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「ちょっと、まって」


迷うことなく進もうとする彼女に慌てて走っていき、掴んで訴えた。その路地にいま進んではいけない。


「えっと……だれですか?」

「えー……あなたと……その別のクラスの……同級生、かな?……」

(初対面に言われたら、そりゃ、そうなりますよね!)


これが、彼女――ヒロインとの出会いだった。


***


学生時代にやっていた乙女ゲーム『マジカルハートラブリーライフ』という世界に転生したのは、1年ほど前。


社会人の私は、初めて仕事をボイコットして(ちゃんと有給は使った)、のんびり公園のベンチで寝ていたところ、気づいたら、異世界だったのである。


(いや……そんなことある?)


そう思って、記憶を掘り起こすと、確かにこの世界の住民として暮らしてきた自分の記憶が、じわじわと脳内に広がってきた。もはや、社会人の私と魔法学園入学前の私と、どちらが夢かさえも分からないほど、境界がぼやけていた。


(私は、商家の娘で……魔法を習いたいと懇願して……)


今は、来年行われる試験に向けた準備中だった。

公園のベンチにいるのも、試験勉強に明け暮れすぎて、疲れてしまった……のかもしれない。(直近の記憶は曖昧だった。)


そんなこんなで、社会人にもなって、試験勉強に明け暮れるはめになりながらも、なんとか試験に受かり、さあ晴れて入学だ!っとなって、人生何度目かの入学式に意気込み、広いホールの座席にソワソワしながら座り、そう、そこで斜め前に座った女の子に、三度見したのだった。


(へ????は????ヒロイン???)


それが、『マジカルハートラブリーライフ』の世界であると気づいたきっかけだったのである。


***


入学式の話なんて頭にははいらず、まわりになんとかあわせながら、頭の中は『マジカルハートラブリーライフ』のことでいっぱいだ。


学校名(国立魔法学校)や街の名前、魔法の名前も変哲のない名前だから、わからなかったけど、考えてみれば『マジカルハートラブリーライフ』は、魔法を学びながら、攻略キャラとの恋愛を進めていくようなゲームだった……気がする。

この世界に転生してきた期間も含めて、10年以上前の話だ。全ルートやったとか、全エンド回収したといっても、ホントになんとなくしかストーリーが思い出せない。


(しかし、思い出せる情報のほとんどがバッドエンドとは……)


そう、このゲーム、名前倒しというか、タイトル倒しというか、ハッピーライフ送れそうな頭お花畑みたいなタイトルのくせして、バッドエンドだらけのハードな乙女ゲームだった。バッドエンドが、割と好きだった私にとっては楽しめた作品だったが、そのギャップか裏切られたという声が多く、レビューは散々なものだった気がする。


(これ、どうなるんだろう……)


全部のルートを思い出せないが、ヒロイン以外の生徒が巻き込まれるようなバッドエンドもあった気がする。

これから、ドキドキワクワク魔法学園生活が待っているというのに、嫌なドキドキに不安にしかならない私だった。

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