第4章:国の茶番、報酬のズレ、魔王の裏側
■胡散臭い使者とミャウコの猫耳
ガロ村の広場、砦壊滅の翌朝。
村の中央には昨日まで見たことのない巨大な黄金の像が鎮座していた。勇者ミャウコを模したらしいが、なぜか猫耳ではなくライオン耳、しかも雌豹ポーズの腕が3本あった。
「ニャ!? 誰これ!? 私、こんな顔してないニャ!」
村人の一人が苦笑しながら言う。「あれ、王都の“お祝い支援物資”らしいよ。あと、木箱が20個届いてるけど……全部、鍵がかかってて開かない」
すでに胡散臭さ、満載だった。
朝霧の中、白銀の鎧に金モールの肩章をキラキラさせた王都の使者が馬車から降り立つ。見た目は立派、まるでラノベの「高貴な騎士」テンプレ。だが、ミャウコの猫耳を思わせるふわりと跳ねた髪型がぴくりと揺れる。何かおかしい。使者の笑顔、妙に「演じてる」感がプンプンだニャ!
「勇者ミャウコ殿、及びパーティの皆様! 魔王軍の砦壊滅、大儀である!」
広場に響く声に、村人たちが「おおー!」と歓声。だが、元猫であるミャウコの勘がビンビン。 使者の声、微かに震えてる。まるで、台本を間違えるのを恐れてるみたい。
「王都レグノスより正式な討伐依頼だ! 魔王軍の本隊が南の山岳に集結。君たちの活躍が敵の士気を挫いた証だ。今こそ好機、出撃を!」
使者が地図をドンと広げる。ガレンが剣を握り、「了解した」とキリッ。ルナが腕組み、「ふん、雑魚の次は本隊?私の魔術で一掃よ」と強気。テオは聖典(自作ノート)に「ミャウコ様、聖なる第二戦……!」とスケッチ開始。
だが、ミャウコは手を挙げる。猫を思わせるような髪先がぴょこんと揺れ、腰のあたりで衣の裾を小さく揺らしながら、無垢な目で問いかけた。
「ニャ、あのさー。魔王って、なんでいつも人間の国ばっか攻めるの?」
使者の顔がピクッと固まる。村人たちが「?」と顔を見合わせる。
「な、何を言っておる!? 魔王は人間の敵、全種族の敵だ!」
後方で井戸端会議をしていた老婆たちがひそひそ声を漏らす。
「ドワーフの銀工房、魔王軍に納品してるって話よ」「エルフの国は、こっそり中立宣言してたって、旅人が言ってたわ」
ミャウコの髪先が小さく跳ねた。「ニャ! やっぱり怪しいニャ〜、ふーん。じゃあ、なんでエルフやドワーフの国は戦ってないの? てか、魔王軍と交易してるって村のオバちゃんが言ってたニャ!」
「……!」
空気が凍る。ガレンが小声で「ミャウコ、やめろ!」と焦る。ルナが「バカ猫、何!?」と顔を赤らめ、テオが「神の疑問…聖典に刻む!」とペンを走らせる。
ミャウコ、止まらない。爪をチラリと光らせ、追い打ち。
「あと、なんで“人間の勇者”が毎回出てくるの?それって、魔王と人間がずっとケンカする前提じゃん。和解とか、考えたことないの?」
使者、額に汗。村人たちがボソボソ。「確かに……エルフは中立だよな……」「交易の噂、本当かも……」「勇者って、いつも人間だな……」
使者、焦って無理やり笑顔を作る。「ゆ、勇者殿!この任務を果たせば、報酬100万ゴールドが各人に! 豪華な生活が待っておる!」
ミャウコがピクッと反応!(ニャ!?ゼノス、1000億ゴールドって言ってなかった!?) もちろん、ゼノスとの密約はパーティに秘密。だが、100万ゴールド?命懸けの戦争で?ツナ缶100個分くらいニャ!
