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伯爵令嬢セシリアは今日も修羅場に遭遇する

殿下と婚約をしたのですが、魅了にかかっていないのにめちゃくちゃ溺愛してきます〜帰ってきた伯爵令嬢セシリアは、また修羅場に遭遇する〜

作者: 木風
掲載日:2026/09/18

 王妃様とのお茶から三日後、私、伯爵令嬢であるセシリア・アースキンは、再び王宮を訪れていた。

 今日は婚約式の打ち合わせ――ではない。


「殿下。少し、お時間よろしいですか?」


 執務室を訪ねると、書類に囲まれていた婚約者である王太子アドリアン・レオポルド・ヴァルディエールが顔を上げた。


「もちろん。どうした?」

「お願いしていたものが完成しましたの」


 私は持っていた小箱を机の上に置いた。

 その瞬間、殿下の顔が明るくなる。


「もしかして、あれ?」

「ええ。精神耐性の護身具です」


 先日、刺繍職人の魔力にあっさり影響され、店の商品をすべて買おうとした殿下のために、王宮魔術師へ頼んでいたものだ。


 魅了。

 呪い。

 よく分からない魔道具。

 この人は、放っておくとそのうちまた何かに引っかかる。


「開けても?」

「どうぞ」


 殿下が箱を開く。

 中に入っているのは、銀色の小さな留め飾りだった。

 中央には青い石がひとつ。派手ではないので、普段の服にもつけられるはずだ。


「これを身につけていれば、精神に作用する魔法の多くを防げるそうです」

「おお……」


 殿下はしばらく眺めたあと、こちらを見た。


「セシリアが僕のために、選んで?」

「そうです。形は私が選びました」

「……愛のお守りじゃないか」

「精神耐性の護身具です」

「同じようなものだろ?」

「全然違います」


 殿下は納得していないようだった。


「つけてくれないのか?」

「私が?」

「セシリアからの贈り物なんだから、最初くらい」


 別に構わない。

 私は箱から留め飾りを取り出し、殿下の胸元に手を伸ばした。

 いつもより距離が近い……上着の襟元に留めるだけなのに、殿下がやけにじっとしている。


「……殿下。動かないでくださいませ」

「動いてない」

「では、そんなに見ないでください」

「目の前にセシリアがいるから」

「目を閉じていただいても」

「それはそれで怖いだろ」


 確かに……なんとか留め終えて、少し離れた。


「できましたわ」

「どう?」

「似合っております」

「効果は?」

「私に聞かれても」


 殿下は自分の胸元を見下ろす。


「……本当に効いてるのか?」

「王宮魔術師のお墨付きですわ」

「でも、セシリアがいつもより可愛く見える。魅了にかかってないだろうか?」

「私に魅了は使えませんし、それは護身具とは関係ありません」

「じゃあ正常か」

「たぶん」

「たぶん!?」


 優しい手つきで、形を確かめるように、殿下は胸元の護身具に触れた。


「確かに、魅了に弱いのは弱さだ。でも、魅了に弱いことを公表できるのは、強さなんじゃないか」

「……殿下。やかましいですわ」

「いや、今いいこと言っただろ?」

「言っておりません」

「言ったよ!」

「……魅了されて、浮気をしてもそう言うのですか?」

「絶対しない」

「魅了に弱いのでしょう?」

「だから、これをつける。毎日つける。絶対に外さない」


 いつも通り、大げさな反応なので、おそらく正常だろう。

 殿下が私を見て、ふと首を傾げた。


「あ、それ」

「なんです?」


 視線が私の首元へ向かう。

 深い青の宝石が中央にあしらわれた、細身の黒いチョーカー。

 以前、刺繍店を訪れた帰りに殿下が選んでくれたものだ。


「つけてきてくれたんだな」

「いただいたものですから」

「似合ってる」

「ありがとうございます」


 殿下は嬉しそうに笑ったあと、少し考えた。


「……やっぱり首輪っぽいだろうか?」


 私は留め金へ手を伸ばした。


「外しますわ」

「ごめん!似合ってる!すごく似合ってる!」

「最初からそう仰ればよろしいのに」

「いや、先に首輪だと言ったのはセシリアだ……」


 殿下は何でも口に出す。

 知っていた……だからこそ、面白いのだけれど。


「そういえば、母上とのお茶の時の続きなんだけど……」

「なんでしょう?」


 殿下が椅子から立ち上がると、私の手を引きソファに座らせる。


