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入学後に発表されたクラス分けは、ヒロインとは別だった。ヒロインが好みだったことを踏まえれば、残念のような気もするが、この物語を傍観できるという観点で見れば、悪い条件でもない。
「明日から授業が始まります。指定の教科書を持ってくること」
そんな先生の話を右から左へ、入学にあたってのしおりをぼんやり眺める。
不思議なことに(いや、転生した時点で不思議なのだが)記憶がだんだんと薄れている感覚がある。
振り返ってみると、社会人だったという記憶はあるものの、具体的にどんな仕事をしていたのかが、思い出せなくなってきているのだ。
(これはまずい……)
どう考えても『マジカルハートラブリーライフ』の記憶も薄れていることになる。全部のルートを細かく思い出せないと言っても、全エンドを回収するくらいにはやり込んだゲームだ、そんな簡単に忘れてたまるか。
でも、実際に所々忘れてしまっているのも事実。
(帰ったら、とりあえず思い出せることを書き出そう……)
よし、と決心して、いったん気持ちの整理がついた。先生の話を改めて頭に入れながら、入学したてのそわそわした教室の中をぐるりと見渡す。
(なんだか懐かしいな……)
この世界にも初等、中等教育はあるが、商家の娘だったこともあってか家庭教師によって一般教養を学んでいた。これが普通らしい。魔法なんかは、専門的な教育に近く、家庭教師では難しいため、転生する前の私は両親におねだりをした、というわけだ。
推薦で魔力や学力の高い子もはいることができるので、出自はバラバラという、少々カオスな環境でもある。
若い子、と言ってしまうと、流石に婆臭いが、いや、若い子がキラキラさせてるのは、いつ見ても気分がいい。これから、新たな未来を学んでいくんだね、うんうん。(いや、私もそうなんだけど)
「アンナ・アクランドです」
定番の自己紹介ターンで聞いたことがある名前を耳にした。
その子に目を向けると、見たことがある顔。
栗毛色髪が綺麗にみつあみにされていて、メガネという風貌が、知的で大人しいという印象を持たせる。
――あ、ヒロインの幼馴染の女の子だ。
同じ下町に暮らしてて、確か養女として、どこかの貴族に引き取られたとか、そんな設定だった気がする。
ストーリーのなかでも、別のクラスということをうまく利用して、いろんなサポートをしてくれていたような。
(あまり近寄らないようにしよう)
席も遠いし、仲良くならなくても、何とかなるだろう。
ヒロインのことやゲームのことで頭がいっぱいだったが、入学式で新入生代表挨拶をしていた彼は、攻略対象だったはずだ。
物語の人物が一人、また一人、私の前に現れていく。
――あれ、物語はいつから始まるのだっただろうか。