「ははーん、さてはアンタ、台本持ってるニャ!」
「な、何を根拠に――ッ!」と使者が反論しようとしたその瞬間、馬車の扉がガタンと開き、中から一冊の分厚い黒革のノートが地面に転がった。
ルナが拾い上げ、表紙を見て青ざめる。「“演説用スクリプト 第52稿”……!?」
村人たちがざわめき、使者の顔が引きつったまま凍りついた。
使者の顔、サッと青ざめる。村人たちが「台本?」「何!?」とざわつく。ガレンが「ミャウコ、ストップ!」と叫ぶが、遅い。
「ニャハ! 怪しいニャ!魚持ってないなら、正直に言えニャ!」
ミャウコ、猫の俊敏さで使者の馬車に飛び乗り、尻尾で地図をパタパタ。「この山岳、魚ある?ツナ缶でもいいニャ!」 使者、絶叫。「失礼するッ!」と馬車を急発進、砂煙を上げて逃亡。
村人、ポカン。子供が「ミャウコ様、使者追い払った!?」と拍手。テオが「神の追放ポーズ! 聖典に!」と昇天、即自己蘇生。ルナが「バカ猫! 王都と敵対したらどうすんの!?」と髪をボサボサ。ガレンが「…終わった」と頭を抱える。
ミャウコ、首をかしげて。「ニャ ?ただの質問なのに?」
村人たちの呟き。「報酬、9割王都に持ってかれるって……」「魔王軍、交易してる国もあるのに…」「勇者って、いつも都合よく出てくるな……」
元・猫の勘、ビンビン。何か、めっちゃズレてるニャ!
■夜の宿屋、ゼノスのメタ降臨
その夜、宿屋のベッドでミャウコは天井を見上げる。レベル1のまま、勝手に話が進む世界。勇者って、ラノベの便利なラベルニャ?
「ニャー、全部、作られてる気がするニャ……」
天井がキラッと光り、ゼノス降臨!背景に「売上ランキング1位」の幻影、胡散臭さ全開。
「ミャウコよ、余計な詮索は控えなさい。物語の起承転結を乱すなよ?」
「ニャ!出た、メタ神!今日の使者、アンタの仕込みニャ?」
「ふはは! この世界はラノベだ。魔王は“敵”、勇者は“成長”し“勝利”する。民衆は“感動”し、読者は“喝采”を送る。それが物語のルール!」
「へぇー。じゃあ、私がレベル1で魔王倒したら?雌豹ポーズで、魚ゲットして終わりニャ!」
ゼノスの笑顔、ピクリと引きつる。「そ、それは……物語として成立しない! 成長が!感動が!ハーレムが!」
「ニャッハ! ハーレムとか知らニャ!魚とキャットタワーさえあれば勝ち!」
ミャウコの爪がチラリ。ゼノスの目に、初めて「恐れ」がチラつく。
「……カオスの化身よ。汝は、物語のコードを破るバグだ。だが、気をつけなさい。コードゼロは、容易には壊せん」
「コードゼロ? ニャ? 魚に関係ある?」
ゼノス、意味深に消える。
ゼノスが消えると、しばしの沈黙が宿に落ちた。
その様子を階段の影からずっと見ていたのが、ガレン、ルナ、そしてテオだった。
ガレンがこめかみを押さえ、苦く笑う。
「……見たか、あれが“神”か」
ルナは唇をかみながら呟いた。
「私たち、物語の中の人形だったの?」
テオだけが、うっとりと聖典に書き込む。
「“神すらビビらせる猫勇者”……これは新章ニャ」
ミャウコ、得意のヒップダンス。「めんどくさいニャ! 魚のためにやるニャ!」
■禁書の真実、コードゼロ
深夜、王都の外れ、古びた図書館の地下室。ミャウコが「魚の匂いするニャ!」と突入し、埃まみれの本棚をガサガサ。ガレン、ルナ、テオが「バカ猫、静かに!」と慌てて付いてくる。