「セシリアは、僕のどこが好きなんだ?」


 また、その話か。

 王妃様に聞かれた時は、本人が真横にいたので適当に濁した。

 まさか後から本人に問い詰められるとは。


「気になるんだよ」

「知らなくても困らないでしょう」

「僕は知りたい」


 隣に座っている殿下が、覗き込むようにこちらを見る。

 あまりにも真剣な表情に、少し意地悪をしたくなった。


「……とにかく好きで……顔が……」

「顔かよ」

「嘘ですわ」

「酷い!」


 思った通りの反応に、嬉しくなり笑みがこぼれる。


「顔も好きですけれど」

「じゃあ本当は!?」

「秘密です」

「婚約者にも教えてくれないのか?」

「ご自分で考えてくださいませ」


 殿下は本当に考え始めた。


「王太子だから?」

「違います。そこではありません」

「仕事ができるから?」

「それも好きですけれど、どちらかというと政務に取り組む姿勢の方ですわね」

「じゃあ何だ……?」


 腕を組んで悩んでいる。

 本当に分かっていないらしい。


 王太子らしく格好をつけようとして、だいたい失敗するところ。

 驚けばすぐ顔に出るところ。

 魅了されれば妙な言葉を連発するし、令嬢を追いかけて普通に負ける。

 情けないところも、格好悪いところも、全部隠せない。


 そんなところもすべてだけど、もちろん本人には言わない。


「……そういうところですわ」

「どういうところ!?」

「秘密です」

「セシリア!」


 その後もしばらく、殿下はしつこかった。


「一つだけでも……いや、三つ!」

「増えております」

「ヒントだけでも!」

「ありません」

「顔以外で!」

「顔も好きだと言ったでしょう」

「そこじゃなくて!」


 あまりのしつこさに、面倒になってきた。

 私は殿下に向き直ると、顔をじっと見つめる。


「殿下」

「だから、僕のどこ――」


 殿下の首元のネクタイを引き、目を瞑るとその口を塞いだ。

 自分からするのは、初めてのこと。


 時間にすると数秒だろうか……離れた後、殿下の目が大きくなる。

 どうやら、アドリアン殿下は目を瞑る隙も無く、固まっていたようだ。


「……そういう、ウブなところも好きですわ」


 できるだけ何でもない顔で言う。

 殿下が私を見つめる。


「セシリア」

「なんです?」

「耳」

「……耳?」

「真っ赤」


 私は反射的に背を向け、両耳を押さえた。


「……見ないでくださいませ」

「無理だろ。目の前にいるんだから」

「では忘れてください」

「それも無理」


 さっきまで固まっていたくせに、笑いながら後ろから抱きすくめられる。


「僕も好きだよ」

「……何がです?」

「自分からキスしておいて、いまだに耳まで真っ赤になる君」

「…………」

「すごく可愛い」


 私は立ち上がった。


「帰ります」

「待ってくれ!まだ来たばかりだろ!?」

「用事は終わりました」

「僕の好きなところの話は!?」

「もう申し上げましたでしょう」

「顔と、ウブなところだけ!?」

「十分ですわ」

「全然足りない!」


 私はそのまま扉へ向かった。

 後ろから殿下が追いかけてくる。

 胸元には、先ほど私がつけた銀の護身具。


 どうやら、きちんと効いているらしい。

 少なくとも今のところ、妙な魅了にはかかっていない。

 ――私以外には。

今回のセシリアは修羅場というか、異世界恋愛らしくサービス回にしてみました。

また、短編を公開できればと思っているので、お待ちいただけると嬉しいです。

【作者お気に入り追加はコチラから】https://mypage.syosetu.com/2924274/

ブックマーク、★★★★★、よろしくお願いします( *・ㅅ・)*_ _))ペコ

もし、こんな修羅場を見てみたい!などありましたら、感想でもらえると嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
王妃様を交えての会話も聞きたかったてす。 騎士団でもやっと1台買える位の豪華キャンピングカーを燃やしてしまった令嬢は無事元をとれたのかしら。全部の設備でサバを同時調理したから燃えただけなのでリミッター…
山田くん!!サバ5匹くらい持ってて!!!!
イチャイチャしやがってこんちくしょう! 爆発しろ!!
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