表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/8

6

本当に一瞬だった。

バッチリ視線が合ってしまったのだ。


(まずい……)


急に感覚が戻ってきて、もはや足元すら、棒立ちになっていた事に気づく。


違う、あくまでも、彼から目が離せなかったのではなく、彼が座っている席に座れなかったことを嘆いただけなのだ。

と、心のなかで言い訳して、ゆっくりと踵を返し、元来た道を戻りながら、席を探すように、その場を離れた。


(意識しない、意識しない……)


足を進めながら、自分に言い聞かせる。

だいぶ離れた気がするのに、心臓はどくどくと、うるさく耳まで響いている。

たかが入学したての1年生が、先輩の顔など知るはずもないのだ。変な印象を残していないことを、お祈りするしかない。


――ウィリア。

国立魔法学校2年生。魔術にしか興味がなく、魔法以外の授業をサボりがち。ストーリーのなかでは、割と謎めいた存在で、恋愛感情もなくヒロインにつきまとうところから始まった気が……する。古代魔術に興味を持った経緯は、あったような気がするけど、忘れてしまっている。

そして、ウィリア、ウィリアと、呼んでたので、なんと、ファミリーネームは忘れてしまった!


適当な壁際の席を見つけて、トレーを置く。

ここからは、もうあの奥の奥の席はよく見えない。

壁に隠れるように、座って、コップにたっぷり入っていた水を一気にのどに流し込んだ。

思いっきり、ドンと、コップを置きたいのを我慢して、ゆっくりと、それはそれは優雅に、トレーへと戻す。

ゴクンと水を飲み込むと、はぁと息を大きく吐き出す。


(なんで会ってしまったんだ……食堂?なんで?)


考えてみるが、彼の日常はびっくりするほど知らない。ヒロインと彼との出会いが、彼の日常を変えてしまうからだ。


(そもそも、彼のルートはどんな話だったか)


最初の導入や、ヒロインとの関係は思い出せるのに、中盤以降の展開がどうにも思い出せない。

帰ったら、自分のノートを見返してみよう……。

ヒロインが、必ずしも彼のルートを選ぶかは、謎だけど、知っておくことは、悪いことではない。


お昼を少しずつ食べ進めながら、そんな事を考える。

流石に、心臓の音ももう聞こえていない。

思い出せることを一つ一つ並べていきながら、スープを口のなかに放り込み、並べたものを今持っている知識とつなげながら、ハンバーグを口のなかに放り込んだ。


***


「ふぅ……」


何事も起きず、思考だけを回し続けて、食べ終えたトレーの上を見みて、一息つく。


(何も、ない)


やっと肩から荷物が下りたような気がした。

考えてみれば、あの一瞬の時間で何かが起こってしまうことなんてありえないし、それが当たり前のことなのだが、何も起こらないことが心底ほっとする。


(明日は……購買にしようかな)


食堂に来るのは気まずいな、などと考えながら、おいしそうだったサンドウィッチを頭に浮かべてから、席を立つ。空になった器ばかりが並ぶトレーを手に持って、さあ行こう、と席を離れようとする。


「あの」


突然話しかけてきたのは、入学式以来顔も見てなかった入学生代表。手には私と同じランチメニューA。


「その席空きますか?」


クラウディオだ――。

金髪の髪が軽やかに揺らめいて、緑色の瞳がこちらに向けられている。穏やかな印象のこの人が成績最優秀者だなんて、私がガリ勉なら、腹を立ててたかもしれない。


(ちがう、そうじゃない!)


「あきます!どうぞ!」


私にしてはかなり力のこもった返事をして、軽く礼をしてから、その場を足早に離れる。

遠くで、ありがとう、と感謝の言葉聞こえた気がするけど、そんなことは気にしていられなかった。

返却口に、トレーを返して、食堂から急いで離れる。


驚かせたかもしれない。逆に悪い印象を持たれたかもしれない。でも、そんなことはどうでもいい。

邂逅するつもりはなかったのだ。そもそもあんな広い食堂で、出会うことすら、難しい話であったはずなのに。


(なんで、2人も)


全く予定とは違う彼らとの邂逅に、自分の行動を呪いながら、自分のクラスへと急いだのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