「ニャ!この本、なんか光ってる!」
ミャウコが引っ張り出したのは、革表紙の禁書――『勇者法典』。ページを開くと、金色の文字が浮かぶ。
『魔王を倒せるのは、神に認定された“勇者”のみ。いかなる兵器、軍隊、魔導兵装も、魔王の命を奪えぬ。倒した者が勇者となるのではない。勇者として召喚された存在のみが、“魔王討伐”の資格を持つ』
さらにページをめくると、最後にこう記されていた。
『勇者の資格、魔王の存在、それらはすべて“再調和評議会”の承認と、“CODE: ZERO”によって保証される。これを破る者が現れた時、世界構造そのものが崩壊する』
テオが震える声で呟いた。「評議会って……ゼノス以外にも物語を管理してるやつらがいる……?」
ガレン、剣を握る手が震える。「……だから国家は軍を出さず、勇者に頼るのか。全部、決まってる……」
ルナ、目を伏せる。「私の魔術も、兵器も、意味ないってこと? 勇者って、ただの役職……?」
テオ、聖典を握り、ページの裏面を読む。「……コードゼロ。ゼノスの契約コード。すべての物語を成立させる脚本…だと!?」
ミャウコ、本をパタンと閉じる。「ニャ?つまり、魔王も勇者も、ゼノスのシナリオ通りってこと?」
ガレンが呟く。「ミャウコ、お前なら……この脚本、ぶっ壊せるんじゃないか?」
ルナが顔を上げる。「バカ猫……アンタ、ほんとバカだけど……なんか、変えられる気がする…」
テオ、聖典に書き込む。「ミャウコ様、コードゼロの破壊者!銀河雌豹スタイル、物語を砕く!」
ミャウコ、猫耳ピコピコ。「ニャハ! 脚本とか知らニャい!魚とキャットタワー、爪で掴むニャ!」
本棚の奥、暗闇で光る文字――「CODE: ZERO」。ミャウコが気づかぬまま、不穏な影が揺れる。
■夜空の下、物語の歪み
村の外、夜空の下。ミャウコが丘に立つ。星空を見上げ、爪をチラリ。
「ニャ、ラノベとか読んだことないけど、つまんない“お約束”はウンザリ。私の人生、誰の脚本でもないニャ!」
遠くの空、ゼノスの声が響く。「……選びすぎたか。我が勇者、型破りの極致。だが、それでこそ面白い」
村のSNS、#雌豹ポーズチャレンジがトレンド1位。だが、#ミャウコ危険論も密かに拡散。工作員シルスが暗躍し、「勇者は魔族のスパイ」と偽情報を流す。
南の山岳地帯、魔王軍の前線基地。監視兵が慌てた声を上げた。
「し、司令!この光を……!」
即座に映像は魔王軍本拠地へ送信された。
黒いマントを纏った魔王が、玉座に腰掛け、ホログラム映像を凝視する。
映っているのは、ナイトモードとなったミャウコが“会計”を告げた瞬間、敵が渦に呑まれて消える映像。
映像越しにも、あの場を満たす圧倒的な異質感が伝わってくる。
「……あれは、我らの世界の住人ではない」
低く押し殺した声が、薄暗い部屋に響く。
側近が進言する。「ご命令通り、我らは手加減して砦を“落とされた”ふりをしましたが……それでも、予想以上の“現実”が生まれました」
魔王はわずかに笑い、視線を逸らさずに言った。
「本当に恐ろしいのは、あの女ではない。“演出を信じる者たち”のほうだ。演出をえる現実が現れたとき、人々は真実ではなく“感情”を選ぶ」
しばしの沈黙。
魔王は、映像の中の麗華がふっと微笑む瞬間を見つめながら、小さく呟いた。
「……もしかしたら、コヤツなら……変えられるかもしれん」
➡第5章へつづく




