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長い長い午後の授業が終わった。クラスの後方真ん中の席でさえ、雨が降る特有のサーッという音が耳まで届いていた。
窓の外を見れば、私の気分を反映するかのように、どんよりと雲が立ち込んでいる。
そんな爽やかとは程遠い景色は、私の気分をより落としていくようだった。連絡をすれば、迎えは来るだろうが、もはや、頭を冷やすにはちょうど良いようにも思えた。
(行動しない。物語にはかかわらない。)
何も解決しない中で出した答えは、様子を見る、だった。ヒロインが太古の魔術を解き明かしてるなら、少なくともウィリアはヒロインのそばにいようとするはずだ、と考えれば、やはりゲームは開始していないのだろう。
それに、私が関わることで、もしかしたらストーリーは変わるかもしれないが、バッドエンドが多いだけで、ハッピーエンドがないわけではないなら、放っておいても、なんら問題はないのでは?とも思ったのだ。
そもそも、関わるにしても、全員の幸せを叶えられるようなムーブはできないし、太古の魔術についても情報がない。
関わろうと、関わらなかろうと、答えが――確実な選択肢がないのだ。
ならば、様子見がいいだろうと思った。
(帰るか)
荷物をまとめて、教室を出て、出口まで向かう。
誰かを待つ必要も、誰かと歩く必要もないので、一直線にスタスタと、ある意味機械的に。
***
外に出る直前、屋根がある場所で、一度立ち止まってカバンを開けて、ゴソゴソと中をあさった。
天気予報がないので、傘を持っていきましょうと言われないかわりに、傘が奥の方に沈んでいる。それを取り出して、紺色の折りたたみ傘を慣れた手つきで開き、ローブをいつもより深くかぶって、外に出た。
(なんて不便な)
傘を差しながらそんなことを思う。
横なぶりの大雨でないことが幸いして、雨が振っていても、傘のなかにいればなんてことはなかった。たまに慌ただしく馬車が通り去っていくぐらいなもので、いつもより人が少なくて静かだ。
傘をはじめ、意外とこの世界の魔法は不便なものだ。
魔法で雨ぐらい避けられないのか?とも思えるが、自分に直接影響するような魔法はかなり高度な技術で、一般の学生や一般市民がホイホイと使えるものではない。(そして雨を避けるなんてことができるかは、分からない)
この世界の魔法とは、契約書を書くかのように、専用の紙とインクで制約や条件を記し、そこに魔力を込めて、やっと発動する。例えば、『マジカルカード』は、契約書の部分をテンプレート化することで、魔力を持った一般市民であれば誰でも使えるといって仕組みのようだ。
(傘もテンプレート化できないのかな)
そんな考えが頭をよぎるが、どうやればいいのか、まったくイメージはない。当たり前だ。この世界の一般学生と同じレベルの知識しかないのだから。
(いわゆる治癒魔法や火の玉が出てくるような攻撃魔法もないんだよね……多分)
これから1年で習う魔法講義の教科書は一通り目を通してみたのだが、ファンタジーらしい魔法はほとんど見つからなかった。1年生ということもあって、基礎だから、というのもあるだろうが、高度なものだと何ができるかは、機会があれば調べてみたいところだ。
(授業も書道みたいだし……)
契約書に書き込む文字は綺麗(形が整っているほど)効力が高いらしい。筆は使わないし、書くのは日本語ではないけど、そんなふうに感じた。
考えてみれば『マジカルハートラブリーライフ』に、魔法学園らしく魔法を使ったシーンは、ほとんどなくて学園ものという印象が強かった気がする。
(ヒロインは普通の魔法使わないんだよね)
太古の魔術が使えるようになっちゃったから、なんだけど――。そうか、あれは契約書を書かなくてよくなってたってことなのか……。
(そもそも、魔法を使うのに、契約書はいらない?)
そんな推論が思いつくが、検証する方法もない。
忘れよう、と頭の片隅においやって、雨の降る街の中進んだ。




