表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

腹減り魔法塔研究室の救世主

作者: 有梨束
掲載日:2026/08/13

「う、旨そうぉ〜……」

目の前に映る食べ物の山を見ながら、俺はよだれを垂らしていた。


「おい…、お前何してんの?」

「んあ?見りゃわかるだろ、食べ物を映像魔法で出してるんだよ」

そう言って、今食べたい食堂のメニューを魔法で映し出していく。


ただの映像で、匂いはしないけど、この際それも気にならないほど、盛大にお腹が鳴った。


「オムライス、ステーキ、ハンバーグ、パスタ、ベーコン目玉焼き、ポテトに串揚げ、デザートのプリンまで…、あああ〜旨そう〜。腹減ったあぁぁぁ〜!」

「やめろ、その虚像を出すの!虚しくなるだろっ!」

「だって、久しぶりに昼飯食いたいじゃん!」

「オレらにそんな金はねえ!余計に腹減るからやめろってぇ」

「……自らそんな食べ物の映像出すなんて、お前マゾだろ」


昼休みの時間、同僚たちと中庭に出てきていた。


最近の俺らは、昼休みに食堂に行くのを控えて、節約している。

朝と晩は寮に帰れば、それなりの美味しくはない飯が食えるので、昼は我慢だ。


俺らが所属している魔法塔にある、さらに最奥の研究室は貧乏世帯の安月給なのだ。

華々しい魔法騎士たちや実践的にすぐに成果が出る部署と違って、研究室は研究するのが仕事だ。

つまり、すぐには実績が出ない。

だから給料は安いし、予算もなかなか下りてこない。


魔法塔で一番の残念部署である。


「ほら、中庭の水をがぶ飲みしに行くぞ!」


だから、昼食の代わりにこうして研究室の連中とゾロゾロと、腹一杯水を飲みに来ている。

なんて虚しいんだ、俺たち…。



俺は食べ物の映像魔法を見つめながら、舌で味を思い出していく。

ああ、これで水にもほんのり味がしたら最高だ…。


そう思った時、可憐な声が響いた。



「あの、魔法塔の研究室の方ですか…?」

自分に声をかけられていると思わなくて、反応が遅れた。


ゆっくり顔を上げると、淡い髪を風に靡かせている美少女が立っていた。

後ろにはお付きの人がついていて、見るからに身分が高そうだった。


「へっ、あ、えぇ…?」

「研究室の方ですよね?」

「は、はいっ!我らが研究室の末端にございます!」

「ああ、よかった。その、研究室はこの中庭を抜けたところでよかったでしょうか?」

「はい、そうにございます…!」

首がもげそうなほどカクカクと頷くと、目の前の彼女がほんわり笑った。


「ふふふ、私、魔法塔研究室室長と婚約している者なのです。今日は、彼に会いに来たのですが、ご迷惑ではないでしょうか?」

「室長の婚約者様!?」

俺の素っ頓狂な声に、水を飲みに行っていた他の連中が戻ってきた。


「どうした?」

「こ、この方、室長の婚約者様だって…!」

「えっ!?は、はじめまして、いつも室長にはお世話になっております!」

「こんなむさ苦しい場所に、すみません…!」

俺たちは慌てて頭を下げたけれど、婚約者様はいえいえと手を振って、すぐに顔を上げるように言ってくださった。


「こちらがお邪魔しているのですから、そんなふうにおっしゃらないでください。…ところで、その映像は何ですか?それも研究ですか?」

俺の手元に映っている虚像の食べ物を見て首を傾げている彼女に、俺らはあちゃ〜…と顔を見合わせた。

ついでに、お前が余計なことしてるからだぞ!という視線も飛んできた。

ご、ごめんて…。



「こ、これはその、昼飯の妄想と言いますか、腹一杯食べられたら嬉しいよねっていう想像と言いますか……」

「お腹いっぱい?」

「は、はい。魔法塔の食堂は割高なので、あんまり利用したくないなというのが本音でして」

「それで、映像魔法を見ているんですか?」

「ああ、はい…。少しは気が紛れるかなと」

そのままを喋りすぎて、他の奴らの冷たい視線が刺さって痛い。

拳を握っている奴までいて、ああ、余計なことを言ったなぁ…と反省した。


だって、こんなに身分の高い人と喋ったことねえもん!

