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魔法のメガネとのぞいた冬の宝箱


 カイトの住む街は、冬になるといつも深い灰色に包まれます。

 空は分厚い雲に覆われ、並木道の木々は葉を落として骨のように痩せこけ、アスファルトの道路は冷たく湿って、光を吸い込んでしまうようでした。

 小学校の帰り道、カイトはいつも俯いて歩きます。


「どうして冬は、こんなに色がなくなっちゃうんだろう」


 カイトにとって、冬は退屈な季節でした。雪が降れば少しはマシですが、この街に降る雪は、地面に落ちるとすぐに泥と混じって、やっぱり灰色になってしまうのです。




 その日、カイトは放課後の公園で、誰もいないベンチに座っていました。

 冷たい風が耳を掠め、マフラーに顔を埋めます。ふと、ベンチの足元、うっすらと積もった雪の中に、何かが落ちているのが見えました。

 それは、細い銀色のフレームの眼鏡でした。

 レンズは不思議な厚みがあり、冬の淡い光を反射して、そこだけがチカチカと瞬いています。


「だれかの忘れものかな?」


 カイトはそれを拾い上げました。指先に触れた銀色のフレームは、氷のように冷たいのに、どこか生き物のような微かな振動を感じます。

 カイトは周りを見渡しましたが、公園には自分以外、誰もいません。


「ちょっとだけ、なら……」


 好奇心に負けたカイトは、その眼鏡をゆっくりと自分の顔にかけてみました。






 眼鏡をかけた瞬間、カイトは思わず「あっと」声を上げて立ち上がりました。

 視界が、爆発したような光に包まれたからです。


「なにこれ……!?」


 さっきまで灰色だった世界が、魔法にかかったように色鮮やかに、そして「きらきら」と輝き始めていました。


 まず驚いたのは、空でした。

 重たかったはずの灰色の雲の切れ間から、目には見えないはずの星の粉——スターダストが、まるで砂時計をひっくり返したように、さらさらと地上に降り注いでいます。

 公園の中央にある、水の止まった噴水はどうでしょう。

 凍りついた水滴のひとつひとつが、太陽の光を複雑に反射して、七色のプリズムを放つ巨大なダイヤモンドの彫刻に変わっていました。

 足元の雪も、ただの白い塊ではありません。

 眼鏡越しに見ると、それは無数の小さな氷の結晶が手をつなぎ合い、互いに「ボクを見て!」と主張するように輝き合っている、光の絨毯じゅうたんでした。



 カイトはワクワクする気持ちを抑えきれず、公園の外へ駆け出しました。

 いつもの見慣れた商店街も、眼鏡を通すとまるでお祭りの最中のようです。

 郵便ポストの赤は、燃えるようなルビーの色。

 水たまりは、宇宙の入り口のように深い紺色に透き通り、その底には夜を待つ一番星がひとつ、ゆらゆらと揺れていました。




 カイトが街角を曲がると、向こうから「カミナリじいさん」と子供たちに恐れられているマクマさんが歩いてくるのが見えました。

 いつも難しい顔をして、誰に対しても「コラッ!」と声を荒らげる怖いおじいさんです。

 カイトは慌てて物陰に隠れようとしましたが、眼鏡をかけたままの瞳に、あるものが映りました。


 マクマさんの胸の奥に、小さな、けれどとても温かそうな「オレンジ色の光」が灯っていたのです。

 よく見ると、熊田さんは道端の植え込みに、こっそりと鳥の餌を置いていました。凍えて震える小鳥たちがそれをついばむのを、彼は顔のシワを深くして、誰にも見せないような優しい眼差しで見つめていたのです。

「あ、あの光は……おじいさんの優しさなんだ」

 眼鏡は、人の心の中にある「きらきら」まで映し出していました。


 次にすれ違ったのは、大きな荷物を抱えて忙しそうに走る郵便屋さんでした。

 彼の背中からは、青い小さな星たちが、走るたびにポロポロとこぼれ落ちていました。それは、手紙を待つ誰かへの「思いやり」の輝きでした。

 夕方の買い出しを急ぐお母さんの手からは、晩ごはんを楽しみにして待つ子供たちへの「大好き」という気持ちが、淡いピンク色の光となって街を彩っていました。


「世界には、こんなにたくさんの『きらきら』があったんだ」


 カイトは気づきました。

 冬が灰色に見えていたのは、世界に色がないからではなく、自分の目が見ようとしていなかっただけなのだと。






 街が暗くなり、空に本当の星が瞬き始めた頃、カイトは再び公園のベンチに戻ってきました。

 あまりにも美しい世界に夢中で、時間が経つのを忘れていたのです。

 すると、街灯の影から、ひょろりと背の高い男の人が現れました。

 彼はつばの広い帽子をかぶり、銀色のボタンが並んだ濃紺の制服を着ています。そのマントには、夜空の星座がそのまま縫い付けられたように光っていました。


「おやおや、私の忘れ物を見つけてくれたのは、君だね?」


 男の人は、穏やかな声で言いました。


「あ、これ……銀河鉄道の方ですか?」


 カイトは驚いて眼鏡を外そうとしましたが、男の人は手でそれを制しました。


「いいんですよ。しばらくの間、君に貸しておきましょう。この眼鏡は、銀河鉄道の乗客が、地上の旅を楽しむために使うものなのです。私たちはつい、遠くの星ばかりを眺めてしまいますが、実はこの地上こそが、宇宙で一番『きらきら』に満ちた場所ですからね」


 カイトは車掌さんに尋ねました。


「でも、眼鏡を返したら、また世界は灰色に戻っちゃうんでしょう?」


 車掌さんは、フフッと楽しそうに笑いました。


「この眼鏡はね、魔法で新しい色を作っているわけではないのですよ。そこにあるのに、君が忘れてしまっていた光を、少しだけ強く見せているだけなのです」


 車掌さんは、カイトの目をじっと見つめました。


「一度見つけた光は、もう二度と消えません。君が『きらきらしているな』と思えば、世界はいつでも、その通りに応えてくれるものですよ」






 カイトが再び目を開けると、そこには誰もいませんでした。

 手の中には、銀色の眼鏡もありません。

 空はもう真っ暗で、冷たい冬の風が吹いています。

 でも、カイトはもう、マフラーに顔を埋めて俯くことはありませんでした。


 顔を上げると、夜空には冬の大三角形が、眼鏡をかけていた時と同じくらい鮮やかに輝いています。

 道端の街灯は、オレンジ色の優しい光を地面に投げかけ、凍った水たまりをキラリと照らしていました。

 家路につく人々の足音も、どこか楽しげなリズムに聞こえます。




「ただいま!」


 カイトが家の扉を開けると、キッチンの明かりと、温かいスープの匂いが彼を迎えました。

 お母さんが「おかえり、寒かったでしょう」と笑いかけます。その笑顔の中に、カイトはあのオレンジ色の「きらきら」を見つけました。




 次の日の朝。

 カイトはいつもより早く起きて、窓を開けました。

 相変わらず空は少し曇っていて、外は冷たい空気でいっぱいです。

 けれど、カイトの瞳には、昨夜見た銀河鉄道の線路よりもずっと輝く、今日という日の「きらきら」が、はっきりと映っていました。


 カイトはランドセルを背負うと、元気よく玄関を飛び出しました。

 今度は、自分の心の中にある「きらきら」を、誰かに分けてあげるために。


(おわり)


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