喋るから喉をヤったらしい。なんともまあ、姉らしいような。
『コーヒー飲む?』
「ん」
中毒のように飲んでるだけなことはあって、姉の入れるコーヒーは結構おいしい。
そう思うとコーヒー中毒の姉の我儘もまあ、聞きいれてもいいような気もする。
はい。問題用紙裏シリーズ(そんなもんないです)です。
渋いというか苦味? とにかくそういうの好きですね。はい。コーヒーは中毒的に飲みますね。ブラックを。さすがに梨亜ほどの中毒じゃないですけど(`´)