テンパるだろ、フツウに…!

ほら、室長も偉い人だけど、あの人は上司だしただの怖い人だしっ!

こんな素敵な女性と喋る機会ないし!



室長の婚約者様はしばらく何か考えたあと、自分の持っていたバスケットのカゴをこちらに差し出してきた。


「あの、もしよかったら、こちらを召し上がりませんか?」

「へ?」

「婚約者の彼がご飯を食べているか心配で、昼食の差し入れを持ってきたんです。皆さんが食べる分には、量が少ないかもしれませんが」

そう言って、近づいてきたバスケットから食べ物の匂いがして、脳みそがおかしくなりそうだった。


「い、いけません…!室長のものをいただくわけにはいきませんしっ!あなた様からそんなものいただけません…!!」

慌てて首と手をブンブン振ると、婚約者様は優しく笑って、首を振った。



「あの人の部下の方でしたら、私にとってもお世話になっている方ですから」

「しかし…!」

「彼ね、本当に魔法の研究が好きなの。あまりお金にならない部署だから、部下には苦労をかけているってお酒が入ると必ず言うんです」


それは、はじめて聞いた。

俺たちはびっくりして、目配せをしていた。


「それでも他部署に移動せずに一緒に働いてくれることを、いつも感謝しているんです。だから、ご迷惑でなかったらぜひもらってください」

婚約者様は、ほんのり泣きそうな顔で笑っているように見えた。


俺は、バスケットを受け取っていた。

それが一番いい気がしたから。


「ありがとうございます…」

「ふふふ、あの人甘いのが好きじゃないから、デザートはないんですけどね。こちらこそ、ありがとうございます。…あの人のこと、よろしくお願いしますね」

婚約者様は俺らなんかに頭を下げて、お付きの人と中庭を去っていった。



「……もらっちゃったけど?」

俺が首を捻りながら同僚を見ると、同僚たちも俺とバスケットを見ていた。

これを受け取った時に、食べ物の虚像は消えた。


「とりあえず、中身見る…?」

一人の声に、俺らはバスケットを囲んで、固唾を呑んだ。


ゆっくりバスケットを開けると、分厚いバゲットサンドが入っていた。


たぶん、室長が仕事しながら食べやすいようにだと思う。


たしかに、夢見たデザートのプリンはない。

でも、十分贅沢に見えた。



俺らは再度目を合わせて、ついでに手も合わせた。


「あああ、神よ…、お恵みに感謝しますっ…!」

「お礼は婚約者様にだろ!あの人こそ女神だよっ…!」

「それな、女神は実在してたんだ」

「あの室長の婚約者様なのに、めちゃくちゃ優しかった!」

「まじで室長の婚約者様とは思えねえぇ…!ありがとうございます、女神!」

俺らは好き勝手言いながら、それはもうすごい勢いでバスケットの中身を手に取った。


何十日ぶりの水以外の昼飯。


ガブリとかぶりつけば、香ばしいパンとジューシーな肉と新鮮な野菜とが一気に口の中に入ってきて、天国だった。


「う、うめえぇ…」

「おい、泣くなって」

「旨すぎる、映像なんて非じゃなさすぎる」

「当たり前だろ」

「ああ、食堂のご飯よりも美味え〜!ありがてぇぇぇ!」

「水じゃないの、嬉しすぎるだろぉ…」


たしかに、室長一人分の昼飯を分けて食ったから少なかったけれど、ここ最近で一番美味い飯だった。


その日の午後の仕事がキビキビ動いて、室長に首を傾げられるほどだった。


はああ〜、食べ物の魔法映像を見ててよかった。

女神の慈悲あり、まじでありがとうございましたっっっ!!!!






お読みいただきましてありがとうございました!!

224日目。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